王宮に到着すると俺達は真っ直ぐに玉座の間に案内された。
教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。
道中、騎士や文官らしき者、メイドや執事等の使用人とすれ違うのだが皆一様に期待に満ちた、或いは畏敬の念に満ちた眼差しを俺達へと向けてくる。
美しい意匠の凝らされた両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢を取っていた兵士二人がランゴバルドと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たずに扉を開け放った。
ランゴバルドはそれが当然というように悠々と扉を通り、それに続いて天之河等一部の者を除いたクラスメート達は恐る恐るといった感じで扉を潜る。
扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢な椅子―――玉座があった。
玉座の前で覇気と威厳を纏った初老の男が
正直、この対応には流石に驚かされた。教会の権威が高いことは分かっていたが、まさか王族に対して平気で無礼な行為を行える程にまで高かったとは。
本来なら中の返事を受けてから扉を開き、そこには玉座に座って待ち構える国王の姿があって然るべきなのだ。国王が立たされて待っているなど普通では考えられない事だ。
初老の男性の隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えている。更にレッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んでいる。
玉座の手前に着くと、ランゴバルドは俺達をそこに留め置き、自分は国王の隣へと進むと国王へとおもむろに手を差し出す。
すると国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程のキスを行う。
本当にこの世界での教会の権威は強大なようだ。王権神授説などというものが地球にもあるが、この世界の場合は王権教会授説となっているようだ。
「………………………………末期だな。」
俺はそんな現状を知って誰にも聞こえないように呟いた。
そこからは唯の自己紹介だ。
国王の名前はエリヒド・S・B・ハイリヒと言い、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女の名前はリリアーナだそうだ。
後は騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。
その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。
見た目は地球の洋食と殆ど変わらなかったが、たまにピンク色のソースや虹色に輝く飲み物という怪しい料理が出てきたが普通に美味しかった。
恐る恐る食べていたクラスメイトが多かったものの、ゲイザーの肉とかに比べたら色がおかしいくらいは気になる事ではなく、アルトリアは最初からバクバクと食べ進めていた。
王宮では俺達の衣食住が保証されている旨と訓練における教官達の紹介が成された。
教官達は現役の騎士団や宮廷魔法師から選ばれたようで、中にそこそこの実力者らしき者が数人いるのを見つける事が出来た。
晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずる与えられた部屋に案内された。
天蓋付きベッドなどの家具が設置されている豪奢な部屋である。
俺はこの部屋を丸ごと陣地作成で俺の領域にして安全を確保してからベッドにダイブするとそのまま深い眠りにつくのだった。
次日
翌日から早速訓練と座学が始まる事になった。
まず、集まった俺達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。
不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスさんが直々に説明を始めた。
「よし、全員に配り終わったな?このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
非常に気楽な喋り方をするメルド団長。
彼は豪放磊落な性格で、「これから戦友になろうってのに何時までも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいだ。
俺が神山で得たこの世界の真実を知り、七大迷宮を幾つか攻略したら神山の迷宮に入れるのではなかろうか?
俺としては好ましい存在だ。魂魄魔法(第三魔法天の杯の片足突っ込んだもの)で魂の結びつきを強固にしておこうか。
「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。“ステータスオープン”と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「アーティファクト?」
アーティファクトという聞き慣れない単語に天之河が質問をする。
「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」
よくあるファンタジー小説に出てくるようなそれと殆ど変わらないみたいだ。
俺は指先に針を刺すと血を魔法陣へと擦り付ける。元神代最後の騎士の1人として痛みに慣れている俺は兎も角、痛みに慣れていないクラスメート達は顔を顰めながら血を擦り付けた。
すると、魔法陣が一瞬淡く輝いてステータスプレートに文字が浮かび上がり始める。
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燚氷嶺亜 1569歳 男(の娘) レベル:1
天職:滅王(※1)
筋力:8000【B】
体力:19000【A+】
耐久:12500【A】
敏捷:37900【A++】
魔力:---【EX】
魔耐:---【EX】
技能:剣術[+
宝具:
ランク:EX・種別:対人(自身)・レンジ:1・最大捕捉:1
敵対者の魔力を伴う攻撃を全て無効する。永続効果。
ランク:EX・種別:対国・レンジ:1~∞・最大捕捉:1~∞
極光を放つタイプで大陸1つ消す程の威力。実際、レイシフト先のギリシャでアトランティス大陸を抹消してしまったことがある。
ランク:EX・種別:対世・レンジ:∞・最大捕捉:∞
星や宇宙、果ては概念すら終わらせる、完全な静寂たる「無」となる一撃。
ランク:EX・種別:????・レンジ:????・最大捕捉:????
全面が氷でできた固有結界。例えカルナの宝具、
※1・影の女王と同じように人以外の存在を多く殺したことで得た称号
※2・宝具
※3・風と氷、雷属性
※4・メタ発言
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ん?ンンン???
あれれ~、おっかしぃなぁ~?周り見たら雑魚すぎるんだがって、英霊予備軍である俺と一緒にしたらいけないか。
とりあえずは隠蔽しておこうか。
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燚氷嶺亜 17歳 男 レベル:1
天職:剣士
筋力:80
体力:90
耐久:52
敏捷:97
魔力:50
魔耐:50
技能:剣術・錬成・極地・直感・夜目・威圧・全属性耐性・限界突破・言語理解
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こんなもんだろう。アルトリアはどのようなものだろうか?
