更新速度は、すみませんがもう何とも言えません。
と言うことで(どう言うことだ?)。今回はかなりのとんでも設定が出てきます。
後、長いです。
「刃ちゃんの妹様専属メイド就任祝いに、ある物を妹様と一緒に見せてあげようと思うのです」
美鈴の部屋で始まった咲夜、美鈴、小悪魔の三人だけの打ち上げ。
様々なことを話題に盛り上がったこの飲み会は今、小悪魔の言葉によって怪しい空気に包まれた。
「刃ちゃんがリタイアするとも思えないし、させるつもりもないから就任祝いはするだろうけど……」
「流石に気が早いんじゃない?」
美鈴に続く形で咲夜がそう言う。
それはそうだろう。
まだ始まってすらいない新人研修、その終わった後を考えようというのだ。
これが直接指導するわけじゃないレミリアやパチュリーが考えるならまだしも、担当である咲夜、美鈴、小悪魔が考えるのは時期尚早だろう。
少なくとも今は明日から始まる研修について頭を巡らせるべきだ。
「ええ、分かっています。だからさっきも言ったようにある物を見せてあげようと思うので、それについて意見を聞きたいだけです」
小悪魔は何の問題も無いように言うが、美鈴と咲夜は物凄く嫌な予感がした。
「……一体何を見せる気なの?」
「一応言っておくけど、ろくでもないものなら問答無用で却下するし、強行するなら妨害もするわよ」
二人の言葉に小悪魔は頷き、ゆっくりとそれの名前を言う。
「ユリドリミドリ」
「「!」」
この名前に二人は驚愕した。
それはそうだろう。
ユリドリミドリ。大結界騒動と呼ばれる妖怪同士の抗争が終わった後、初めて起こった異変の元凶にして、今の幻想郷を形作り、現在もその影響を強く残す存在の名前。
その正体は漫画と小説の二つのシリーズで構成される全年齢対象の百合本である。
何を馬鹿な。と思うかもしれないが、このシリーズが出回ったことにより幻想郷全体で次のことが続々と起こったのだ。
一、女性同士の恋愛に目覚める者、種族の壁を越えて付き合う者が続出。
二、男から女に性転換する方法が霊術、魔術、妖術で開発され、極めつけは飲めば誰もが女になれる薬が完成。しかもどちらも性別だけでなく容姿も変わるので、多くの男が女へと性転換。
三、次に女同士での妊娠が可能になる方法が各分野で完成。ただしそれで生まれるのは女の子のみ。
四、そんな惨状に嫌気がさし、男の人外が一致団結して大量に幻想郷から夜逃げ。
五、四とは逆に噂を聞きつけた女の人外が続々と幻想入り。さらに女性が幻想郷に迷い込む比率が男性より高くなる。
六、人間及び人外の男子出生率が低下。妖精に至っては女しか居なくなっていた。
等など、これらがユリドリミドリの引き起こした異変だ。
当然幻想郷の創設者であり、管理者でもある妖怪の賢者は当時の博麗の巫女を初めとした、危機感を感じだした各勢力のトップや協力者と共に異変解決に乗り出す。
しかし後に百合異変と名付けられたこの異変解決は困難を極めた。
まず、ユリドリミドリ自体謎が多く、作者が不明で、霊力を初めとした一切の力が無いにも関わらず、その存在感の大きさでどんな者でも一目見れば思わず手に取ってしまい、個人差はあるが、多くの者がこの作品のファンになっている。
それが複製されたコピー本であっても。
他にも謎はある。漫画や小説は確かに昔からあったが、ユリドリミドリの書き方は完全に当時のものとは違っていた。そして後々、それが平成日本の漫画とライトノベルの書き方だと判明する。
その時代には無い書き方で書き、多くの者を虜にして百合と女体化に走らせた異色の百合本。
果たしてこれを作った者は一体何者なのか?
