王なる少女と見る世界   作:星の空

11 / 11
第10話 ブルックの町とライセン大峡谷

 

王宮を出発してから数日、俺達はライセン大峡谷に近い町、ブルックに辿り着いた。

ステータスプレートの提示をして町中に入り、まずはギルドに向かう。

ギルドの中は意外に清潔さが保たれた場所だった。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっているようだ。何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。誰ひとり酒を注文していないことからすると、元々、酒は置いていないのかもしれない。酔っ払いたいなら酒場に行けということだろう。

冒険者ギルドに入ると当たり前のように他の冒険者に見つめられる。俺達は気にすること無く、カウンターに行き、受付嬢に挨拶をする。

「いらっしゃい、今日はどのような件で来たのかしら?」

カウンターには恰幅なオバちゃんがおり、声を掛けてくれた。

「ん?この町は通りがかりでな。今日はこの町で1泊と食料の補充をと思って来たんだが………ギルド推薦の宿とかあるか?」

「あらそうかい?それならこれを参考にしな。この町について書かれてるからね。」

オバちゃんに渡されたガイドマップを見ると、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とはちょっと信じられないくらいの出来である。

「おいおい、いいのか? こんな立派な地図を無料で。十分金が取れるレベルだと思うんだが……」

「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」

オバチャンの優秀さがやばかった。この人何でこんな辺境のギルドで受付とかやってんの?とツッコミを入れたくなるレベルである。きっと壮絶なドラマがあるに違いない。

「へぇ、それじゃあまぁ、もう行くぜ。帰りがけも寄るかもしれねぇから達者でな。」

「ばいばーい!」

ギルドを出たらある宿に向かう。宿の名はマサカの宿。英霊達には人格者のポルテ嬢以外は霊体化して貰い、俺達は中に入る。

カウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。

「いらっしゃいませー、ようこそ“マサカの宿”へ!本日はお泊りですか?それともお食事だけですか?」

「宿泊だ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」

先程ポルテ嬢に渡しておいたオバチャン特製地図をポルテ嬢が見せると合点がいったように頷く女の子。

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

「1泊だけの宿泊で、3人部屋が2つと食事、風呂も付けてくれ。」

「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」

女の子が時間帯表を見せる。なるべくゆっくり入りたいので、男女で分けるとして3時間は確保したい。その旨を伝えると「えっ、二時間も!?」と驚かれたが、日本の風呂というものに触れて以来英霊達では人気なのだ。だが、今日は我慢してもらうことにした。

「分かりました!では212号室と213号室の鍵おを渡しします。お帰りの際はこの籠に返却をお願い致します。」

「了解。」

212号室の鍵をポルテ嬢に預け、ポルテ嬢とアルトリア、鈴は付いていき、俺、瓸、アランは213号室に入る。

その日は何事もなく眠れて、翌日に用意された朝食を食べた後、鍵を返却して出る。

町を出る前に軽く観光して、ある服屋を見つけた。ポルテ嬢以外が魔王城に入る様な覚悟をして中に入る。

「あら~ん、いらっしゃい♥あら?久しぶりねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♥」

そう、此処はクリスタベルの営む服屋である。

「そうか。それじゃあ見繕って貰うか。」

6人分×4程頼む事にした。

採寸から始まり、似合う服を見繕って貰った。

「よし、これでいいわねぇん。大ちゃん恵里ちゃん、B-3とA-8、D-5とY-5、J-1とT-4、それから……………………を持ってきて頂戴!」

店の奥からクリスタベルが言ったものを持ってきた檜山と中村が現れた。

「これらで合ってるっスか?姉御(・・)!」

「ちゃんと確認したんだから大丈夫でしょう?」

「「「「「一体何があった?」」」」」

以前の檜山はキチだったが今では立派な舎弟となっており、中村は以前のお淑やかさを眼鏡と共に棄てて本心を顕にしていた。

あまりの変わりように以前を知っている俺達は固まってしまった。

「ンを?おぉ、燚氷姉妹(・・)さん達じゃないっスか!久しぶりっスねぇ!あの時の俺っちはどうかしてやしたからねぇ。連れてかれた後、女心って奴を叩きつけられて俺っちのしていた事が裏目に出ちまってたことを知っちまいやしたけ、ほんと、馬鹿っすよねぇ。もし、南雲さんが現れたら速攻で土下座っス!」

「大ちゃん大ちゃん、喋りたいのもわかるけど、先に終わらせてからにしてねぇん?」

「あ、はいっス!」

 

すちゃちゃちゃちゃッ!!!!!!!!

