今回は刃の過去話となりますが、その部分では基本会話はあまりしないスタイルを取っていくつもりです。
刃が目覚めたのはスペルカードの実験の翌日のことだった。
目が覚めると懐かしいと言うにはまだ早い刀の状態で、フランに抱きしめられて寝ていたので刃はかなり慌てた。
それでも何とか小説【ゼロの使い魔】のインテリジェンスソード、デルフリンガ―の如く、刀の状態で声を出すことに成功。
だが、この声に気付いたのは同じくフランの部屋に居た美鈴で、刃はさらに混乱。
刃は状況が把握できず、美鈴は目が覚めたことによる喜びから二人は声を張り上げ、寝ていたフランの怒りを買ってしまったりもするが。
「やいばあぁぁぁぁぁっ!」
心配していた相手である刃が目覚めたと気付くと、フランはそんな怒りなどすぐに忘れて喜びながら刀を抱きしめた。
この後、泣きながら喜ぶフランを刃は美鈴と一緒に宥めつつ、体を再製するために放してもらい、それがなされると再び抱きしめられた。
刃としてはスペルカードの実験の後、何があったか聞きたかったため放してもらいたかったが、余程心配していたようで放してもらえなかった。
しょうがなく、刃はフランと一緒に部屋にある大きなベッドに腰掛け、美鈴は椅子に座って事情説明を受けた。
「そうか。そんなことがあったんだな」
事情を聞いた刃は暗い表情でそう呟く。
美鈴が居るため、本来なら敬語を使わなくてはいけないが、当の本人の計らいで今はフランに対してのみ素の口調だ。
そして刃はスペルカードの説明でした、自身の質問を後悔する。
(俺があんなこと聞かなければ……)
少なくともこんなことにはならなかっただろう。
「刃は気にすることないよ。お姉様がやり過ぎたのがいけないんだし、私がその後やったことだって……」
刃の心中を察してフランは慰めようとするが、今でも自分のしたことは正しかったのか、間違っていたのか悩んでいたので途中で言葉に詰まり、それで気まずくなって視線を背けてしまう。
しかし、覚悟を決めて視線を戻す。
「刃。私がお姉様にしたことは間違っていたのかな?」
「…………」
「分かってる。やり過ぎたってことぐらい。でも、それ以上に私がしたことは間違っていないって思うの。お願い、刃。自分じゃどっちと思っても納得できないの。だから教えて」
これに刃はフランのしたレミリアへの仕返しのことを考える。
(普通なら叱るべき何だろうなぁ)
暴力に暴力を持って答えるのは間違っている。人間の倫理ではあるが、今回は姉妹の問題であるため同じように考えても問題は無いだろう。
だが、フランがレミリアを痛めつけたのは刃のため。
「分かった。でもその前に言いたいことと聞いてほしいことがある」
だからまず刃は自分の気持ちを言う。
「ありがとう、フラン。おかげで俺はお嬢様に不満を持たずにすんだよ」
フランに抱きしめられ、死角に入っていた左手で彼女の頭を撫でながら刃は微笑みながら感謝の気持ちを伝えた。
五体を破壊されてもなお、フランと一緒に居続ける刃であるが、彼女は決して馬鹿が付くような善人でも、ましてや聖人でもない。
実際五体を破壊された時は激怒していた。
そんな刃が体を維持できない程痛めつけたレミリアを、いくら了承していたとは言え、しょうがなかったと納得して許せるわけがない。
フランがレミリアを病人と思えるまで痛めつけてなければ、表面上は許しても内心では罵声を言い、時の流れで怒りが鎮まるか、何かのきっかけで爆発していたかもしれない。
さらに刃の過去の使い手には大事な人のために手を汚して、その人に拒絶された者も居る。
何よりことの是非はともかく、フランが仕返ししてくれたことに刃は内心喜んでいる部分があった。
故に刃はフランにお礼を言ったのだ。
そしてパチュリーに怒りを向けられ、叱られるとばかり思っていただけに、この言葉は完全にフランにとって予想外だった。
しかし、予想外ではあったが、刃のお礼の言葉はフランが最も欲しかったものでもあった。
「うん、うん。……どう……いだじ……まじで」
フランは胸の奥からこみ上げてくる熱いものを抑えられず、涙を流しながら、上手く出ない声で返答した。
そんなフランを刃は微笑みながら見つつ、次の言葉を言う。
「そしてごめん。俺のせいで辛い役目をやらせて」
それは謝罪。自分のした質問のせいでフランはレミリアを痛めつけ、結果非難されたことに対する。
これを言う刃の表情はさっきとは違って暗かった。
「いいの。その言葉を聞けただけで十分だから」