分かることと言えばとんでもない才能と実力を持っていることだけ。
妖怪の賢者たちは戦慄しながら作者を探した。
それで分かったことはユリドリミドリが外の世界では発行されておらず、幻想郷にのみ流通していること。
理由は何故か幻想郷の外に持ち出せないため。
妖怪の賢者は博麗大結界を含めて各所を調査。結果は何も分からなかった。
結界に何か細工をされた後は無いし、怪しい所も無く、作者はもちろん見つからない。
このため異変解決は打ち切り。妖怪の賢者たちはこれ以上影響が出ないように対策を立てることにした。と言っても出来たのはユリドリミドリと女体化薬の生産停止と流通停止ぐらい。
本当ならこれら自体を無かったことにしたかったが、当の本人たちがユリドリミドリのファンであったため断念、それが出来ないため女体化薬も自用のための自作は許可された。
それでも反対は物凄いものであり、大結界騒動ならぬ、百合騒動が起きかけたほどだ。
何せユリドリミドリ自体は存在感こそ大きいが、特にこれと言った力は持っておらず、大半の者が見る物に至っては何の手入れもされていないコピー本。
女体化薬は流石に無理矢理飲まされた者も極少数居たが、大体は自分の意思で飲んでいた。しかも無理矢理飲まされた者も時間が経てば女として生きること選んだ。
だから別にこのままで良いじゃないか。
反対した者たちは皆口を揃えてこう言った。
しかし、このままでは幻想郷のバランスが色んな意味で崩れてしまいかねず、特に種族の壁を超えた恋愛と各種族の男性減少は深刻だった。
このまま進めば前者は種族と言う概念の崩壊、後者は男手の損失を招く。
そして前者は妖怪の山のトップが種族的優位の損失を嫌い、後者は人間の里のトップが労働力の低下を嫌った。
ついでに弱小勢力ながらも幻想郷に残った各男性陣営と、普通の恋愛を押す女性陣営の後押しによってユリドリミドリの生産と流通は停止する。
ただし、施行前に所持していないが必要な者にユリドリミドリ一セット、女体化薬一個が無償で配られることを条件に。
それからも妖怪の賢者とその協力者たちは忙しかった。
幻想郷の男性人口はこの時点でかなりの所まで落ちており、早急に上昇政策を取らねばならなかった。
妖怪の賢者は外の世界、時には異世界からの種族を問わない男性の勧誘と拉致。
各勢力のトップは一夫多妻制を許可して推進。加えて男性化の術と薬も研究されたが、やる気の問題で断念。
そしてその他の協力者たちと協力して幻想郷全体に、未読者のユリドリミドリと女体化法の閲覧の禁止、吹聴の禁忌を促していった。
これら努力の結果、幻想郷の男性人口は人外(妖精除外)が女性の五分の一、人間が女性の三分の一にまで上昇する。
だが、ここに来て新たな障害が発生。
地下勢力『百合愛会』。ユリドリミドリの布教、女性の同性愛と男性の性転換の推進を主な活動とし、幻想郷全体にネットワークを持つこの勢力の働きにより、男性人口の上昇率は低下。
もちろん妖怪の賢者たちによる殲滅作戦が発動するが、幾ら潰しても切りがなく、両者の戦いは現在もなお、幻想郷で人知れず行われている。
後、ユリドリミドリは日本語で書かれているのに文字を知らない者、言語を知らない者でも読められたのは、外来の者と現地の者の衝突を防ぐために、妖怪の賢者が日本の言語と文字を理解させる術式を結界に組み込んでいたからだ。
そんなやたら色々と厄介なユリドリミドリを見せようと言うのだ。
「いや、流石にあれは駄目でしょ!」
当然美鈴は反対する。
「でも美鈴。紅魔館は別にユリドリミドリの閲覧を禁止していませんよ」
小悪魔の言う通り紅魔館はユリドリミドリと女体化法の閲覧を禁止していなかった。
これは紅魔館が元々女性しか居なかったのが原因で、このため禁止する必要性があまりなく、さらにフランを除く住人全員が愛読者であることも要因の一つだった。
このため百合異変の時は中立を保っていた。
「でも、妹様にあれを見せるのは危険よ」
フランが愛読者でなかったのは単純にその存在を知らないからだ。
理由は精神不安定のため、読ませた時に何をするか分からないので、レミリアがフランに教えることを禁止したのだ。
「だから刃ちゃんと一緒に見せるのです。妹様一人なら危険ですが、刃ちゃんと二人なら決して間違った方向には進まないでしょう」
