東方妹打刀   作:五式改

3 / 20
 お待たせ、と言うほどではないでしょうが第三話です。


第三話 相反する願い(後編)

 

「俺はお前を殴る」

 地下にあると思われる部屋の中で自分が殴ったことにより蹲るフランに刃は冷たくそう言った。

「俺が出ていくのを邪魔するのなら何度でもお前を……がぁ!」

 再度分かりやすく言おうとして両腕が爆発、破壊される。

「なら、殴られる前にその両腕を壊してやる!」

 刃を見上げるフランの両手はどちらも閉じられており、それを見なくても能力で破壊されたことが分かる。

「ぎっ! なら蹴るまでだ!」

 肩の傷口から発生する痛みを、奥歯を噛み締め、両腕を壊されたことへの怒りを込み上げ、無理矢理振り切り、刃はフランの胴体に横蹴りを叩き込む。

「かはっ!」

 フランはそれを蹲っていたせいで避けることが出来ず、床に叩きつけられた。

 この間に刃は両腕を再製する。

「はぁはぁ。どうだ。幾らお前があらゆるものを破壊出来ると言っても、握りつぶすと言う動作を取らないといけない以上、一度に壊せるものは二つまで。なら、俺は残った四肢でお前を殴って蹴るだけだ!」

 荒い息を上げながら、刃はフランを見つめる。

「分かっただろ、幾ら破壊されても俺は出ていく。そして嫌だろ、こんな殴りかかって来る奴?」

「…………」

 床に仰向けに倒されたフランは刃を見つめながらしばし無言だった。

 それが長く感じられるようになった時、フランが笑ったように見えた。その瞬間。

「嫌じゃない!」

「!」

 跳ね起きるとはまさにこのことだろう。仰向けに寝ていたはずなのに、フランは瞬時に飛び起き、勢いを殺さないまま刃の腹に思いっきり右の拳を叩き込む。

「がはっ!」

 強烈な衝撃が刃を襲い、その体は吹き飛ばされ、部屋の壁に激突。腹の中の内臓全てが破裂寸前の痛みを上げ、背中からも同等の痛みが走り、見れば壁は凹み、亀裂が入っている。

(これが吸血鬼の力、そしてスピード)

 吸血鬼は様々な弱点があるが、それを補って有り余るほどの力、スピード、魔力などがある。

 これを刃は体感し、それでもなお内臓破裂や背骨が折れてない仮初の体のスペックに驚く。

(俺も大概だな)

 霊力を回して損傷した部分を修復、立ち上がる。

「嫌じゃない。破壊しても駄目なら私も殴り返す!」

(はぁ?)

 訳が分からない。

「何でそうなるんだよ!?」

 待っていたように言うフランに刃は突撃、再びその腹に右拳を叩き込んだ。

「ぐふっ!」

 フランはそれを避けようとせず、まともに受けるが、足を踏ん張り耐える。

「! 確かに破壊しないのはありがたい。だが、それでどうなる? これではただの殴り合いになっただけで何も変わらないぞ!」

 耐えたことに驚きつつも刃はフランに意味の無いことだと告げる。

 そこにお返しとばかりにフランの右拳が刃の腹に再び放たれる。

 これを刃は避けず、防ごうとせず、ただ足を踏ん張り耐えた。

「ごほっ!」

 さっきとは違い、飛ばされなかったせいで幾つかの内臓が弾け、口から血が溢れた。

 当然激痛も走る。だが、足に力を入れ、倒れることだけは防ぐ。

(絶対……倒れねぇ)

