第五話の手直しが終わったので投稿します。
「はぁ、何をやってるんでしょうね。私は」
レミリアは紅魔館の自室で深くため息を付いていた。
理由は妹のフランとの久々の姉妹喧嘩。
喧嘩の原因である刃がフランを止めていなければ、さらにろくでもないことになっていただろうそれに深くため息を付く。
「はあぁぁぁぁぁ」
あの後、疲れて眠っている刃の休養と検査のために客室を用意させ、そこまで美鈴に運ばせようとしたがフランが自ら運ぶことを譲らず、さらに一緒に居ると駄々をこねたため、今頃は二人仲良く同じベッドで寝ているだろう。
そして一応と言う名で行われたパチュリーの魔法による検査はどちらも白。
フランが何らかの術に掛かっている心配も、まさかの刃が掛かっている心配もない。
つまり、刃が紅魔館に悪意を持っている可能性は限りなく低くなった。
(本当なら喜ぶべきなんでしょうけど)
結果とは裏腹にレミリアの心中は複雑だった。
「相当参ってるわね。リラックス出来る魔法を掛けてあげましょうか?」
そんなレミリアに愚痴を聞くと言う約束の下、部屋に来たパチュリーが言う。
「良いわ。それよりワインを一緒に飲みましょ」
そう言ってテーブルに用意されたワインを手に持ち中身をグラスに注いでいく。
「自棄酒に付き合うのはやぶさかではないけど、良いの? 古刀刃が目覚めたとき色々と話を聞くんでしょ」
「人間ならともかく、吸血鬼の私がそうそう二日酔いにならないのは知ってるでしょ。それにフランがあそこまで懐いた人物なら酔っ払ってても大丈夫でしょ」
本人が聞いたら、いや、酔っぱらいの相手は勘弁して。と言いそうなことを言いながらワインのグラスを掲げる。
「あらあら、醜態を晒すなんて、偉く気に入ったわね。でっ、何に乾杯するの?」
と言いつつもさほど驚いてないパチュリーもグラスを掲げる。
「冗談よ。でも、出来ればそうなって欲しいわね。乾杯はもちろん、フランが待ち望んでいた」
「貴方と私たちも待ち望んでいた」
「「相手が見つかったことに乾杯」」
二人はグラスを軽くぶつけ合い、レミリアは一気に、パチュリーは少し飲んだ。
「ぷは。でも、まさか本当に現れるなんて思いもしなかったわ。そんな運命も見えなかったし」
空になったグラスに酒を注ぎながらレミリアは愚痴る。
二人が言った、待ち望んでいた相手とはフランの能力をもってしても壊れない者のことだ。
そう、フランが壊れない友達を待ち望んでいたようにレミリアとパチュリー、引いては咲夜、美鈴、小悪魔も待ち望んでいた。
「私もよ。まさかこんな形で現れるとは思ってもみなかったわ。確かにあの刀は謎でしかなかったけど」
「ああ、そう言えばフランがあの刀を見つけたとき、貴方に調査を依頼したんだっけ」
思い出すのはフランが宝物庫で打刀を見つけたとき。
フランの能力でも壊れないと言うその打刀を怪しく思い、レミリアはパチュリーに調査を依頼したのだ。
「そうよ。フランの能力を持ってしても壊れない刀。実に興味深かったわ。でも、解析の結果はただの霊力を持った刀。それ以外はあらゆる解析魔法を使っても分からなかった。まあ、全ての能力を判別する魔法が無いから当然と言えば当然だけど。もしかしたらまだ何かあるかもしれないわね。後、当時で分かったことは怪しい術が掛かっていないことだけ。フランが欲しがっていなかったら私の研究はあれに注がれていたでしょうね。最も、私も他のことにかまけて忘れていたけど」
結果はほぼ何も分からずじまい。
それにパチュリーは苦い顔するも、過ぎ去った過去として微笑む。
「その様子だと、貴方に渡していたらあの子の登場はかなり後か、永遠に無かったわね。今でもあの子を調べたい?」
「私が調べたかったのは何言わぬあの刀よ。付喪神の古刀刃ではないわ。まあ、元の刀に戻るようなら元に戻すと言う名目の下、研究はするでしょうけど」
レミリアの問いにパチュリーは無いと答えるが、機会があるならと付け加える。
「で。私は貴方の愚痴を聞きに今日は来たわけだけど。何か言うことは無いの? 例えばフランとの久しぶりの喧嘩のこととか」
そして本題であるレミリアの愚痴に付いて聞いてきた。
「ぐっ。痛いところを付いてくるわね」
「そりゃ、親友ですもの。時には無理矢理にでもガス抜きさせられなくてどうするの」
苦い表情になるレミリアにパチュリーは優しくそう告げた。
「そうね。はぁ。ねぇ、パチェ。私の対応は間違っていたのかしら」
ため息をつき、レミリアが言うのは刃を疑い、事の真偽が分かるまで監禁すると言ったことだ。
「やっぱり気にしていたのね。私の考えを言わして貰うと古刀刃を疑うのは当然の判断よ。貴方が言った通り、フランが言ったことが本当と言う証拠は無いし、私たちには今日会ったばかりの人物だもの」
