一緒に寝ていたフランに血を吸われ、その気持ちよさにあわや新世界の扉が開き、一線を超えかけた刃は吸血鬼にとっては朝食になる夕食に招待されていた。
場所は紅魔館の広間で様々な装飾があり、その中央には料理はまだ乗ってないが、ロウソクの燭台が乗った、白いテーブルクロスを掛けられたテーブルがあった。
まさしくテレビに出てくるようなこの食事に刃は。
「…………」
フランに血を吸われたため、まるで大試合を終えたボクサーのように真っ白に燃え尽きていた。と言うことはない。
フランに吸血され、また体力を消耗したことを聞きつけたパチュリーが回復魔法を掛け、それが効いたため刃はまだ疲れが少し残るものの、普通に席に着いていた。
そして刃の他にレミリア、フラン、パチュリーが席に付き、咲夜、小悪魔、美鈴が傍に控えている。
「まずは初めして。この紅魔館の主にして、貴方が相棒になってくれたフランの姉、レミリア・スカーレットよ」
ここでレミリアは椅子から立ち上がる。
「そして既にフランから聞いていると思うけど、私は貴方のことが信じられなくて拘束しようとしたわ。でも、貴方はそれにも関わらずフランとの衝突防いでくれた。無意識だったのかもしれないけど、それでもありがとう。そしてごめんなさい」
刃に向かってレミリアは深々と頭を下げる。
「頭を上げてください! 実際あんな風に現れたら誰だって疑います。それにも関わらず寝床を用意してもらい、食事にも招待してもらいむしろ感謝しています」
これに慌てて刃も立ち上がり敬語でそう言う。
何せ相手は紅魔館の主、それに頭を下げさせたとなれば周りが黙ってはいないと思ったのだ。
また、喧嘩を仲裁したことを感謝されることは良いが、自身で言った通り疑われて当然と思っていたので謝られても困る。
「そう言ってもらえると助かるわ。でも、貴方は長い拘束からようやく抜け出したというのに自由よりフランを選んでくれた。しかも、それまでに身体のあちこちをフランに破壊されたと言うのに。それでいてフランを殺さず、対等の立場で共に居ることを約束してくれた。
そんな妹の相棒を姉として信じてやれることが、受け入れることが私は出来なかったのよ。頭を下げるのは当然、何より私自身が許せないわ」
頭を上げつつ言うレミリアの顔には後悔の二文字が浮かんでいた。
「…………」
対し刃は掛ける言葉が見つからず困惑していた。
そんな刃を見てレミリアは笑みを浮かべながらため息を付く。
「……全く、貴方は被害者なんだから素直に私のお礼と謝罪を受け取りなさい。それで私も楽になるし、場の雰囲気も柔らかくなる。それとも、このまま私を楽にせず、このまま重い雰囲気で話を進めていくのかしら?」
「いっ、いえ、ではありがたくお礼と謝罪を受け取ります」
どこか意地悪に聞くレミリアに刃は動揺するもそう言う。
「よろしい。……って、何か違うような。まあ、良いわ。この話はここまで」
言って、レミリアは席に付き、刃も安心して席に着いた。
「さて、フランからもう聞いているけど、良かったら貴方から名前を教えてもらえるかしら? 後、苗字だとややこしいからレミリアで良いわよ、それにフランのことも普通に呼んであげて」
レミリアは表情を緩ませ、自己紹介を刃に促す。
「分かりました。私の名前は古刀刃と申します。昨日……ですかね? 付喪神になった刀です。私も刃と呼んで貰って構いません」
疑問形になったのは付喪神になったのが地下、寝て起きたら夜だったため、正確な時間経過を把握出来ていなかったためだ。
「昨日で問題ないわ。さて、食事に入る前に貴方の今後のことについて決めておきたいのだけど、よろしくて?」
どうやら問題ないようだ。
そして、フランの相棒になった時点で刃が恐れていた話題が出てきた。
(これって、やっぱり俺はあれになるのかな?)
