まだ続ける気はありますのでご安心下さい。では、十三話どうぞ。
場所は紅魔館の広間、居るのは刃、フラン、レミリア、咲夜、パチュリー、小悪魔の六人。時は朝食に当たる夕食を終えて後片付けが終わった頃。
刃は咲夜から、フランはレミリアからある物を渡されていた。
それは角が丸く切られ、大きさが縦十四センチ、横七センチくらいの、少し厚みのある金属製カード。
裏面は黄土色の下地に金色で縁(ふち)が塗られ、同じ色で中心に丸で囲まれた六芒星が描かれている。
表面は卵色の下地に縁が白で塗られていた。
幻想郷でカード。
(これってもしかして……)
原作知識を持つ刃はすぐにこれが何なのかを思い浮かべ。
「二人とも。それはスペルカードと言うのよ」
それが正解であると告げるようにレミリアがカードの名前を言った。
スペルカード。簡単に言うと、原作において幻想郷特有の決闘方法であるスペルカードルール、通称弾幕ごっこに使われる、自分の技を書き記したカード。これを決闘前に何枚使うか決め、カード(技)が全て破られると負けを認めなくてはならない、と言うのが大まかなルールだ。
しかし、渡されたスペルカードは一枚。
原作ではスペルカード自体は特殊な道具と言うわけでなく、あくまで自分の技を書き記した物であるため、複数のカードが必要だった。
つまり、このスペルカードは原作とは違った物であり、そうなるとルールも違う可能性がある。
(まあ、今更だけど)
既にこの世界が原作とは違う歴史を築いていることは嫌と言うほど知っているので、刃が驚くことはなく、むしろ内心ため息を付いていた。
そんな刃をよそにフランが不思議そうにカードを見ながらレミリアに質問する。
「スペルカード? 一体何に使う物なの?」
「主に遊びや揉め事解決ね。それを含めて開発に携わったパチュリーが説明してくれるわ」
「「えっ」」
レミリアの言ったことに刃とフランの声が重なり。
「これ、パチュリーが作ったの?」
フランが刃も聞きたいことを聞き、パチュリーは複雑な表情で答える。
「そうとも言えるけど、あくまで私は手伝っただけよ。作ったのは妖怪の賢者、八雲・紫(やくも・ゆかり)とその配下、元となるアイディアを出したのは博麗の巫女。私がやったのは製作に必要な材料の選定と少々のアドバイスだけよ」
(あれ、でもそれだとおかしくないか?)
この説明に刃は疑問を抱いた。
「何か聞きたそうね」
そしてその疑問は特に隠してもいなかったのでパチュリー本人に見抜かれる。
「はい。パチュリー様は魔法使いですよね。と言うことはこのスペルカードは魔法で出来ていて、魔術対応なんですか?」
スペルカードの材料を選定したのが魔法使いのパチュリーだとすればそう言うことになる。
しかし、スペルカードを掲げて聞いた刃にパチュリーはそれを指して、予想を超える回答をしてきた。
「半分正解、半分不正解。確かにそれは魔法で出来ているけど、妖術と霊術、正確には魔力、妖力、霊力に完全対応、さらに限定的に気力、神力、能力にも対応しているわ」
「へっ?」
言われたことが一瞬分からず、刃は気の抜けた声を出してしまう。
「まあ、そうなるわよね。私も最初言われた時は可能とは思っても、実現できるとは思っていなかったもの」
「あっ、やっぱりハードルは高いんですね」
刃の言葉にパチュリーは頷く。
「ええ、そうよ。そもそも一つの物に魔力、妖力、霊力、神力、気力、能力を対応させる考え自体が奇想天外。話を聞かされた時は何を言っているのか理解できなかったわ。それでも研究する価値はあると思って行ってみたら術式(ソフト)はもう完成。私に求められたのは外の世界でも手に入れられる材料で、それを組み込める媒体(ハード)が出来るかどうか。必要とされたのは嬉しいけど、肩透かしをくらった気分よ」
(ああ、それで複雑な表情をしていたんだ)
パチュリーとしては一つの物に複数の力を対応させると言う、未知への挑戦がしたかった。が、残念なことにそれは既に完成しており、やらされたのは既存の物による新規への対応。例えるなら先進国の最先端技術を開発途上国の既存技術で再現出来るかどうか。
魔法を研究するパチュリーとしては期待外れもいいところだろう。
「まあ、見返りは貰ったし、媒体作成で新しい発見もあったからいいわ」
言ってパチュリーは一旦話を切り。
