指揮官と仕事とHK416 作:が、画面の向こうの人形が僕を見てる!
読んでて『なんやでこれ』って思った事があったら感想にて知らせてください。どうにかします。
吾輩は社畜である、役職は指揮官。
今日はいつから仕事をしているかはとんと見当がつかぬ。何でも薄暗い司令室の中でもひぃこら言いながら書類を処理していた事だけは記憶している。
吾輩はここで初めて副官というものを見た。しかも後で聞くとそれは《リベロール1918》と言って基地の人形中で一番病弱な人形であったそうだ。
このリベロールと言うは時々出撃帰りに医務室に立ち寄り休んでいるという話である。しかしこの当時はなんという孝もなかったから別段心配とも思わなかった。
吾輩はリベロールの事が心配である。
*
今日の副官の子に『昨日副官だったリベロールが医務室で寝込んでるみたい』と言われたので今日はリベロールのお見舞いに行こうと思う。
てな言う訳で今日一日は逃走を諦めることにする、リベロールに感謝するんだなァ!!
早めに仕事を切り上げ、今日は徹夜だという覚悟を胸にリベロールの眠るであろう医務室へ向かう。
朝は静謐としていて心が引き締まる廊下もこの時間は非番の人形達が遊んで騒いでいて、それは眺めていてとても微笑ましく、其処にこれから突入して医務室へ向かうのは非常に躊躇われた。
勇気を持って通るとすれ違う人形達は物珍しそうに此方を見てくるが、万が一『うわっキモ』と言われるのを避けるため、声を掛けるのを止しておく。もし何もせずとも言われたらその日に指揮官を辞職し、一人雪山で冬眠する覚悟だ。
そんな下らないことを考えている内に医務室の前に着いた。
久し振りに見る《医務室》と掲げられた如何にも清潔そうな部屋は薬や消毒液がほんのり香っていた、鍵も空いているし明かりも点いているが誰かが居る気配はない。
はて、目的の彼女は何処だろうか?と部屋に入って直ぐにある背凭れの無い椅子に座って考える。
暫く思考していると、背後から「指揮官さん…?」とか細くもはっきりとした声が耳に届いた。振り返るとそこには目的の人形が居た。
毛先に少しだけ水色とピンク色のグラデーションのかかった長い白髪、同じようにグラデーションのかかった瞳とまだ幼さが残る顔、患者衣のような服を纏う体は色白で、頭部と腹部からは輸血の為のチューブが太股の血液パックまで伸びている。
この如何にも病人な彼女こそリベロール1918である。
「指揮官さん…どうして此処に?」
「君を見舞いに来たんだよ、寝込んでいると耳にしてね。昨日無理をさせてしまったんじゃないかと」
「大丈夫です…我慢強い事だけが、私の取り柄ですから」
彼女はそんなことを豪語しつつもコホッコホッと少し咳き込んでいる。
「そんなところに立っていては体に悪いだろう、早く布団で横になりなさい。ほら掴まって」
「え…指揮官さん、悪いですよ」
「いいから、いいから」
彼女の腕を引き、ベッド迄に連れて行く。少し強引だが心配なのだ。
「っ……痛い!…指揮官さん、力入れすぎです……」
「す、すまない!じゃあこうだ……っ!」
「きゃあっ!な、何を…!」
彼女の腕から一旦手を離す。その後右腕を彼女の膝の裏、左腕を彼女の背中の方へ回して一息に持ち上げる。俗に言う《お姫様抱っこ》である。
こうしてみてわかったことだが彼女は思った以上に軽く、とても心配になった。まるで儚く脆い雪のようだと感じた。
まるで毀れ物を扱うようにそっと部屋を歩き、ベッドの並ぶ場所まで慎重に抱えていく。
「指揮官さん…あの、」
「ちょっと待っていろ」
少しだけ顔を朱に染めた彼女を手近なベッドにそっと寝かせ布団を掛け、近くから毛布と湯たんぽを取ってくる。まだまだ冬で寒いのだ、体を暖めて貰わなければ。
彼女の布団の上から毛布を掛けて、手が空いたのでお湯を沸かしに行く。台所でヤカンを用意し水を入れ、そのままコンロで火にかける。お湯が沸いたら直ぐに湯たんぽに容れられるように近くに湯たんぽを置いておく。
お湯が沸くまでの間にそこらの棚を探し湯たんぽを包むタオルを取ってくる。
