そしてこっちの量は過去最多です。
後、今回少しグロいです。
約二ヶ月前。
最初の研修は咲夜が担当する礼儀作法と家事、簡単に言えばメイドとしての仕事を覚える期間。
これが終わりを告げ、美鈴が担当する土木建築と戦闘の研修へと移行する前日に事件は起こった。
その時刃は他の妖精メイドと一緒に館の通路の掃除をしていた。
この頃の刃と妖精メイドの関係は仲の良い先輩と後輩。
もちろん初めて刃が妖精メイドたちに紹介された時は、全員大なり小なり警戒していた。
妖精は総じて力が弱く、他の種族は彼女たちを見下す傾向にある。
おまけに百合異変が起こった頃は少女の中でも身長が低く、幼い容姿を持つ者、通称幼女を狙う者たち(全員元男を含めて女)が現れた。
さらに彼女たちが結託して妖精を初めとした、力の弱い幼女を捕獲すると言う事件が発生。
幸い妖精メイドは紅魔館と言う勢力下にあり、館の影響で幼女と言えないほどに身長を伸ばしていたので狙われなかったが、恐怖の対象に変わりなかった。
そんな多くの幼女を毒牙に掛けた者たちはさらに動きやすくなるために、その頃大きな勢力となっていた巨乳党と貧乳党を衝突させ、これをきっかけに幻想郷大戦を起こすことを計画。
だが、これを察知した妖怪の賢者が。
「最高にハイってやつだな。ウィイィィィィリィィィィィ!」
と言ったかどうかは分からないが、口調がおかしくなる程ブチ切れ。
一向に見つからないユリドリミドリの作者、解決しない異変、次から次へと上がってくる問題で、溜まりに溜まったストレスは恐らく彼女の中で過去最高だろう。
その力を十全どころか限界突破で発揮し、単独で一大勢力となっていた犯罪組織を一人残さず殲滅。捕まっていた幼女たちは必要な者は治療を受けて全員解放。
また、この戦果と格段に増した力が、ユリドリミドリの生産と流通停止に大きく貢献するのだった。
で、こう言う事件があったこともあり、妖精メイドは刃を警戒していたが、自分たちよりも小さい身長で可愛く、真面目な性格でちゃんと後輩として接してきたので、仲良くなるのにそれほど時間は掛からなかった。
むしろこれを機に異種族間恋愛を狙う者も出ていた。
同時にこれを面白く思わない者が現れる。
(何よ。私以外と楽しそうにしちゃって)
曲がり角に隠れて、楽しそうに妖精メイドたちと一緒に通路の掃除をしている刃を、忌々しそうに見ているのは、何を隠そうフランドール・スカーレット。
刃が新人研修に入ってからフランは一日の殆どが暇だった。
元々毎日が暇だったのであまり変わりないと言えばそうだが、フランとしては刃と一緒に遊ぶことも含めて色々したいと思っていた。
しかし、刃はフランの専属メイドとなるための研修を受けている最中なので、そんなことをしている暇はない。
それはフランも理解しているが、だからと言って納得出来るほど大人でもない。
だから悶々としたものがフランの中に溜まっていた。
もちろん刃はフランのことを蔑ろになどしていない。研修は一日中と言うわけではないので終われば会いに来たし、暇を見つけたり、挨拶をするときを利用して話をしたりと、何とか二人の時間を作ろうと努力していた。
この影響で自主鍛錬の時間を取るため睡眠時間を削っていたが、教えなかったこともありフランは知らない。
そして話すことと言えば研修のことや知り合った者たちのこと。
対してフランが出来る話と言えば図書館で見た本のことぐらい。
大体刃が話し手となり、フランが聞き手となる状況。
いつしか色んなことを知り、色んなことが出来るようになり、色んな人と知り合う刃が遠い存在になるような感覚にフランは囚われた。
相談しようとも思ったが、研修の邪魔になってはと思い出来なかった。
だから不安でしょうがなく、こうして陰ながら研修中の刃を見に来るようなった。
これに妖精メイドたちは気付かないが、刃は気付いていた。が、それで声を掛けたりすれば、フランに気付いた妖精メイドたちが怖がるのを知っていたので、心苦しいが後で声をかけることにして、その場はなるべく気に掛けつつ無視するようにしていた。
そんなことが続き、不安はしだいに怒りへと変わっていた。
(貴方には私が居るじゃない。それとも私だけじゃ不満なの?)