そう言ってフランは刃の胸に顔を埋めて泣き続け、美鈴は複雑な心境でそれを見守った。
「落ち着いたか?」
しばらくして落ち着いたフランに刃が確認を取ってきた。
「うん。ありがとう」
これに笑顔でフランは答え、ようやく刃から手を放す。
「それじゃあ、少しの間昔話に付き合ってくれないか?」
フランが手を放したところで刃はそう切り出した。
「それって刃の聞いてほしいこと?」
フランの返答に刃は頷く。
「ああ、俺の昔の使い手、その内の二人の話だ」
「……使い手」
使い手、それは刃の持ち主であり、彼女を振るっていた者たちのことだ。
この言葉にフランはあることを思い出す。
「そう言えば刃って、あまり昔のことや、前の使い手について話さないよね?」
フランが聞いたことがあるのは直前の使い手のことだけで、それもただの外道以外聞いたことが無い。
ときどきフランたちが他の使い手や刃の過去を聞くことがあるが、大体返ってくるのは良い人も居れば悪い人も居た。
良いこともあれば悪いこともあったぐらいで、詳細を話すことがなく、深く聞こうとしてもはぐらかされていた。
「まあ、あまり良い話じゃないからな」
フランの問いにどこか遠くを、悲しそうな表情で刃はそう答えた。
だが、すぐに表情を元に戻す。
「それで少し長くなるかもしれないが、付き合ってくれないか?」
「うん、良いよ。と言うか聞きたい! どんな人たちだったの?」
刃の昔の使い手。それはフランの興味を引くには十分なものだった。
しかし、この時フランは分かっていなかった。何故、刃が過去を語りたがらないのかを。
ちなみに空気と化していた美鈴が申し訳なさそうに、退席したほうが良いかと聞いてきたが、刃もフランも別に良いと言ったのでそのまま聞くこととなった。
そして刃は語りだす。
「そうだな。あの二人は仲の良い兄弟だったよ」
それは昔の話。日本中に人外が溢れ、人間の科学が発展していなかった時代。そんな日本の小さな村に二人の兄弟が居た。
兄弟は自警団に所属しており、農作業をする傍ら、妖怪から村を守っていた。
二人の戦い方は兄が鉈で前衛、弟が弓矢で後衛だった。
そして兄弟にはそれなりの霊力があったため霊術の心得は無かったが、自警団の中でもその実力は上位にあった。
だが、それはあくまで小さな村の、霊術などを扱えるものが居ない場合の話。
これを証明するかのように中級くらいの強さを持つ妖怪が村を襲撃。
その妖怪は力もさることながら、妖術や戦術にも精通しており、自警団は兄弟を残して全滅してしまう。
辛うじて妖怪を倒すことは出来たが、兄弟も無傷ではすまなかった。
幸いどちらも五体満足だったが、兄の方の傷は深く、しばらくの間戦うことは無理であった。
このため比較的軽症だった弟が一人で村を守ることになるのだが、今まで後衛で戦ってきただけに不安は尽きない。
そんな弟の手には倒した妖怪が持っていた、霊力を宿した無名の刀が握られていた。
無名ではあったが、切れ味は名刀の如く、宿っている霊力も高い。
弟には剣術の心得なんて無かったが、無いよりはましと練習のため刀を抜いて振るってみる。
するとどうだろう。何度か素振りをした時、弟にそれまで聞いたことも見たこともない知識が流れ込んできた。
それは剣術や霊術に戦術、果ては刀の製造法など戦闘に必要とされる膨大な知識。
知識の元は当然刀から。
このことに弟は妖怪から奪ったものにも関わらず、神が作った物と考え、作り主に感謝した。
弟はその知識の基に鍛錬に励み、元々才能もあったようで短期間の内に実力を付け、見事に低級妖怪を倒していき、数年後には中級妖怪をも倒すほどになる。
同じく兄のほうも弟ほどではないが知識を教えてもらったことによりその実力を上げていた。
兄が村を守り、弟が妖怪を初めとした脅威を倒す。
兄弟の立ち位置が逆転してしまったが、少なくともこれで村は守られ、そのおかげで多くの移住者が来たことにより大きく繁栄。再建された自警団は刀の知識によって質が向上し、兄が団長に、弟が副団長に就いていた。
誰が見ても順風満帆(じゅんぷうまんぱん)。このまま厳しくも幸せなときが続くと思われた。
しかし、それの終わりは確実に近づいていた。
ある日、弟の家を兄が訪れる。
この頃、兄には妻子が居り、このため兄弟は別々の家に住んでいた。
それでも世間話や隠れて酒を飲むため、兄が来ることは別段珍しくはなかった。
だが、その日の兄は難しい表情をしており、とても世間話や酒を飲む雰囲気ではない。