十中八、九なるだろう未来の自分の職業になるべく顔に出さないよう、内心頭を抱えて了承する。
「大丈夫です。どうぞ」
「なら、単刀直入に聞くけど、貴方はこの館、紅魔館に何か永続的に利益をもたらすような技能、あるいは知識を持っている?」
レミリアの質問に刃は自分のことを思い出す。
(生前の自分は怠惰を象徴していただけに論外。刀になってから戦闘に関する知識が機能の御陰で蓄えられてはいるが、これが紅魔館に役立つかは不明だから却下。その間に知ったその他の知識もまた同じ。付喪神になってから霊力に加えて妖力、魔力、神力が使えるようになったが、なったばかりだから利益になるかどうか以前に使い慣れていない。うん、何もないな。畜生)
「無いですね。すみません」
刃は申し訳なさそうに頭を下げる。
「いえ、良いのよ。貴方がここを出ていこうとしていたことを聞いた時から予想はしていたから。それに無理矢理引き止めたのはこっちだからあまり気にしないで。ただ、妹の相棒だからと言う理由で何の見返りもなく住まわせるわけにもいかないの。だからここで働く気はない?」
「あります。ですが私がここで働くとしたら何をすることになるのでしょうか?」
レミリアの問いに刃は即答し、その内容を聞く。
刃の予想としてはメイドだが、もしもそれ以外、例えば風俗や娼婦のような仕事をさせられるようなら断るつもりだった。
フランとの約束をさっそく破ることになるが、それで割り切れるほど女の体に刃は馴染んでいない。と言うか馴染んでも嫌だった。
「もちろんメイドよ。内容は使用人兼警備員、後は私の私兵と言ったところかしら。指導はメイド長の咲夜が直々にしてくれるわ。そして貴方にはフランの専属メイドになってもらうわ。どうかしら?」
レミリアから伝えられた内容は概ね予想通りで、フランの専属メイドと言うのは意外だったが、刃的に問題はない。
いや、問題はあるにはある。
(恐れた内容でなかったのは良かったけど……、はぁ、俺もメイド服を着るのか)
刃は生前男であり、メイド服は女性が着るのも。
コスプレイヤーだったか、女装趣味があればまた違ったかもしれないが、刃はどちらでもなかった。
もちろん今は女の体で、容姿も悪くないから着ても誰も変には思わないだろう。
しかし、心が男であるためやはり恥ずかしいし、出来れば着たくない。
(と言うわけにもいかないよな。やっぱり)
刃はフランの相棒になり、死ぬか結婚するまで一緒に居ると約束した。
メイドになってメイド服を着るくらいは我慢しなくてはならない。
(とほほほ……)
「大丈夫です。むしろこちらからお願いします。どうか私を雇ってください」
内心涙を流しながら刃は顔に出さないように再びレミリアに頭を下げる。
「何か哀愁が漂っている気がするけど、よろしい。貴方を紅魔館のメイドとして採用するわ」
(鋭いなぁ)
「ありがとうございます。お嬢様」
レミリアの感の良さに驚きながら刃は雇ってもらえたことにお礼を言う。
「でも、今日一日くらいは客人として扱うから、今は気を抜いていて良いわよ。だから私のことはまだレミリアで良いわ」
「分かりました。レミリアさん」
「じゃあ、無事、刃が紅魔館の住人になることも決定したし、みんな自己紹介してちょうだい」
レミリアがそう言うとまず初めに口を開いたのはパチュリーだった。
「パチュリー・ノーレッジ。私もパチュリーで良いわ。レミィの親友で紅魔館にある図書館の館長をやっているから、もしも分からないこと、特に魔法について聞きたいことがあったら来なさい。後、体の方は大丈夫?」
「はい。全快とは言えませんが、大分楽になりました。パチュリーさん。改めてありがとうございます」
「そう何度も言わなくていいわよ。だけど、どういたしまして」
そう言って少し微笑んでパチュリーは黙り、次は咲夜が前に出る。
「レミリアお嬢様の従者兼紅魔館メイド長、十六夜咲夜です。私も咲夜と呼んでください。お嬢様の説明にあったとおり、貴方様の指導を担当させて頂きます。厳しく行きますので覚悟していて下さい」
「咲夜さん。指導のほう、よろしくお願いします。ですが、何で敬語何ですか? 聞く限り私は貴方の部下になるはずですが」
「貴方が今日一日は紅魔館の客人だからです。ですから気にしないで大丈夫ですよ」
(それで気にしない人は居ないと思う)
「分かりました。お気遣いありがとうございます」
内心突っ込みを入れつつ、刃は咲夜の対応に感謝する。
「いえいえ、どういたしまして」
そう言って咲夜は下がり、次は小悪魔が前に出る。