見せてもらうと、
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燚氷・P・アルトリア 17歳 女 レベル:1
天職:騎士王
筋力:B
敏捷:A
耐久:A
魔力:A+
幸運:B
技能:対魔力:A・騎乗:A・直感:A・魔力放出(※1):A
宝具:
ランク:C・種別:対人・レンジ:1~2・最大捕捉:1
アーサー王の剣を覆い隠す風で出来た第二の鞘。厳密には宝具というより魔術に該当する。幾重にも重なる空気の層が屈折率を変えることで覆った物を透明化させ不可視の剣へと変える。透明化は副次的な役割であり、その本質は彼女の余りにも有名すぎる剣を隠すためのもの。
ランク:A+・種別:対城・レンジ:1~99・最大捕捉:1000
アーサー王の聖剣エクスカリバー。
光の剣。人ではなく星に鍛えられた神造兵装であり、聖剣というカテゴリーの中で頂点に位置し、「空想の身でありながら最強」とも称される。人々の「こうあって欲しい」という願いが地上に蓄えられ、星の内部で結晶・精製された「
ランク:EX・種別:結界宝具・防御対象:1人
エクスカリバーの魔法の鞘と聖剣の鞘。「不老不死」の効果を有し、持ち主の老化を抑え、呪いを跳ね除け、傷を癒す。真名解放を行なうと、数百のパーツに分解して使用者の周囲に展開され、この世界では無い「妖精郷」に使用者の身を置かせることであらゆる攻撃・交信をシャットアウトして対象者を守る。それは防御というより遮断であり、この世界最強の守り。魔法の域にある宝具で、五つの魔法さえ寄せ付けず、多次元からの交信は六次元まで遮断する。
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…………………………彼女はいつ、燚氷となったのだろうか。とりあえずは隠蔽してから返す。隠蔽したのは面倒事を減らすためだ。瓸も面倒事が嫌だからか隠蔽を済ましていたし、鈴は魔術を知って少ししか経ってないのでそれと言って隠蔽しなければならないものは無い。
そうこうしていたらメルド団長が話を再開した。
「全員見れたか?説明するぞ?まず、最初に“レベル”があるだろう?それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」
どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。
むしろ、ステータスが上がるからレベルも上がるらしい。
「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させる事も出来る。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことは分かっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後で、お前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。何せ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」
いえ、自前の武具防具があるのでいりません。
メルド団長の言葉から推測するとどうやら魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということは無いらしい。はぐれメタルやメタルキングを倒して一気にステータスを上昇させるような事は出来ないみたいだ。
ステータスプレートとかゲームみたいなアイテムがあるというのに、妙に現実的なリアルファンタジーである。
「次に“天職”ってのがあるだろう?それは言うなれば“才能”だ。末尾にある“技能”と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな。後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
メルド団長の呼びかけに応え、早速、天之河がステータスの報告をしに前へ出た。
そのステータスは……
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天之河光輝 17歳 男 レベル:1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
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正に、主人公のそれだった。まぁ、クラス転移系の小説だったら敵に洗脳されて堕ちるタイプのそれである。
「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」
「いや~、あはは……」
成る程、成る程……技能は普通、二つか三つしか持ってないわけか。俺やアルトリアも多い方なのか。
次々とメルド団長に見せていき、ハジメの番となった。
ハジメのステータスは天職が練成師でステータスはオール10と来た。あぁあ、これ1番強くなる奴ほぼ決まったようなもんだろ。
そう思ってたら、始まった。ハジメ虐めが。
「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か?鍛治職でどうやって戦うんだよ?メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」
「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」
「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」
檜山の馬鹿にするような声が聞こえ、ハッとしてハジメの方へと視線を向ける。
すると、檜山はウザい感じでハジメと肩を組んでいた。
周りの生徒達―――特に男子はニヤニヤとした表情で嗤っている。
「さぁ、やってみないと分からないかな」
「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」
ハジメは投げやり気味にステータスプレートを渡す。
ハジメのプレートの内容を見て檜山は爆笑した。ハジメのプレートを斎藤達取り巻きに投げ渡し、内容を見た他のクラスメート達も爆笑なり失笑なりをしていく。
「ぶっはははっ~、何だこれ!完全に一般人じゃねぇか!」
「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」
「ヒァハハハ~、無理無理! 直ぐ死ぬってコイツ! 肉壁にもならねぇよ!」
正直、周りがウザイ。自分が良ければ…………自分の妬み相手が悪ければこう笑うなどと。戦争のSの字すら知らない小僧共が粋がるのがウザイ。威圧を放とうとしたが、萎れた。
俺よか先に動いた奴がいたからだ。そう、畑山先生だ。
「こらー! 何を笑っているんですか! 仲間を笑うなんて先生許しませんよ! ええ、先生は絶対許しません! 早くプレートを南雲君に返しなさい!」
檜山ら馬鹿にしていたヤツらも萎えたのかハジメにステータスプレートを返す。
「南雲君、気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君は一人じゃありませんからね!」
そう言って「ほらっ」と愛子先生はハジメに自分のステータスを見せた。
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畑山愛子 25歳 女 レベル:1
天職:作農師
筋力:5
体力:10
耐性:10
敏捷:5
魔力:100
魔耐:10
技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解
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ハジメは死んだ魚のような目をして遠くを見だした。
あぁ、畑山先生がまさか止めを刺すとは…………
これからが少し不安だ。