 

たったの数秒で俺達の買った服を袋に詰めて渡してきた。ちなみに中村は何かすることがまだあるのかそそくさと店奥に戻って行っている。

「あ、そうだ。檜山、中村にも伝えてて欲しいんだが、皆はあの悪夢……ベヒモスを討伐したぞ。前回は連携もクソもなかったが今回は連携のゴリ押しでいけた。」

「へぇ、皆は前に進んでるんスね。俺っちも俺っちなりに追いついて見せるっすよ。」

「俺達はもう行くぜ?帰り際に寄るかもしれないがな。じゃあな。」

檜山と中村がクリスタベルに矯正されて危険がもう無いことが分かり、それはそれで良かったと思いつつもクリスタベルの店を出て、そのまま町を周りつつ食糧を購入してから町を出た。

この道を真っ直ぐ進んだらライセン大峡谷に着くそうなので俺達は少し離れた場所で異空間から潜水車を取り出して乗り込み、直進する。

実はこの時、南雲ハジメ一行とすれ違っているのだが、誰も気づいてなかったりする。

 

✲✲✲

 

「メイル・メルジーネの遺跡を魔術獲得前に調べといて良かったぁ〜」

鈴がこんなことを言うのは先程アキレウスが言った一言が原因だ。

「なぁマスター。ライセン大峡谷にライセンの置いた大迷宮があるのは分かるが入口が何処にあるのかなんてわかんのか?」

『えっ…………』

となり、潜水車から降りてライセン大峡谷入口から入念に探そうとしたところ、魔方陣に乗る前に見つけたメイル・メルジーネの手記を鈴が見つけて回収していたのだ。その手記には各迷宮の攻略に欠かせない情報がかなりあった。

オルクス大迷宮は全200階層ある。

ライセン大峡谷は入口が一枚岩と谷の壁の隙間。

グリューエン大火山とメルジーネ海底遺跡は流れですること。

バーン神山は他の迷宮2つ攻略の上に神に反逆する意志を持つと攻略。

ハルツィナ樹海は4つの証と再生魔術が最低限必要。

シュネー雪原は自分の心と向き合うとあった。

このうち、バーン神山とグリューエン大火山、メルジーネ海底遺跡はその通りだったのでこれは有力だと思い、その通り探したら、あったのだ。降りて隙間に近づいたのだが、こう書いてあった。

“おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪”

と、壁を直接削って作ったのであろう見事な装飾の長方形型の看板があり、それに反して妙に女の子らしい丸っこい字で掘られていた。

“!”や“♪”のマークが妙に凝っている所が何とも腹立たしい。

英霊達には霊体化して貰い、中に入る。

隙間の奥に来たのだが、何も無い。皆であれこれ触っていたら

 

ガコンッ!

 

と、からくり屋敷のように壁がひっくり返り、俺達は中に引き込まれた。

引き込まれて周りを見るが、それと言って何も無い。

と、思えば………

 

ヒュヒュヒュヒュヒュッ!!!!!!!!

