出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第88話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
梅雨side
「痛ぅ……」
「お茶子ちゃん。腕大丈夫?」
左腕をナイフで斬られたお茶子ちゃんを庇いながら、私は攻撃の主を睨みつける。私達の前に立っているのは、私達と同年代の女子。
「ん! んー…浅いし少ない」
趣味の悪いマスクにセーラー服。普通とは随分とかけ離れたセンスの持ち主ね。何より…
「急に斬りかかって来るなんて酷いじゃない。何なのあなた」
私達に問答無用で攻撃を仕掛けてきたという事は…
「トガです! 2人ともカァイイねぇ…麗日さんと蛙吹さん!」
何の躊躇いもなく自らをトガと名乗った
「名前バレとる…」
「体育祭かしら…何にせよ情報は割れてるって事ね。不利よ」
「名前だけじゃありませんよ。“個性”も戦い方も把握してます。体育祭のビデオは何回も見ましたから!」
「2人…ここにはいない八百万さんも合わせて3人は凄いですよねぇ。あの雄英体育祭で、男子に負けない大活躍。カァイイし強いし、最高です!」
…何なのかしら、この子。本気で私達を評価しているみたいだけど、同時に本気で私達を害しようとしてる…2面性という言葉で片付けるのは、やめた方が良さそうね。
「やっぱり、血が少ないとね、ダメです。普段は
「この機械は、刺すだけでチウチウするそうで、お仕事が大変捗るとの事でした。刺すね!」
そう言って、一直線に向かって来る
「来た!」
直前に相澤先生から戦闘許可が下りた事もあって、迎え撃とうと構えるお茶子ちゃん。
「お茶子ちゃん」
だけど、私はそんなお茶子ちゃんを舌で絡め取り、茂みの方へ投げ飛ばす。
「宿泊施設へ走って。戦闘許可は『
「梅雨ちゃんも!」
「もちろん私も…痛っ!」
お茶子ちゃんに続いて跳ぼうとした瞬間、舌先に走る鋭い痛み。
「レロ…」
ナイフで切られた? ナイフの間合いは把握していた筈…どうして?
「梅雨ちゃん♪」
その声と共に
「梅雨ちゃん…梅雨ちゃん♪」
「カァイイ呼び方。私もそう呼ぶね♪」
「やめて、そう呼んでほしいのは、お友達になりたい人だけなの」
私を梅雨ちゃんと呼ぶ
「やーじゃあ私もお友達ね! やったぁ!」
投げつけられた何かによって、私の髪が樹の幹に縫い付けられてしまったわ。
「梅雨ちゃん!」
「血ィ出てるねぇ、お友達の梅雨ちゃん! カァイイねぇ、血って私大好きだよ」
動けない私に抱きつこうとする
「梅雨ちゃんから離れて!」
私を助けようと、お茶子ちゃんが一直線に向かって来たわ。
「セイッ!」
お茶子ちゃんは、無造作に突き出されたナイフを紙一重で避けると同時に、手刀の一撃でナイフを叩き落とし―
「はぁぁぁぁぁっ!」
“個性”を発動しながら
「痛っ!」
投げ飛ばされるよりも早く、
「チウ、チウ…」
思わず膝をついたお茶子ちゃんから、少しずつ吸い取られていく血液。状況が動いたのは、その時よ。
「麗日!? 蛙吹!?」
「常闇ちゃん、皆…!」
奥の茂みから、常闇ちゃん達が飛び出して来たわ。常闇ちゃんが背負っているのは…障子ちゃん!?