危険性を訴える美鈴に小悪魔は自信を持って言う。
「そうね。あの子と一緒なら大丈夫でしょう」
「咲夜ちゃん!?」
納得する咲夜に思わず美鈴は叫ぶ。
「美鈴。貴方の気持ちも分かるけど、妹様はもう以前とは違うの。小悪魔も就任祝いとは言ってるけど、それはあくまで口実なんでしょう?」
「やっぱり咲夜ちゃんは鋭いですね」
視線を送る咲夜に小悪魔はニヤリと笑みを浮かべた。
「どう言うこと?」
意味が分からず美鈴は尋ねる。
「刃が専属メイドとなれば妹様は彼女を通して色んなことを知るようになる。そして私たちは刃に今の幻想郷について説明する必要がある。ここまで言えば分かるでしょ」
咲夜の言葉に美鈴ははっ、となる。
「妹様がユリドリミドリの存在に気付く」
「そう、そうなれば元々好奇心が強い妹様はユリドリミドリを見ようとするでしょうね。もちろん刃に口止めするように言うことも出来なくはないけど、美鈴は以前と同じく妹様には地下に閉じ篭っていてほしいと思っているの?」
「もちろん自由に外に出られるようになってほしいと思ってる」
咲夜の問いに美鈴は即答。
「でしょう。でも、お嬢様も含めて私たちは不滅の存在ではない。刃だけはそうかもしれないけど、絶対かどうかは分からない。もしも私たちが死んで妹様が一人になったとき、自力で生きていけないようでは困る。そして一人で生きていくためには情報は何より欠かせないわ」
「……どの道、妹様がユリドリミドリの存在を知るのは時間の問題ってことね」
咲夜の説明に美鈴は困惑した表情でそう呟いた。
「それに私はユリドリミドリを読むことは刃にとっても良いことだと思うわ」
「妖精メイドたちと仲良くなる上で、ってこと?」
先にも言った通り紅魔館の住人は、フランを除く全員がユリドリミドリの愛読者。
妖精メイドも当然そうであり、話をする上でこれほど話題に適したものはないだろう。
「それもあるわ。でも、それだけじゃない」
咲夜は首を振って続ける。
「ねぇ、美鈴。今日話してみて思ったんだけど、刃の素の口調、大分男っぽくない? 一人称も俺だったし、違和感も無い。まるで元男だったみたい」
「咲夜ちゃん! それはいけない。例えそうだったとしてもそれは刃ちゃんから言うべきことだよ」
現在の幻想郷には男から女になった者が数多く存在する。
そして元男だったと言う事実は、殆どの者にとって聞かれたくないことは想像に難しくない。
理由は刃と同じく様々な弊害が発生するから。
実際刃もフラン以外に元男だったことを話せなかったし、それだって自分からではない。
だから幻想郷で、元の性別を聞くことが最大級の禁忌になるのは当然の流れだった。
現在、元彼ら、現彼女らは、刃と同じように名前を変え、女として生きている。
そんな彼女たちに元の性別を聞けば、同類でない限り最悪殺されるだろし、そうならなくてもタダではすまないだろう。
これは元が男でなくても同じだ。
もしも知る機会があるとすれば、その者と深い関係になり、結果教えてもらえることぐらい。
美鈴が声を荒げるのも無理なかった。
「ええ、分かっているわ。私が言いたいのはあくまで男っぽい口調を改める上で良い刺激になると言うことよ」
幸いにもそのつもりなはないようで、咲夜が刃に見せる理由は本人以外には軽いものだった。
「それなら良いけど……」
ユリドリミドリには男を女になるように仕向ける力がある。が、美鈴はそれに待ったを掛ける。
「でも、男っぽいと言っても口調だけだし、それくらいなら個性でしょ」
(確かに女の子で俺とか言うのはどうかと思うけど)
それでも他に居ないわけではないし、美鈴も実際刃以外で男口調の女の子に会ったことがある。
ついでに言うなら男で女口調な者とも会ったことだってある。
「個性。確かにそう片付けることも出来るけど、それは少々厳しいと思うわ。実際私だけでなく、お嬢様も元男じゃないかと思っていたわよ」
「えっ?」
咲夜からの意外な情報に美鈴は目を点にする。
「恐らくパチュリー様もだけど、小悪魔。そっちはどうなの?」
「咲夜ちゃんの言う通り疑っていましたね」
咲夜の問いに小悪魔は頷く。
「えっ、えっ?」
さらに驚く美鈴。
そこに叩きつけるように新たな情報が舞い込む。
「でも、例え元男だったとしても、今が女なら構わないわ。主に言わないのは癪だけど、そこは勘弁してあげる。って、言っていたから安心して」
