フォフォイのフォイ   作:Dacla

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誤字脱字のご指摘、ありがとうございました


初めての空抜けて・1

 入学後初めての週末、土曜の午前は杖の登録で丸々潰れた。

 

 魔法省から来た役人が、新入生と杖の情報を紐づけた上で、その杖に反応型の魔法を付与していく。杖の至近距離で何らかの魔法が発生すると、その杖の位置情報が魔法省に通知されるというものだ。これはホグワーツ入学直後に施される処理で、成人する年の誕生日まで効果は持続するという。原作にあった、「未成年の魔法使い付近で魔法が使われると、その痕跡(匂い)が残る」という設定に当たる事務手続きだ。

 同時に、杖の所持許可に関する手続きもさせられた。他人を害することもできる道具なのだから、公的機関に登録するのは自然な話だ。無許可で杖を持つ者もいるそうだが、善良な市民はだいたい身分証代わりに登録している。

 

「見た目はおんなじ」

 登録した杖をじっくり眺めながらクラッブが唸った。横でゴイルが杖を振るう。

「振り心地も」

「そうだな。でもこれでもう、魔法を使えるのは学校や家、成人した魔法使いと一緒の時だけになったからな。気を付けろよ」

と俺はクラッブとゴイルに念を押した。

 彼らを初めとした一年生の多くは、「今後もホグワーツで魔法を学ぶ人は、ここにサインして下さいね」というふわっとした説明を受けて、何となく同意書に署名しただけだ。しっかり理解していたのは、説明の場に法律書を持ち込んでメモを取っていた、ハーマイオニーくらいだろう。

 

「もう昼だ。腹減った」

「じゃあ少し早いけど食べに行くか」

 ノットもまもなく登録を終え、四人で広間に足を向けた。休日のブランチと洒落込んでいる者もいて、それなりに賑わっている。

 

 午後をどう過ごそうかと喋っていると、隣の女子上級生たちの会話が耳に入った。

「うちのチーム、今年のメンバーはもうほぼ確定らしいけど、新人テストどうするんだろうね」

「一応やるんじゃない? 控えは欲しいだろうし。試しに受けてみれば?」

「やだあ。怖いもん。ボール当たったら痛そうだし」

「だよねえ。クィディッチなんて観てるだけでいいわ」

「私も。髪ボサボサになるから絶対無理」

 

 彼女たちの話題はあっという間に髪の手入れに移っていった。俺たちは「クィディッチ」の単語に顔を見合わせた。

 

「……名門チームのエースも、競技人生の始まりは学生クィディッチだ」

と、なぜか声を潜めてノットが言った。

「ドラコ、受けてみれば」とクラッブが俺を見る。ゴイルも頷いた。

 俺は手を振った。「自分の箒も持ち込めない一年坊が出る幕じゃないさ」やりたいスポーツでもない。

「何で持ち込めないんだ」

「ぼくが知るか。先生に聞け」

 

 すると横から、「来週から飛行の授業があるから、その先生に聞くといい」と、声が飛んできた。

 昼食にやってきた上級生が、女子グループとは反対側の俺たちの横に腰掛けた。「さっき掲示板に張り出されてた。後で見てみな」

 

「ねえグラハム、今年もクィディッチのトライアウトやるの?」と女子グループの一人が、俺たちの後ろから彼に尋ねた。

「あるよ。きみたちも興味があるなら受けてくれよ」と、彼も俺たちの背中越しに彼女たちに答えた。「優秀な新人は常時募集中だ」

「応援専門ならやってあげてもいいけどね」

「ねー」

 笑って断ると、少女たちはきゃいきゃい笑った。

 

 グラハムと呼ばれた男子生徒は、じっと見ているクラッブたちに、「ごめんな。一年生は選手になれないんだ」と済まなさそうに言った。

 

          ◇

 

 寮に戻ってみると、確かに談話室の掲示板に新しい連絡が貼られていた。第一学年。飛行術クラス(必修)の開講。木曜日。そしてグリフィンドールとの合同授業だった。

 

 掲示を眺めていると、同じく一年のマローンが隣に立った。

「マルフォイは飛んだことあるか」

「ああ。ヘリにぶつかりそうになったこともある」

 

 一月ほど前、入学前最後のツーリングに出掛けた際のことだ。上空で警察のヘリに出くわした。するとパブで飲み過ぎたイースが、風車に立ち向かうドンキホーテよろしくヘリに突進していった。こちらは魔法で姿を消していて、ヘリ側に回避してもらうことはできない。ぶつかれば大惨事になる。咄嗟に俺がイースに並んで体ごと幅寄せして、どうにか難を逃れた。その時にヘリの足にあやうく接触しそうになった。後でイースには平謝りされたが、二度とあんな真似はしたくない。

 

「ヘリって、あの喧しい音がするマグルの乗り物だろ。何でぶつかりそうになるまで気付かなかったんだ」

 友人が酔っ払ったせい、というのはあまり子供らしい理由ではない。「気付いていたさ。色々あったんだよ」

「ふーん。……まあ、ぼくも初乗りの時に停めかたが分からなくて、いつのまにかドーバー越えてて困ったけどさ」

 マローンは言うことがいちいち大袈裟だった。

 