それでもまだお湯が沸くまで時間があるので彼女の近くに寄り、昨日無理をさせたことを謝ることにした。
「昨日はすまなかったな、仕事が行き詰まっているからと言って君に手伝わせるような真似をして。本当に申し訳ないと思っているよ」
「指揮官さん、謝らないで下さい。昨日我が儘を言って指揮官さんを手伝っていたのは私の方ですから。そのせいで指揮官さんにここまでお手数お掛けしてしまって……本当に申し訳ありません…」
「謝るのは君の方ではない。部下の疲労を見逃してしまったのは私の責任だ」
「そんなことありません、指揮官さんは自分の事を責めすぎです」
「そうは言っても、君が副官になった次の日にこうなっているのだ、私だって少し無理をさせ過ぎたなと思っていたのだから、明らかにこっちが悪いだろう」
「はぁ……指揮官さんがそこまで考えているなら仕方ありませんね」
彼女は呆れたようにそう言った。
そして彼女は少しの思考をして、声をちょっぴり弾ませながらこう言った。
「私をこんなにした責任を取ってくださいね」
* side change : とある人形 ......副官
昼過ぎ頃に『リベロールのことが心配だ』と言って部屋を出ていった指揮官が夕方頃になっても戻ってこない、『仕事はまだあるから少ししたら戻ってくる』とも言っていたと言うのに、一体何処をほっつき歩いているのやら。
普通、少しお見舞いをするだけなら長くても一時間もすれば戻ってくるもの、と思って居たのにまだ戻らないのだ、明らかに可笑しいだろう。しかも医務室はこの指令室のある棟の端である。別棟でもないしそこまで遠い訳でもないのだから用事を済ませたらすぐにでもあの仕事大好き指揮官が戻ってこないと可笑しいのである。
考えたくはないが、もしかして何処かに逃げたのだろうか、この前冗談なのかなんなのか『あー、仕事やめて農業でもして暮らしてぇよ』と彼らしくないことを言っているのを聞いたことがある。もしここから逃げているのだとしたらかなりヤバイ。
あの指揮官はあれでもこの司令部では少しだけ人気があるのだ、もし居なくなったと知れればちょっとした処ではない騒ぎになることは火を見るより明らかだ。
仕方無いなと、ずっと座りすぎて一体化するのではないかと感じていたソファーから腰を上げる、少し呻き声をあげながら伸びをして背中を反らすとパキパキと小気味良い音がなった。
机の上に置いていた少し冷めた珈琲をぐいっと飲み干すと指揮官を探しに部屋を出ることにした。
部屋を出るともうすぐ夕御飯ができる時間だからか人形たちが食堂へ向かっているのが見えた、その中の一人が私が部屋を出るときに中を覗いていたのか『あれ、指揮官は?』と聞いてきたが居なくなったことがバレると不味いので適当に誤魔化しておいた。
何処へ指揮官を捜しに行くかなと思考を回すが私は逃げてはいないと希望をもってまだ医務室に居ると思うことにした。きっと話が盛り上がっているのだろう。
医務室へ着くとそこは夕暮れの光が窓から射していていつもの清潔な白色の部屋から橙の部屋へと染め上げられていた。
そのまま真っ直ぐ唯一使われているカーテンで囲われたベッドへ向かうと穏やかな吐息が二つ聞こえた。
一瞬指揮官がリベロールと致してしまったのか!という桃色な思考が頭を過るがあの指揮官がそんなこと出来る筈がないよなと持ち直す。
目の前に垂れているカーテンに手を掛けそっと開くと、そこのベッドで指揮官はリベロールに寄り添って眠っていた。普段では考えきれないほど優しくまるで父性を帯びたような表情で穏やかな寝息をたてていた。
この分ならリベロールに手を出してはいないな私はそう判断して、そろそろ仕事だと指揮官を起こそうと考えるが、指揮官は普段余り寝れていないから寝かせておいた方がいいかなと考え直す。
残っている仕事はそんなに難しい物ばかりでは無いのだ、書類の作成くらい自分でもできる。それにいざとなれば誰かを巻き込んで終らせれば良いのである。
私は静かにその場を立ち去った。
各話毎に書き方が違うのは書いている気分が違うからです。
最後に出てきた娘は後で適当に決めます。