 

矢が勢いよく飛んできたので掴み取って投げ返した。

『……………………なんだったんだ今の…………』

霊体化を解いた英霊達もしょうも無さ過ぎてポカンとしていた。

すると、周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出す。ハジメ達のいる場所は、十メートル四方の部屋で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びていた。そして部屋の中央には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた。

“ビビった?ねぇ、ビビっちゃた? チビってたりして、ニヤニヤ”

“それとも怪我した?もしかして誰か死んじゃった?……ぶふっ”

俺達の中でも短気な方であるアキレウスが無言で壁を破壊。かなり奥まで窪んだ。

「ふぅ、先に行こうぜ?」

何事も無かったかのように振る舞うアキレウス。皆もそれなりに思うところがあるのか無言で先を進む。

直感スキルが強い俺とアルトリアを先頭に進むことで罠を掻い潜り、ごちゃごちゃな壁の部屋に着き、分かれ道があるが、迷わず左に曲がる。色々なポーズで動くというある種の黒歴史を開発しながら進むこと数時間。

途中虫が大量に敷き詰まっていた部屋があったが、全てを氷床の下敷きにして降り立ち、次の道である穴に進んだり、天井が落下してきたりしたがこちらには数々の死闘を乗り越えた英雄達+‪α。天井を砕いて押しつぶされることなく進む。

中には、勝手にトラップが作動して、定番な球体岩が転がって来るものもあったが砕かれ、第2発目の球は鋼であったがこれも砕いて先に進んだりもした。その先の溶解液プールは凍らせて意味をなくさせたりして、とうとう最奥の部屋に着いた。

その部屋は長方形型の奥行きがある大きな部屋だった。壁の両サイドには無数の窪みがあり騎士甲冑を纏い大剣と盾を装備した身長二メートルほど像が並び立っている。部屋の一番奥には大きな階段があり、その先には祭壇のような場所と奥の壁に荘厳な扉があった。祭壇の上には菱形の黄色い水晶のようなものが設置されている。

「これは定番だな。」

「はい。歩いていたら騎士像が動き出すパターンです。」

「動き出す前に破壊しない?」

「いや、あれは再生魔術がかかってるから消滅でないと倒せないぞ。」

「ふぅん、破壊の大王に任せたら?」

「これは悪い文明なのか?そうか。なら、破壊する!!!!」

今まで影の薄かったアルテラが涙目で聞いてきて、皆が頷いたら喜んで突っ込んで行った。しかも宝具を発動させて。そのおかげか、アルテラが通り過ぎたあとは摩擦熱で溶けた床と、完全に蒸発した騎士像無き土台しか残らなかった。

「………………ありがとなアルテラ。それじゃあ先に進みますか。」

進んだ先に大きな戸があり、アルテラは此処で待っていた。着いた所には祭壇があり、その上には菱形の黄色い水晶のようなものが設置されている。

戸を開こうと思ったのだが、開かず、封印されていた。

封印を解くのが面倒臭いと感じたので静寂の終剣(イルシオン)で1突きして強制解除。

戸を開けた後、行き止まりだったので直感的に入らず、適当に削り取った人数分の重さの岩を投げ入れて戸を閉める。

 

ガコンッ!!!!

 

その音がなって1分後に開くと、壁が無くなって先があった。

「…………俺の予想だが、あれん中入ってたら最初んとこ出てたろ?そう思うのは俺だけか?」

「いやいや、キャスターの言う通りだとオッチャンは思うんだけどねぇ。」

とりあえず奥に進むことにした。

奥には重力を無視した立方体が幾つもあり、動いていたので、ライダー以外は霊体化して貰い、ライダー2人の馬とチャリオットに乗り、奥を目指す。

その瞬間、近くにあったブロックに

 

ズゥガガガン!!

 

と、隕石が落下してきたのかと錯覚するような衝撃が直撃し木っ端微塵に爆砕した。隕石というのはあながち間違った表現ではないだろう。赤熱化する巨大な何かが落下してきて、ブロックを破壊すると勢いそのままに通り過ぎていったのだ。

「こりゃ英霊並の力量だな。」

隕石として落下してきたそれは、俺達の頭上にまで戻ってきて睥睨する。

俺達の目の前に現れたのは、宙に浮く超巨大なゴーレム騎士だった。全身甲冑はそのままだが、全長が二十メートル弱はある。右手はヒートナックルとでも言うのか赤熱化しており、先ほどブロックを爆砕したのはこれが原因かもしれない。左手には鎖がジャラジャラと巻きついていて、フレイル型のモーニングスターを装備している。

