拳突き上げた先に   作:それを言うなら

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とあるエネミーの話


誕生

■【悪辣訓戒 ブギーマン】■

 

体が軽い。羽根のように体が動き、力に満ちた肉体は、自分の意志を高揚させる。

そしてそれは、今までティアン”だけ”を相手にしてきたブギーマンにとって、初めての経験であり、とても悲しい出来事だった。

―クラウン・スプリングス。なんて悲しい子だ―

ブギーマンは、分かったのだ。そうして下された判決を納得した。後は――彼を救わなければならない。

 

元々ブギーマンは善良な霊体型エネミーだった。【ブギーマン】という名前も、元々付けられたものではなく、最初の頃は名前自体ないエネミーで、村に居ても害がなく、むしろ何らかの形で住人を助け、人の笑顔が好きな、エネミーだったのだ。

【ブギーマン】に変わった瞬間は、とある日の夜のことだった。

夜寝る前に、親は子供に夜出歩かないように言い聞かせていた。ティアン達はジョブについていたとしても、それは殆どが非戦闘職、戦えないのだ。ましてや子供たちの大半はジョブ自体就いているものはこの村では少ない。

しかし子供は親の言いつけを守らずに外へと出た。それを昔のブギーマン――彼は見ていた。

そこにモンスターが村の近くにやってきた。いずれ警備の者が気付くかも知れないが、今外へ出ているのは危ない。

幾つかの偶然が重なった結果だ。彼はどうにかしてそれを止めようと、子供の前に立ち、止めに入いく。

それでも子供は、直接的な危機に直面もせず楽観的に構えてしまい。その時、彼は言葉も話せず、身振り手振りで懸命に事柄を伝えようと努力したが、何も伝わらなかった。

むしろその姿を見て、子供は自分と遊んでくれるものだと、勘違いしてしまったのだ。

彼はどうすればいいかが分からなかった。

子供を守りたい。だが、このままではモンスターに子供は襲われてしまうだろう。

どんどんと近づいてくるモンスターの気配に、彼の焦りは積もっていく。その時親が子供に言い聞かせる逸話を思い出した。

 

今、村でどの家の子供もそう言い聞かせている【ブギーマン】も言い伝えだった。

 

この頃は丁度、マスターが増えていた。外の逸話などを聞かせてティアン達に自慢するようなマスターが村を通った後のことだった。

子供たちがやんちゃで苦労しているからと、聞かせてくれた話。

それを何も娯楽もなかった村は取り入れ、子供たちに聞かせることにしたのだ。

様々な逸話が一体化した【ブギーマン】の話は、内容が様々あり、バリエーションも豊富で長持ちする、子供たちが怖がるような逸話。

これからどんな事があっても、子供を言い聞かせられる【ブギーマン】という存在。

村の皆には丁度いい逸話だった。これから何があっても子供たちには【ブギーマンが来る】と言い聞かせればいい。

 

それを思い出したのだ。

 

形を変えようとする。自分の全霊を使い、今までの”自分”ではない【ブギーマン】へと存在を変えていく。

目の前の子供もブギーマンの話は聞いていた。だがしかし、『体験したことのない。実感のない話なんて』と高を括っている。

 

【ならば、教えてやればいい。自分が、それに成ればいい。”伝説”に。”逸話”に】

 

そうして、力を使い果たした先。彼は【ブギーマン】になっていた。

 

そうして、村の【ブギーマン】の噂は”真”となった。

村で彼は子供を諌める存在となり、村に貢献していく。しかし、ここで問題が生じた。

 

姿が恐ろしい。

 

村に住む者達も、彼が良い存在とは思っていた。思っていたが、いきなり一夜に変わった姿は、どれだけ見ても伝説通り醜いのだ。

むしろマスターに伝わった伝説は複数あり、それを”全て”ちぐはぐな形で再現してしまった彼は、村人からするとモンスターと変わらなかった。

 

『いつか、彼は邪悪な存在となり、本当に子供を食べてしまうのではないか』

『本当はどの子供を食べるか、美味しそうな子を探しているだけで、本性を隠しているのではないか』

 

恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。

村人たちは噂した。アレは敵ではないのかと。

彼は懸命に、そうではないと訴えた。言葉が話せないながらも必死に自分はこの村の一員だと。だが、彼は霊であるため、活動するのは根本的に夜だった。夜に彼を見たいなど思う村人はいなかった。

村人の心は、彼からどんどん離れていった。

夜に出ていく子供が見れば、その姿を表すだけ子供の抑止力となる。しかし、その姿に恐怖するのは、子供だけではなく、大人も一緒だった。

そうして、村長が代表し彼に言った。出て行ってくれ、と。これ以上【ブギーマン】はいらない、と。

そうして彼は村を出ていくことになった。

 

もう限界だと。

 

村人たちの訴えもあったが、もう一つ彼の懸念があったのだ。

幾つもの【ブギーマン】を聞き、取り込んだ彼は、自分の中に何処かで抑えきれない衝動を感じていた。

もっと言えば、その衝動をもうすぐ自分は抑えられなくなることも彼は、察していた。

 

本当の自分はどんなのだったのだろうか。

 

彼には、それがわからなくなってしまっていた。

【子供たちを諌めなければらない】【子供たちを諌めるためには恐怖を与え成ればならない】【良い子に子供たちをしなければならない】。

その時、彼は、自分が成りたかった姿とはどんなものか。本当の自分の姿はどんなモノだったかを忘れていく。

【ブギーマン】にそんなモノはいらないから。

 

――姿なき幻想。あらゆる都市伝説の始祖と言われる存在。

 

もう彼は戻れないところまで入ってしまった。

そうして、彼は伝説を、逸話を取り込み始めた。

都市伝説系の正体不明なものに限るが、それらをドンドンと再現し、今の形に至る。

彼の通った所には【良い子】しか残らない。【悪い子】は彼の前にはいない。

そうして、様々な村や街を渡り歩き、彼はいつの間にか【悪辣訓戒 ブギーマン】となり、彼はいつの間にか今の能力を得ていた。

 

全ては、子供たちに言うことを聞いてもらうために。

全ては、子供たちに守ってもらうために。

全ては、……一体なんのためだったのだろうか。

 

彼にはもうワカラナイ。




三行まとめ
1.こんな気持ちで戦うの初めて!
2.俺が【ブギーマン】になるんだよ!
3.ハッピバースデイ!新たな君の誕生だ!!
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