 俺たちが掲示板前で喋っているので、寮に戻ってきた他の一年生も掲示を確認しに寄ってきた。

「授業で遊べるのか。やった」

「家の箒持ってきたかったな」

 男子が心待ちにする一方で、女子の関心は低かった。

「あー箒だってー。気が重いよー」

「私、乗ったことないけど、絶対スカートめくれるよね。やだなあ」

 

 授業があることを確認しただけで、彼女たちはさっさと去っていった。残るは男子ばかりなり。

 一瞬、談話室に沈黙が満ちた。

 

「諸君、集合」

 マローンの厳かな呼びかけと同時に、一年生男子は談話室の隅に集まった。

 

「女子のスカートって、めくれやすいのか」

 口火を切ったのはデンテイトだ。そそっかしいがその分フットワークが軽く、実習でも一番最初に動き始めることが多い。

「うちの姉さんが仕立てる時に見たけど、スカート単体だとそれなりに翻るよ。でもローブを着るとガードされるんだ」

 無邪気に答えるのは、少し幼い感じのするサッカラム。四年生の姉がいる。

「翻りかたなんてスカート丈次第だ」

 何ということか。知性ある発言はクラッブだ。

「姉さんのは膝くらいだったかな」

「グリフィンドールは膝上丈の女子が多いよな。スリザリンは普通」

「いや、変わんないよ。ブルストロードがちょい長いくらいで、どっちも全体的には膝上だ」

「誰か箒、跨いでみろ」

 マローンの呼びかけに、リバニーから借りた長めの杖を箒に見立ててデンテイトが跨いでみせる。

「見える? 見えちゃう?」

とグレイバー。ザビニと連んでいること以外は目立つ点のない少年だが、今は友人を置き去りにしてウキウキしている。

 デンテイトのローブの裾を持ち上げ、「向かい風だったら絶対見えるよ」とサッカラムが朗らかに言った。それを受けて、リバニーとノットの控え目コンビは、授業の場所と季節の風向きを調べ始めた。サッカラムはその間もばっさばっさと級友のローブの裾を振り、デンテイトから蹴られていた。

「前もいいけど、後ろは?」

 グレイバーの問いに「後ろは駄目だ」とゴイルが厳しい顔で指摘し、「普通はローブと一緒に箒と尻の間に挟み込む」と補足したクラッブと頷き合った。

 

 授業でも見たことのない熱心さで、彼らは女子のスカートの中を自然に見るための検討会を始めた。

 いつのまにか輪の外側にいた俺とザビニは、何となく呆れ顔を見合わせた。

 

 するとマローンがこちらに気が付いた。

「おいそこの二人。なに格好付けてんだ。チャンスなんだぞ。マルフォイは飛行が得意だっていうなら、知恵を貸せ」

「気が乗らないな」成人ならともかく、子供の下着なんて見ても仕方ない。

「なんだよ。パーキンソンので足りてるとでも……」

 言いかけたマローンの口を、ゴイルがさっと塞いだ。春の茶会での出来事を知っている者も慌てて、「今のは無し!」と取り繕いながらこちらの様子を窺った。

 

 俺は大袈裟に溜息を吐き、彼らの輪に参加した。こういう事は何をやるかよりも、皆でわいわい盛り上がること自体に意味がある。

 ザビニもグレイバーに引っ張られて、ふて腐れた顔で加わった。

 

 俺は同級生を見回して言った。

「いいか。きみたちは肝心なことを忘れている。これは授業だ。生徒は皆同じ方向を向いて同じ動作をすることになる。飛行中に向かい合うような危険な真似は、教師が許さないだろう」

「つまり、前からは見られない?」

「そんな、ひどい!」

「だったらどうしろっていうんだ!」

 

 髪を掻き毟る少年たちに向かって、俺はドラコの顔でふふんと笑った。

「焦るな。初回は無いかも知れないが、飛ぶのが苦手な生徒を得意な生徒が補助する機会がきっと来る。女子は飛行に苦手意識があるものとして、ぼくたちがエスコートがてら補助に付く」

「ほうほう、それで」

 相槌を受けて話を続ける。

「さりげなく箒を支えたりしてやる間に、女子のローブとスカートの後ろを、尻の下から引っ張り出してやる。その状態で飛んでもらえば――」

「後ろか下から拝めるってわけだな!」

「俺たちが覗くんじゃなくてアクシデントで見えちゃったもんは、女子だって怒れないよな」

「さすがマルフォイ、やることが汚い!」

 

 少年たちからの拍手に、俺は「ありがとう」と片手で答えた。穴だらけの作戦だが、成功しなくても一体感が出ればそれでいい。そこへ「でも」と、グレイバーが情けない顔をして声を上げた。

「マルフォイのエスコートなら女子も素直に受けるだろうけど、俺は駄目だ。嫌がられる」

 それで他の数人も諦めかけたのを見て、ザビニが鼻で笑った。顔のいい奴はこれだから嫌いだ。

 