「そっ、そうよね。私は間違ってなかったわよね!」
肯定的なパチュリーの言葉にレミリアは瞳を輝かせながらそう言った。
「話は最後まで聞きなさい。確かに古刀刃を疑うのはしょうがない。でも、フランから離して監禁すると言うのはやりすぎよ。あの子がどんな人物かは分からないけど、少なくとも私たちや紅魔館に何かしたわけじゃないんだから、監視を付けるぐらいで十分よ。それに貴方は紅魔館の主として責任があるって言っていたけど、同時にフランの姉でしょ。 あの時ああ言えば妹がどんな反応するかぐらい分かったでしょうに。古刀刃が止めなかったら最悪、貴方ごと紅魔館が無くなっていたわよ」
もはや説教のそれにレミリアは背が縮こまる。
パチュリーの言うことは正しく、レミリアもあの対応は間違っていたと思っていた。
「うぅぅぅ。でっ、でも」
だが、それでもあの時はああするしかなかった。いや、出来なかった。
「レミィ。あの子が、古刀刃が羨ましい?」
パチュリーは静かにそう問いかけた。
「羨ましくない……わけないでしょ!」
レミリアはドンっと机を叩き、叫ぶ。
「私が何度フランと何の気兼ねもなく付き合いたいと思ったと思う? それを夢見たと思う? 妹にあんな能力が無かったら、私には絶対に効かなかったら、そんなことを無駄だと、無意味だと分かりながら、何度望んだと思う?
会うたびにその手の挙動をいちいち警戒して、その結果気を張り詰めて、フランがそれを察して常に手を開けている姿に何度も心を痛めた。迷惑かけまいとフランが私とその周りとしかあまり会おうとしなかったことも知っている。だから、魔法で能力を受けない方法を研究した。でも、駄目だった。あの能力は防御も隠蔽も無視する。私にやれることはフランを地下に住まわせ、なるべく良い運命になるように祈るしかなかった。
それなのにアイツは、古刀刃は何の苦労も無くその力を手に入れていた。
これが羨ましくないわけないでしょ!」
レミリアは泣いていた。
自身は苦労しても手に入れられなかったのに、刃は苦労せずに手に入れていた。
それが悔しくて、羨ましくてしょうがなかった。
だからレミリアは言い過ぎてしまった、フランと喧嘩してしまった。
そんなレミリアの頬をパチュリーは無言で叩いた。
「ぱ、パチェ?」
何故叩かれたのか分からず、名前を呼ぶレミリア。
パチュリーのその表情は目に見えて怒っていた。
「貴方の気持ちが全て分かるとは言わないわ。でも、それなりに理解はしてはいるつもりよ。その上で言わせてもらうわ。貴方フランを信じているんでしょ。古刀刃を信じるんでしょ!?」
「えっ、ええ。もちろんよ。当たり前じゃない」
何を今更と言わんばかりにレミリアは答える。しかし、何故ここでそれを聞かれるのか理解できなかった。
「だったらフランが言ったことを忘れたの!? 古刀刃は元人間で、その死後魂を刀の材料にされて、正確な年月は分からないけど、気が遠くなって消えそうなぐらいの長い間、喋ることも動くことも寝ることも出来なかった。これの何処が苦労してないって言うの?
さらにようやく手に入れた自由をフランのために捨てた。それまでに両腕両足を破壊されて、何度も血を吐いた。むしろ苦労ばかりでこちらが頭を下げたいわよ。普通こんなことされて相棒にならなるって言う? いいえ、ないわね。痛みに屈して下僕になるか、最後まで拒否して最悪殺すかのどちらかよ。レミィ、これでも古刀刃が苦労してないって言える?」
「……言えないわね。ごめんなさい、パチェ。どうやら私は都合の良いところだけしか見ていなかったみたい」
自分の間違いに気付き、レミリアはパチュリーに謝る。
「それはフランと古刀刃に言いなさい。嫉妬が悪いとは言わない。悔しいと思い、羨ましいと思うことは自然なことよ。でも、勘違いの上に成り立つ嫉妬は本当の意味で醜いだけよ」
「肝に銘じておくわ。それとありがとう。大分楽になったわ」
苦い顔をするが、レミリアはどこかスッキリしていた。
押さえ込んでいた想いを暴露し、羨ましいと思っていた相手が実はそうでなかったと気づいたからだろう。
「どういたしまして。それならさっきよりは受け入れやすいでしょ。で、古刀刃はどう言う形で紅魔館の住人になるの? 私と同じような立ち位置?」
パチュリーの立ち位置はレミリアの親友であり、紅魔館と契約を結んでいる魔法使いである。
内容は衣食住を提供する代わりに魔法の知識と技術による紅魔館への支援。
「古刀刃がパチェのように何らかの利益を紅魔館にもたらしてくれるならね。まあ、最初に出ていこうとしたあたり、そう言うのは無いと思うけど。だから咲夜の下で修行させてフランの専属メイドにするわ」