達が、巨体ゴーレムに身構えていると、周囲のゴーレム騎士達がヒュンヒュンと音を立てながら飛来し、俺達の周囲を囲むように並びだした。整列したゴーレム騎士達は胸の前で大剣を立てて構える。まるで王を前にして敬礼しているようだ。

すっかり包囲され俺達の間にも緊張感が高まる。辺りに静寂が満ち、まさに一触即発の状況。動いた瞬間、命をベットして殺し合い(ゲーム)が始まる。そんな予感をさせるほど張り詰めた空気を破ったのは…………巨体ゴーレムのふざけた挨拶だった。

「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」

『……………………』

それを聞いた俺達は真顔になって鈴とアラン、アーラシュとポルテ嬢以外は宝具発動の準備を開始した。

真顔で何も返さないからか、巨体ゴーレムは不機嫌そうな声を出した。声質は女性のものだ。

「あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ?全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ」

トータスの魔力と地球の魔力は質が少し違うため、巨大ゴーレムはあまり気にしてないようだ。

実にイラっとする話し方であった。しかも巨体ゴーレムは、燃え盛る右手と刺付き鉄球を付けた左手を肩まで待ち上げるとやたらと人間臭い動きで「やれやれだぜ」と言う様に肩を竦める仕草までした。普通にイラっとする俺達。

「……………………全力攻撃開始ぃぃぃ!!!!!!!!!!!!」

「─────輝けるは命の奔流……受けるがいい!約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!!」

「─────文明を破壊する…………軍神の剣(フォトン・レイ)!!」

「王家の百合永遠なれ───百合の花咲く豪華絢爛(フルール・ド・リス)!!」

「─────|凱旋を高らかに告げる虹弓《アルク・ドゥ・トリオンフ・ドゥ・レトワール》!」

「─────標的確認、方位角よし!不毀の極槍(ドゥウリンダナ・ピルム)!!!!」

「─────をも屠る魔の一撃……その身で味わえ!無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)!!!!!!!!」

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社───倒壊するは灼き尽くす炎の檻(ウィッカー・マン)!オラ、善悪問わず土に還りな───!」

「行くぜ!疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)!!」

GuOooooooooooo(射殺す百頭)!!!!!!!!」

「星に意思有り、それ即ち欲求持つ。星願う、静寂求むと。之は星の怒りの具現である……星起するは静寂の終剣(イルシオン・ステライズ)!!!!!!!!」

デオンが剣舞で両手足を切り裂き、アキレウスの宝具により巨大ゴーレムは撃墜し、落ちたのをウィッカー・マンが捕縛、不毀の極槍と無敗の紫靫草が穿たれ固定。

「えぇ、あれ?なんかやばい?え、ちょっ、ま、待って!!ストップストップストップストオォォォォップ!!!!!!!!」

巨大ゴーレムは自分の認知外の速さで動かれたことで認識できず、目の前には光の奔流と3色の奔流、虹の奔流、漆黒の奔流、9つの龍頭の閃光が全方位から受けて、消し飛んだ。

『…………………………あのウザかった言葉……発散させてもらった。』

行く先々にあるミレディの言葉にブチ切れていたようで、この一撃でだいぶスッキリしたようだ。

油断は命取り。それを鈴とアランは改めて思い知った光景だった。

ちなみに宝具の出力は皆1〜2割程である。

「それで、どうなるんだこれ?」

「あ、あそこに紋章が光ってるよ!」

クー・フーリンの呟きはスルーされて鈴が壁の方にライセンの紋章が輝いていたので、ライダー2人の馬とチャリオットに乗ってそちらに行き、触れる。

すると、光る壁は、まるで見計らったようなタイミングで発光を薄れさせていき、スっと音も立てずに発光部分の壁だけが手前に抜き取られた。奥には光沢のある白い壁で出来た通路が続いている。

