指揮官と仕事とHK416 作:が、画面の向こうの人形が僕を見てる!
それは416とM4でした。その二人の春画で御座います。私はそれに胸を打たれてしまったのです。それからと言うもの、『M4は縦セタがえっち』だとか『蔑んだ目で授██キをしてほしい』だとか『え、M4ちゃに枯れるまで絞らr……アッ』だとか『太腿で顔を挟まれたら即オチ』だとか、そんな考えが頭の中で右往左往していた訳で御座います。
考えている内に、私はいつの間にか果てていた訳ですが、その後のあまりにも耐え難い喪失感、それを埋める為に無意識の内に私は少女達の前線を指揮する携帯電話の遊戯を開き、M4をつつき回していたのです。
そんなこんなで私は、M4の叡智さ、そして可愛いさ、可憐さ等に気が付いたのです…。
長くなりましたが、私の戯言は以上で御座います。
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仕事がしたくない。
執務室の窓を開け放ち、轟々と吹きつける朝風を浴びながら私はそう思った。風が通った室内は大量の書類が辺りに散らばり、さながら雪が積もったようだ。窓の縁に腰を掛け、目を瞑り、今までの事を思い出す。
…毎朝基地に届けられる富士山にも届かんばかりな大量の書類を副官と一緒に処理、一日の作戦報告書を徹夜で書き上げファイルに綴じて資料室へ保管し、湯船に浸かる時間もなくシャワーを浴び、最近は2食しか摂れていない食事、そしてやっとのことで手に入れた数時間で睡眠する。それに上から下された命令に従い戦術人形を派遣し作戦や任務をこなさなければならない。ここ最近はずっとこうだ。
仕事の中でも作戦報告書を書き上げるのはかなりの時間が掛かる、慣れた今でも約八時間はそれに充てている、お陰で先月に腱鞘炎になってしまった。報告書の作成はこの基地に所属してからずっと副官を務めているM4A1と二人でしている。勿論、M4A1以外にも手伝おうとしてくれる心優しい人形も居るには居るのだが、判りやすい書き方教えるのが手間なのだ。M4A1以外の人形が報告書を書けない訳ではないのだが、殆どの人形が主観を交えた個性的な作戦報告書を書き上げてしまう、これでは読めたものではない。その『殆ど』から外れた、ちゃんとした報告書作成が出来る人形は、古参で練度が高く様々な任務に欠かせない。だから作戦報告書の作成程度に充てられず、今でもM4A1と二人でやっているのだ。と言っても、零時を過ぎたら流石に遅いのでお帰り願うのだが。
普通なら様々な業務を手伝ってくれる後方幕僚は、この基地には居ない、『S09地区の後方幕僚が毎日譫言を吐きながら机に向かっている』と言う根も葉もない噂を聞いてか、誰もこの任に就く人間は居らず、上に問い合わせても「その状態で貴官の基地は運営出来ていると言うことは、妥当な人員を送っていると言うことだ。」等と言う何の役にも立たない返答で話にならなかった。
…まぁ詰まる処、指揮官は疲れたのだ。
「ようし!今日からお仕事サボっちゃうぞ!!」
私のような可愛い女の子に仕事を押し付けるような会社の基地になんて居られるか!!と私は思い立ったが吉日と、窓を閉め切り、大量に散らばった書類を集めながら逃走の計画を練り始める。
取り敢えずは基地から出て近くの街で住み込みバイトでもして暮らすかと考え、財布と携帯端末だけを持ち部屋を出る。もう私には、この基地に帰ってくるという考えはなかった。
今の時間は05:40を少し過ぎた頃、普段なら資材倉庫へ行き備蓄数を確認している時間だ。この時間ならほぼ全ての人形が眠っている時間であり、のんびり逃走を図れる筈なのだ。
集めた書類を机の上に丁寧に置き、万が一基地から出たことを知られた時の時間稼ぎの為に書き置きを残し、堂々と正面玄関から出て行った。表門まで着くと耳を澄ませて周りを見渡し、一応人目がないか確認する、特に誰も居ないと分かると胸を撫で下ろした。一刻も早くここから離れようとしたところで、後ろから良く耳にする人形の声が聴こえた。
「何処へ行かれるのですか指揮官?」
背筋が凍った。周囲をしっかりと確認していた筈だ、あり得ない。まだ冷たい朝風が吹き付けているというのに、私の背に汗がすぅーと伝ったのが分かった。ドクンドクンと激しく脈打つ鼓動を抑えながら、ゆっくりと振り向く。
風に靡く長い茶髪、顔の左側に垂れ下がる黄緑のメッシュ、髑髏の口のような柄の付いた襟巻き、縦筋模様で深緑のセーター、私に向けて構えているのは彼女と同じ名前を冠するアサルトライフル『M4A1』。彼女は私この基地に着任してからの付き合いであり、今最も会いたくなかった人形の一人だ。
(不味い、なぜここに…。どうやってつけてきたの…?)