刃が聞けばそうじゃないと言うだろうが、残念ながら使い手が持っていない状態、遠距離で気持ちを感じる機能は付いていない。
もっとも使い手として機能に認識されていないフランが、刀状態の刃を持っていたとしても気持ちを感じてもらうことは出来ないだろうが。
(私が死ぬか結婚するまで一緒に居るんじゃなかったの? それとも私はもう貴方にとって仲の良い人の一人なの?)
フランにとって刃は特別な存在であり、刃にとってもフランは特別な存在。
言われたことはないし、言ったこともないが、フランにとってそれは言うまでもないことだと思っていた。
その自信が揺れている。
知らず知らずの内に視線は鋭くなり、目からは光が消えていた。
思考が黒い感情に支配され、刃の方へ開いた右手を向ける。
(ねぇ、刃。答えてよ)
静かな、それでいて底冷えする心の声と共にフランは右手を握り締めた。
(キュッとしてドカーン)
刃の頭部が爆音と共に破裂。
辺りに飛び散る血、倒れる頭部を失った刃の体。
幸いかどうかは分からないが、刃の体は破壊されるなどをして本体か遮断されると、肉、骨、内蔵などはすぐに血となる。これは刃の体が構成される際、霊力から血、それから肉体へと変じるためだ。このため血は刃の体の中で最も本物に近く、霊力に戻って消えるのにも数時間掛かる。
御陰で近くにいた妖精メイドは血が掛かる以上の被害と言えば、それによる目潰しと爆音による一時的な難聴ぐらいだった。
その様子を見て、フランは暗い笑みを浮かべるが。
「はっ!?」
ここでフランの思考は黒い感情から解放され、状況を再確認。
「あっ。あぁぁぁぁぁっ!」
しっかりと握り締められている右手。破壊の能力を発動した余韻。
今さっき自分のしてしまったことを思い出し、フランは悲鳴をあげた。
そして目潰しと難聴から回復した妖精メイドたちが状況を確認する。
力なく倒れた首を失った後輩である刃の体。声のする方を見れば右手を握り締めた主の妹にして、恐怖の代名詞たるフラン。
妖精メイドたちは理解する。フランが刃の頭を破壊したのだと。
その恐怖に表情は青ざめ、体は震えだしていた。
「いっ、妹様。どう……して刃……ちゃんを?」
妖精メイドたちの一人が恐る恐る聞いてきた。
どうして刃を殺したのか? と。
「! 違うの。私はそんな……」
質問の意味を理解し、慌てて弁明しようとするが、その言葉は続かなかった。
頭のない刃の体が立ち上がったことによって。
「「「きゃあぁぁぁぁっ!」」」
頭の無い刃が立ち上がったことによって、妖精メイドの何人かが悲鳴を上げ。
「「「ぶくぶく……」」」
何人かが泡を吹いて倒れた。
頭のない体、しかもお化け屋敷にあるような作り物と違って、首の断面図から見える骨を初めとした内部の生々しい光景と、心臓が動いていることが分かる、千切れた血管から断続的に噴き出る血、普通ならモザイクが掛かりそうなスプラッタホラーを見せられれば、こうなるのはしょうがないと言えよう。
「やっ、刃。大丈夫?」
内心無事だった刃に安堵するフランだが、その顔は引きつり、大量に冷や汗を流していた。
「ひゅぅ、ひゅぅ(フラン、お前かぁ)」
頭の無いまま刃はフランの方を向き喋ろうとするが、肝心の口が無いためただの風切り音となる。
だが、残念なことに湧き上がる怒りによって刃はそのことに気付いていない。
頭が破壊されたこともそうだが、それにより発生した二次被害が憤怒の原因だった。
掃除をしていた通路など様々なところが血で汚れ、仲良くなった妖精メイドたちが色々な恐怖にさらされる。いくら大事な相棒兼主人がやったこととは言え、これは怒らずにはいられない。
