拳突き上げた先に 作:それを言うなら
次回なのですが短いため連続投稿します。
■<幼体化>【魔拳士】クラウン・スプリングス■
小さい姿はリアルを思い出すからあまり好きじゃない。
そう後悔したのも束の間。そろそろ夜の時間になる。
他のマスターたちの何人かが俺を注意しつつ、他の所に警戒網を張り巡らせていた。
ここまで他のマスターたちを集められるのは、俺の知っている限りレジェンダリアではカレンさんぐらい。
【
「霧……。ジャック・ザ・リッパーでも出てたな」
霧の街と言われた昔のロンドン程霧がかかってわけいるわけではないが、マグ・メルも季節によって霧がかかる。今はまだ薄く、前が見えない程ではあるが。もっと夜深くなれば、霧も濃くなるだろう。
ティアン達に夜は出歩かない様に、警備隊からお触れを出している。攫われてしまう恐れがあるためと、街で戦闘になった場合、ティアンを巻き込むのは誰の本意でもないのだ。だが、このまま濃くなってしまうと調査、戦闘どころではなくなってしまう可能性もある。
「(カレンさんの意見だと、霧は前には出ていなかったと言ってた)」
なら、この霧は今日偶然発生したもの。マスターの仕業でも、<UBM>の仕業でもない。
「運がないな」
囮役の俺は常にデコとの連絡用のマジックアイテムをオンにはしているが、この街には久し振りに訪れたばかりだ。
到着には時間がかかることを覚悟し、戦うとしたら、出来るだけ持久戦が望ましい。
「【魔拳士】が持久戦向きじゃないんだ。どうやって時間を稼げばいいと思う?」
『死なない程度に死ぬ気で頑張って。クラウンの得意分野でしょ?』
配置の準備が完了し、準備体操がてらマジックアイテムを使うと皮肉の効いたデコの声が響いてきた。
きっと、囮を買って出たことを怒っているのだ。
「だけど囮が有効なことだって調べなきゃいけないだろう? 他の人だとリアル年齢で引っ掛かるかも知れないから俺の方が良かったんだ」
『だからって「ハイそうですか―」って出ていける神経がどうなんだって話だよ! 引き受けるのは100歩譲って分かるけど、そこから状態異常まで引き受けるなんて正気じゃないねっ!!』
「大丈夫だ。デコが助けてくれるだろ?」
一瞬の沈黙が、訪れる。どうしたんだろう? まさかデコの場所で犯人が――
『馬鹿じゃないの!? 何言ってんのさ!! やってること正気じゃないんだからもっと巫山戯てくれないと困るだろ!?』
「何が?」
言っていることが支離滅裂な気がする。デコが暴走している時はとにかく好きなケーキなどの話をして落ち着かせるしかない。
「これ終わったらまた【Fairy】で食べよう。次は俺が奢るから」
『た、食べ物で釣るんじゃないよ! そういうので、釣られるわけじゃないんだからね!! と、とりあえずケーキ十種は覚悟をしておきなさい』
「わかった」
チョロい。
しかし、【Fairy】のケーキはいい値段がする。割り勘とは言え、既にカレンさんのケーキ3種も奢っているわけだが、俺の装備を買うお金は……。
「(クエスト報酬に、期待して良いのだろうか)」
そう言えば報酬の話をしていない。カレンさんから招集金として、幾らか貰っているがそれはアイテム各種を買うことで、殆どが飛んでいる。
そもそも、冒険者の宿等で受けた正式なクエストではないため、こういった偶発的なクエストはお金での報酬が期待出来ない可能性が高い。
「まぁいいか」
どうせ、上級職を探すためにまた遠征に行くことになるだろう。その時にモンスターを倒してお金を稼げばいい。それに幾つかの場所を回れた方が俺としても都合が良いのだ。
そう、全て――いや
「(霧が濃すぎる?)」
いつの間に、こんなに霧が? 霧事態は事件と関係性がないのではないのか?
「デコっ!! 何が変だ!! そっちはどう――」
異常を感知し、マジックアイテムでデコに連絡を取ろうとした時、危険を知らせてくれるスキル<危険感知>から警戒音が鳴り響く。
「敵っ!?」
後ろを振り向いた時、後悔が走る。姿を見た体が凍る。振り向いた先に見えたのは、狂気を感じる程にあべこべな敵の姿だったから。
黒い肌であり、赤い靴をしており、不自然な程痩せており、高襟の燕尾服を着ており、鞭を持っており、大きな入れ物を肩にかけており。
――その顔はグチャグチャに崩れたネズミのような顔をしていた。
「っ!?」
恐怖が、体中を走り、バットステータスを受けた時のアラームが容赦なく今の状態を知らせてくれる。
自分の意志とは別に、体が、恐怖で、
「悪い子はしまっちゃおうねぇ」
必死に名前を見た。そうして気付く、これは、普通ではない。様々な姿が重なった都市伝説の始まり【
<伝説級>の<UBM>。悪しき姿が俺を見て、笑った。
三行まとめ
1.財政危機
2.デコ、チョロい
3.しまっちゃ○おじさん登場