 何故、フランの拳を避けようとせず、防ごうとせず、ただ耐えることを選んだのかは刃自身分からなかった。

 いや、本能では分かっていた。この戦いはこう言う形になったのだと。

 大急ぎで損傷した箇所を修復し、体制を立て直す。

「いいや、変わったよ。これは私と刃の喧嘩。だからその後には仲直り出来る!」

 フランの瞳にはいつの間にか光が戻っていた。

 まるで希望を見出したように。

「ふざけるな!」

 それに堪らなく腹が立ち、刃はフランの腹を突き上げた。

「かはっ!」

 もはや当然のように避けも防ぎもせず、ただ耐えるフラン。

「いつ、俺たちがそんな中になった!? 俺はお前のことなんか何とも思っちゃいない。お前がどんなに寂しい思いをしていようが、俺は自分の自由を優先する。そんな奴だ」

 自分を卑下するように、分からせるように言う刃に、フランはまず拳を脇腹に叩き込んだ。

「がほっ!」

 フラン同様それにただ耐え、血を吐き、痛みを堪え、損傷した箇所を修復する。

 両者に違う部分があるとすればダメージの量が圧倒的に刃の方が多いところだろう。

(割に合わねぇ……)

 内心愚痴るがこれはしょうがない。フランは吸血鬼で五百年近く生き、刃は付喪神に今日なったばかり。種族差もさることながら、重ねた年月も違うのだ。

 殴り合いが出来るだけ充分賞賛される。

 そして刃が治ったと見るや、フランは口を開く。

「嘘だよ。だってそんなに自由になりたいならどうしてその刀で私を斬らないの? どうしていちいち語りかけるの? どうしてそんなに辛い顔で私を殴るの?」

「うっ、うるさい」

 思わず刃はフランの腹を殴っていた。

「こはっ!」

 これにフランは耐えたが、殴った感触から先程より効いてないのが分かる。

 だが、そんなこと気にせず刃は話す。

「今日はそんな気分なんだよ。別に他意なんて無い!」

 鏡を見れば分かっただろう、その顔は赤くなっていた。

 まるで嘘がばれた子供のように。いや、そのものだった。

 もちろん刃はばれやすいことは理解していた。

 しかし、実際ばれてみると予想以上に感情が高ぶったのだ。

 そんな刃の心情を知っているのか知らないのか、フランは腹に向けて拳を放っていた。

「じゃあ、そう言う気分になったんだね!」

 先ほどとは違い、笑顔で。

「がはっ!」

 それでいてやっぱり内臓が破裂、血を吐き、痛みに耐え、損傷した箇所を修復。

 お返しとばかりに今度はまともな形で拳を放ち、フランの腹に当てる。

「げほっ!」

 体をくの字に曲げるフランの反応からも、殴った感触からも良いのが入ったのが分かる。

 これに少し良い気分になりつつ、刃は言う。

「何で嬉しそうなんだよ。そう言う気分ってどんなだよ!?」

 と、そして内心焦り出す。

(おいおい。一体何なんだ? 何か変な雰囲気になってきてるぞ)

 これではまるで本当に喧嘩していて、仲直りが近づいているようだ。

 そしてそれでも良いんじゃないかと思う自分が居る。

(何を考えているんだ。せっかく掴んだ自由だぞ。ここは夢にまで見た幻想郷なんだぞ。確かにフランが生前は嫁キャラで、今でもどうにか……)

 予想外の状況に思考に没頭する刃だが、今がどう言う時か忘れてはいけない。

「そんなの決まってるもん。刃が私のことを考えて悩んでいる。そうに違いない!」

 自信満々でそう言い、刃の腹にフランは拳を思いっきり当てた。

「げふぅっ!」

 考え事をしていたせいで、踏ん張ることが出来ず、再び吹き飛ばされ、刃は壁に激突する。

 腹と背中、もはや体中と言っていいほどの痛みの中、刃は思う。

(ああ、そうだよ。お前の言うとおりだよ。だけどな)

 霊力を回し、損傷箇所を修復させながら立ち上がり。

(俺は自由を……)

 フランのところに戻ろうとして体がぐらついた。

 気のせいか体が重く、とにかく眠い。

(……畜生。ここまでか)