おまけに頭を破壊されたことによって、感覚情報が滅茶苦茶になって本体である刀に伝達、怒りを増幅させると言う結果を生み出していた。
「ひゅぅ、ひゅぅ(どうしてこんなことをしたぁ)?」
ゆっくりと、それでいて力強く刃はフランに近づく。
「やっ、刃が悪いんだよ。私以外とあんなに楽しそうにしているから」
そう言いながらフランは後ろに下がる。
刃の怒りにフランが罪悪感もあって気圧されたためだ。
会話が噛み合ったのは何となく刃が何を言いたいのかフランが分かったから。
「何よ。いつも、いつも他の娘の話ばかりして、私、ずっと寂しかったんだからね!」
焦りながらではあるが、フランは言いたいことを言う。
ここでフランの背中に壁が当たり後退できなくなる。
「!?」
それに驚き、後ろを確認して再び刃を見ると、頭のない首が目の前に着ていた。
「ひゅぅ、ひゅぅ(言いたいことはそれだけか)?」
「……頭を壊して、その……色々と……ごめんなさい」
無言ではないが、それに近いようなそうでないような圧力に屈し、震えながらフランは謝罪した。
これに少し溜飲が下がったのか、刃の怒気は小さくなる。が。
「ひゅぅ、ひゅぅ、ひゅぅ(よく言えました。でも、お仕置きだ)」
刃の両手がフランへと伸びる。
「刃、何するの? やっ、やめっ。あがあぁぁぁぁぁっ!」
それからしばらくして爆音と悲鳴を聞きつけた他の妖精メイドに、レミリアを初めとした主要メンバーが現場に到着すると。
「やだ、何これ?」
レミリアがそう言うのも無理なかった。
現場の至るところに血が飛び散り、泡を吹いて倒れている者、震えている者、唖然としている者が居る。これだけなら何かの事件があったと思うだろう。
「いだい、いだい、ぐるじいぃ。もうやめでえぇぇぇぇっ!」
「ひゅぅ、ひゅぅ(まだだめだ)」
しかし、頭の無い首から血を吹き出すメイドが、妹の左右の側頭部、そのこめかみを左右から拳で抑え込み、『クレヨンしんちゃん』の野原みさえのお仕置きで有名な、グリグリ攻撃を仕掛ける光景はホラーを通り越してシュール。
訳が分からずグリグリ攻撃をされて泣き叫ぶフランを、混乱したレミリアたちはしばらくの間見守ることしか出来なかった。
これが二ヶ月前に起きた、妖精メイドの間でデュラハン事件と呼ばれる事件の内容だった。
デュラハンとはアイルランドに伝わる首のない男の姿をした妖精で、死を予言する存在として有名だ。
また、この妖精は女の姿をしていると言う説もある。
生憎紅魔館にデュラハンは居ないので真偽は分からないが、それでも同じく首のない状態で動き、恐怖の代名詞であるフランを泣かせ、さらに謝罪までさせる刃に、妖精メイドがそれを見たとしてもおかしくなかった。
そして極めつけはその後に行われた戦闘の研修によって、妖精メイドはすっかり刃を畏怖するようになり、同時にフランが現れても彼女が居れば大丈夫と思うようにもなったのだ。
結果、刃は既に紅魔館主要メンバーと同じように妖精メイドたちから認識されている。
(いくら何でも早すぎるだろ)
刃としてはいずれ他の主要メンバーと同じように、フランの専属メイドとしてそうなりたいと思っていたが、少なくとも今はまだ新人として扱って欲しかった。
「確かに私はフラン様の専属メイドに就任しましたが、まだ研修が終わったばかりの新人ですよ。基本は覚えたつもりですが、まだここのことを全部理解しているわけじゃあ……」
「なぁに、その時は私たちが全力でサポートしますよ!」