兄がしたのは兄弟の立ち位置を変える話。
これから村を守るのは弟で、脅威を倒すのは兄。このため弟の持っている力を与える刀を渡してほしいと言うのだ。
いきなりのことに弟は慌てたが、どうして兄がこんなことを言い出したのか心当たりはあった。
それは村に蔓延しだしていた兄に対する陰口や悪口。
曰く、兄は弟のすねかじり。兄は弟が居たから今の地位がある。実は兄は臆病者で、今までの功績は全て弟のもの。
もちろん弟ほどではないが兄の実力は確かなものであり、実際、弟を避けて村に侵入した脅威を兄が排除したこともある。
根も葉もないことであり、弟は別段気にする必要は無いと思い、聞いたらそうではないと注意するだけに止めていたが、兄はそうではなかったようだ。
だから弟は気にすることはないと言い、さらにはもしも死んだとき残された妻子はどうすると説き伏せ、その日は兄を帰らせた。
かなり落ち込んでいたが兄なら大丈夫だろうと弟は信じていたが、その思いは悲しくも裏切られる。
数日後、事件は起きた。
旅の行商人から買った珍しい酒だと言い、眠り薬の入ったそれを兄が弟に飲ませたのだ。
刀からの知識で眠り薬ではと弟は思ったが、珍しい酒と言うことであったし、何より 兄がそんなことをするはずないと飲んでしまった。
突然襲ってきた眠気に弟は何故と言って眠ってしまう。
弟は気付けなかった、いや、気付こうとしなかったので分からなかったが、兄の目は狂気に満ちていた。
兄は何も言わずに弟を担ぎ、力を与える刀を手に取り、家を出て近くの森に向かう。
時刻は夜で、大きくなっていっているため村には塀も堀も無く、当然門も無い。
家が村の外側にあったこともあって誰に気付かれることもなく、森の奥深くまで来た兄は地面に弟を降ろし、静かに刀を抜いた。
この時の兄の顔は一言で言うなら下手くそな笑顔。笑っているようで泣いていて、息も荒いそんな顔。
次の瞬間、兄は奇声を上げて刀の切っ先を弟の額へと突き刺す。
そして弟の死を確認するとそれまで兄を支配していた狂気が消え、大切な者を殺してしまったと言う現実が彼を襲った。
兄は慌てて刀を弟から引き抜き必死に呼びかけるが、弟が目を開けることも、ましてや返事をすることもなかった。
兄は泣いた。聞いてはもらえないと分かっていながら泣きながら何度も何度も謝った。
どうしてこんな凶行に及んでしまったのか?
それは弟が思っていた以上に兄が追い詰められていたからに他ならない。
陰口や悪口だけでなく、村の有力者たちに弟を団長にするように遠まわしに言われ、妻は笑いものにされ、子はいじめを受けていた。
残念なことに弟が居ないときを狙って行われ、さらに兄自身が妻と子に黙っているように言っていたので彼が気付くことは出来なかった。
黙っていた理由は弟に情けない姿を見せたくなかったから。
だから弟を気遣う形で立場の交代を迫り、彼を強くした刀を手に入れようとしたのだ。
兄は思った。何故あのとき素直に話すことが出来なかったのだろうと。
情けない姿を見せたぐらいで愛想を尽かす弟ではない。
きっと相談すれば手助けしてくれたはずだ。
しかし、いくら後悔したところで時は戻せないし、死者を生き返らせることも出来ない。
それでもと最後の望みとばかりに兄は刀を振るう。
弟を強くし、様々な知識を与える刀ならもしかしてと信じて。
だがそれは当然の如く裏切られ、刀の中にその様な知識は無かった。
このことから兄はこの刀を弟とは逆に悪鬼羅刹が作った物と思う。
よく考えれば自分が深い傷を負い、自警団が兄弟を残して全滅したのはこの刀が強くした妖怪のせい。
弟と自分の実力に決定的な差が出来たのもこの刀のせい。
何より弟を刺殺したのは自分だが、その凶器となったのはこの刀。
きっとこの刀は呪われている。
そう思った兄は深い憎悪を刀に向けるが、それを捨てるようなことはしなかった。
これから先、弟が居ない村を守っていくには刀の力と知識が必要だからだ。
本当は家族と一緒に村を出て、刀を何処かに売るか捨てたかった。
だが、弟は言っていた。自分はこの村が好きだと、そしてそれを守る自警団の仕事を誇りに思うと。
その弟を殺してしまった。ならば自分が代わりに村を守らなくてはならない。
罪を告白して罰を受けることも考えたが、それでは妻と子が不幸になる。
弟は妻と子も守ろうとしていた。だから不幸には出来ない。
兄は弟を殺したことを墓場まで持っていくことにし、遺体は当初の予定通り妖怪に襲われたように焼いた。