「パチュリー様の使い魔兼図書館の司書をしている小悪魔です。本名はちゃんとあるんですが、制約があって話せないんです。だから小悪魔で問題ないです。これからよろしくお願いしますね。刃ちゃん。それともしも妹様との夜と……」
「コア。ご苦労様。もう下がっていいわ」
「……はい」
パチュリーの放つオーラに小悪魔は渋々下がり、美鈴が出てくる。
「紅魔館の門番をしている紅美鈴です。もちろん私も美鈴でいいですよ。武術には自信があるから興味があったら聞きに来て下さいね。他にも悩み事とかあったら相談に乗ります。そして、これからよろしくお願いします。刃ちゃん」
「こちらこそよろしくお願いします。美鈴さん」
この刃の言葉を聞いて美鈴は下がった。
「これで主要メンバー全員の自己紹介が終わったわね。それじゃあ、フラン。喋っても良いわよ」
レミリアがフランのほうを向き、そう言う。
「ぷはぁ。ようやく喋れる」
少々大げさな動作をしつつフランは口を開いた。と言ってもこの部屋に入る前に大事な話をするから許可を出すまで黙っていてとレミリアに言われ、目に見えて我慢していたからしょうがなかったと言えなくもない。
「ご苦労様」
そんなフランに刃は労いの言葉を掛ける。
これに周りが少し微笑むが本人は気づかない。
「うん。それにしてもそっちの喋り方のほうが女の子っぽいね。違和感バリバリだけど」
「さすがにこう言う場では敬語が望まれますからね。それにフラン。あの口調が男っぽいのは自覚していますが、私は一応女ですからね」
言っていて悲しくなるセリフを言いながら刃は敬語でフランを注意した。
「え。何で私にまでその敬語!?」
どうやら自分にまでされると思っていなかったようでフランが驚く。
「ややこしいからです」
と言う刃にレミリアが声を掛ける。
「あら、別に普段の口調で良いわよ。今の貴方は客人なんだし」
「レミリアさん。確かに今は客人ですが、明日からは私は紅魔館のメイドですよ。いくらなんでも……」
「なら、許可するし、必要なら命令するわ。だって今日を逃したら当分貴方の素の口調が聞けそうにないもの」
どうやらレミリアは刃の普段の口調に少しばかり興味を持ったようだ。
刃はチラッと咲夜のほうを見る。すると咲夜は頷いて大丈夫と伝えてきた。
「はぁ、分かったよ。レミリアさん。これでいいかな?」
それでも困った表情をしながら刃は要望に答える。
「ええ、それじゃあ、咲夜。料理を運んで頂戴」
「畏まりました。お嬢様」
満足したのかレミリアは咲夜に合図。これに咲夜が頷くと一瞬にしてロウソクの燭台しか無かったテーブルに色とりどりの料理が並ぶ。
しかし、朝食に当たる夕食なのでその内容は軽目のものが多かった。
「まだ夕食……貴方から言えば朝食になるから今回は軽目だけど、昼食に当たる夜食、夕食に当たる朝食は段階的に重くなっていくから期待して頂戴」
「……ああ、うん。期待してるよ。でも、一瞬で料理が。凄いな」
レミリアの言葉を一応聞いているが、刃はそれよりも目の前に一瞬で料理が現れた現象に驚いていた。
(原作知識で知ってはいたが、目の当たりにすると……。そりゃ、ポルナレフも混乱するわけだ)
他の漫画のキャラを思い出しながら絶対に敵対したくねぇと思う刃だった。
「ふふ。やっぱり咲夜の時を操る程度の能力のほうが気になるかしら」
そう、レミリアが言う咲夜の持つ、もう別にお前が六ボスで良くね? と言いたくなるようなこの能力は。
「……時を操る程度の能力」
思わず刃は能力名を言い返す。
「ええ、詳しいことは本人に聞くと良いけど、咲夜はこれを使って時を止めたり、空間を広げたりしているわ」
(改めて聞くと強力な上に汎用性が高いな。対して俺の能力は強力とは言え汎用性が低いし、使い道が少ない上、融通がきかない)
壊れない程度の能力。その内容は既に説明した通りだが、効果範囲が本体である打刀のみで、霊力で作られた仮初の体は対象外。このせいで戦闘では打刀以外は普通に傷つくことはフランとの戦いで証明済み。
今のところ戦闘以外で役に立っている部分と言えば、能力の効果により得た完全記憶能力ぐらい。
(確かにこれは役に立つが、何というか地味だ)
二次創作でよく見た割と使えて、尚且つ強力な能力を持つオリ主たちを羨ましく思いながら刃は内心ため息をつく。
「何と言うか、便利だなぁ」
「でしょ。でも、今はそんなことより料理を食べましょ。冷めてしまうわ」
「そうだな。ではいただきます」
「どうぞ。召し上がれ。咲夜の料理は美味しいわよ」
レミリアの言葉に賛同し、手を合わせて刃はスプーンを手に取る。
そしてスープを掬い、口に含み。
(こっ、これは!)