「そうそう、だから安心して下さい」
「ですから妹様のこと、よろしく頼みます」
何とか説得を試みようとするも失敗。
結局刃は時間が押していることもあり、一言言ってその場を後にする。
そしてやって来たのは紅魔館の厨房。歴史ドラマやファンタジーアニメでしか見られないような調理器具のあるここには、他の妖精メイドとメイド長である十六夜・咲夜が居た。
「皆さん。おはようございます!」
刃は彼女たちが驚かない程度に大きな声で挨拶。
「おはよう、刃。時間ギリギリね」
妖精メイドが挨拶をして仕事に戻る中、咲夜は刃の前に来て、鋭い視線と懐中時計を向けてそう言う。
時間は咲夜の言うように仕事開始一、二分前だった。
「すみません」
刃は頭を下げて謝る。
「研修中も言ったわよね。何が起こるか分からないから十分前行動を心がけなさいって。そんなに鍛錬のほうが大事?」
「そっ、それは」
厳しい表情で聞いてくる咲夜に刃は言いよどむ。
メイドである以上、刃に求められる仕事は戦闘ではなく家事。
しかし、研修に戦闘があったことから分かる通り、これも必要な仕事だ。
また、刃は昔の使い手たちに早く近づきたいと言う思いもあった。
だが、だからと言って家事の仕事を蔑ろにして言いわけではない。
もちろん家事の方が大事です。と、刃が言う前に咲夜の手が頭に乗せられた。
「?」
「冗談よ。貴方が強くなることは紅魔館にとっても有益だから問題ないわ。それに今日は研修明けの初日で、遅刻したわけでもないから大目に見てあげる」
咲夜の顔はさっきとは変わって柔らかくなっていた。
「ありがとうございます」
「でも、あんまりこんなことが続くようだったら朝の鍛錬は止めてもらうから、次からは十分前に来られるよう努力しなさい」
「はい」
「じゃあ、さっそく仕事……と言いたいけど」
咲夜は刃の後ろに回り込んだ。
「咲夜さん?」
「髪がちょっとおかしいわよ。直してあげるからじっとしてなさい」
「あっ、はい」
刃は言われた通りにし、その間に咲夜は髪を解く。
「ちゃんと石鹸で洗ったようだけど、急いで括ったのね」
咲夜との距離は彼女の息が掛かるほど近い。
「すみません。お手数お掛けして」
謝りつつ、咲夜の息が少々荒いような気がしたが、刃は気のせいだと思った。
「気にしなくていいわ。……よし、これで大丈夫」
あっと言う間に咲夜は刃の髪を括り直し、どこか満足そうにそう言い。
「それじゃあ夕食の準備を始めるわよ」
「はい」
咲夜の声に頷き、刃は自分の持ち場へ意気揚々と向かう。
実は戦闘と同じように家事にも目標があり、その内の一つは一人でフランに色んな料理を出せられるようになることだった。
このため料理の勉強にもなる食事の準備には遅れたくなかったのだ。
そして吸血鬼に出す料理なので当然人間が使われることもあるが、打刀時代に多くのものを斬り、様々な使い手により様々なことを理解している刃は特に罪悪を感じない。
斬って罪悪を感じることがあるとすれば、それは親しい者や無益な場合だろう。
刃が咲夜や妖精メイドたちと共に夕食の準備をしている頃、フランはまだベッドの中で夢を見ていた。
その内容は奇しくも刃が妖精メイドと話して思い出したデュラハン事件、その後のことだった。
場所はフランが刃の頭を破壊した通路。居るのはフランと頭を再製した刃の二人で、どちらもその手に掃除用具を持って、通路の掃除をしていた。
これは二人に対するレミリアからの罰で、フランは騒動を起こした張本人、刃は被害者とは言え、報告も相談も無しに独断で雇い主の妹に罰を与えたためだ。
