第3話 異星への転移
「なぁ、何故にそこまで引っ付いとんお二人さん?」
月曜のこの日、登校中なのだが…………アルトリアと鈴が俺の両腕をとっている。
周りからの視線はいたい。しかし、この2人はアイコンタクトで何か話しているから気づいてない。
なんとか校庭までには離れてもらった。
教室に入り、自分の席に着いたらすぐに寝る。寝る訳は昨日また食われたのだ。ナニをとは言わない。
鈴とアルトリアは無言で向き合ってアイコンタクトで会話している。一体何を話しているのだろうか?
少ししたら南雲ハジメが教室に入ってきて…………
「よぉ、キモオタ!また、徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃ~ん」
何が面白いのかゲラゲラと笑い出す男子生徒達。
ハジメに声を掛けたのは檜山大介ひやま だいすけと言い、毎日飽きもせずに日課のようにハジメに絡んでいる生徒の筆頭だ。
近くで馬鹿笑いをしているのは斎藤良樹、近藤礼一、中野信治の取り巻きトリオで、檜山と合わせた四人が頻繁にハジメに絡んでいる。
ハジメについて知っている者は檜山らに不快な視線を送り、知らない者はハジメに冷たい視線を送っている。
檜山らに不快な視線を送っている者の中には檜山の恋の的である白崎香織も向けているのに檜山は気づかない。
ハジメは檜山らを華麗に避けて自分の席に着いていた。
そこに、ハジメが檜山らに虐められたり冷たい視線で見られる原因が来た。
「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」
二大女神が1人、白崎香織である。彼女は南雲に無自覚に恋しており、彼女をよく見ている二大女神のもう1人がその事に気づいているというおかしな形になっている。否、俺がおかしいと思うだけでそこまでおかしくないのか?まぁいい。
そんなことを内心思っていた。
「あ、ああ、おはよう白崎さん」
ハジメが白崎に挨拶を返すとハジメについて知らない者から嫉妬や侮蔑の視線を送る。中間地点に俺がいるため実に不愉快だ。
ハジメと白崎の下に三人の男女が近寄って行く。
「南雲君、おはよう。毎日大変ね」
「香織、また彼の世話を焼いているのか?全く、本当に香織は優しいな」
「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」
二大女神のもう1人、八重樫雫とキラキラネームの天之河光輝、脳筋の坂上龍太郎がそれぞれ言いながら声をかける。
それに苦笑いしながら返事をするハジメ。
八重樫も白崎に負けないくらい人気が高く、「てめぇ、何勝手に八重樫さんと話してんだ? アァ!?」という視線がハジメにグサグサと突き刺さっている。
そんなことに気づかない天之河一行。
「それが分かっているなら直すべきじゃないか? 何時までも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」
「いや~、あはは……」
天之河に目に、ハジメは白崎の行為を無碍にする不真面目な生徒に映っているようだ。
実体は全く違うのだが、天之河は自分の都合がいいことしか考えてないので反論しても別の解釈をして話を拗らせるからめんどくさい。
それが分かるハジメは笑ってやり過ごす以外の選択肢を取れずにいたし、俺もため息をつくことしか出来ずにいた。
「?光輝君、なに言ってるの?私は、私が南雲君と話したいから話してるだけだよ?」
そこに天然な白崎は爆弾投下。男子生徒達はギリッと歯を噛み締め呪い殺さんばかりにハジメを睨み、檜山達四人組に至っては何やら話し込んでいる。
「え?……ああ、ホント、香織は優しいよな」
ほんと呆れうす。ハジメともっといたいという意味を独りぼっちは可哀想と捉えたのだから。そして脳筋も脳筋だからか天之河に賛同している。
「……ごめんなさいね?二人共悪気はないのだけど……」
「仕方ないよ。……ありがとう、八重樫さん」
この場で最も人間関係や確認の心情を把握している八重樫が、こっそりハジメに謝罪する。
ハジメも八重樫に苦笑いをしながら心配してくれたことに対してお礼を告げてた。
始業のチャイムが鳴り先生が教室に入ってきた。
教室の空気のおかしさには慣れてしまったのか何事もないように朝の連絡事項を伝え、それを聞き終えたハジメはいつものように夢の世界に旅立っていた。
俺は起きてから先生の話を聞く。
ちなみに先生は2年連続畑山先生である。
昼休み
俺は適当に席を借りてくっつけて待つ。来たのはいつものメンバーだ。
俺とアルトリアは鈴が作る弁当のご飯で瓸は購買のサンドウィッチ。ハジメは10秒チャージと200円を瓸に払って瓸が購買から買ってきたホットドッグを食っている。瓸はオッサンなので昼飯をハジメの分まで買ってきてハジメはその分の料金を払う。
ただ、いつも違うのは寝惚けているのか教室から出ずに俺らと食べていることだ。
すると案の定、白崎がやってきた。
