「じゃー、これで晴れて ラグナ君はボクのギルドの一員! 冒険者になった訳だねっ」
「はーい、よろしくおねがいしまーす!」
はーい、と手を挙げるラグナ。
レムは、それを見てやっぱり中々納得と言うものが出来なくなってしまっていた。神様とは 人族を、数多の種族を作り出した云わば地上に住む人族全ての頂点だ。その様な存在が、本来であれば首を垂れて、傅かなければならない、とも思ってしまう。
何より――レム自身と神は、決して無関係ではないのだから。
なのに、ラグナはシルヴィの下に付くも同然の冒険者になってしまっていて、シルヴィはケロッとしている。純粋に新しい冒険者が生まれて嬉しい! と言った様子。楽しそうに笑っている姿は、人族のそれと大差ない印象だった。
「うん? オレの顔に何かついてるか? レム」
レムは 考え込んでいるうちに、いつの間にか、ラグナの顔を凝視していた様だ。
ラグナはラグナで、猫耳美少女であるレムに見られるのは悪い気はしない様なので、ニコニコと笑っていた。
単純に許してくれた事が嬉しかった、と言うのもあるのだろう。
「いえ……。貴方は、神様……っぽくないな、と思いまして」
「へ?」
「あー……はははは。確かにそうだよね。ボクの時も似たような感想だったし」
「そうなのですか?」
「うん。そーなの。天黄の塔の異変に気付いて、向かった所にラグナ君がいてね。最初はボクもしっかりとしてたんだよ? でも……」
シルヴィがちらっ、とラグナを見た。
ラグナも意図を察したようで、両手を腰に当てて、胸を張りながら答える。
「神様命令です! 敬語要らない、頭下げない、崇めない祀らない普通に接する事! 敬語で話されるのはむず痒い!」
「って感じなんだそうだよ」
「そ、そうですか……。それはそれは」
引き攣った笑みを浮かべるレム。
ラグナの人柄がそれなりに判ってきたから、神様、と言う名を除いたとすれば、確かに嫌いそうな気はあると思えていた。
話は先に進み、ラグナの事になった。
「それでラグナ君の住む所だけどさ。この街一番の豪邸位は直ぐに用意できるよ。ボクの権限ででも」
胸を張ってそう答えるシルヴィ。
冒険者ギルドの長ともなれば、相応の顔も聞き、更に財力もあるのだろう。けれど、ラグナは それを聞いて喜ぶ姿は見せてなく、何かを考えこむ仕草をしていて……。
「いや、最初はとりあえず 冒険者っぽく宿屋で良いんだけど」
「へ? どーして??」
「ほら、スタートラインに立てた所で、いきなり豪邸! ってなーんかまたチート使ったみたいで、格好悪いんだよね」
「ちーと?? なんですか、それ」
「あー、悪いこっちの話。だから、冒険者は冒険者らしく、クエスト重ねてお金貯めて、どーんと一国一城を狙ってみるよ!」
ぐっ、と力強く拳を握るラグナ。
いえいえ、
「(最初の観光とかはどこいったんだろ?)ま、良いかな。じゃあ、今回はボクを護衛してくれた、って依頼。天黄の塔から街までの護衛を達成してくれた、って事で2泊3日くらいは出来る依頼料を払う、って事でどうかな? 無一文なんだよね? それじゃ宿には泊まれないし、今から稼ぐっていうのもちょっと無理あるし」
「(冒険を始める時って、大体 少額と最弱部類の武器をプレゼントされて~っていうのが定番だよなー)んっ、それでOK! ありがたーく頂戴するよ」
「よっし。交渉成立! と言う訳で今日はゆっくりと休んで、また明日。色々と話をしようか、ラグナ君」
「りょーかい」
手を挙げて背を向けた。その先にはレムもいて。
「宿の場所、判りますか?」
「あ……、判んないや」
「はぁ……、本当にこんな感じみたいですね。少々抜けた所のある神様もいる、と言う事でしょうか」
呆れられてしまった。だが、レムの表情は最初と比べたら格段に明るく、そして友好的だった。
「でも、私はそちらの方が良いと思います。接しやすく話しやすく、そして打ち解けやすい」
「おっ? そう?」
「はい。ですが、街であまり大っぴらに神様と名乗らない方が良いかと思います。信仰心の高い者は神を名乗るものを良しとするとは思えません。故に無用ないざこざに巻き込まれてしまうかもしれませんので」
「確かになぁ……。ぽろっ、と言ってしまうかもしれないが。その辺りはシルヴィやレムがフォローしてくれると助かるんだけど」
「…………」
レムが黙ってしまった。何か悪い事言ったのか? と思っていた時。
「私と、行動を共に、と言う事でしょうか?」
「へ?」
「いえ、私やシルヴィにフォローを、と言ってましたので。シルヴィはギルドマスターの仕事があり、そこまで時間が取れるとは思えませんし」
「あー」
忘れそうだった。シルヴィはシルヴィで仕事があり、冒険者たちに依頼書を発行したり、適正度を見分けたり、と相応に頭を使う難しい役職な筈だった。今回も偶々天黄の塔に向かっただけで、普段は恐らく。
「そうだよね。今回は事情が事情だったからボクが向かっただけだし」
「ギルマス直々に~っていうのも中々凄かったりしないか?」
「うぅ~ん、頼める人いなかったからね」