なお、特殊な体とは言え、刃の頭を破壊したフランの罰が比較的軽いのは、本人が既に罰を与えたためで、これがなかったから彼女の罰はかなり重いものになっていただろう。
そんな二人がやっている掃除は通路に飛び散った血の拭き掃除。
洗浄液を使い、手にはゴム手袋をはめ、雑巾などを使って拭き取っていた。
「「…………」」
掃除が始まってから必要なこと以外二人は終始無言で、話すことはフランが掃除の仕方ややる所を聞き、それを刃が教えることぐらい。
しかも刃は口では何も言わないが表情は険しく、フランは戦々恐々で作業をこなしていた。
こんな状態が三十分ほど続いたとき。
「ねぇ、刃」
ついにフランが耐え切れずに刃のほうを振り向き、声を掛ける。
「何ですかフラン様? そこが終わったんでしたら……」
次の場所を指示しようとして刃は口が止まる。
目から涙を流すフランを見たために。
「私のこと、嫌いになっちゃった?」
フランは聞く、自分が刃にとってどんな存在なのかを。
(きっと嫌いになっちゃったよね。だってあんなことをしちゃったんだもん)
思い出すのは先程してしまった頭部破壊。
そんなことをされればどんなに親しかったとしても嫌われる。と言うか相手は死ぬからそれ以前の問題だが、少なくともフランはそう思っていた。
「…………はぁ」
これに答えるように刃はしばし考えた後、何処か諦めたようにため息をついた。
それがフランには肯定のように見えた。
(刃に嫌われた? ははっ、私、本当に救いようがないよ。あはっ、あはは……)
うつむき、再び思考が黒い感情で埋め尽くされそうなるが、突然抱きしめられたことにより中断される。
「えっ?」
「一応言っておくが、両手はさっき作り直したから綺麗だからな。で」
驚きの声を上げるフランに、刃は恥ずかしあそうに語りかける。
「嫌いになるわけないだろ、馬鹿。お前と一緒に居ると決めた以上、覚悟はしていたわ」
この言葉にフランの中にあった黒い感情が霧散した。
しかし、まだ不安は残っている。
「本当? 本当に嫌いになっていない。だって私、あんなことしちゃったんだよ」
刃の頭部を破壊、通路は血で汚れ、妖精メイドたちにはトラウマ。
普通なら絶交どころか永遠の別れになっていた。
「だから罰を与えたんだし、お嬢様から罰を貰ったんだろ。それに後悔しているのは良く分かった。だったら後は先輩たちに謝っておしまいだ」
それを刃は問題無いと言う。
「許して……くれるの?」
フランは恐る恐る聞き直す。
「許す。それに今回の件は俺にも責任がある、だからそんなに自分を責めるな」
肯定と答えた刃は、そのまま苦虫を噛み潰したようになった。
「責任?」
「そうだ。フランがあんなことをしたのは俺が先輩たちと仲良くして、その話をしたからだろう?」
確かにそれはフランの暴走の原因の一つだ。
しかし、刃は悪意があって話したわけではない。
「……うん。でも、刃は気にする必要はないよ。だって私が勝手におかしくなったんだもん」
だからフランは刃に責任はないと言うが。
「いや、俺はフランの相棒で、研修が終われば専属メイドだ。だったらこんなことになる前に気付くべきだったんだ。本当にすまない」
刃はなおも自分の責任だと言って謝ってきた。
「刃」
これにどう答えていいのか分からずフランは困惑するが、刃は構わず話を続ける。
「俺がフランに先輩たちの話をしたのは、少しでも相手のことを知っていれば早く仲良くなれると思ったからなんだ。だから先輩たちのことは嫌いにならないでくれ。まだ短い付き合いでしかないが良い人たちだったよ」