「あっ、しまっ…」
常闇ちゃん達の登場に、お茶子ちゃんが一瞬気を取られた直後、お茶子ちゃんを突き飛ばして距離を取る
「人増えたので、殺されるのは嫌だから…バイバイ」
そう言い残して、森の奥へ消えて行ったわ。
「何だ、今の女は…」
「
合流し、素早く情報を交換する私達。1人残った轟ちゃんが心配だけど…私達がやるべき事は一刻も早く、宿泊施設へ向かう事ね。急ぎましょう。
出久side
「ウォーターホース……パパ…ママ…も、そんな風にいたぶって…殺したのか…!」
岩陰から飛び出した洸汰君が、マスキュラーへと石を投げつけながら発した言葉に思わず息を飲む。
洸汰君は、
「あぁ…? マジかよ。ヒーローの子どもかよ? 運命的じゃねーか」
「衝撃の再会…いや、初めて会うから衝撃の対面ってやつか?」
マスキュラーもトリケラトプス
「ウォーターホース。この俺の
「おまえのせいで、おまえらみたいな奴のせいで…いつもいつもこうなるんだ!!」
腹の底から声を振り絞り、怒りを露にする洸汰君。だけど、マスキュラーは涼しい顔だ。
「……ガキはそうやってすぐ責任転嫁する。良くないぜ」
「俺だって、別にこの眼の事恨んでねえぞ? 俺は“
「お互いやりてぇ事やった結果さ」
「兄貴の言うとおりだぜ、小僧。それに……兄貴はお前を
トリケラトプス
「理解出来ないって顔だな。なら、説明してやるよ。ヒーローって生き物はな。子どもを持つと
「自分の
「自分で勝手に期待して、叶わなかったら、全責任を押し付けてくる。親になったヒーローなんて、道端に落ちた犬の糞にも劣る最低最悪の存在さ」
「小僧、
…この口ぶり、まさかとは思うけど……。
「お前も…ヒーローの子どもなのか?」
間違っていてほしい。そう思いながら、心に浮かんだ疑問を口にする。その答えは―
「あぁ、そうさ」
最悪のものだった。
「タックルヒーロー“ライノセラス”を知ってるか?」
「……7年の間、ヒーロービルボードチャートJPのトップ10に入り続けた強豪。3年前、惜しまれつつ引退した直後、自宅を突き止めていた
「その、まさかだよ。ライノセラスを殺したのは…俺だ」
トリケラトプス
俺の告白を聞き、青褪めた顔の小僧どもを見ながら、俺はゆっくりと口を開く。
「そう…狂っちまう前のアイツは、ヒーロー活動に邁進し、たまの
「ランキングも右肩上がり…アイツにとっては、公私共に絶好調だった。だが、そんな日々は突然終わる」
「ヒーロービルボードチャートJP、第8位。それがアイツの
「自分はこれ以上先に行けない。限界を悟ったアイツは、今の地位を守る事に躍起になった。他のヒーローが追い詰めた
「そして、最後にして最大の策として実行したのが…トリケラトプスという自分の上位互換な“個性”を持った俺を、ヒーローとして育て上げる事だった。俺をナンバー
「奴の指導は常軌を逸していて、俺は何度も命の危険を感じた。そんな俺を心配したお袋に、アイツは暴力を振るい、夫婦関係も急速に悪化していったよ」
「「……………」」
俺の話を聞いて、ただただ黙り込む小僧ども。もう一息だ。
「やがて、アイツは外に女を作り、滅多に家へ帰って来なくなった。たまに帰ってきたかと思えば、俺の成長具合を確認し、少しでも想定を下回っていれば、容赦なく暴力を振るう」
「アイツにとって俺は、叶いもしない夢を叶えるための道具で、お袋はそんな俺を世話する家政婦程度の存在になってた。こんな屑が、外ではランキング上位の強豪ヒーロー扱いだ。世の中狂ってると思わないか?」
「…に、逃げようと思わなかったのか? 行政に助けを求めるとか…」
「オイオイ、寝惚けた事言うなよ。相手は腐っても強豪ヒーロー。使える金も人員も桁違いさ。どこに逃げてもすぐに連れ戻される。お役所にしたって、実績豊かな強豪ヒーローと、それに反発するガキ。どっちの言う事を信じると思う?」
「そ、それは…」
「誰も助けちゃくれない。だったらどうする? 自分で何とかするしかないよなぁ! 俺は、心を押し殺して鍛錬に励んだ。いつの日かアイツの力を超えて、復讐する為にな!」
「そして3年前…お袋が病気で死んで、アイツがヒーローを引退したのを機に、俺は
「血反吐に塗れたアイツが、地面をのたうちながら死んでいく様子を見ながら、俺は決意したよ。ヒーローなんて人種が親になれば、碌な事にならない。コイツと同じ存在がまた現れる。俺と同じ目に遭う子どもが増える。だったら…俺が、子ども達を解放しようってな」
「それから俺は子持ちのヒーローだけを襲ってきたよ。3年で7人殺し、11人を再起不能にした。救った子どもは20人近くになる。どうだ? すげぇだろ!!」
そうさ。俺の行いは子ども達の未来を守る…まさに
出久side
トリケラトプス
「パパも…ママも…アイツの親みたいに…」
虚ろな目のまま呆然と呟く洸汰君をこのままにはしておけない!
「洸汰君! こっちを見るんだ!」
「ッ!」
突然の大声に体を震わせながら、涙目で僕の方を見る洸汰君。僕は洸汰君の肩に手をやると、軽く息を吸い…思いを言葉に変えていく。
「悔しいけど、アイツの経験してきた事は事実で、どうしようもない屑みたいな親は存在する…だけど、君のご両親は! ウォーターホースは! そんな屑の同類なのか?」
「君の思い出の中にいるご両親は、君にそんな事をするような奴らなのか? どうなんだ!」
「………ち、がう。パパも、ママも…そんな事しない! するもんか!」
僕の問いに泣きながらそう答える洸汰君。そうだ、君が信じなくて、誰がご両親を信じるんだ!
