出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第93話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
マンダレイside
膠着状態のまま時間だけが流れていた私達とマグネ、スピナーとの戦い…だけど、その膠着は突然終わりを告げた。
「ちょっ、何よ! これ!」
何の前触れもなく、森の方から放たれた無数の蔓に、マグネは全身を雁字搦めにされ―
「マグ姉!」
その光景に、スピナーも気を取られ…大きな隙を晒してしまう。
「隙ありだ、ゴラァ!」
それを狙っていたのか、声と共に上空から落下してくる一つの影。我に返ったスピナーが回避するよりも早く、半ば踏みつける形で顔面に蹴りを叩き込む!
「グハッ!」
思わぬ攻撃にダウンしたスピナーに、私は跳びかかり、手早く拘束。そして―
「見事なキックだったよ! レッドワスプ!」
「遅くなって申し訳ありません! 麓の町でトラブルが発生し、
私の声に申し訳なさそうに頭を下げるレッドワスプ。俺達2人って事は…
「この蔓…なんて、丈夫なのっ!」
「サルナシの蔓。その丈夫さは、かつて吊り橋の材料に使われていた程です」
自らを縛る蔓から逃れようともがくマグネに、そう告げながら姿を現すブロッサム。なるほど、彼女の“個性”は、こんな山の中なら正に無敵。空を飛べるレッドワスプ同様、ここへの救援には打って付けの人材だ。
「ちくしょう! ステインは間もなく甦る! その日の為にも俺達は、てめえら生臭ヒーローどもを粛正しなきゃいけねぇんだ!」
「大人しくしなさい!」
負け惜しみの様に、自分達の勝手な理屈を声高に唱え続けるスピナー。そういえばコイツ、“個性”を一切見せ―
「お取込み中、申し訳ありませんが…」
「ッ!」
突然聞こえてきた謎の声に、私を含む全員が周囲に視線を走らせる。だけど、声の主はどこにも…。
「退いていただきましょう…」
雷鳥side
「………
「その捻くれた精神…僕達で叩き直す!」
「力を得る為、何かを捨てる覚悟もねぇ奴らに、俺が倒せる訳ねぇだろ!」
絶無もそう喚きながら、走り出した。徐々に間合いが詰まり―
「死ねやぁ!」
先手を取ったのは絶無だ。副腕から放たれるレーザーが、俺と出久を狙う。
「甘いっ!」
そのレーザーを俺は電磁バリアで防御。出久はジャンプで回避し―
「はぁぁぁぁぁっ!!」
空中から地上の絶無目掛け、フィンガースナップの衝撃波を撃ちまくる!
「ぬぉぉぉっ!」
38口径の拳銃*1並の威力を持った衝撃波を連続で受け、苦悶の声を上げる絶無。普通の
「……こんなもんかよ」
残念だが、絶無は普通ではなかった。全身に出来た青痣や骨折を治癒しながら、背中の翅で宙に舞い上がり―
「死ねや! “没個性”ども!」
頭上から爆破、レーザー、火炎放射で攻撃を仕掛けてきた。
「出力! 全開!」
爆撃のようなその攻撃に対し、咄嗟に出久の前へ立った俺は、全力の電磁バリアで対抗。その全てを凌ぎきる。
この火力…1発1発の威力もだが、複数の攻撃を同時にぶつけられるのは…少々厄介だな。
「しかし…よくもまあ次から次に…“個性”のバーゲンセールかよ」
「『副腕』に口からの『火炎放射』、副腕の掌から放つ『レーザー』、『再生』。それから背中の翅は、ジャンプ力から見て『バッタ』かな…あと、ブラドキング先生や口田君達の傷から見て、何か斬撃系の“個性”は持っていると思う」
思わず出た俺のボヤキに、
「見たか! 俺は選ばれた存在で! お前ら凡人とは、“個性”の数が違うんだよ!」
どんな“個性”も使い手次第。教えてやるよ…
絶無side
「見たか! 俺は選ばれた存在で! 手前ら凡人とは、“個性”の数が違うんだよ!」
地上で必死に防御を固めている“没個性”野郎とデクに叫びながら、俺は込み上げる愉悦に体を震わせる。
デクがどれほどのパワーを持っていようと、空は飛べねぇし、空中への攻撃手段は限られる。
“没個性”野郎が、どれだけ小細工を弄しようと、俺の絶対的優位は崩れねえ。
「はぁぁぁっ!」
「遅ぇ!」
デクが反撃で放ってきた衝撃波を悠々と回避し、地上へ向けて副腕からレーザーを乱射すれば、防御が間に合わなかったのか、無様に地面を転がる“没個性”野郎とデク…。
「手前らが歩兵なら、俺は戦闘ヘリ! 勝負になる訳ねぇだろ!」
あぁ、最高に良い気分だ。このままこいつらをぶち殺して、その後残りの奴らを嬲り殺しにしてやる!