「南雲君。珍しいね、教室にいるの。お弁当?よかったら一緒にどうかな?」
再び教室に不穏な空気が漂い始める。
「あ〜、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、燈燐くんが買ってきてくれたこれで充分だから天之河くんたちと食べたらどうかな?」
そう言って食いかけのホットドッグを見せるハジメ。だが、無自覚に恋する天然にはその抵抗は虚しいぞ。
「えっ!?お昼それだけなの?駄目だよ、ちゃんと食べないと!私のお弁当、分けてあげるね!」
そしたら瓸はどうなんだ?という疑問は言ってはならないだろう。
そんな中さらに厄介者が来た。
「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」
そう、天之河である。
爽やかに笑いながら気障なセリフを吐く天之河君にキョトンとする白崎。
「え?何で、光輝君の許しがいるの?」
素で白崎が聞き返したことに思わず八重樫が「ブフッ!」と吹き出した。瓸に至っては飲んでた牛乳を鼻から垂らしている。
「はぁ…………」
ハジメがため息をつくと同時に天之河の足元に魔法陣が展開される。それに気づいた俺、アルトリア、鈴、瓸は身構える。俺に至っては小型の黒鍵を魔法陣にぶっ刺して阻止しようとしたのだが…………
魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たす程の大きさに拡大し、未だ教室にいた畑山先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。
畑山先生がいたので刃物である黒鍵を出すのに躊躇してしまったのが仇となった。俺はそれに悔やみつつ光に飲まれた。
鈴が咄嗟に近くの紙に鉛筆で「異世界に召喚されます。恐らくゲームか何かの感覚でやる奴が出て死人が出るかもしれませんがごめんなさい。」と書いて机に置いたのは見えた。ナイス。
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光が消えて最初に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。
縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせ、薄っすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。
背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むようにその人物は両手を広げている。
その人物から物色するような視線が、恐らく召喚した存在だろう者の視線が感じたのでLostBeltで敵対した神を殺した(事実)殺意を放つ。
クラスメイトらの小さなざわめきが聞こえてきたので周りを見渡す。
どうやら俺達は巨大な広間にいるらしいという事が分かった。
素材は大理石、或いはそれに近い材質の物だろう。美しい光沢を放つ滑らかな石作りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が掘られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。
大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間だった。
俺達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。
周りには呆然とした様子で周囲を見渡すクラスメートや愛子先生の姿がある。どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったみたいだ。
現状に対する可能な限りの分析を行いながら俺は周囲の観察をする。
この広間にいるのは俺達だけではなく少なくとも三十人近い人々が、俺達の載っている台座の前で、まるで祈りを捧げるように両手を胸の前で組んだ格好で跪いていた。
彼らは一様に白地に金の刺繍がなされた法衣のようなものを纏っており傍らには錫杖のような物を置いている。その錫杖は先端が扇形に広がっており円環の代わりに円盤が数枚吊り上げられている。
その内の1人、法衣集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。
彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音でハジメ達に話しかけた。
「ようこそトータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後宜しくお願い致しますぞ」
何が以後だ。俺は警戒心を最大限に出しつつ隠す。瓸に至っては支給品のヌンチャク兼槍となる物を片手に持ちいつでも展開可能にしていた。