「ご主人様も、理由が理由だし、可能性も限りなく低い。それ関連で問題を起こさない限り黙認する。って、言っていましたから大丈夫ですよ」
最初は咲夜が、次に小悪魔がそれぞれの主の言葉を述べた。
「えっ、えぇっと、色々と言いたいことはあるけど、お嬢様もパチュリー様も刃ちゃんが元男でも構わないってこと?」
混乱する頭を落ち着かせるように美鈴は要点のみを纏めて、自分に言い聞かせるようにそう言った。
「ええ、そうね。でも、あくまで疑っているだけで、確信しているわけじゃないわよ」
「元男でそれを隠しているなら、男の喋り方をするのはおかしいですからね」
咲夜の言葉を補填した小悪魔の言葉の通り、元男であることを隠したいなら刃の行動は矛盾する。
これは色々と考える暇も、ましてや口調を変える暇もなく、フランと話してしまったため、聞かれたら答えようと刃が半ば諦めていたためだ。
もちろんこのように作用するとは考えていない。
「だから美鈴。このことは口外無用よ。貴方に話したのはお嬢様から言うように言われていたのもあるんだから」
「わっ、分かってるよ。私だって刃ちゃんの立場が悪くなるようなことはしないよ」
鋭い視線で言う咲夜に美鈴は少々慌てながら了解する。
「でも、私たちが黙っていてもやっぱり疑われるんじゃないんですかね?」
美鈴たちが黙っていても、疑う原因となった口調が改善されない限り、やはり刃は誰かに疑われるだろう。
「うぅん。それとなく注意する。じゃあ、ダメかな?」
小悪魔の疑問に美鈴が自信なさげに答える。
「それだと理由を言わなきゃいけないでしょ。美鈴は言えるの?」
もちろん言えるわけがない。元男だと疑われるから、これでは遠回しにそうだったのかと聞いているようなものだ。
「それは。女の子らしくしたら、って言うのはどうかな?」
美鈴は咲夜の問いに自信なく答える。
「それじゃあ注意じゃなくて提案でしょう。私はこのままで良いです。と言われたら御終いじゃない」
「うう、でも、百合異変のこととか教えたら流石に変えるんじゃ?」
「同時に元男と聞くことが禁忌であることも教えるのよ。しかもこれは妖精ですら守るほど。それで安心して変えない可能性もあるわ」
「いや、聞かれないなら良いんじゃ?」
「疑われることが問題なの。それで刃が妖精メイドたちに避けられるようになったらどうするの?」
「でも、ユリドリミドリを読んだからと言って絶対変わるとは限らないよね?」
咲夜に対して美鈴は最後の反論に出た。
確かにユリドリミドリには男を女になるように仕向ける力がある。だが、だからと言って全ての読んだ者が女になったわけでも、変わったわけでもない。
美鈴のように少し変わった行動を取る者や、何も変わらなかった者も大勢居る。
しかし、それは咲夜も分かっていることだ。
「確かにそうね。でも、共通の話題があれば多少の疑いはあっても妖精メイドたちと仲良くなれるわよ。実際私も随分打ち解けたわ」
「それは……」
美鈴も妖精メイドたちとその話題で、よく談笑しているので言葉に詰まる。
「あの子たちは仕事柄大人びてはいるけど、本質は子供。すぐに楽しい方に意識が向いて、元男かどうかなんてどうでもよくなるわ」
「だけど、それもあくまで予想だよね?」
「そうね、でも、ユリドリミドリ以外で良い方法なんてあるの?」
(……思いつかない)
考えては見るが良い方法を美鈴は思いつかなかった。
(でも、ユリドリミドリは……)
だが、やっぱり美鈴はフランと刃にユリドリミドリを見せることに抵抗があった。
それは美鈴が対峙している二人に理由がある。
咲夜と小悪魔、紅魔館の住人でユリドリミドリを見て、最も悪い方に変化したのがこの二人なのだ。
咲夜は表面上瀟洒なメイドだが、その裏ではレミリアのお古の下着を集めたりする準ストーカー。
小悪魔も表面上は愉快な司書だが、実態はエロいことが大好きな色魔。今では禁止されているが、エロい漫画を書いて妖精メイドに見せたため、紅魔館の風紀が乱れかけたこともあった。
ちなみに今はエロさ控えめの恋愛漫画を書いていて、美鈴も読んでいる。
(昔はこうじゃなかったのに)
ユリドリミドリを見る前の咲夜は内外ともに忠誠心溢れるメイド。小悪魔は意外だろうが内気で、それでいてしっかりとした司書だった。
(どうしてこうなった!?)
