指揮官と仕事とHK416 作:が、画面の向こうの人形が僕を見てる!
最近、私には大量の書類の処理に加えて、もう1つ仕事が増えた。それは指令室の掃除だ。
私はいつも通り午前5時前には起床してある程度の身支度を整えたら先ず、指令室へ向かい澱んだ空気を入れ換える為に窓を開けた。そうしたら隣の物置部屋から掃除用具を幾つか取り出して、始業である6時頃に間に合うように掃除を始める。
暫くして、ハタキで資料棚や執務机を払っていた時である。突然ガチャリとドアを開けて何者かが入ってきた。
「おはよう416、今日も精が出るわね」
この人を小馬鹿にしたような挨拶をするのは、私の知る限り1人しかいない、UMP45だ。
私は特に気に掛けず、掃除を続けたまま適当に挨拶を返した。しかし45にはそれが気に入らない様子で、話を続けてくる。執務机を挟んで呆れたようにして。
「…416、前にも言ったと思うのだけど」
「この前?何だったかしら」
「…そんなことを毎日続けていても、もう指揮官は帰って来ないわよ」
「そう、貴女はそう考えているのね」
「…これは事実よ」
「妄言ね」
どうやら45は私が此処を掃除している事が気に食わないらしい。椅子の背凭れを掃きながら話を続ける。
「あの人が帰って来ないなんて事があるわけ無いでしょ、あの人はそんなに無責任じゃないわ」
「…そう言い続けて、もうどれ位の日月が過ぎた?」
「さあ?どの位かしら」
今まで掃いていた椅子に深く腰を据え、45に眼を向ける。気分はさながら指揮官だ。試しに尊大に話を進めてみる。
…指揮官はこんなに偉そうだったか。
「ねぇ45、貴女には指揮官が信じられないのかしら」
視線の先の45は黙りこくった。歯を強く食い縛る音がギリリ、と耳に届いた。視線は私の周りをなぞるばかりだ。45がこんな反応をするなんて珍しいと、私は思った。いつも飄々としているこの人形は今日も何故か様子が違う。
…も?
まぁいい、私は畳み掛けるように話して続ける。
「45、貴女だって信じてるんじゃないの。指揮官は絶対に戻ってくるって。それが何日後か何ヵ月後か何年後かはわからなくても、絶対に戻ってくるって事を」
「戻って来たらあの人は、いつも通り執務を始めるのよ、書類を処理して作戦を立てて資料を纏めて…。それでまた疲れたように眠るのよ」
「起きたらまたそれを繰り返して、時々巫山戯た事をし初めたり、でも真面目になって仕事をしたり。いつも通り、いつも通りを繰り返すの」
「でもそれだったらまた居なくなってしまう…。だから今度は私が指揮官を管理するわ、と言っても指揮官は仕事が大好きだからある程度は仕事をしてもらって…それで指揮官が疲れないように、またいなくならない様に、私が仕事も食事も娯楽も休息も、ずっとずっっっっっっと付き添って、日常のどこを切り取っても全て、1から10まで私が管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して、それで指揮官を続けてもらうの」
「また指揮官が逃げようとしたら今度は脚を切り飛ばすわ、そしたら逃げられないでしょう。1歩も歩けないから他の人形からは不審に思われるかもしれないけど、あの指揮官ですもの、また巫山戯た事をして怪我をしたとでも言えば納得してくれるでしょう」
「それでもまた指揮官が消えてしまいそうになったら次は左腕を、利き腕は最後に取り除くわ。そうしたらもう指揮官はいなくなれない、逃げられない、消えてしまわない、ずっとずっとずぅぅぅぅぅぅぅっと私と一緒…死ぬまで指揮官と一緒に過ごせるの!」
「だから、その為にまずは此処を綺麗に保たなくちゃいけないの、もし今日戻ってきてしまったら失望してまた直ぐに何処かへ行ってしまうでしょう…今度は逃がさないわ…絶対に」
「45達も強力してくれるわよね?行き場の無い私達を引き取ってくれた恩人の為ですもの」
「…」
目の前の人形は苦虫を噛み潰したような顔をして此方を見る。私の提案が受け入れられなかったのだろうか。
45は餌を求める金魚の様に何回か口をパクパクさせると、1度強く目を瞑った。目を開くと私を真っ直ぐ見詰めて問い掛けてきた。
「…416、それ、本気?」
「えぇ、勿論」
間髪入れずにそう答える。本気でなければこんなことを言わない。
45はさっきと変わらず私の要求には答えずに子供のように同じ主張を続ける。見ていて少し、痛々しい。
「416、今の貴女は正気じゃないわ。可笑しい、狂ってる」
「私が可笑しい?狂ってる?何を言うのかしら、そんな訳無いじゃない」
「いいえ、可笑しいわ、もう何回同じことを言わせれば気が済むの」
「何回?これが1回目でしょ」
45はいつの間にか目に涙を溜め頬を赤くして、泣きそうで、怒っているような表情で俯いていた。今日の45はいつもと違う様だ。
「…416貴女は」
「45、それ以上つまらない冗談をひけらかすつもりなら出ていってくれないかしら。もう5時半よ、早く掃除を終わらせないといけないの」
「っ…そう、わかったわ」
それじゃあね、とその人形は部屋を出ていった。静かにドアを閉めて。
* side change : UMP45
去年、鉄血による未知の攻撃を受けてしまった416は、未だに回復の兆しを見せない。今日も今日とて誰が使う訳でもない執務室を掃除している。
指揮官がいなくなったのは、416が未知の攻撃を受ける数日前だ。もしかしたらそれが原因で攻撃を受けてしまったのかもしれない。
…ある日、突如として自室にも執務室にも、指揮官と言う存在の証拠は消えてしまった。それは人形達も同様で、一部の特殊な強化を受けている人形を除き、『此処は元から人形だけで運営を進めていた』と認識している。
なぜこんな事態になったのかはわからない、G&K社本社に問い合わせても『彼』が居たと言う事実は見付からなかった。それは記憶も同様である。ただ、彼と良く交流が有ったと言う一部の人間には彼の事を覚えているかもしれないと言質を得た。これが冗談や何か出ないことを願うばかりだ。
執務室を出て、歩く気力が何故か出ずに壁に凭れて下を向くと何故か涙が垂れてきた。何度も繰り返し袖で拭う。
もう何回、似たようなやり取りを繰り返しただろうか。416が正気に戻る事はない。あの兄妹に見せても原因不明、攻撃の正体も不明で、指揮官が懇意にしていたと言うペルシカに見せても同様であった。何が起こるかわからない以上、このままと云う訳にも行かないのだが、しかし何が可笑しいのかも判らず、最終的にはこのままと言う手段を取らざる終えなくなった。
指揮官の居場所はナインとG11が頑張って追っている。私は指揮官の正体を探ると共に416の説得だ。…しかしどちらも芳しくはない。ナインは兎も角、G11は指揮官を忘れかけている。勿論G11も記憶が消えないように何重にもロックをかけているようなのだが。それでも駄目なようだ…。私の方は指揮官の履歴書を見付け出しただけで特に手懸かりは見付けられず、416も説得できていない。
…つい先週、気に食わないが指揮官を覚えていた404小隊に協力を要請した。…ペルシカの方から話は行っていた様で、それでも見付からない様なのだが。
…霧を追って靄を掴むような日々だ。如何な私と言えど、もう、疲れてしまった。
本当に、疲れてしまった。
40、今貴女に会いたいよ。
続くかわからん
続いても投稿が今日に間に合わなかったらタイトル変えた方が良いよね…?
やる気が出たのでタイトルを変えます