 これが自身の限界であることを察し、ようやく刃はある決心が付いた。

 それを伝えるために、ふらつきながらもフランの所に向かう。

「え、刃?」

 弱々しくこちらに向かってくる刃を見て、フランは不安そうにその名を呼ぶ。

 それに答える力が勿体無いので、刃は答えずにフランに近づき、そこで両膝を付いて倒れそうになる。

「刃!」

 慌ててフランが抱きしめ、それを止めるが、そんなことを気にせず、と言うより暇がなく、刃は口を開く。

「俺の負けだ。だが、お前の物にはなりたくない」

「そ、そんな……」

 刃の最後の力を振り絞ったその言葉にフランは再び悲しい表情になる。が、まだ話は終わっていない。

「でも、相棒にならなってもいい。上と下の関係じゃなく。対等の関係なら一緒に居てもいい。……どうだ?」

「! もちろん良いに決まってるよ。ホント? 本当に一緒にいてくれる!?」

 喜ぶフランに思わず刃も笑みを浮かべる。

「ああ、お前が死ぬか、結婚するまでは付き合ってやる。……すまない。そろそろ限界だ。最後に……一つ、…………俺を……手放すなよ」

 そこまで言って刃は深い眠りに落ちた。実に心地よさそうに。

 

 

 最初はよく分からなかった。

 何で無理矢理出ていこうとしなかったのか。

 刃が長い間窮屈な思いをして、それで自由になりたいと言うのはフランにも分かった。

 口では分からないと言ったが、状況が違うとは言え、フランも長い間窮屈な思いをしてきたのだ。

 だからこそ忌々しい自分の能力を使ってまで刃を足止めした。

 壊れない友達がどうしても欲しかったから。

 だからこそ刃が刀を使わないで、辛い顔をして殴ってきたのが理解できなかった。

 自分と同じか、それ以上に自由が欲しいはずなのに。

 幾ら今日会ったばかりとは言え、フランにも刃の最大の武器が刀であることぐらい分かる。

 それに姉にも注意されたが、刀には吸血鬼を殺すのに十分な霊力が宿っている。なら、名前の通りその刃を自分の心臓に突き刺せば後は部屋から出ていくだけ。

 自分とは違い、刃はこちらを求めてないから問題はないはず。

(何で私を殺さないの?)

 そんな疑問を抱えながら、フランは刃に蹴り飛ばされ、彼女の言葉を聞き、その顔を見る。

 お願いだから嫌いだと言ってくれ。

 何となく、そう言われたような気がした。

 刃が泣いているように見えた。

(何で貴方はそんな辛そうな顔をしているの?)

 まるで嫌なことをしているような顔。

 刃がやっていることはフランを殴って蹴る。

(何で? 貴方は今日、私と……)

 会ったばかりと考えようとして、刃の言葉が思い出される。

 長い間、喋ることも身動きすることも、完全に眠ることも許されず。

 フランはてっきりこれを刀の中で動けなくなっていたと思っていた。

 だが、それなら刀の中に閉じ込められていたと言えば良い。と言うことは喋ること、動くこと、眠ること以外は出来ていたのではないか?

 確証は無いが、そう考えると色々と納得できた。

(ああそっか、私と貴方は今日が初めてじゃないんだ)

 フランが壊れない打刀を見つけた時から二人の関係は始まっていた。

 そして刃にとってフランは、何がなんでも手に入れたい自由を優先出来ないほど大切な存在になっている。

 自惚れかもしれないが、これ以外フランは考えられなかった。

(ははっ。私、何やってるんだろ)

 友達になって欲しいのに、その相手の両腕、両足を破壊。

 相手は既に自分を友達のように気遣っていると言うのに。

 これでよく友達になれと言えたものだ。

 やっぱり自分はおかしい。狂っていると言われてもしょうがない。

 刃の気持ちが嬉しくて、自分が可笑しくて、フランは笑い、行動に出た。

 今度こそ本当の友達になるために。

 結果はご覧の通り。

 刃が折れ、思い描いていた友達と同じ関係と思われる相棒になると言って、今は自分の腕の中で眠っている。

(はぁ、本当、私何やってるんだろ)

 ここでようやくフランは自分が友達になってと一言も言っていないことに気付く。

 刃は言った、上と下の関係じゃなく、と。

 フランが求めていた友達とは刃が言った相棒と同じ対等の関係だ。それなのに刃からそんな言葉が出ると言うのはどう言うことだ?