天黄の塔の調査の難易度が並ではない、と言うのが判る瞬間だった。ギルドの長故に相応の力を持ち合わせている、と言う事も同時に。
「じゃあ、レムさん。ラグナ君を宿にお願いしても良いかな?」
「はい。大丈夫です。……私も彼には聞いてみたい事が沢山ありますので」
レムの表情は柔らかいものになっていたが、その瞳の奥には何か強い決意の様な、真剣味を帯びた何かが出てきていたのがシルヴィには見て取れた。
そんなレムを見て軽く笑う。
「宜しくね。ラグナ君も、レムさんに変な事しないよーに」
「信用ないなー」
「えー、ラグナ君って、前科何犯目かな~?」
「うわっ、ヤメテー、それ!」
あはは、と笑いながら 2人を見送るシルヴィ。
レムとラグナがいなくなった所で、シルヴィは視線をゆっくりと細めた。
「まだ完全に信じた訳じゃないとは思うけど。レムさんがラグナ君に……、神様に興味ない訳ないよね。ずっと、ずっと……内に秘めている凶悪な物、抱えているんだから。ひょっとしたら、彼ならそれを………」
シルヴィはそう考えていたのだが、安易な結論は出せずにいた。
何故なら、如何に彼が神様だったとしても、レムの内に秘めた
そして、その後はさして話をする事もなく宿屋へと向かった。
話をしなかった訳は、レムの様子がギルドを出た時から変わった、と言う所にあった。何か考え込んでいるのだろう真剣さが全面に出ていて、リアルとは違うこの世界ででも、ラグナは話しかける事にためらいが出てしまったのだ。
そして、たどり着いた宿屋。
看板に宿屋の名が書かれているが、どうしても読めない。
「(んー、確か宿屋のキャラ設定って……)」
あまり多いとは言えない記憶を頼りに、ラグナは記憶の中に探りを入れる。確かキャラクターの設定は、街全員とはいかずとも、プレイヤー達が頻繁に利用する宿では決めていた筈だった。
そして、その記憶は直ぐに開かれる。ここの主と話をした瞬間から。
「こんばんはっ☆ 宿屋《安心亭》の
「そうそう、こんな感じ。……性格がちょっと厄介設定だったっけ?」
「んっん~~?? なーんか失礼な言葉が聞こえてきたと思うけど~~★ 泊まりたくないのかな?」
「いえいえいえ~ こっちの話だよ~。メイちゃんの事じゃないってば~」
「ん~ それならギリでOK~ かなっ?」
ほっと一息するラグナ。
ここの子は、非常に怖い設定になっている、と言う小ネタがある。そして
――宿屋に泊まりますか?――
□ YES
□ NO ←
何度も話しかけてはNOを選ぶ。それを十回繰り返すと、異様な、妖艶な、暗黒なオーラをバックに。
『―――冷やかすなら、追い出すよ?』
と言われ、それでも拒むと街の外まで見えない力で吹き飛ばされてしまうのだ。プレイヤーのレベル関係なく。
故に、クロスレヴェリ内では《鬼のメイちゃん》と恐れられていたりする。
現物と対峙したら、容姿は非常に可愛らしいのだが、何だかこの子にだけは モフモフタッチは出来ない気がしてならなかったラグナだった。
「こほんっ、とりあえず一部屋頼めるかな?? 空きはある?」
「もっちろんだよー、お兄さん! 直ぐに鍵、用意するね~」
ひょこひょこっ、と耳と尻尾をふりふりさせる姿は可愛いんだけど、その先にあるものが怖い。パンドラの箱を開けるというのはこのことなのだ、と妙に納得できてしまっていた。
「あの……」
「あっ、ごめんね~☆ レムちゃんもお帰り~~。クエストは無事達成できたかな?」
「はい。……少し時間がかかってしまいましたが、何とか」
「怪我無く良かったにゃ~! レムちゃんの鍵も直ぐ用意するね~」
メイちゃんがレムの部屋と新規の部屋の鍵を用意しようとした時だ。
「すみません。彼も私と同じ部屋に。……相部屋にする事は可能ですか?」
「にゃ? だいじょうb「にゃんだってー!? あ、愛部屋!」……おにいさーん? 静かにして欲しいにゃ? それに間違えてると思うにゃ~」
「ごめんなさい……」
突然の申し出に、勿論、状態異常 混乱大 を受けてしまったラグナ。出会いは最悪な印象だったと思っているから。……神様だから? と言うのが正解だと思うが、それでも同棲生活を一緒にしよう、と猫耳の美少女、レムから提案されるとは思ってもなかった。
「彼は田舎の方からこの街へ来た初心者。駆け出しの冒険者です。色々と教えておいてくれ、とギルドマスターから承ってますので」
「へ?(そーだったっけ?)」
「シルヴィちゃんから? 判った~♪ 全然問題ないよんっ♪ ただ、彼の分の料金は当然もらうにゃん?」
「勿論です」
レムが追加料金を払おうとしたが、そこは流石に手を伸ばした。
「いやいや、シルヴィからお金貰ってるし、それは払うって」
「……いいえ、此処は支払います。……貴方には話がありますので」
レムは有無を言わせない迫力で……、と言うより さっさと払ってしまっていた。
「じゃー お兄さんは、レムちゃんのお部屋で~♪ いくらレムちゃんが可愛いからって、いたずらしちゃ駄目だゾ☆」
「やだな~。そんなこと~~」
「もー、男の子なんだからっ♪ た、だー あまりうるさくし過ぎると~………判ってるよね?」
「………イエス・マァム」