指揮官と仕事とHK416   作:が、画面の向こうの人形が僕を見てる!

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久々な上短いし、終わらせ方も雑だけど許してクレメンス!


月夜と指揮官とWelrod Mk.II

 

 

 夜の冷涼な風が吹き抜けるなかで、凛と月が私達を見下ろしている。淡く、しかし確かに輝きを放つ円は、宝石と見紛うばかりに美しかった。

 月の周囲には雲が停滞していて、時々薄く月を多い朧に見せた。その周りには虹霓が円を描き、まるで仏像の背後に輝く頭光のようだった。

 

 ━━━━━私は月が好きだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、誰だ?こんな時間に屋上に来るとは珍しい奴も居たもんだ」

 

 きぃと鉄扉の軋む音をさせてここまで来たのは指揮官だった。

 

「ウェルロッドMkIIです、指揮官」

 

 声の方向へ振り向き敬礼をする。

 指揮官は湯気を昇らせるマグカップを持っていて、私を見て少し意外そうな顔をすると鉄柵に寄りかかりその中身をちびちびと飲み始めた。

 それから暫く、静寂が続いた。

 さぁと夜の涼やかな風が私達を優しく撫でる。ざぁと草木が揺れ動く。鉄柵に背を預けて眼を閉じて耳を澄ませると、虫が懸命に鳴いている。眼を開くと周囲が少しだけ暗くなっており、見上げれば月が薄雲に隠され柔らかな光を放っていた。美しいと思うと共に、私はなんのために戦っているのか忘れそうになる。こんな世界を見られるのならば戦うのはバカバカしいと心から思ってしまう。戦うための人形なのに。

 少しだけ、感傷に浸る。

 

 それを断ち切ったのは指揮官だった。

 

「どうだウェルロッド、この基地には馴れたか?」

 

 私はつい先日、5日前に別の基地からこの基地に着任した。故の質問だろう。

 この基地は、なんというか、自由だ。色んな人形が思い思いに活動している。1日中訓練をしている人形もいれば、1日中遊び呆ける人形もいる。中には掃除をしていたり、料理を作ったり、自室でゆっくりと読書をしている人形もいる。

 他の基地ではあり得ないような光景だ。

 

 前の基地では人形は文字通り人形で、ただの道具だった。それは間違ってはいない。元々、機械、ひいては人形もその為に作られたのだから。

 人の為に仕え、使えなくなったら棄てられる消耗品。それが私達だ。人形は機械だから幾らでも補填は効く。経験値もデータを読み込ませれば直ぐに獲られる。

 そういうものなのだ。そういうものとして認識してきた。

 

 これが正しい人形の在り方なのだろうか、それともこの基地の人形の方が…?

 

 ………わからない。

 

「…この基地は、自由ですね。人形達が皆、楽しそうで」

 

 私は煮え切らない答えを返してしまった。すると指揮官は大層面白そうに、満足気に笑っていた。

 

「そうだろう、そうだろう!私は人形達が好きでね。私達人間を守り、戦ってくれている人形達には少しでも苦労を掛けてはいけないと思ってるんだよ。自由にさせているのも、感謝しているからだ」

 

 私は驚き、そして納得した。

 嗚呼、そうか。指揮官がこう言う人だから、皆生き生きしているのか。今まで出会ってきた指揮官との違いを知り、少し驚いた。

 …少し、意地の悪い質問をしたくなった。

 

「指揮官は人形を戦地に送り出す時、何を考えてらっしゃるのですか。人形達を、どう思っているのですか」

 

 指揮官は何故か焦った様に空いている手で顎を擦りながら。ぽつり、ぽつりと言葉を詰まらせながら、この問いに答え始めた。

 

「…私はね、その…恥ずかしいのだが、彼女達を送り出す時はとても、心配しているんだ。正直、少し怪我をして腕から配線が覗いているだけでも、寒気がして胃が少し痛くなるくらいには、今でも彼女達を…大切に思っている」

 

 指揮官を視界に入れて、体に風を感じながら黙って話を聴く。

 

「…私が最初に着任した時、所属している人形は416だけでね。後方幕僚もいつの間にかいなくなってて、2人だけでこの広い基地と、そこの小さな街を守ってたんだ。今は皆で守ってるが」

 

 顎に当てていた手ですぐ麓の街を指差す。街の周りには、よく見ると基地で見かけた人形達が通信機で話ながら警戒しているのがわかる。

 話は続く。

 

「…その時期は私は着任したばかりで右も左もわからない新米だったからね、416は良く私を叱っていたよ。私の母より厳しくね」

 

 そう言う指揮官は何処か楽しそうだ。

 トントントンと誰かが階段を登る音が厭に耳に付いた。誰だろうか、指揮官曰くこの時間に此処に居る人形は珍しいと言うのに。

 指揮官は気付いた様子もなく話続ける。

 

「いやぁあの時は辛かったもんだよ、書類で少し誤字脱字があっただけで鬼のように怒るんだから。それで良く抜け出しては雷が落ちたモンだよ」

 

 

「そう、確かにそうね。今みたいに」

 

 

「えっ」

 

 鉄扉を音も立てずに開け放ち、指揮官の背後に付いた416は笑顔で指揮官の肩を叩いた。

 指揮官はこの世の終わりのような顔をした。私は顔を引き攣らせた。

 

「ねぇ、指揮官。まだ仕事は終わっていないのよ。わかってるかしら」

 

「ん、え、あ、そ…そうだったっけなァ~?」

 

「惚けないで結構よ。貴方が昨日死んだ顔で『働きたくない』何て言うから1日だけ休ませたけれど、それで仕事が失くなる訳では無いのよ」

 

「…はい」

 

「大体、どこからこんなに仕事を引き受けてきてるのかしら、訳がわからないくらい大量にあるじゃない」

 

「…ソッスネ」

 

「それでも引き受けたならやるしかないのよ。指揮官、判ってるの?」

 

「…」

 

 すると指揮官はマグカップを416に投げつけて、鉄柵を越えて壁面に付くとパイプ伝いに逃げ出そうとした。416も少し怯んだがそこは戦術人形、素早く翻って指揮官の襟に手をかける。

 

「ああああああああ!!!やだ!!!!働きたくない!!!!!助けてウェルロッド!!!!!」

 

「良いのよ、ウェルロッド。貴女はそのまま手を出さないで」

 

 …私は只見ていることしか出来なかった。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!やだあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

 …指揮官は416に引き摺られて屋上を後にした。

 

 漸く静けさを取り戻した私は、こう思った。

 

 

 

「…あの人形にだけは、逆らわない様にしよう……」

 

 

 私を慰めるように穏やかな風が私を包んだ。

 

 

 




なぜウェルロッドかというと、アンケ結果のを書いてたら詰まりに詰まってどん詰まりだったからなんと無くです。これ以外にも何となくが幾つかあります。

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