口から電流が走ったようにその感覚が体全体に染み渡る。
まるで長い間感じていなかった感覚に体が、いや、刃の場合は心だろうか。とにかく感激し、思わず目から大量の涙が出る。
(ああ、そうか。これはそう言う感じで、俺は……)
涙を流しながら、久方振りに感じるその感覚に身を委ねながら、刃は他の料理を手に取り、さらに涙を流す。
「ね、ねぇ。刃。そんなに美味しい? 確かに私も咲夜の料理は美味しいと思うけど……」
「そうね。喜んでくれるのは嬉しいけど、些かオーバー過ぎない?」
そんな刃に困惑し、フランとレミリアがそう聞いてくる。
他のメンバーも同様に視線が刃に集まっている。
「……すみません。久しぶりに。……本当に久しぶりに食べる料理が美味しくて」
そう言って、刃は再び料理を手に取る。
失礼なのは分かっているが、我慢できなくて。
打刀になってから一番何が辛かったか?
そう聞かれれば色々とあるが、必ず最初に上げるのはものを食べられないことだろう。
食事をする使い手や周りを見て、何度羨ましいと思ったことか。
「おかわりが欲しければいつでも仰ってください。すぐにお持ちいたします」
その刃に咲夜が優しく声を掛け。
「……ありがとうございます」
刃は一言お礼を言い、料理を食べる作業に戻った。
「…………」
他の者は無言で刃を見つめ、レミリア、フラン、パチュリーは何か考えるように料理を手にとった。
「……すみません。楽しくなるはずの朝食をあんなにして」
朝食を終えて、刃は顔を赤くしながらレミリアを初めとした一同に頭を下げる。
「いえ、良いのよ。料理を喜んでくれたのは確かだし、それにフランから貴方が長い間窮屈な思いをしていたのは知っているから」
「ありがとうございます」
気にしなくていいと言うレミリアに刃はお礼を言う。
「ねぇ、刃。貴方は一体どれ程の間刀だったの? とにかく長いってのは聞いてたけど」
続いてフランが疑問に思ったことを言った。
料理であそこまで涙を流せば当然だろう。
「そう聞かれても俺には時間を計る能力も機能も無かったからなぁ」
聞かれても答えようのない質問に刃は困った表情になる。
「なら、貴方が刀になって間もない頃に、誰もが知っていそうな。それこそ今でも語り継がれるようなことはない? もしかしたらそれで分かるかも」
そこにさすがは図書館の館長と言いたくなるような方法で時間を計ろうとするパチュリー。
刃は腕を組み、少し記憶を掘り起こし。
(あっ、そう言えば)
生前の自分でも知っている名称と名前を思い出す。
「俺が居た国の帝(みかど)と呼ばれる人が住んでいたところがたいらのみやこ、確か今は平安京と呼ばれていて、そこが出来たばかりだと初めての使い手から聞いたな」
刃が落ちていたのは平安京。それを最初に拾ったのは駆け出しの退魔師だった。
(あれ、そうなると俺は……)
「平安京が出来たばかり! ちょっと、待ちなさい。それが本当だとすると貴方は約千年前の元人間と言うことになるわよ。あるいはそれ以上。本当にそれは刀になった頃に聞いたことなの?」
自分が発した言葉に正確な年数が分かりそうなところで、パチュリーが驚きながらそれを言った。
(千年か……。そりゃ、長いわ)
「多分、間違いないと思う」
内心その事実を噛み締めながら刃はパチュリーにそう答える。
本当は能力の恩恵で忘れていないはずなのだが、実際に忘れてないか確認してないのでそのことは黙っておくことにした。
「……よく千年間も耐えられたわね。これもフランから聞いたけど、貴方喋ることも身動きすることも、さらに寝ることもできなかったんでしょう?」
「意識が半分起きて、半分寝ている、自分でも言っていて分からない不可思議な状態だったんだ。その御陰で耐えることが出来たんだ。まあ、狂って現実を認識出来なくなっていたほうが楽だったと思うけど」
驚嘆するレミリアに刃は自虐気味にそう言った。
その時だった。フランが席から立ち上がり逃げるように部屋から出ていったのは。
「フラン!?」
姉であるレミリアの呼び止めも聞かず。
これに刃はため息をつき。
「すみません」
と言って席から立ち上がる。
「刃!? 貴方まさか……」
「フランと。相棒と話がしたいので少し席を外して良いかな?」
慌てるレミリアに刃は安心させるように笑顔でそう告げた。
「! え、ええ。よろしくってよ。妹を、フランをお願い。美鈴、案内を」
一瞬驚き、されど笑顔になりレミリアはそう頼む。
「任せてくれ。あいつは俺の相棒だからな」
「分かりました、お嬢様。刃ちゃん。こっちです」
レミリアに力強くそう言い、刃は先導する美鈴に付いて部屋を出ていくのだった。
次回は何故フランが飛び出したのか? になります。
ちなみに今回咲夜さんが言った通り刃は客人扱いなので、美鈴と小悪魔も敬語になってます。ちゃん付けで読んでますけど。
後、気付いた人も居るでしょうが、うちの小悪魔は……どうしてこうなったんだろう?