「戦闘ヘリか。的確な例えだな…」
「ッ!?」
“没個性”野郎の声が響いたのはその時だ。思わず視線を走らせれば―
「だが、勝負にならないと言うのは、早計すぎる」
奴の周囲に漂う黒い靄の様な物。何だかわからねぇが、また小細工を!
「負け惜しみをほざくなぁ!」
小細工を封じる為、先手を取ってレーザーを放つが、それは奴の展開していた電磁バリアで防がれ―
「連続発射!」
同時に黒い靄が、長さ10cm程の針状に変化。俺目がけて高速で射出された。その数8。
「ちぃっ!」
半ば反射的に回避行動を取り、黒い針の全てを回避する。少々驚かされたが、直線にしか飛ばない弾で、俺を墜とせるか!
「無駄な足掻きって言葉を知らないのか?」
「もちろん知ってるさ。だが、その足掻きは、
「何っ!?」
“没個性”野郎の言葉に耳を疑った直後、背後から飛んで来た何かが、俺の左肩を貫いた。
「なっ…」
左肩を貫いた何か。それは、避けた筈の黒い針。
「馬鹿な…」
全部避けた筈だ。そう言葉を続けるよりも早く、残る黒い針7本が四方八方から飛来して、全身を貫いていく。
「く、そがぁ…」
出久side
「たしかに、歩兵にとって戦闘ヘリの存在は脅威だ。だが、歩兵にだって、戦闘ヘリを撃墜する術はある。
「まぁ、今の俺じゃMCLOS誘導式*2が精一杯。
不敵に呟く雷鳥兄ちゃんの周囲に漂う黒い靄…その正体は、大量の砂鉄。
そう、雷鳥兄ちゃんは、磁力を操作する事で周囲の地面から砂鉄を掻き集め、針状に形成。高速で射出したのだ。
放たれた砂鉄の針は磁気を帯びている為、一定範囲内であれば雷鳥兄ちゃんの操作で自在に動かせる。それこそ、誘導ミサイルの様に。
「今がチャンス! 出久、叩き落とせ!」
「うん!」
『再生』の“個性”を持っている絶無。この攻撃によるダメージもすぐに回復するだろう。だけど、今の僕達には、その僅かな時間で十分だ!
「はぁっ!」
僕は『フルカウル』の出力を
「でやぁっ!」
絶無の土手っ腹に、蹴りを叩き込む!
「ぐほっ…」
血と吐瀉物の混ざった物を吐き散らしながら吹き飛び、地上へ落下していく絶無。少々やりすぎた気がしないでも無いけど…。
「クソ、がぁ…デクゥゥゥッ!」
地面へ派手に叩きつけられても、絶無は数秒で跳ね起き、傷を再生させていく。あの位で潰れるほど
「ぶっ殺してやる!」
着地して構えを取る僕目掛け、絶無は憤怒の表情を浮かべながら、走り出す。そして―
「死ぃ―」
僕に向けた両手から全力の爆破が放たれる…正にその瞬間、雷鳥兄ちゃんが操る砂鉄が、その両手を包み込んだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」
直後、全ての指と掌の半分が吹き飛び、絶叫しながら地面をのたうち回る絶無。
「
そんな絶無に、これ以上無い程冷たい視線を向けながら、呟く雷鳥兄ちゃん。
絶無が爆破を放つ瞬間、操作した砂鉄を掌に纏わりつかせて、暴発を誘発したんだ。流石は雷鳥兄ちゃん。敵と見做した相手には、やる事がとことんえげつない。
「どうした? その程度の傷、数秒で再生出来るんだろ? さっさとしろよ」
「クソが…俺を見下すんじゃねぇ!」
雷鳥兄ちゃんの視線と口振りが気に障ったのだろう。怒りの叫びと共に、副腕を動かしてレーザーを放とうとする絶無。
「遅い!」
だけど、レーザーが放たれるよりも早く、雷鳥兄ちゃんは再度砂鉄を操作。副腕に纏わりつかせると同時に高速で回転させ―
「ぐぁぁぁぁぁっ!」
グラインダーの要領で、
「ライトニングブラスト!」
雷鳥兄ちゃんは一切の躊躇なく、その顔面へ
「ぐはっ…」
鼻が潰れ、折れた歯を撒き散らしながら吹っ飛ぶ絶無。地面を数回バウンドしたところで立ち上がり、傷を再生させると―
「殺す! 殺してやるっ!」
4本の手からエナメル質の刃を生やし、僕と雷鳥兄ちゃんに斬りかかって来た。なるほど、ブラドキング先生や口田君達を傷つけた斬撃系の“個性”はアレか。
絶無の驚異的な身体能力と合わされば、その威力は驚異の一言。だけど―
「タネが解っていれば、幾らでも対処できる!