「取り敢えず開発理由からスペルカードの使い方を説明するから、他の質問は後ね」
パチュリーは説明を始めた。
そもそもの始まりは百合異変の後に起こった、幻想郷の人外と人間を合わせた人口激減にある。
幸い人間は持ち前の繁殖力でかつての数に戻ってきているが、人外は現在でも数が少なく、下手な減少は幻想郷の維持にも支障が出そうなほどだった。
結果、妖精を含めて人外同士の殺し合いが幻想郷では禁止されている。
だが、当然問題が出てくる。
存続のために神様が信仰を必要とするように、妖怪は恐怖(あるいは畏怖)を必要としている。
ではどうすれば恐怖を抱いてもらえるか?
答えは簡単。適当な者を殺せばいい。それも沢山。さらにその者が強者ならなお良い。
しかし、幻想郷では人間は自由に殺せないし、人外も全部駄目になってしまった。
こうなると相手を殺さないように痛めつけたり、脅かしたりするか、あるいは過去の経歴と実力で恐怖させるしかない。
前者は妖精を初めとした下級妖怪、後者は吸血鬼などの上級妖怪が行っていた。
だが、ここで困るのが中級妖怪。下手に力を出せば相手を殺してしまいかねず、かと言って過去の経歴や実力では今一つ。
もちろん必要とする恐怖は何も自身へと限らず、妖怪全体でも良いのだが、殺しを禁止したことにより、行動が沈静化してそれも薄れてきた。
さらに揉め事が起こった際、相手を殺してはいけないとなると、どうしても強者は弱者に手加減せねばならず、結果不完全燃焼になってしまう。
そして不満不平が溜まり、新たな幻想郷の危機となっている。
そこで博麗の巫女が新しい決闘方法の原案を考えだし、紫がその配下と共にそれを元に決闘御札、スペルカードを開発したのだ。
そのスペルカードの機能は次の通りである。
一、登録することにより持ち主の魔力、妖力、霊力のいずれかと融合する。また融合している力が切れた場合は自動で別の力に融合し、元の力が戻った場合は融合し直す。全て無くなった場合は融合が解除される。そして融合は解除を含めて設定が可能。
二、融合した力を用いて持ち主に非殺傷化の術とそれに必要な他の術を無意識に行使させ、一部の例外を除いて攻撃を非殺傷化させる。なお、決闘中は術が強制行使されるが、それ以外では設定可能。
三、二の様にスペルカードルール(決闘)に必用な術を持ち主に行使させる。
四、スペル(技)を百まで登録することが出来る。
五、決闘相手のスペルカードと交信し、共同で決闘結界を展開する。
以上がスペルカードの機能であり、これを聞いた刃とフランはかなり驚いた。
特に刃は原作知識がある分、それから外れるどころか明後日の方向に爆走し、色々と破格な機能を持ったスペルカードに付いてあれこれ聞きたかったが、とりあえず我慢してフランを落ち着かせながらパチュリーの話を聞く。
次の話はスペルカードを使った決闘方法、スペルカードルールのやり方について。
一、両者の間で使う同数のスペルの数(一から三)と決闘時間(十分から三十分)を決め、戦闘方式を陸戦と空戦のどちらかから選ぶ。この時どちらかの決めたスペルの数と決闘時間が少なく、空戦を選んでいた場合はそちらを優先する。これは次にする設定でも同じである。
二、スペルカードを起動し、両者のカードの交信に成功すると設定画面が投影され、使用するスペルとその数、決闘時間、戦闘方式の設定をした後、両者が開始を宣言すれば決闘結界が展開され、決闘が開始される。
三、決闘はライフポイント式であり、スペル一枚に付き百(最大三百)のライフが与えられる。このライフが先に零になった者、決闘終了時、あるいは両者のスペルが零になった時に少なかった者、戦闘不能(霊力などが切れるか気絶状態)になった者、ギブアップを宣言した者が敗者である。
四、決闘で相手にダメージを与えるのは非殺傷化された攻撃でなくてはならない。ダメージは通常攻撃が五から十、スペル攻撃が二十から百。防御に成功した場合ダメージは最低値となる。なお、非殺傷化されていなくても相手が対象ではない、あるいは精神と肉体を傷つけないものであれば使用は可能。
五、決闘はどちらかのライフが零になる、どちらかがギブアップする、どちらかが戦闘不能になる、両者のスペルが零になる、時間切れになることによって終了する。
以上がスペルカードルールで、これを聞いた刃は。
(黄昏フロ〇ティア!?)