(そうだったんだ。でも)
刃の行動の意味を知り、改めて自分がしでかしたことを思い出す。
「でも、私、あんなことしちゃったし、それに今までだって……」
さらに思い出すのは今まで起こしてきた妖精メイドとのトラブル。この中には先代専属メイドも入っている。
「俺も一緒に謝る。もちろん、それで許してもらえるかは分からないし、関係改善にどれくらい掛かるかも分からない。だが、少なくともフランが変わろうとしていることは分かるはずだ。そこから時間は掛かるだろうけど、一緒に信用を積み重ねていこう」
「…………」
フランは無言で刃の背中に手を回す。
(私って、ホント、馬鹿)
刃はこれほど自分のことを考え、体を破壊されても一緒に行動しようとしている。
そんな刃を疑った自分が恥ずかしい。
「フラン?」
「うん。私、頑張ってみる」
不安そうに自分を呼ぶ刃にフランは一言そう呟き、彼女が苦しくないように抱きしめた。
(柔らかくて、あったかぁい)
同時にフランは自分の心に温かいものが満ちていくのが分かる。
「刃と一緒ならどんなことでも出来る。そんな気がする」
それが活力となり、フランは自然と笑みを浮かべた。
「ははっ、ちょっと言い過ぎな気もするが、元気になったのなら何よりだよ」
こうして二人は仲直りに成功。この後、通路の掃除を終えた二人はレミリアたちに報告した後、被害にあった妖精メイドたちの所へ訪問。
……となるのだが、まだここでの出来事は終わらない。
刃は掃除を再開するためにフランから離れようとするが。
「フラン。自分から抱きしめといてなんだが、放してくれないか」
フランは刃を放そうとしなかった。
「ねぇ、刃。ちょっとお願いがあるんだけど良い?」
「お願い? それはこの状態じゃないと出来ないことか」
「私、喉が渇いたの。だから……」
フランはゆっくりと、それでいて妖艶にお願いする。
「血をちょうだい」
「!?」
その言葉に刃は硬直、冷や汗がにじみ出る。
「ふっ、フラン。ここは通路で、俺たちは掃除の途中だ。それに……ひゃい!」
慌てて待つように言う刃を無視し、フランは彼女の首筋を舐めた。
「もう、我慢できない」
通路には刃の血が飛び散っており、刃の服にも血が付いたまま、何より本人が近くに居る。
そんな場所に吸血鬼のフランが長く居ればどうなるだろう?
答えは簡単、食欲を刺激され、極上の肉を目の前にした肉食獣のごとく。
「いただきまぁす」
吸血する。
「まっ、あっ、うぅぅぅぅっ」
フランの牙が刃の首筋に突き刺さり、そこから血を吸い出す。
その際に発生する快楽に刃は制止を止め、ただ必死に大声を出すまいと耐える。
(ああ、やっぱり刃の血は美味しい)
吸血鬼の好む血は大体にして人間、そして刃は付喪神ではあるが、その魂は人間だったもので、肉体を作り出している霊力も人間だった頃とあまり変わらず、さらに高水準の妖力と魔力、極めつけは神力も混ざり込んでいる。
つまり何が言いたいのかと言うと、刃は妖怪にとって仙人と同じく極上の食べ物なのだ。
(ふふっ、絶対貴方のこと大事にするからね)
改めてそう思い、しばらくの間フランは刃の血を吸い続けるのだが、ここで夢は終わりを告げる。
「ふにゃ?」
しかし不思議なことに口の中には刃の血と皮膚の感触がある。
(あれ、夢のはずなのにどうして?)
感触が残っているならともかく、今もあるのはおかしい。が、その理由はすぐに分かる。
「ふぅらぁんん」
怒りの籠った刃の声で。
どうして刃が寝ているはずのフランに血を吸われていたのか?