俺達はライセンの寝床?まで進み、くぐり抜けた壁の向こうには……

「やっほー、さっきぶり!ミレディちゃんだよ!」

ちっこいミレディ・ゴーレムがいた。

『………………』

「あれぇ? あれぇ? テンション低いよぉ~? もっと驚いてもいいんだよぉ~? あっ、それとも驚きすぎても言葉が出ないとか? だったら、ドッキリ大成功ぉ~だね☆」

ちっこいミレディ・ゴーレムは、巨体版と異なり人間らしいデザインだ。華奢なボディに乳白色の長いローブを身に纏い、白い仮面を付けている。ニコちゃんマークなところが微妙に腹立たしい。そんなミニ・ミレディは、語尾にキラッ!と星が瞬かせながら、俺達が降り立った所に歩いて来る。

「……………………捕縛しろ、バーサーカー」

「GuOu!!!!!」

「うわキャッ!?な、なに!?…………えぇと、なんでございましょうか?」

バーサーカーに捕まったミレディは幽霊のように近づく嶺亜に言い様のない怖気が走った。

「………………そういや俺さ、空間魔術と再生魔術は試したから応用も作ってんだけど、一つだけ試してないのがあるんだ。」

 

ガシィッ!!!!

 

ミレディの顔面を鷲掴みにしながら俯いて言う。それが更に恐怖を引き立てる。

「えぇと、試したらいいんじゃない?」

「あぁ、試したい。試そうと思うんだ。いや、試すさ。身内は嫌だから身内外であるお前でなぁ!!!!!!!!!!!!」

「ヒィィィィィィッ!?!?!?」

「あ、お前らは休憩してていいゾ。俺は魂魄魔術を試そうと思うんだ。しばらくは待っててくれ。」

ミレディの顔面を鷲掴みにしたまま引きずって物陰に連れていく。他の皆はちゃぶ台やお茶、行きがけに作って置いた料理を広げて食べ出す。

 

「さてさてさーて、まずは錬成で寝台を造って此奴を固定。そしてもう1つ寝台を造って、肉体を置く。」

「…………ねぇ、さっき空間と再生、魂魄っていったよね?3つも攻略してるっぽいけどさ……それはなんの為に使うの?」

「帰還する方法を得るためだ。あんたらが言う神代魔法の大半が理を揺るがす様なもの。全ての神代魔法を手に入れたら概念を操る力でも手に入るんだろ?それなら穴を開けてここと元の世界を繋げてから帰ることが出来る。俺だけならレイシフトの応用やアビーの開けたSAN値削減の道を通って戻れるが、クラスメイト達もいるんだ。無事に連れ戻せないで何が英雄だ?英雄の一端を担ってんだ。この程度成し遂げなくてなんという?」

「さぁね。ってか何を準備してるのかしら?」

「ん?そんなの決まってんだろ?色々と注ぎ込んだ人間の身体だろうに。よし、始めるぞ。」

「えぇ、…………はい、分かりましたから頭掴まないで…………」

俺はミニ・ミレディ・ゴーレムからミレディの魂を抜き取って用意した肉体の中に埋め込む。そして、精神で肉体と魂を結びつけて浸透させる。

浸透させたら軽く電気ショックを与えて心臓を稼働させて起こす。

「ッ………………たぁ!?いったぁ!?いきなりビリッて来たよビリッて!!肌焼けたらどうすんのよ!?って肌?……あれれ〜?おっかしぃなぁ?引っ張ってた時に終わったら起こすし肉体も戻ってるって言ってたよね?ね?なんでそのまんまなのかな!?」

「戻ってるだろう………………人間の身体に。あんたがなんの目的でゴーレムなんぞに魂を宿したかは知らんが、それじゃあ楽しみたいことも楽しめないし、動きにも制限がかかるだろう。適当に造って置きっぱなしだった肉体を改良しておいたんだ。上手く使えよ。後で鏡でも見てみな。それにお客様のようだ。相手にしなくていいのか?」

「えぇ?うわっ!マジで来てるし!でも試練はあんたらにボコスコにされてほぼダメな状態だし修理は間に合わないし…………」

ミレディに次の挑戦者が来たことを教え、お節介ながらも試練を直しておいた。

「それなら時間を巻き戻して俺達が来る前の状態だ。あの巨大ゴーレムも元に戻ってるから遊んでやんな。まだ話すことがあるだろうから俺達はアンタの寝床で休ませてもらうよ。」