美鈴もユリドリミドリを読んで愛読者となったが二人のような変化はなく、あったと言えば百合を育て始めたぐらい。
もちろん花の。
(そりゃ、咲夜ちゃんは私に害は無いし、今の小悪魔と話していると楽しいけど)
フランと刃が二人のようになると思うと。
(やっぱり駄目。二人が二人のようになるなんて……)
しかし、二人が妖精メイドたちと仲良くなる上でユリドリミドリが良い話題になるのも事実。
(どうしよう)
せめて美鈴を説得しているのが咲夜と小悪魔でなく、レミリアとパチュリーなら頷けたかもしれない。
「…………」
美鈴は無言で頭を抱えた。
(ぐひひひっ。良いですよ、咲夜ちゃん)
美鈴が悩む姿を見て最も変わってしまった一人、小悪魔は内心笑みを浮かべる。
(いやはや、咲夜ちゃんが援護してくれるとは予想外でしたが、これで後ひと押しすれば美鈴は落ちますね)
そして小悪魔は最後のひと押しに掛かる。
「ねぇ、美鈴。貴方はユリドリミドリが好きですよね?」
「え、そりゃあ、好きだけど、それがどうかした?」
質問の意図が分からず、聞き返して来る美鈴を無視して小悪魔は咲夜のほうを向く。
「咲夜ちゃんもユリドリミドリが好きですよね?」
「ええそうね。純粋に面白いし、あれを読んだおかげで私は一歩進んだ気がするわ」
(出来ればゴールまで進んで欲しかったですね。まあ、すぐに終わってしまうのもつまらないので今のままでも良いんですが)
感謝するように言う咲夜に小悪魔は内心そう呟きつつ、話を進める。
「そうでしょう、そうでしょう。私も大好きです。何せあれのおかげで私は変わることが出来ました。そしてお嬢様にご主人様、妖精メイドたちもそれは同じでしょう」
「一体何が言いたいの?」
再度問いかける美鈴に小悪魔は笑顔から実に残念そうな表情に変える。
「私たちだけユリドリミドリを楽しんで、妹様と刃ちゃんだけ駄目と言うのはどうかと思うんですよ。だって、これでは仲間外れですからね」
「!」
小悪魔の言葉に美鈴は驚き、咲夜は目を細める。
「確かにユリドリミドリを見せるのは危険を伴います。実際私も今まで妹様には見て欲しいと思いつつ、その後がどうなるか分からなかったため見せようとはしませんでした。ですが今は刃ちゃんが居ます。私は今の妹様と刃ちゃんを信じています。美鈴はどうですか?」
「…………」
この小悪魔の言葉に美鈴が即答することはなかった。
しかし、少しの間を置いて。
「……私も、二人を信じるよ」
腹の奥底から絞り出すようにそう言った。
(いよっしゃあぁぁぁぁっ!)
美鈴の言葉に小悪魔は表情に出さずに内心で大喝采。
(ぐふふふっ。これで二人の仲は加速します!)