ランゴバルドに促されて十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。
この部屋も例に漏れず煌びやかな作りであり、調度品や飾られた絵、そして壁紙は職人芸の粋を集めたものなのだろうと素人でも分かるだろう程のものだ。
恐らくは晩餐会などをする場所なのだろう。
此処に案内されるまで誰も対して騒がなかったのは未だ現実に認識が追い付いていないからだろう。
ランゴバルドが事情を説明すると告げた事や、カリスマのスキルが学校限定で王系サーヴァント並みに高い天之河が落ち着かせた事も理由だと思うが。
教師より教師らしく生徒達を纏めている姿に畑山先生が涙目だったが。
全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドが入ってきた。
日本産の某聖地にいるような似非メイドと比べれば美女・美少女メイドがしているが、両隣の2人のおかげ?で一切気にしなかった。
最も思春期男子なクラスメート達は憧れの本物のメイドに視線を惹き付けられ、飽くなき探究心と欲望のままにメイド達を凝視しているが。
全員に飲み物が行き渡るのを確認するとランゴバルドが話し始める。
「さて、貴方方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう言って始めたランゴバルドの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい身勝手なものだった。
まず、この世界はトータスと呼ばれている。
このトータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族の三つだ。
人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。
この内、人間族と魔人族は何百年も戦争を続けている。
魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差を人間族は数で対抗していたそうだ。
戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。それが、魔人族による魔物の使役である。
魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形の事だ、と言われている。
この世界の人々も正確な魔物の正体は分かっておらず、それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣との認識らしい。
今まで本能のまま活動する魔物を使役出来る者は殆どいなかったし、いたとしてもせいぜいは一、二匹程度使役するのが限界だったらしい。
だが、魔人族の手によってこの常識が覆された。これの意味する所は人間族側の“数”というアドバンテージが崩れたという事であり、つまり人間族は滅びの危機を迎えている。
なんともきな臭い話だ。てか、異星の神はクズだったのでここもそのはずである。
どうせ、崇める神同士が結託してこのトータル?トータス?の大地をチェスのゲーム板とかそんな感じにしているんだろう。
そして、飽きてきたから依り代を手に入れてこの大地を破壊しまくるといった所か?
貴方方を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するために貴方方を喚ばれた。貴方方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。貴方方という“救い”を送ると。貴方方には是非その力を発揮し、“エヒト様”の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
ランゴバルドは何処か恍惚とした表情を浮かべている。
恐らくは神託を聞いた時の事でも思い出しているのだろう。
ランゴバルドによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしいい。
俺は“神の意思”を疑い無く、それどころか嬉々とした様子で従うのであろうこの世界の歪さに言い知れぬ危機感を覚えていた。
それは俺達が英雄王ギルガメッシュによって神々との訣別を果たした世界に産まれたからこその意見なのだろう。だから、この世界が歪に思えるのかもしれない。
そんな時、突然立ち上がり、猛然と講義する人が現れた。畑山先生だ。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! 貴方達のしている事は唯の誘拐ですよ!」
怒りを露わにする愛子先生。
しかしながら百五十センチ程の低身長に童顔という見た目に加え、見ている者に庇護欲を感じさせてしまう性格のせいで、周りのクラスメート達は「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」などと和んでしまっている。