色々と違うが前世の同人ゲームサークルを思い出していた。
「説明は以上だけど、質問はある?」
パチュリーは小悪魔の入れた紅茶を飲みながら刃とフランにそう言うと。
「はいはい! 先生、非殺傷化って具体的にどうなるんですか?」
フランが右手を上げて元気に質問した。
その姿はまるで新しいゲームに興味津々の子供のようだった。
(まあ、年齢を除けば見た目も中身も子供なんだけど)
と思いつつ、刃も自身の中にフランに負けないほどの驚きや興味があることを自覚し。
(人のことは言えないか)
と微笑みながら相棒兼主人を眺め、さらにそんな刃をレミリアは片眉を吊り上げながら、どこか面白くなそうに見ていた。
また、当然のことながら小悪魔はこの光景に気付いており、彼女の書く漫画のネタになったことは言うまでもなかった。
「そんなに大声で質問しなくても聞こえるわよ」
同じ空間で起きていることなど露知らず、パチュリーはフランに注意をしつつ、質問に答える。
具体的に言うと非殺傷化とは攻撃によって発生するものを、擬似的な苦痛と衝撃だけにすること。
これにより例えば刃物で切られたとしても皮膚や服が切られることがなく、痛みと感触だけが与えられる。
だから大技で吹き飛ばされたとしても体には傷一つ付かないし、炎で焼かれても熱と衝撃しか感じない。
さらに凄いのはスペルカードの説明二で記した通り、術を行使するのはカードではなく持ち主。このおかげで持ち主の力量によって攻撃の非殺傷化が出来ないと言うことはなく、それが高ければ高いほどカードの術は強化されるのだ。
そして持ち主が例え魔力、妖力、霊力の使い方を知らずともカードが術を行使させるので問題ない。
例えば持ち主に攻撃術や飛行術を使わせる、装備を含めた体を霊力などでコーティング、気力、神力、能力には影響を与えて非殺傷化させることも出来る。
だが、スペルカードも万能と言うわけではない。
吹き飛ばされた後の地面などへの激突による二次被害は、防護はされるが非殺傷化の範囲外であるし、能力による攻撃も風や炎と言ったものなら問題ないが、特殊なものは範囲外となる。
特にフランのありとあらゆるものを壊す程度の能力はその筆頭であるため、これを聞いた彼女は頭や翼を垂れ下げ、目に見えて落胆した。
「そっか、やっぱり無理なんだ」
どうやら非殺傷化のことを聞いたのも、自身の能力をどうにか出来ると思ってのことだったようだ。
このフランの落胆ぶりに場の空気が気まずくなるが、そこにレミリアが近づき、優しく語り掛ける。
「そう落胆しないの、フラン。スペルカードルールの説明でパチェが言っていたでしょう。非殺傷化されていなくても相手が対象ではない、あるいは精神と肉体を傷つけないものであれば使用可能だと。貴方の能力なら相手が放った遠距離攻撃を破壊したり出来るんじゃない?」
「そりゃ、やろうと思えば出来るだろうけど……」
フランが落胆しているのは能力が決闘に使えるかどうかではなく、それが非殺傷化出来るかどうかだ。
これでもしも非殺傷化が出来ていれば、フランの長年の悩みが殆ど解決しただろう。