「ご両親を信じるんだ。それは子どもである君にしか出来ない事だから」
「ハッ、流石はヒーロー志望。詭弁もお手の物だな」
「黙れよ…」
洸汰君への言葉を詭弁と笑うトリケラトプス
「アンタの過去は悲惨で…心底同情するよ。だけど、どんなに自分が不幸だったからって…自分勝手な考えで、
「自分の不幸を、
湧き上がる思いをぶつけながら、『フルカウル』の出力を
「さぁ、来いよ。相手になってやる!」
敢えて挑発的な台詞と共に構えを取った。
「ハハッ! 相手になってやる、なってやるだと? 上等だ、だったら最後まで楽しませろ!!」
そんな僕が心底
「ミンチになるまで、いたぶってやる!」
叫びと共に右腕を振り上げ、向かって来るマスキュラー。まともにぶつかれば、さっきの二の舞。だけど、対抗策はある。
綱渡りみたいな危なっかしい方法。出来るならやりたくはない。だけど、雷鳥兄ちゃんなら間違いなく選択するだろう。一言こう言って―
「分の悪い賭けは嫌いじゃない! ワン・フォー・オール、フルカウル! 50%!」
『フルカウル』の出力を
「
「うぉらぁっ!」
僕の
「うぉぉぉぉぉっ!」
「何だ!? さっきまでと―」
2度目の激突で自身が勝った事で、出力45%が僕の
マスキュラーの攻撃が、僕の限界を上回る程度に調整されていた事。
そして、僕の攻撃が
「吹っ飛べぇ!!」
「ごはぁ!!」
血反吐を撒き散らしながら吹き飛び、崖に叩きつけられるマスキュラー。
「兄貴!?」
マスキュラーが吹き飛んだ事に驚き、一瞬その動きを止めるトリケラトプス
「
44MAGNUMスマッシュを一点集中の6連発で打ち込む!
「ぐはぁぁぁぁぁっ!!」
マスキュラー同様、血反吐を巻き散らしながら吹き飛び、崖に叩きつけられるトリケラトプス
「やった…ぐぅっ!」
2人を倒し、わずかに気が緩んだ途端、右腕に走る鋭い痛み。
「やっぱり…無理があったな」
呼吸を整えながら、ゆっくりと右手を握り、状態を確かめる。折れては…いない。拳と腕の骨にヒビが入ったってところだ。
「だ、大丈夫…か?」
不安げに僕の顔を覗き込む洸汰君。ごめんね、不安な思いをさせちゃって。
「大丈夫だよ。さぁ、施設に行こう。ここからならすぐに―」
その瞬間、猛烈な悪寒が背中を走った。思わず振り向くと、そこには―
「ウソ…だろ…」
「良いパンチだったが……俺を仕留めるには、ホンの少し足りなかったぞ。しかしやるなぁ…緑谷!」
「効いたぜ…さっき喰った物、全部吐いちまった…アバラも何本かヤバイか」
ゆっくりと立ち上がるマスキュラーとトリケラトプス
「まさか、これほどとは思ってなかった。正直、舐めてたよ。お前を…やめるよ! 遊びは終いだ! お前強いもん!」
マスキュラーはダメージで破損した左の義眼を外すと―
「こっからは……本気の
別の義眼に付け替え、全身を今まで以上の筋肉で肥大化させていく。
「俺も全力だ!」
トリケラトプス
「洸汰君…あいつらは何としてでも食い止める。僕とあいつらが
「ぶつかったらって…おまえ、まさか!」
「無理だ! 逃げよう…1人であんな化け物に勝てる訳ないじゃん!!」
「大丈夫…勝てなくても負けないから!」
洸汰君にぎこちない笑顔を見せ、ゆっくりと呼吸を整える。両腕と引き換えにしてでも、あの2人は倒す。倒してみせる!
「ワン・フォー・オール、フルカウル!」
体が自壊する事も構わず、『ワン・フォー・オール』の出力を100%に引き上げ―
「ダブルサンダー! ブレーク!」
その直前、落雷と見間違う程の強烈な電撃が、マスキュラーに叩き込まれた。
「がぁぁぁぁぁっ!!」
完全に不意を突かれた攻撃に、声を上げるマスキュラー。直後、1つの影が僕達を庇う様に飛び出し―
「ライトニングソニック!!」
トリケラトプス
「出久! 待たせたな!」
「雷鳥兄ちゃん!」
僕と洸汰君を庇うように立ちながら、構える雷鳥兄ちゃん。だけど、そこから漂う雰囲気はいつもとは違って―
「てめぇら…小さな子どもだけじゃなく、俺の甥っ子にも随分な真似してくれたな…ただで済むと思うなよ!」
怒りの感情を前面に出している。でも、洸汰君が怯えるから、殺気はあいつらだけに向けて…ほしいかな。
「お前も…
「吸阪雷鳥! 2人纏めて仕留めれば、死柄木さんからの特別報酬が、500万っすよ!」
「2人で500万? 随分と安く見られたもんだな…まぁいい、その臨時収入とやら、取らぬ狸の皮算用になると…覚悟しときな」
「雷鳥兄ちゃん。僕も―」
「…やれんのか?」
「…もちろん!」
「わかった。頼む」
並び立つ僕と雷鳥兄ちゃんを睨みつける、マスキュラーとトリケラトプス
最後までお読みいただき、ありがとうございました。