そんなクラスメート達も、次のランゴバルドの言葉には凍りついてしまう。
「お気持ちはお察しします。しかし……貴方方の帰還は現状では不可能です」
場に静寂が満ちた。あ、
俺が静寂の終剣に魔力を注ぐ中、割かし現実を受け入れてる奴ら以外の誰もが何を言われたのかわからないという表情でランゴバルドを見やる。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
「先ほど言ったように、貴方方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第という事ですな」
ランゴバルドがそんなことをほざくと共に、クラスメイトらが喚き散らす。
「嘘だろ? 帰れないってなんだよ!」
「嫌よ! 何でもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
誰もが狼狽える中、ランゴバルドは特に口を挟まず静かにその様子を眺めていた。
いや、その目の奥には確かな侮蔑が込められている。
今までの言動から考えると「エヒト様に選ばれておいて何故喜べないのか」とでも思っているのだろう。
俺は誰にもバレないようにランゴバルドに威圧を放つ。ランゴバルドが段々と汗をかいている。
未だパニックが収まらない中、天之河が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。
その音にビクッとなりクラスメートの皆は天之河へと注目する。
天之河は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始める。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無碍にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
厄介な事になった。そう思わずにはいられなかった。
天之河のカリスマが悪い方向に作用している。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
いつもの三人組が天之河に賛同する。
後は当然の流れというようにクラスメート達が賛同していく。
愛子先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えていたが、高いカリスマスキルを持つ天之河の作った流れの前では無力だった。
そこで俺は声をかけることにした。
「俺は断る。」
その一言にまた静寂が訪れた。
「何故だい?君は人を救う気は無いのかい!?嶺亜!?」
天之河が俺を批難する。それに続いて天之河ファンや他の賛同者が批難をする。
「当たり前だ。誰が好き好んで人殺しに加担しなければならんのだ?本当に救える力があるって言うんか?どうせ毎度お馴染みのご都合解釈と口先だけなんだろうが。逆に問うが、貴様には豪華客船1台しか直す力がある。そして、豪華客船が2台あり、片方は500人乗り、片方は100人乗っている。しかし、その両方が同時に沈没を始めた。お前はどうする?」
今の問の内容を理解した者は黙る。しかし、天之河は答えた。
「そんなもの両方救うに決まってるじゃないか!!!!」
「ブフッ!!!!アハハハハハハ!!!!御前さん話を聞いてたか!?そいつは豪華客船1台しか直す力があるって言ったんだ。よく思い出してみろ。「しか」って言ってんだから1台しか直せねんだよ。それを両方救うだ?ってか2台の距離がどれくらい離れてるのか分かってんのか?分からねぇんだから普通は答えれねぇよ。」
今まで黙っていた瓸がツボにハマったのか爆笑し出す。そして、指摘したらフルーツに手を出す。
「それは嶺亜が言い間違えたことだろう!?そうだろ、れ「ほら、自分が都合のいい事しか言わない。普通なら間違いなんだろうが、豪華客船1台を直す力があるが逆に言うと1台しか直せねぇという意味を持つ。それを態と略したのさ。国語の得意な園部はいち早く気づいたぜ?」……………………それでも、守れる者を守り、救える者を救うことの何が悪い!?」
「別に救いたきゃ救えよ。その代わり殺人鬼になるけどな。それに、皆を巻き込んでんじゃねぇよ。
そんなことを言ってとりあえず命を無駄にしないように取り計らったのだが、天之河が参戦を強く誇示しクラスメイトらは頷く。
結局、全員で戦争に参加する事になってしまった。
ランゴバルドは短時間で天之河がリーダーだと見抜く程の観察力があるのだろう。このままだとめんどくさい事になるので、俺はある覚悟を決めた。
(よし、こいつ等見捨てよ。)
アルトリアは元王、それに戦争の醜さを知るため、発言しようとしても無駄だと思ったのか深いため息と共に諦めていた。鈴はこれからが不安なのかいつもの笑顔がぎこちなかった。
✲✲✲
戦争参加の決意をした以上戦いの術を学ぶ必要がある。まぁ、俺とアルトリア、瓸は必要ないがな。