故にこの落胆は大きい。
「しっかりしなさい。別にスペルカードで非殺傷化出来なくても、今の貴方には止めてくれる専属メイドが居るでしょう。それに最近は能力による問題を起こしてないじゃない」
レミリアの言う通り刃が来てからフランはデュラハン事件以降、能力による問題を起こしていない。
刃が来る前は何日かに一度は能力によって物を壊す、二次被害で妖精メイドを傷つけるなどの問題を起こしていた。
パチュリーの分析によると壊れない者が傍に現れたことにより、精神的緊張が解けたためらしい。
「お嬢様の言う通りです。もしもの時は私が体を張って止めます。だから今はこの新しい遊びであるスペルカードに付いて聞きましょう」
「……刃」
フランの肩に右手を乗せ、左手を自分の胸に当て、刃は任せろと言うように笑顔でそう言った。
するとフランも笑顔になり、次の質問を投げかけた。
「うん。そうだね! ねぇ、パチュリー。どうして決闘方法は空戦や、スペルの数と決闘時間の少ないほうが優先されるの?」
なお、この時レミリアの顔は引きつっていたが、フランは気付かず、刃は流石に気付いていたが、自分の相棒兼主人を元気づけるため、努めて気付かないふりをしていた。
パチュリーも同じく気付いていたが、内心ため息を付きつつ、刃と同じように無視してフランの質問に答える。
「それは弱者でも強者に勝ちやすくするためよ。これは博麗の巫女が考えた原案の理念でもあるわ。弱者でも空戦による遠距離の弾幕の撃ち合いで、尚且つ短期戦なら勝機がみえるでしょ。主に運的な意味で」
「なるほど」
パチュリーの説明にフランは納得する。が、刃が口を挟む。
「ちょっと良いですか?」
「良いわよ」
パチュリーの頷きに刃は質問する。
「それだと普段飛ばない者が殆どの人間は不利じゃないですか?」
この質問は別に刃が人間を不憫に思ったわけではなく、純粋に疑問として聞いただけだった。
「大丈夫。余程のもの好きでない限り、人外にスペルカードルールを挑む人間は力のある者よ。それにスペルカードと魂があれば誰でも空を飛ぶことが出来るから、必要な人は練習すれば良いわ」
非殺傷化の説明でも記した通り、魔力、妖力、霊力の使い方を知らずともカードが術を行使させるので問題ない。
「ああそう言えばそうでしたね。すみません」
「貴方は今日初めて知ったんだから謝る必要はないわ。それより貴方も何か質問はない?」
謝る刃にパチュリーはそう尋ねる。
「じゃあ、二つほど」
「さっきから聞く限りこのスペルカードは凄い性能ですが、確かこれが開発された理由は幻想郷の揉め事解決ですよね? 最多で幻想郷の住人全員、最少で必要とする者のみに配布することは出来るんですか?」
刃はスペルカードに対する疑問と言うより問題点を聞いた。
そう、このスペルカードは性能が高すぎる。
魔力、妖力、霊力のどれでも稼働し、それらと融合。一部の例外はあれ、大体の攻撃は非殺傷化。しかも搭載されている術は全て持ち主に無意識に行使させる。
簡単に特徴を上げただけでこれだ。
こうなるとスペルカードに使われている材料も簡単に手に入るものではないだろう。