レミリアの言ったこのフランの専属メイド。仕事内容は主にフランの身の回りの世話をすると言う、聞くだけなら簡単なもので、昔はちゃんとした部所としてあった。
「ああ、あの何人もの妖精が辞めたために廃部にされた部所ね。フランの暴走に耐えられるんならピッタリね。でも大丈夫かしら。古刀刃はフランとの対等な立場と言う条件で一緒に居るって言ったんでしょ?」
「それはフランとの契約でしょ。私とのではないわ。それにさっきも言ったけど古刀刃は最初に出ていこうとした。自由が無くなると言う理由で。なら、その辺理解しているわよ。元人間なら尚更ね」
パチュリーの懸念にレミリアは自身満々に大丈夫と答えた。
「私はフランとの相棒だぞ。と言って無償の生活を求めてきたら?」
「うぅん。まだ古刀刃と話したことないけど、物凄くやりそうにないことね。それ」
フランから聞いた話と、あの喧嘩のときに見せた行動から、レミリアには刃がパチュリーの言うようなことをするとは想像できなかった。
「あくまで例えよ、例え。私だってやるとは思ってないわ。それでどうなの?」
それにパチュリーも同意し、改めて聞いてくる。
「万が一そんなこと言ったら、徹底的に教育して性格を改変するわ」
「おぉ、おぉ、怖いわね。なら、私はそうならないほうに賭けるわ」
「自分から言っておいてそれはないんじゃない」
言って二人は笑いあった。
その後は談笑しながら時は過ぎていった。
フランとの激突から約半日たった頃。刃はまだ眠っていた。が。
「うぅ……あぁ……」
非常に艶のある呻き声を上げながら刃は不思議な感覚に襲われていた。
首筋に何かが吸い付き、そこから何かが突き刺さり、そこから何かが体から吸い出されている。
普通なら気持ち悪さと痛みがあるはずなのに、あるのは痺れるような気持ちよさ。
体から何かが吸い出されているから倦怠感はあるが、この気持ちよさの前にはどうでもよくなってしまう。
(一体何だろ?)
意識が覚醒し、気持ちよさの正体が気になったのでゆっくりと目を開ける。そして視線を向けた先には同じベッドで寝ているフランが、寝たまま刃の首筋に噛み付き、血を吸っていた。
「…………」
その状況にしばしの無言の後。
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」
刃は叫んだ。
そりゃ、いくら相棒とは言え、起きたらいきなり首筋に噛み付かれ、血を吸われていたら驚く。
(何でフランが一緒のベッドに!? いや、まずはこの状況を何とかしないとまずい! 主に俺の理性が、道徳が)
吸血鬼に血を吸われると性的な気持ちよさを感じると言う。
刃はまさにそれを体験していた。
(確かに気持ちいいけど、俺、今女の子だから! 心は男だけど、体は女だから!)
刃の生前は男であり、自分と同じ性別の同性愛には嫌悪感があった。
異性の同性愛はそれなりに好きではあったが、性別が変わってしまった今となってはよく分からなくなっていた。
さらに刃は生前独身主義でもあった。
(開く、超える。新世界の扉が開いちゃう。一線を超えちゃう!)
同時に。
(でも、フランだったら良いかな)
と思ってしまう。
(いや、ダメだろ! こう言うのはもっと時間を掛けて。それに男に戻って……って、そんなこと考えてる場合じゃないぃぃぃぃっ! 早く抜け出さないと)
だが、力任せに離そうにもフランは吸血鬼の力でがっしりと刃にくっついており、また快楽に抗うために精神を集中させているため妖力や霊力を使うことも無理だった。
「フラン、起きろ。フラン! 早く俺から離れろ。血を吸うの止めてくれ!」
大慌てて大声で相棒となった者の名を呼び、懇願する刃。
「うっ、うぅぅぅぅん。あに? うるひゃいよ」
そのかいあってかフランは起きるが、首に牙を刺したまま喋ったため、新たな刺激が快感と言う名の電流になって刃の体を走る。
「ふぉぉぉ。フラン。お前は今俺の血を吸ってるんだ。早く口を離してくれぇぇぇ」
快感に流されそうになる体を必死に理性で抑え、再度離すよう頼む刃。
「え?」
これにようやくフランは刃の血を吸っていること気付き。
「…………」
しばし考えた後。
「わと五分」
まるでもう少し寝るように言い、吸血を再開した。しかも寝ているときよりも強く。
「ふぁぁぁぁぁっ。ちょ、やめて。後、五分なんて耐えられないぃぃぃぃ」
それから一分もしないうちに騒ぎを聞きつけてやって来たレミリアと咲夜により、刃は新世界の扉を開くことも、一線を超えることも回避できたのだった。
次回はついに刃がフラン以外の紅魔館メンバーと話す回になります。