幾ら規格外の力を潜在的に持っていると言っても、平和主義にどっぷり浸かりきった日本の高校生がいきなり魔物や魔人と戦うことなど不可能な事だ。しかし、その辺の事情は当然予想していたらしく、ランゴバルド曰く、この聖教本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ体制が整っているらしい。
王国は聖教教会と密接な関係があり、聖教教会の崇める創世神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統ある国なのだそうだ。国の背後に教会があるのだからその繋がりの強さは誰だって分かることだろう。
俺達がやって来たのは聖教教会の正面門だ。これから下山しハイリヒ王国に行くらしい。
聖教教会は【神山】の頂上にあるらしく、凱旋門もかくやという荘厳な門を潜るとそこには雲海が広がっていた。
が、俺はそっちより入口真下の誰も気づいてない空洞があったのが気になり、御手洗と称して中に侵入。
そこはそれほど大きくはなく、光沢のある黒塗りの部屋で中央に魔法陣が描かれており、その傍には台座があって古びた本が置かれていた。
俺はとりあえずは精緻にして芸術的な魔法陣へと踏み込んだ。
すると、俺の深い部分に何かが入り込んでくる感覚がしてあまりに不快な感覚に一瞬罠かと疑うも、次の瞬間にはあっさり霧散してしまった。
「……魂魄魔法?」
とりあえずは気になるものを物色する。
脇の台座に歩み寄り、安置された本を手にとった。
どうやら、中身は大迷宮【神山】の創設者であるラウス・バーンという人物が書いた手記のようだ。オスカー・オルクスが持っていたものと同じで、解放者達との交流や、この【神山】で果てるまでのことが色々書かれていた。
俺は正直ラウス・バーンの人生などどうでもよく、彼がなぜ映像体?だったのかや魂魄魔法でミレディとやらのように生きながらえなかったのかも、懺悔混じりの言葉で理由が説明されていたが、スルーである。
そして、最後の辺りで、迷宮の攻略条件が記載されていたのだが、それによれば、先程の禿頭の男ラウス・バーンの映像体が案内に現れた時点で、攻略が認められるそうなのだが………。
「俺、ぶっちぎって飛ばしてんだが?」
というのも、最低二つ以上の大迷宮攻略の証を所持し、神に対して信仰心を持っていない事、あるいは神の力が作用している何らかの影響に打ち勝った事、という条件を満たす者の前にしか現れないそう。つまり、【神山】のコンセプトは、神に靡かない確固たる意志を有すること、のようだ。
しかし、俺はとりあえず入って手に入れたのであかんかもしれん。
まぁ、何かしらの役に立つだろうからいいが。
台座に本と共に置かれていた証の指輪を取ってここを出て待たせていたクラスメイトらの元に向かう。
何処か自慢気なランゴバルドに促されて先に進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。
台座には巨大な魔法陣が刻まれており、その魔法陣を成り立たせている術式の分析を試みるものの、やはり俺の見知らぬ方式で成り立っているが故に容易には解析が出来ない。
大聖堂で見たものと同じ素材で出来た美しい回廊を進みながら、促されるままにその台座の上に乗ると、ランゴバルドは何やら呪文を唱え始める。
「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん、“天道”」
その途端、足元の魔法陣が燦然と輝き出す。
まるでロープウェイのように滑らかに台座が動き出し、地上に向けて斜めに下っていく。
どうやら先程の詠唱はこのロープウェイを起動させるための魔術だったようだ。俺からすれば興奮するようなものではないが、魔術を初めて見るクラスメート達はキャッキャッと騒いでいる。雲海に突入する頃には大騒ぎだ。やがて、雲海を抜けて地上が見えてきた。眼科には大きな街、いや国が見える。
山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。あれがハイリヒ王国とやらの王都なのだろう。遠くから見た感じだと、正にザ・ファンタジーといった感じの城下町に見える。
いや、本当に素晴らしい演出だ。雲海を抜け天より降りたる“神の使徒”という構図そのまま。
そりゃあ聖教信者が教会関係者を神聖視する。それが普通の価値観じゃないか?
これだけの神秘性に満ちた光景を魅せられて神聖視しなかったら、それはよっぽどの天邪鬼か、或いは創世神エヒトを嫌っているものくらいだろう。
この世界には異世界に干渉出来る程の力を持った超常の存在が存在しており、文字通り“神の意思”を中心に世界は回っている。
自分達の帰還の可能性と同じく世界の行く末は創世神エヒトの思うがままなのだろう。
だが、俺らを連れてきたのが運の尽き。人と神の袂を別けた英雄王の逆鱗に既に触れた後。
異星トータスの神エヒトよ、刮目せよ貴様が攫いし子らの先達の神代の大英雄の力を……