村人には弟が単独で村を抜け出し、自分はそれを見て追いかけるが、追いついた時には奪われた刀で額を刺され、その身を焼かれていたと言うつもりだった。
それからはこの刀を使って弟のように活躍すれば、妻が笑われることも、子がいじめられることもなくなるだろう。
そう考えて兄は村に戻った。
そして絶望する。
村は燃えていた。村人は喰われていた。
妖怪の集団によって。
弟の活躍は人間にだけでなく妖怪にも伝わっており、兄弟は知らなかったが力を与える刀は有名だった。
このことから刀の存在に気付いた妖怪たちが集団を組んで村に襲ってきたのだ。
もちろんこれが偶然な訳がない。
一連の出来事は確実に勝利するために妖怪たちが仕掛けた策謀。
結果、村の主戦力であり、司令官でもある兄弟が揃って居なくなったため、いくら質が向上しているとは言え、それ以外の自警団だけでは守り切れなかった。
兄はがむしゃらに走った。妻と子が居る自分の家に。
無事で居てくれ。
そう願いながら邪魔する妖怪たちを切り伏せて兄はたどり着いた。
他と同じように燃える自分の家と、妻と子だったものがある場所へと。
兄は壊れた。
共に戦ってきた弟を殺してまで守りたかったものが、もう既に失われてしまったと言う事実に。
兄は集まって来た妖怪など気にもせず笑った。
一体何に笑っているのか、兄自身分からない。
そして血の涙を流しながら妖怪たちに振り向き、刀を振り上げてこう言った。
「聞けぇい! これこそは悪鬼羅刹が鍛えた刀なり。振るえば知識を与え、そしてそれは己の力になるだろう。だが、心せよ。これは呪いの刀。持てば必ず周りに不幸が訪れ、親類縁者どころか己すら切り裂くだろう。このように!」
兄は指が切れることも気にせず刀の刃を持ち、その切っ先を自身の額へと突き刺し絶命した。
そして兄の言ったことが真実であるかのように妖怪の集団は刀を巡って争い、最後は全滅してしまう。
残ったのは刀と地獄の後だけだった。
「以上だ」
「…………」
俯いて話を締め括る、何処か表情に陰りのある刃にフランはすぐに何かを言うことは出来なかった。
(そんなことがあったなんて)
かつて刃は言った、自分は喋ることも身動きすることも出来なかったと。
ならば兄弟の仲が破綻したのは刃の意思ではないし、あったとしても何も出来ない。
そうでなくてもフランは刃が自分の意思で兄弟の仲を裂いたなど信じないだろう。
フランは刃によって救われ、今もこうして生きている。
そしてそんな救ってくれた刃が兄弟の悲劇に何も思わないはずがない。
(そりゃ話せないよね。こんな悲しいこと)
刃が過去のことを話さない理由にフランは納得するが、ここである可能性に気付く。
刃は数百年間に渡り、多くの使い手たちに使われてきた。
それでも過去を話したくないと言うことは。
(まさか……)
自分の考えをフランは即座に否定する。
そうだとしたらあまりにも刃がかわいそうだ。
「ねぇ、刃ちゃん。失礼なことを聞くけど、貴女の過去の使い手たちはもしかして……」
そこにフランの疑問を代弁するように美鈴が刃に聞いたが、やはり聞きづらいことなので途中で切ってしまう。
しかし、質問の意味は誰が聞いても分かる。
刃は頷いた。
「美鈴さんの思っている通りです。私の過去の使い手たちの大半は不幸な最後を迎えています」
(ああ、やっぱり)
あの兄弟と同じくらいかどうかは分からないが、不幸な最後と言う以上、きっとろくな死に方はしていない。
刃の返答にますますフランは何と言って良いか分からなくなった。が。
「だからフラン様がお嬢様を殺さずにすんで本当に良かったです」
心底安堵した。
そう言うように刃は静かに涙を流すが、フランはこれを黙って見ていられなかった。
「ちょっと待って、刃! 確かに私はお姉様を攻撃したけど、殺そうとはしてない。さっきも説明したけど、あくまで罰を与えようとしただけなの」
この時フランは勘違いされたと思った。が、それを否定するように刃は目を閉じて首を横に振る。
「分かってる。フランにお嬢様を殺す気が無いことは」
「なら何で私がお姉様を殺すかのように言ったの? スペルカードの非殺傷化は凄いって刃も言ってたじゃない!」
思い出すのは刃がレミリアのスペル攻撃を受けた後に言った言葉。
「確かにスペルカードの非殺傷化は凄い。でもな……」
刃は涙を腕で拭って答える。
「完全ではないんだよ」
残念そうな表情を浮かべる刃。その言葉は重たかった。