ミレディが挑戦者の相手をしている間に俺達は魔法陣に乗って重力魔術を獲得。

その後はミレディが休んでいるのであろう建物の中に入って休む事にした。

ミレディはミレディで挑戦者の反応が面白いのかプギャーとかブフッとか言っている。

部屋の中に攻略の証を見つけたから先に取って異空間に仕舞う。これで4つ揃ったのでハルツィナ樹海に行けるだろう。

そうこうしているうちに、1週間程たち、挑戦者達がここまで辿り着いたようだ。

外から、ドタバタ、ドカンバキッ、いやぁーなど悲鳴やら破壊音が聞こえていたが、俺達は気にすること無く過ごし、こんなことが聞こえた。

「おい、ミレディ。さっさと攻略の証を渡せ。それから、お前が持っている便利そうなアーティファクト類と感応石みたいな珍しい鉱物類も全部よこせ」

「……君、セリフが完全に強盗と同じだからね? 自覚ある?」

これには同感した。しかし、それだけでは終わらなかった。

「おい、それ“宝物庫”だろう? だったら、それごと渡せよ。どうせ中にアーティファクト入ってんだろうが」

「あ、あのねぇ~。これ以上渡すものはないよ。“宝物庫”も他のアーティファクトも迷宮の修繕とか維持管理とかに必要なものなんだから」

「知るか。寄越せ」

「あっ、こらダメだったら!」

なんと、この攻略者は大迷宮の機能を停止させる気である。まぁ、ミレディが眠っている間に複製して本物はこの部屋の奥にある倉庫に仕舞ってあるから渡しても問題ないが。

「ええ~い、あげないって言ってるでしょ!もう、帰れ!」

ミレディが飛翔する音と、

「逃げるなよ。俺はただ、攻略報酬として身ぐるみを置いていけと言ってるだけじゃないか。至って正当な要求だろうに」

「それを正当と言える君の価値観はどうかしてるよ! うぅ、いつもオーちゃんに言われてた事を私が言う様になるなんて……」

「ちなみに、そのオーちゃんとやらの迷宮で培った価値観だ」

「オーちゃぁーーん!!」

と聞こえてきた。こんな所でオルクス大迷宮の情報が手に入るとは。

追い詰められたのか、

「はぁ~、初めての攻略者がこんなキワモノだなんて……もぅ、いいや。君達を強制的に外に出すからねぇ! 戻ってきちゃダメよぉ!」

という言葉と紐が引かれる音が聞こえた。

その直後に

 

ガコンッ!!!!

 

と聞こえて、思わず立ち上がって周りを警戒する。しかし、杞憂に終わる。

外から水の流れる音と、元の世界でよく聞いていた音がした。

確か外は白い部屋で恐らく窪んだであろう中央の穴、そこに流れ込む渦巻く大量の水……それはまるで“便所”である!

「嫌なものは、水に流すに限るね☆」

嫌なことを聞いた。出ていくには便所に流されないといけない。それを知った英霊達は頷き合って何かを決めていた。

…………あいつら、霊体化する気だな。

「それじゃあねぇ~、迷宮攻略頑張りなよぉ~」

「ごぽっ……てめぇ、俺たちゃ汚物か!いつか絶対破壊してやるからなぁ!」

「ケホッ……許さない」

「殺ってやるですぅ!ふがっ」

攻略者達は捨て台詞を吐きながら、なすすべなく激流に呑まれ穴へと吸い込まれていったようだ。

その直後に爆音と共に「ひにゃああー!!」という女の悲鳴が響き渡った。

 