私はいつもならまだ寝てるのに!!と頭の中で悪態をつきながらM4をどう煙に巻こうか思考を巡らせる。
「きょ、今日はなんだか朝早いんだね…?あ、もしかして私のこと心配なって起きちゃった?な、なんちゃって…」
苦し紛れに口から出た言葉はおかしいくらいにガタガタと震えていた。
「ふふっ、はい、指揮官のことが心配で心配で…ついつい後を追って来ちゃいました。それで、何処へ行かれるのですか?」
M4は微笑みながら言っているが目が笑っていないし、銃口が此方に向いている。
(…逃げなきゃ、殺られる…!)
私は直ぐ様踵を返して走り出した。
直後、足元に銃弾がめり込んだ。止まった。
「指揮官…もう一度、訊きます。何処へ行かれるのですか?」
嗚呼、これは最終警告だ、また逃げれば殺られる…。私は直感した。口を開こうとするが構えられた銃の口が、私の事をじっと見て放さない。思わず閉口する。体が恐怖で震えて奥歯がガチガチと噛み合わない。
「…?指揮官、大丈夫ですか?何か…調子が悪そうですが…?」
M4は此方を心配した様に振る舞う。しかし尚も銃口は此方を向いている。機嫌を損ねたら、それこそ終わりだ…。額を伝う汗を裾で拭い、意を決して口を開く。
「あ、ぁの…、ちょっと街まで…。」
「…こんな朝早くに、ですか?何のために?」
「っ……そ、それは…ぁの…。」
「正直に話してください。」
M4は怪訝な顔を浮かべつつも銃を撃つ様子はない。少し安堵し、少しずつ言葉を紡ぐ。…正直に話すのだ、彼女の言う通りに。
「し、仕事が辛いので…、職を棄てて街で暮らそうかと…思って…。」
「…そうだったんですね、話してくれてありがとうございます。」
M4はこの回答に満足したようで銃口を下ろして私に駆け寄ると、優しく私を包み込んだ。ふわりと柑橘の香りが鼻腔を擽る。思わず私は安心しきって脱力してしまった。膝を折り崩れ落ちそうになるが、しっかりと私を抱き留めて放さない。温かい吐息が私の耳許に触れ、くすぐったくて思わず身震いをしてしまう。
暫くしてM4は感窮まった様に話し出す。
「良かったです、指揮官…!私、指揮官が私の事を嫌いになって、それで何処かへ行ってしまうとばかり…。でも、仕事が嫌になってしまったんですね、安心しました…。そういう事なら、私も着いて行きます!私なら指揮官を守って居られますし、それに疲れを癒す事だって出来ます…。だから指揮官、一人で居なくならないで下さいね。」
(…嗚呼、そうか…私の事をここまで想ってくれる人形が居たのか…。)
M4はまだなにやら話し続けているが、私は感動していて耳には入って居なかった。大切なことを気付かせてくれたM4を強く抱き締めて今までの自分の行動を反省する。
(こんなにも私は愛されて居たなんて…家出なんて馬鹿なことを考えるんじゃなかった…。これでもう充分、仕事を辞める動機はなくなったな…。)
基地へ戻ろう、私は決心した。未だに話を止めないM4の肩を少し叩いて止めさせると、やっぱり戻る、と伝えた。抱き締める力が強くなった。
「指揮官、もう無駄ですよ?指揮官はこれから私と一緒に暮らすんです。基地なんてもう棄ててしまいましょう?一度は辞めると決めたじゃ無いですか、覆しちゃダメですよ。」
最早彼女の声に優しさは感じず、ただ暗い影を感じていた。力はまだ強くなっていき、声を出すことすら叶わない。私はどうなってしまうのだろうか。
「街へ行って暮らすのでしたよね、指揮官の事だからすぐ近くの小さな街ですよね?着任したばかりの頃は良く二人で遊びに行ってましたから、良くわかります。でもあそこだとM16姉さんや45さんに見付かってしまう…。だから指揮官、私、隠れて住むのに良い街を知ってるんです!前から一緒に暮らしたいなと思っていて、もう部屋も借りてるんですよ!指揮官、一緒に行きましょう?指揮官も女性ですし、二人で住むのには問題ないですよね。そうだ、指揮官…」
徐々に暗転して行く意識の中、私はただM4の楽しそうな声だけを聞いていた…。
「っ…!はぁ!はぁ!」
途轍もない息苦しさに思わず私は飛び起きた、顔に被さっていた布団を退けて壁に掛かっている時計を見るとまだ三時半を指していた。まだ夜中じゃないか…、なんとも気味の悪い夢を見たものだ。
布団を整え、横になるとふと、違和感を覚えた。
(…?あれ、私の部屋ってあんな所に時計あったかな…?)
違和感を解消しようと起き上がろうとしたが、眠気に負けて布団から起き上がれない。そのまま私は心地よい微睡みに呑み込まれた。
「これからもずっと一緒ですよ、指揮官」
04:01に投稿しようと思ってたけど間に合わんかった…。
そう言えば私、彼女が出来たんですよね!『HK416』って銃みたいな名前をしてるし、恥ずかしがって画面から出てきてくれないけど、良い子なんですよ!羨ましかろ~?
所で今日はエイプリルフールですね、だからまぁ何という訳でも無いのですが、エイプリルフールですね、悲しいことに、何が悲しいのかわからないのですが。