真正面から、それもただ闇雲に振り回すだけの刃物なんて、どれだけ早くても脅威にはなり得ない。カウンター気味に放った僕の足刀で、副腕側の刃を―
「ダブルライトニングスラッシュ!」
雷鳥兄ちゃんの左右の手で振るった
「ちぃっ!」
容易く刃が粉砕された事に舌打ちしながら、僕達から距離を取ろうとする絶無。だけど、
僕と雷鳥兄ちゃんは、示し合わせたかのように、まったく同じタイミングで絶無との間合いを詰めー
「
「ライトニング!」
「スマァァァァァッシュ!!」
「ボルトォッ!!」
僕は右、雷鳥兄ちゃんは左の一撃を、同時に叩き込む!!
絶無side
「げぼぁっ!」
デクと“没個性”野郎の攻撃を受け、吹き飛ばされた俺は、血反吐を撒き散らしながら地面を数回バウンドし、樹の幹に激突した。
「クソ…がぁ…」
『再生』の“個性”で、受けたダメージはすぐに回復するが、傷つけられた
何故だ! 才能も、“個性”の数や強さだって、俺の方が遥かに上なのに…何故こうも一方的に!
「どうした? まだ、B組とブラドキング先生の分しか、済ませてねぇぞ」
「さっさとダメージ回復させて、立てよ…次は相澤先生の分。そして
「あと……麗日の分と梅雨ちゃんの分は別枠だ。それが全部済むまで、
まるでゴミを見るような目で、俺の神経を逆撫でする“没個性”野郎…調子に、乗りやがって!
「ふざけんな…ふざけんなぁ!」
怒りのままに俺は走り出し、『ジャマダハル』を再発動。4本の腕から新たな刃を生やし、斬りかかる!
「俺は、選ばれた存在だ! お前らとは! 才能が―」
違うんだよ! そう言い終える前に、俺はカウンターで放たれたデクの一撃を顔面に受け、派手に吹っ飛ばされた。
どうして…俺は、1億人に1人の逸材なのに………。
-おい、あれ爆豪じゃん。口だけの“強個性”野郎-
-うわぁ、よく
-おいおい、あんまり刺激するなよ。あいつ狂犬だから噛みつかれるぞ-
「ッ!?」
その時、不意に脳裏に浮かんだのは…俺を見下した
やめろ! 俺は口だけの“強個性”野郎なんかじゃねぇ! そんな目で…そんな目で俺を見下すな!
-君には失望したよ。爆豪君-
-これが、1億人に1人の逸材とは…わしの見立て違いだったかの-
-役立たずに用はねぇ…今すぐ
続いて、先生の、ドクターの、死柄木弔の失望した声が、頭の中に響き渡る。
嫌だ…見捨てられるのは嫌だ…。無価値だなんて判断されたくない。役立たずの烙印を押されるのは………。
「嫌だぁぁぁぁぁっ!」
AFOside
「これは………流石は絶無。こうも早く覚醒段階に到達するとは…」
絶叫と共にその体を変化させていく絶無へ、僕は惜しみない拍手を送る。
自分を見下した相手への憎しみ、自らの不甲斐無さへの怒り、僕達から見捨てられる事への恐怖。
そんな負の感情の爆発が、絶無を次のステージへと引き上げたのだ。
「それでこそ、
雷鳥side
「マジかよ…」
絶叫と共に変化を遂げていく絶無に、思わずそんな声が漏れる。
2本だった『副腕』が4本に増え、190cmを超えていた身長が更に巨大化。そして何よりも、奴自身から発せられる
「雷鳥兄ちゃん…」
「あぁ…アイツ、
出久と短く言葉を交わし、改めて構えを取る。俺と出久2人がかりなら、負けはしないだろうが…油断は出来ないな。
「短期決戦で勝負を―」
決める。そう口にしようとした次の瞬間。絶無の前に黒い靄が現れ―
「絶無。時間になりましたので、お迎えに上がりました」
声と共に黒霧が姿を現した。
「時間切れ…黒霧、1分でいい。時間をくれ。あの2人を速攻でぶち殺してやる!」
「それは出来ません。何より、先生が貴方をお待ちです」
「先生、が……わかった」
警戒する俺達を尻目に、2人はそんな会話を交わし―
「デク…“没個性”野郎…次だ。次に会った時、必ずぶっ殺す!」
黒い靄に飛び込んで姿を消した。絶無のそんな言葉を残して…。
この絶無の撤退で、
火を放たれた山林の消火活動や、未だ安否がわかっていない一部生徒の捜索等を開始した訳だが―
一方の
生徒40名の内、
重傷者17名*4。
残る15人も殆どが、相応の傷を負っており、無傷で済んだのは3人*5だけだ。そして…。
「皆…すまねぇ! 俺達の…いや、俺の、俺のせいで…轟が、轟が
泣きながら俺達に土下座する鉄哲の告白で判明した…轟が
こうして、林間合宿は
最後までお読みいただき、ありがとうございました。