攻略者達に破壊されたものを時間を巻き戻して直し、泣き止んだミレディと向き合う。

「それで、貴方達は何故残ってるのかな?攻略の証と重力魔法を手に入れたんなら直ぐに出ていけばいいじゃん。…………直してくれたのは感謝するけど。」

「残った理由は聞きたかったんだよ。創世神エヒトは何処にいる?」

「?そんなの神界に決まってるじゃん。神界は神山の頂上からでないと入れないよ?神山の標高は2000メートルも高くておいそれと近づけない。」

「なんだ。そんな所にあったのか。たったの2000メートルくらいなら別に問題はねぇ。」

カルデアは標高6000メートルの高さにあるので、だいぶ慣れてはいる。

「聞きたいのってそれだけ?」

 

コテンッ

 

と、効果音が付くような仕草をしながら聞いてくるミレディ。

「いや、忠告だ。あんたは神界の抹消と共に死ぬ気だろ?神が1人でもいないと世界は崩れる。それを知ってて思ってんのか?俺の世界には軍神が少なくとも5人はいたから1人くらいいなくなっても問題は無いがこの世界は違う。神という存在が1人でもいないとならない。」

ちなみに地球には行く数多の神がいるし、真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)なんて言う存在もいる。だから問題ナッシング。

「え゛初耳なんですけど…………」

「そりゃあ星の声が聞こえてねぇからだな。そこで、神殺しをするとしても代わりの神が必要だ。」

「えぇと、まさかとは思いますが………………」

ミレディはだんだん理解してきたようだ。何故この肉体を与えたのか?何故いつまでも残り話をしようとしたのか?スキルにいつの間にか神託なんて言うおかしなものがあるのか?それは、

「うん、そのまさかさ。ミレディ・ライセン、あんたは神代から永らく生きる中で唯一過去を深く知っている存在。エヒトを殺った後にあんたはそこに立って貰う。あんたはエヒトとは違うから現状のような宗教戦争なんかを起こさないように努力出来るはずだ。」

「えぇ……私こんな性格だよ?嫌われるでしょ普通はさ。」

「逆にあんたみたいにサバサバした性格の方が安心するかもな。今みたいに神の悪口を言ったら神罰が降るわけでもないし。神界でひとりぼっちが嫌なら対策を寝ることも出来る。」

「うぅあぁもう分かった!分かりました!!こうなったらとことん最後まで付き合ってやるっての!!」

「よし、これで憂いはなくなった。あとは神殺しを成すだけだ。だが…………帰還用の力を手に入れないと神殺しと同時に消滅とか嫌だからね。」

1週間もここに滞在していた訳、エヒトを殺すと世界バランスが崩れてしまう可能性がある。そんな憂いを持っていた。しかし、エヒトと同期くらいの少女?であるミレディが残っていたので、彼女が神として君臨すればバランスは保たれ、邪魔を消すだけでいいではないか。となり、彼女が神になる覚悟が出来たそうなのでよし。

ハルツィナ樹海とシュネー雪原、オルクス大迷宮を突破したら、概念を操る力が手に入り、帰還も出来るだろう。

そしたら本格的に神殺しに入る。

目処が立って来たので少しウキウキだ。

「ゲート・オン。」

空間魔術でライセン大峡谷の迷宮入口に出入口を設定する。英霊達が先に出て魔物の対処、鈴とアラン、アルトリアも出て最後に俺はミレディを引っ張ってここを出る。

「あり?ありり?なんで私も出るんでせうか?」

「あ?一緒に行動してねぇと上手く連携出来ねぇじゃねぇか。互いを知ればその分動きやすいだろ?それに今のお前はゴーレムじゃなくて人間の身体なんだ。腹も減るだろ?だから連れていく。」

「えぇ……引きこもってたらダメ?」

「引きこもるなら一斉攻撃するがいいか?」

全員が武器を見せつけると、トラウマとなったのか真っ青になって首を振る。

俺は異空間から潜水車を出して乗り、皆も続く。

「ミレディちゃんも行こうぜ!この世界をエヒトの手から守り抜くためにさ!!」

最後にミレディの手を鈴が引っ張り、無理矢理中に入れてハルツィナ樹海に向けて出発をする。

打倒エヒトを掲げた一行はエヒトの思惑を崩すために第2の解放者(名乗りはしない)として動き出した。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。