この刃の疑問にパチュリーは嫌なことを思い出したように目を半眼にして答える。
「大丈夫。開発費はかなり掛かったけど、量産費はタダだから」
「ああそうなんですか。なら……ってえぇぇぇぇ!?」
パチュリーの返答に納得しかけて、その内容に刃は驚く。同時にフランも声は出さなかったが驚き、レミリア、咲夜、小悪魔はやはりこうなったかと内心思っていた。
「煩いわよ」
「あっ、すみません。でも開発費がかなり掛かったのに量産費がタダってどういうことですか?」
割と本気で不機嫌になったパチュリーに刃は慌てて頭を下げ、改めて理由を聞いた。
それにパチュリーはため息を付き。
「ごめんなさい。それに関してはあまりいい出来事じゃなかったの」
そしてパチュリーはどうして量産費がタダなのか語る。
ことの起こりはスペルカードが完成した時。
完成したスペルカードは可能な限り術式を完全に稼働させるため、媒体には希少金属でも最適とされれば使用されていた。
このためスペルカード一枚のコストはかなり高く、とても幻想郷中に配布など無理だった。
だから完成したスペルカードはあくまで完全版で、術式の変更や削除、使う金属の変更による質の低下した量産版を作ろうと、パチュリーを含めた開発陣は会議を行っていた。
そこに意外な人物から予想外の贈り物が手紙と一緒に届く。
名前欄に書かれていた送り主は何とユリドリミドリの作者。
手紙の内容は自身が書いたユリドリミドリが起こした百合異変の謝罪。
完成したスペルカードの賞賛。
そして百合異変の詫びとしてスペルカードの量産を材料、資材含めて全て取り持つこと。
贈り物は学習机ほどある四角形の、全体がプラスチックのようなもので包まれた中身が機械と思われる箱。
思われると言うのは箱がスイッチとメーターが一緒に入った蓋と、レンズが入っている蓋以外開ける場所が無く。いくら攻撃をしても傷一つ付かず、あらゆる手段で中身を見ようとしても見ることが出来なかったからだ。
もちろんその前に稼働実験は行われており、動かし方は手紙に書いてあった。
簡単にスイッチを押すだけだったが。
スイッチを押すとメーターが動き出し、一時間でメモリが一杯になり、レンズから光が放たれると、少し離れた床に規則正しく山積みにされた、何と千枚の完全版スペルカードが現れたのだ。
パチュリーたちは驚き、慌ててそのスペルカードを調べると、それが自分たちの作った物と寸分違わないことが分かった。
絶句するパチュリーたちに追撃を掛けるように手紙にはこう書かれていた。
『この機械はメンテナンスフリーであり、何回使っても掛かる費用は要求しない』と。
「これがスペルカードの量産費がタダの理由よ」
「「…………」」
パチュリーの語った内容に刃もフランも絶句。
それはそうだろう。幻想郷の最高責任者でもある紫が、そのままでは量産出来ないことをあっさりやってのけ、しかも掛かる費用は全て持つのでいくら作ってもいい。
つまり機械が壊れない限り無限に費用を払い続ける、あるいは材料を用意すると言うことだ。
そんなことが出来るのか?