 俺はグレイバーの背をポンと叩いた。「誰がやったって不審がられるさ。いきなりならな。だから予め、スリザリンの男子は級友に飛行を楽しんでもらうためなら積極的に動く、というところを女子に見せておくんだ」

「手伝うから一緒に飛ぼうよ、楽しいよ、って?」とサッカラムが首を傾げた。

 グレイバーが恐る恐る発言した。「あの、……そもそも実は俺、箒に乗ったことがないんだ」

 ぼくも、とリバニーも呟いた。「女子をサポートするとか、よく考えたら無理かも」

「大丈夫。授業では学校の箒を使う、とあるから、先に良い箒を確保して女子に渡すだけでも印象は違うさ」

「女のご機嫌を取ってるだけじゃないか」とザビニが口を挟んだが、

「グリフィンドールの奴らに良い箒が渡らないってだけでもいいだろ」

と言われて不機嫌に黙り込んだ。

「初乗りなら、良い箒に乗りたいね」と俺が笑いかけると、リバニーとグレイバーは安心した顔で頷いた。

 

 サッカラムが「学校の箒は古くて癖の付いたやつが多いって、姉さんが言ってたよ」と披露すると、

「それじゃ早めに確保する意味は普通にあるな」とマローンが時間割を調べ始めた。

 ノットが言う。「前の教室から直接行っても、十分は掛かる。寮に荷物を置きに戻ると、十五分くらいは掛かる」

「飛行の授業なんて、一年だけなんだろ。だったら授業の直前じゃなくても、箒自体はもっと前から空いてそうだけど、どうかな」

「だったらちょっと行って、倉庫の鍵借りてくる」

 言うなり駆け出そうとするデンテイトを「待て待て」と皆で引き留めた。

 

「鍵を借りるなら当日でいいよ。それより学校のボロ箒の中から、マシなのを選べる奴はいるか」

 マローンの呼びかけに、クラッブとゴイルとノットがこちらを見た。

 

 俺は控えめに指を上げた。「バランスの良し悪しなら分かると思う。悪い箒は軸がぶれているんだ」イースと箒屋の店員にあれこれ教わった新人箒乗りの、俄知識が役に立つ時が来た。

「それじゃ箒選びはマルフォイに任せる。俺たちはどうしたらいい?」

 いきなりの丸投げ。

「きみたちの好きなように動けばいいじゃないか」おじさんは青少年の自主性に任せたいよ。

「いや、作戦を考えたドラコが指揮を執れ」と、ノットが言う。

 少年たちも皆こちらを見ている。

 

 それでは、と俺は口を開いた。

「だったら当日、できれば一つ前の授業が始まるよりも前に、倉庫の鍵を確保してほしい。誰か真面目な奴とデンテイトが一緒に授業の準備をしたいと申し出れば、先生も不審がらずに鍵を貸してくれるだろう。他寮に邪魔されたり意地悪で鍵を取り上げられたりしないよう、気を付けてくれ。

 鍵を貸してくれてもくれなくても、飛行授業直前の休み時間が勝負だ。三つのチームに分かれよう。一つは倉庫に急行して箒を確保するチーム。二つ目はその護衛。三つ目はみんなの荷物と杖を預かるチームだ」

「一番目は分かるけど、二番目と三番目は何?」

「二つ目は護衛というか、不測の事態に備える遊軍かな。グラウンドに行くまでの間に、他寮やピーブスにちょっかいを出されるかも知れない。そのせいで箒を調達するチームが足止めを食らわないように、身を挺して守るチームだ。何事もなく倉庫まで行けたら、その後は箒選びを手伝ってほしい」

「三番目は何だよ」

「倉庫に直行した子たちの荷物を、教室に放置しておけないからね。飛行の授業は持ち物不要、荷物と杖は寮に置いてくること、と掲示にはある。だから他の二チームの分もまとめて、荷物を寮に運んでくれる兵站チームが欲しい。杖という、魔法使いの相棒を預かる大事な役目だ。一番重要なチームだから、人数は十分に欲しい。ぼくも箒選びに自信がある子がいたら役目を譲って、三番目のチームに入りたい」

 少年たちは顔を見合わせた。

 

 残念ながら地味な役目にドラコを回してくれることはなかったが、チーム分けは思ったよりすんなりと決まった。

 調達チームは俺、他のチームでは危険だとみなされた華奢なサッカラム、このプロジェクトの言い出しっぺのマローン。護衛チームは斬り込み隊長気質のデンテイトと、体の大きなクラッブとゴイル。兵站チームはリバニーとノットの堅実な二人が中心となって、斜に構えたザビニをグレイバーが引っ張る。

「あー、なんか楽しくなってきた!」

 大声を上げたのはマローンだったが、それはスリザリン一年男子の思いを代弁したものだった。

 

 ところが週明け早々、一同の期待は打ち砕かれた。デンテイトが「飛行の授業は、男子も女子もサポーターを履くんだってさ」と衝撃の情報を持ち込んだからだ。

 


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