指揮官と仕事とHK416   作:が、画面の向こうの人形が僕を見てる!

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仕事に疲れたので


本編
指揮官と仕事とHK416


 仕事がしたくない。

 

 ある朝、寝起きの布団の上で指揮官はそう思った。

 

 毎日のように山のような書類を片づけ、作戦報告書を徹夜で書き上げ資料室へ保管し、風呂や食事、睡眠を最低限こなしては上から下された指令どうりに戦術人形を派遣し作戦や任務をこなす日々。

 中でも作戦報告書を書き上げるのは時間が掛かり、毎日約10時間はそれに充てている、お陰で先月に腱鞘炎になった。

 報告書作成を副官として手伝おうとする人形も居るが教える時間が勿体無いし、それをする時間があるなら一人でやった方が効率が良い。

 別に人形自体が報告書を書くことができない訳ではないが、殆ど皆個性的な作戦報告書を書き上げるのだ、これでは読めたものではない。ちゃんとした報告書作成ができるような人形は古参で練度が高く作戦や任務に欠かせないから高々作戦報告書作成程度に充てられない。

 報告書作成を手伝ってくれる後方幕僚はこの基地には居らず、S09地区の後方幕僚が毎日デスマーチだと言う噂を聞いてか誰もこの任に就く人間は居らず、上に問い合わせても

「今の状態で貴官の基地は運営できている」

等と言う返答のみで話にならなかった。

 

 まぁ詰まる処、指揮官は疲れていたのだ。

 

 

「こうなりゃ今日の仕事はボイコットや!」

 こんな黴臭くて埃っぽい基地からおさらばや!と指揮官は直ぐに逃走の準備を開始する、当然この基地は黴臭くも埃っぽくもないのだが、疲れた指揮官の心が早朝の基地をそう見せる。

  取り敢えず基地から出て外周区域の街の酒場にでも行くかと考え、財布と携帯端末だけを持ち部屋を出る。

 今の時間は0440、いつもなら資材倉庫へ行き備蓄数を確認している時間で、この時間ならほぼすべての人形が眠っている時間であり、のんびり逃走を図れる筈である。

 万が一の為に司令室へ行き書き置きを残し、堂々と正面玄関から出て行き、一刻も早くここから離れようとしたところで一人の人形に声をかけられた。

 

 

「指揮官?」

 まだ冷たい朝風に靡く青い髪に紫色のベレー帽、エナドリのように黄緑色の瞳とその下にある赤い涙型のタトゥー、その手には彼女と同じ名を冠するアサルトライフルが携えられていた、そう彼女はHK416である。

 彼女は指揮官がこの基地に着任してからの付き合いであり、今最も会いたくなかった人形の一人だ。

(まずい、実にまずい)

 指揮官はいつもならまだ寝てるだろ!と心の中で悪態をつきながら416をどう切り抜けようか考える。

「きょ、今日は早いね?なんかあったか?」

 苦し紛れに口から出た言葉はおかしいくらいにに震えていた。

「?、今日の基地周辺警備は私よ、指揮官。それより指揮官はどうして此処へ?」

 416の言っていることは本当であるのだが、人形一人一人のシフトを一々覚えていなかった指揮官は

(まさか416は自分を捕まえに来たのでは…?)

などと見当違いのことを考え始めていた。 

(取り敢えず適当なことを言って誤魔化さなければ)

 そう思った指揮官は外壁のメンテナンスとでも言って誤魔化すことにした。

「き、基地の外壁のメンテナンスだよ?ま、万が一があったら困るしね?」

 挙動不審で目も泳ぎまくっていたが、416は寒さのせいだろうと思いそれで納得したらしい。

 416は自分を捕まえに来たわけやなかったんや!この理由で納得するなんてチョロいで!などと考えながらホッと胸を撫で下ろし、今度こそ基地から離れようとすると5mも歩かないうちに416からまた声をかけられた。

「外は危険よ、指揮官。此処ら一帯を制圧したとはいえいつ鉄血が攻めてくるかわからないんだから」

 口外に基地から出てはいけないと言われた指揮官はマジで自分を捕まえに来たのでは?と考えはじめた。

 指揮官は更に適当な理由をつけて外へ行こうとしたが、416が

「指揮官がそこまで言うなら私も行くわ、これで指揮官は安全ね」

と言い、何故か二人で外壁調査と洒落込む羽目になった。416が自分を捕まえに来ていると信じている指揮官からすれば地獄である。

 もうこの時点で指揮官は416から逃れることを諦め、どう416の機嫌を取り仕事から逃げるかだけを考えていた。

 そんなことを考えながら外壁を見て回っていると416に何かを感づかれたのか、何を隠しているのか聞かれてしまった。

 聞かれた以上は仕方なく、やはり自分を捕まえに来たのだと確信し、仕事から逃走しようとしていたこととその理由を事細かに白状した。

 すると416は顔を引き吊らせながら小声で

「あの量の書類を全て一人で精査していたの…?」

と言うと俯いて考え込んでしまった。

 因みに指揮官が普段片づけている書類の量は厚さ2,30cmが大体五山分ほどである。当然この基地だけでこの量になる筈もなく、殆どは他の基地から押し付けられた書類である。指揮官は生粋の天然なのでそんなこともあるだろ程度で済ませているが、そんなことはない。

 考え込んでいた416が顔を上げ、指揮官の方へ向くと

「指揮官、私たちと一緒に今日は休みましょう」 と言った。

 

 

 完璧主義の416らしくない言葉に指揮官は戸惑った、正直416から雷が落ちる覚悟はしていたし、愛想尽かされると思っていた。だが返ってきた言葉は

「一緒に休みましょう」

である、意外とかいう次元ではないもうわけがわからない。

 416と一緒に基地へ戻る道すがら、基地周辺警備は大丈夫なのかとか仕事をサボろうとしたことを責めないのか聞いたが、416は他の人形に任せればいいとか、あの仕事量は異常だからたまには休んだっていいとか、そんならしくない答えばかり返ってきた。

 そんなこんなしている内に基地へ戻ってきて、416はまず最初に戦術人形が過ごしている朝を迎えたばかりの宿舎へ向け指揮官が休む旨の放送を流した。

 正直この後どれだけ文句を言われるか気が気でなかったが、416から大丈夫よと声を掛けられると、不思議と大丈夫だと思えた。何故かサボるのに肯定的なのが気になるが、416がとても頼もしかった。

 

 

 放送を終えた416に連れられて着いたのは、『AR HK416』と書かれているネームプレートの下がった扉の前であった。この部屋は416の自室である。

 416に入ってと言われ内心緊張しっぱなしでお邪魔しまーすと言いながら入ると部屋の中の光景に指揮官は目を見開いた。

 HK416は所詮女の子趣味であったのだ。

 普段とのギャップに言葉を失い、驚愕のあまり無意識で

「えっ何ここは?」

と言う始末である。

 416は指揮官の反応から少し恥ずかしがりながらも、ベッドに座るよう促した。

 指揮官が座ったことを確認すると416は何か飲む?と聞いてきた。

「何でもいい」

と素っ気無く返すと少しニヤけながら

「コーヒーでも淹れようかしら」

と冗談めかして言ってきた、慌ててコーヒー以外を頼むと416はわかってるわよと言ってきた。

 そのまま一息つくと指揮官は緊張が解れたのか、部屋をよく観察しようとした。

 緊張が解れたことを見計らってから416がこう言った。

「指揮官、あなたの疲れをとるために私は何でもするわ」

 その言葉を聞き指揮官は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、部屋で何があったかはわからないが、指揮官とHK416が暫くの間、妙に余所余所しかったという。




続かない
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