普通に考えれば出来ない。
だが、刃はユリドリミドリの作者ならそれが出来るような気がした。
さらに気になることがある。送られてきた機械はいくら攻撃しても傷一つ付かない。
これではまるで自身の本体である刀のようだ。
(やはりユリドリミドリの作者は……)
かつて抱いた疑問の真偽を確かめるべく刃はパチュリーに聞く。
「あのパチュリー様。送られてきた機械はいくら攻撃しても傷つかなかったと言うことですが、それは一体どんなことをしたんですか?」
「そう、それよ」
「はい?」
パチュリーから返って来た返事の意味が分からず刃は疑問符を上げる。
レミリア、咲夜、小悪魔はやはりそれを聞くかと言った感じで見ていたが。
「今回のスペルカード開発で一番大変だったこと、それはユリドリミドリの作者が送って来た機械のせいで紫がヒステリーを起こしたことよ」
パチュリーは語る。
百合異変が起きてから紫はとにかく忙しかった。自分の理想を実現するために作った幻想郷は大きく変わり、元に戻そうとしても次から次へと問題が起こり、仕事が増えていく。
その中で得たものもあったが、それで帳消しにするなど到底できなかった。
だからこの状態を引き起こしたユリドリミドリの作者を、愛読者ではあるが紫は憎悪していた。もうそれは愛情と言うくらいに。
しかし、いくら探してもユリドリミドリの作者は見つからない。
そんな紫をあざ笑うかのようにスペルカードを生産する機械を送られ、出来たものは非の打ちどころが無く、おまけに百合異変の詫びとして掛かる費用は全て持つと言う。
紫はブチ切れた。
「申し訳ないと思っているんだったら私の前に来て土下座しなさいよ! こんな手紙や機械を送る前に誠意見せろ! この……」
紫は手紙を粉みじんにし、テレビなら放送禁止になるような暴言を吐きながら、機械にあらん限りの攻撃を加えていった。
それをパチュリーと紫の配下たちは防御結界を張って茫然と見つめていた。
誰も止めようとは思わない。
だって怖いから。
そして紫の攻撃が終わったとき、機械には傷一つ無かった。
これに紫はまた切れて、今度は能力を使用して機械を何処かに捨ててしまった。
「はぁ、はぁ。……ふう。さて、スペルカードの量産について……」
息を整えて何事も無かったように、それでいて一仕事終えた良い笑顔で、スペルカード量産についての会議の再開を宣言しようとした時、紫の後ろに何かが届いた。
何が届いたのか予想したのだろう。紫は冷や汗を流し、体を震えさせながら後ろを向くと、それは正しかった。
先ほど能力で何処かに捨てた機械と、粉みじんにしたはずの手紙が何事も無かったようにそこにあった。
「…………」
紫はしばし無言でそれを見続け。
「うぅん」
気絶して倒れた。
こうしてスペルカードの開発は終わりを告げる。
機械は紫の配下たちが管理し、量産出来次第スペルカードは幻想郷に配布することとなった。
「以上よ」
「それは何と言うか、大変でしたね」
語り終えたパチュリーに刃はそう言って労をねぎらう。
「本当よ。紫の矛先がいつこっちに向くんじゃないかと気が気じゃなかったわ」
パチュリーは紅魔館から呼ばれた部外者。一応スペルカード開発は秘密だったこともあり、ユリドリミドリの作者かそれが化けていると疑われる可能性は十分に高かった。
「でも、ちょっと八雲紫がかわいそうだよね」
そこにフランが悲しそうにそう言った。
「まあ、確かに機械へ攻撃している紫は怖くもあったけど、同時に哀れでもあったわね。実際、倒れた後は悪夢にうなされながら泣いていたわ」
「「うわぁ」」
パチュリーの言う紫のその後に刃とフランの呻き声が重なる。
あまりにも紫が哀れ過ぎて。
「私も最初はパチェに怖い思いをさせたことに怒ったけど、流石に同情したわ」
レミリアも同意して頷く。
「それでお嬢様たちはどうしたんです?」
刃の質問にレミリアが答える。
「後日紫本人が謝りに来て、見返りも水増しされていたからそれで許したわ」
そう言って、その時の光景を思い出したのかレミリアはため息を付いた。
刃はそれを見ながら思う。
(ユリドリミドリの作者。彼、あるいは彼女は一体何者なのだろう?)
何の力も無い百合本で幻想郷を大きく変え、紫に捕まることなく、それどころかスペルカードの情報を掴み、謎技術の産物を送り付け、何処かに捨てられたそれを瞬時に回収、破り捨てられた手紙も瞬時に修復して再度送り付ける。
はっきり言って出鱈目すぎる。
そんな存在に刃が思うことはただ一つ。
(どうかユリドリミドリの作者が俺の製作者ではありませんように)
そう願いつつ、話はスペルカードへと戻っていくのだった。
この物語で一番の苦労人はゆかりんかもしれない。
それと補足ですが、刃はともかくパチュリーたちが機械について普通に話しているのには理由があります。ただネタバレになるのでそれはその時語ります。
さて、ようやく出てきたスペルカード。次回はもちろんこれを使っての決闘です。