小悪魔がフランと刃にユリドリミドリを見せようとした理由。それは二人の関係を大きく発展させることによって発生する、恋愛劇を見ることだった。
エロが大好きと思われている小悪魔だが、実は違う。エロはあくまで結果であり、到達点なだけで、どちらかと言うとそれを含めた恋愛劇が好きなのだ。
ただ、せっかちなところがあるため、ついつい到達点であるエロを追求してしまうので、そこまで間違ってもいなかったりする。
そしてこのために小悪魔の情報収集能力は、一人だけの諜報機関を名乗れるほどに高い。
具体的に言えば、パチュリーも咲夜も小悪魔の監視網には気付かず、レミリアの能力ですら何かをしていると分かる程度。
だから当然、刃の秘密も知っていた。
(刃ちゃん、私は貴方が元男だと知っていますが、誰かに言うつもりはないから安心してください)
幸いなことに小悪魔はプライバシーを侵してまで手に入れた情報を他者に、それが例えパチュリーであろうと教えることは、余程危険が迫っていない限り絶対ない。
これら情報の使い道は小悪魔が楽しむ、漫画のネタにする、の二つだけ。
(元男、しかも自分の意思によらない女体化、いえ、新しい体ですから性別交換ですか。そして妹様はそんな刃ちゃんを受け入れた。吸血鬼の少女と付喪神の少女、破壊の少女と堅牢の少女、約五百年引き篭っていた少女と千年以上ただの刀だった少女。ふふっ、こんな組み合わせ、そうそうありません。絶対潰してなるものですか)
これからのことを考えながら小悪魔は口を開く。
「それじゃあ、妹様と刃ちゃんにユリドリミドリを見せる。二人ともこれでいいですか」
「…………」
美鈴はまだ悩んでいるのか無言だったが、それでも首を縦に振った。
「私も良いけど、でも、パチュリー様と、特にお嬢様が許可を出すかどうかは別よ」
咲夜は遠回しに大丈夫なの? と聞き。
「そっ、そうだよ。やっぱり……」
そこに救いを見出したのか、美鈴が無理と言おうとしたが。
「ご主人様からは賛成の意を貰っています。二人が了承してくれればお嬢様を説得して下さるとも」
小悪魔の言葉に轟沈。
しかし、パチュリーが賛成したのなら大丈夫と思ったのか、先程より表情は明るくなっていた。
「根回しが良いわね。まあいいわ。私もこれを機に妹様とはもっと話をしたいと思っていたから、ユリドリミドリを見せることに関しては協力するわ」
咲夜も大きくため息をついてそう言う。
「ありがとうございます」
小悪魔はお礼を言うが、咲夜は目を鋭くした。
「でも、もしも貴方が何かをして妹様と刃の仲が破局するようなことがあったら、許さないから覚えておきなさい」
それは警告だった。が。
「分かっています。そんなことになったら私自身が自分を許せません」
小悪魔も同じ思いだったので特に問題なかった。
「だったらいいわ、こんなこと言っといてあれだけど、信じているんだからね。こあ姉」
それは今ではめっきり言わなくなった、咲夜がまだ小さかった時に使っていた小悪魔の愛称だった。
「…………」
「こあ姉?」
いきなり無言になった小悪魔に咲夜は首を傾げる。
「咲夜ちゃんがデレたあぁぁぁぁっ!」
だが、小悪魔の喝采にすぐに顔を赤くする。
「なぁ、ちょ。そんなに喜ぶこと!?」
「ああ、小悪魔だけずるい! 咲夜ちゃん。私も、私も」
さらにさっきまでの苦悩は何処の空、美鈴までも騒ぎ出した。
「なっ、めいり……、ああもう、めい姉も、こあ姉も落ち着いて!」
こうして静かに始まった三人だけの打ち上げは、怪しい空気に包まれるも、最後はどんちゃん騒ぎになり、楽しく幕を閉じた。
そしてフランと刃のユリドリミドリの閲覧許可は、パチュリーを筆頭に小悪魔、咲夜、美鈴の説得と、レミリアも妹との話題に飢えていたことやその他の事情もあって、渋々認められるのだった。
まず一言。小悪魔どうしてこうなった!?
最初の予定ではただのエロ好きお姉さんだったのに、いつの間にか紅魔館である意味一番厄介な存在に。
ユリドリミドリも最初はただの百合本設定のつもりが、見たらSAN値が削れる魔道書のような存在になったけど、こっちのほうが作者的に予想外でした。
はたしてこの設定を生かせるかどうか……。
次回は主人公こと刃の話になる予定。