 そう疑問に思い、考えて、自分が友達になってと一言も言ってないことに気づいたのだ。

 言っていたのはただひたすら私のものになれ。その時は友達になってと同じ感覚で言っていたが、逆の立場からすれば下僕になれと言われているようなものだった。

 フランだって、いきなり下僕になれと言われれば嫌と答える。

(もしかして別に破壊したり、喧嘩したりする必要なかった?)

 ただ一言友達になって欲しい。こう言えば多少の口論はあっても丸く収まっていたのではないか?

 そう考えると刃には本当に悪いことをしたと思う。そして、それでも相棒になると言ってくれたことを感謝する。

(ありがとう、刃。私、絶対貴方のことを大切にするよ)

 そんな時だった。

 部屋の扉がノックされたのは。

 

 

「ふらぁぁん。私よ。侵入者の排除は終わった? もう、入っても大丈夫?」

 ノックされた扉から聞こえたのはフランの姉にして紅魔館の主、レミリア・スカーレットの声。

 その言葉からフランが侵入者と戦っていたと勘違いしていることが分かる。

(えぇぇぇぇ。何でそうなるの!?)

 内心驚くフランだが、さっきまで刃と喧嘩していたことを思い出し、今更ながらその間誰も入ってこなかったことを疑問に思う。

(えっ、もしかして私、侵入者と戦っていたことになってる?)

 部屋の中でフランと刃は互いに声を張り上げていた。それが外に漏れていたのはまず間違いない。だが、その内容は伝わっていなかった。

 部屋から聞こえる意味不明の二人の大声。一人はフランと分かってももう一人の刃は当然知らない。

 事情を知らない者がそれを聞けば誰かが侵入したと思うだろう。

 そしてフランが破壊の能力を持っていることは、屋敷に居る者なら全員知っている。

 結果、戦いに巻き込まれることを恐れて上に報告、レミリアはフランが勝つと信じて静観、静かになったことで終わったと思い、扉をノックした。

 多分、そんなことだろうと思い、フランは慌てた。

(どど、どうしよう?)

 部屋は刃が吹き飛んだ壁が凹み、罅割れ、破壊と言う名の爆破と嘔吐により、フラン共々血まみれ。

 こんなの見られたら刃が侵入者と勘違いされるのは間違いない。

 思わず、刃を強く抱きしめる。

 刃の体温、息遣い、鼓動が伝わってくる。

(だっ、大丈夫。刃は私が守る。そっ、そのためにも今は時間を稼が……)

「……フラン。入るわよ」

「あっ。ちょ、ちょっとまっ……」

 すぐに返事を返さないことを不振に思われ、先ほどより重い声でレミリアが扉を開く。

 それを慌ててフランは止めようとするが間に合わなかった。

 扉は開かれ、そこには姉を始め、紅魔館の主要メンバーが勢ぞろいしていた。

 紅い長髪のストレートに緑の瞳、出るとこ出て、引くところは引いてのナイスバディの女性、祖国の民族衣装に身を包む、紅魔館の門番、紅・美鈴(ほん・めいりん)。

 同じく紅い長髪のストレートに紅の瞳、これまた同じくナイスバディの女性、しかし頭には小さい、背中には大きなコウモリの羽を持ち、スーツに身を包む、図書館の司書、小悪魔(こあくま)。

 片口で揃えた銀髪に碧い瞳、先程の二人とは対照的にスレンダーな女性、メイド服に身を包む、紅魔館のメイド長、十六夜・咲夜(いざよい・さくや)。

 紫の長髪のストレートに紫の瞳、落ち着いた感じのある女性、寝間着のような服に身を包む、姉の友人にして、図書館の館長、パチュリー・ノーレッジ。

 そして最後に肩口で揃えた銀髪に紅い瞳、白いドレスを着た女性、フランとは違い正当な吸血鬼の羽と言える小悪魔と同じ羽を背中に持つ、自分の姉であり紅魔館の主、レミリア・スカーレット。

 この五人が扉の向こうに立っていた。

(よりにもよって全員!? 勘弁してよ)

 これから予想される説明と説得の困難さにフランは泣きたくなった。

 




 とりあえず今回はここまで。
 第四話がいつ投稿できるかは分かりませんが、なるべく早く出来るようにしたいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。