順に説明すると、夕食の準備を終えた刃はフランを起こしに部屋の前に来るが、返事がないので渡されている合鍵を使い入室、寝ている彼女に改めて声を掛けるが起きない、揺すって起こそうとするがいきなり体を抱きしめられ、そのまま吸血される、以上だ。
そして現在、仁王立ちする刃(首筋の傷は修復済み)は床に正座させたフランに尋問を行なっていた。
「つまり、寝ぼけて血を吸ったと?」
「はい、その通りです。ごめんなさい」
怒気を放つ刃にフランは冷や汗を流しながら敬語で答え、謝る。
「狙ってやったわけじゃないんだな?」
対し刃は確認するように再度問う。
「もちろんだよ!」
「……なら良いよ」
刃はため息をついて怒気を放つのを止め、代わりに疲れたように肩を堕とした。いや、実際吸血されたことにより軽い疲労を感じていた。
「えっ、良いの?」
意外だったのかフランは不思議そうに聞き返す。
「そりゃ、故意にやったのならともかく、寝ぼけてやったことを責めるわけにはいかないだろう。それともお仕置きでもされたかったか?」
冗談交じりの刃の質問にフランは首を思いっきり横に振る。
「いや、グリグリ攻撃はもう勘弁して」
過去を思い出して涙目になりながらフランはそう答える。
思い出したのは当然、夢に見ていたデュラハン事件。
「もしかして夢で見ていたのはフランが俺の頭を破壊したあの事件か?」
同じく妖精メイドとの会話で思い出していた刃も改めて思い出す。
「うん。二人で通路の掃除をしていたときのこと」
「ああ、あのときか」
フランの答えに刃は納得がいき、またしてもため息を付く。
「ごめんなさい。あのときは何か安心したら急に喉が渇いちゃって」
ここでフランの言う渇きとは、吸血鬼としての血を求める本能のことだ。
「もういいよ。終わったことだから」
刃は首を振る。
(でもフラン。話してないけど、あのときはまずかったんだぞ)
フランは精神的にそれどころではなかったため気付いていなかったが、実は二人が掃除をしているとき、かなりの数の妖精メイドが隠れて覗いていたのだ。
覗きの理由はもちろん可愛い後輩である刃が心配になったため。
これに気付いていた刃はなるべく事を起こさないよう気をつけ、掃除の後、どうフランと話し合うか考えていた。が、当の本人が耐え切れずに話しかけてきた。
出来れば掃除の後にしたかったが、フランは既に限界寸前。
刃もすぐに話したかったこともあり諦める。
そして言葉だけでは駄目だと思って、見られること覚悟でフランを抱きしめ、仲直り出来たと思ったら吸血。
抱き合うところを見られるのも相当恥ずかしいのに、さらに痴態まで見られたことに刃は激昂。その日二度目のグリグリ攻撃をフランに仕掛け、弱った彼女に敬語で活を入れながら何とか掃除を終わらせたのだ。
(お嬢様に報告した後も面倒だったなぁ)
フランは二度目のグリグリ攻撃を受けていたが、流石は吸血鬼だけあって回復しており、刃と仲直り出来たことと彼女の血を吸ったことでむしろ元気だった。
だから二人は予定通り、被害にあった妖精メイドのところに謝罪しに行く。
尋ねられた妖精メイドたちは最初驚いていたが、特に何か言う事もなく許してくれた。
むしろ後半は何か良いものを見ているかのようにニヤニヤしていることを、刃は見逃さなかった。
その何かはフランと刃の関係。
あの掃除での出来事を見れば、大抵の者はフランと刃が恋愛関係だと思うだろう。
(女の子が恋愛に興味津々なのは何処も一緒なんだな)
次の日には妖精メイドたちから嵐のような質問攻めを受け、あくまで相棒兼主従関係と主張するが、顔を真っ赤にしていては説得力がなく、現在でも妖精メイドたちから刃はフランの恋人と思われている。
おまけにフランの能力で死ぬことがなく、しっかりと仕付けているように見えた事から結婚は間違いないとまで思われていた。
(俺だって体が男のままだったら告白していたよ)
この世界の幻想郷がユリドリミドリによって、女性同士の結婚が割と普通だと知っても刃は今の関係を変えようとは思えなかった。
ユリドリミドリを読んだときは揺らぎこそしたが、やはり刃の男に戻りたいという気持ちは強い。
今のところその方法は見つかっていないが必ず見つけるつもりだ。
(でも、今は)
回想を止めて思考を切り替える。
「どうしたの? 急に黙っちゃって」
少々没頭しすぎたようだ。
「いや、何でもないよ」
心配するフランに刃はもう一度首振って答える。
そして仕事口調で告げる。
「それじゃあ、少々時間を取りましたし、早く支度をして夕食に参りましょう!」
はい、これにて今日の更新は終わりです。
何でこんなに早く更新できたかと言うと、これも予定では第十一話だったからです。
そして量が多くなって分割。少ないほうが第十一話、多いほうが第十二話になりました。
さて、次回はついに幻想郷独特の決闘方法が出てきます。果たして原作と同じなのか否か?
また気長に待ってもらえると幸いです。