出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
お楽しみ頂ければ、幸いです
出久side
「ウチの“個性”は『イヤホンジャック』。耳たぶがコードみたいになってて、最長で6mまで伸ばせる。コードの先端はプラグになってて、挿した対象にウチ自身の心音を増幅した衝撃波を送り込める」
「それって、対象を内部から衝撃波で攻撃できるって事ですよね? 凄い、防御不可能の攻撃じゃないですか!」
「まぁ、プラグが挿さる事が前提だけどね。挿さらない時はこのスピーカーブーツを使って衝撃波を放ったり、コードその物を鞭みたいに使う。あとは、壁や床にプラグを挿せば、どんな小さな音でも拾える。索敵とかには便利だと思う」
ビルの4階、正面玄関から一番遠い北側の広間に、核兵器のハリボテを設置した僕と耳郎さんは、作戦を練る為に互いの“個性”や
ちなみに、僕の
それにしても耳郎さんの“個性”は凄い。プラグを挿す事が出来れば、防御不可の攻撃が使えるし、例え挿せなかったとしても、衝撃波そのものは不可視だから、回避は難しいだろう。
「僕の“個性”は見ての通り。全身にエネルギーを纏って身体能力を増幅します。一応、『フルカウル』って名付けてます」
本当は『ワン・フォー・オール』が“個性”で、『フルカウル』は応用技なんだけど…本当の事を話す訳にはいかない以上、オールマイトや雷鳥兄ちゃんと話し合って創作した嘘の“個性”を説明する。
「『フルカウル』…カウルって、たしかバイクの外装の事だよね…あぁ、だから『フルカウル』、洒落たネーミングだね」
「ハハハ…どうも」
洒落たネーミングと言ってくれる耳郎さんに罪悪感を覚えながら、作戦を練っていく。そうしている間に5分が経過し、
「………1階の正面玄関付近に2人分の足音…停止した………ッ! まずいよ緑谷! 障子の奴、ウチらの居場所を把握してる!」
「障子君の“個性”はたしか『複製腕』…そうか、耳や目を複製して、こっちの索敵を!」
「向こうにも索敵要員がいたって事ね……障子が動いた! 轟が何かするみたい!?」
耳郎さんが叫んだ次の瞬間、室温が一気に下がった。それから5秒も経たない内にビル全体がものすごい勢いで凍り付いていく。このペースならこの部屋もあと数秒で…。
「耳郎さん、ごめん!」
僕は咄嗟に耳郎さんを
「はぁっ!」
右足で床を強く踏みしめた! ドン! という音と共に踏みしめた右足から波紋のように衝撃波が放たれ、向かってくる冷気を相殺する。
「嘘…」
耳郎さんの呆然とした声。間一髪、僕を中心にした半径3m程の空間だけが凍結を免れた。あとコンマ5秒遅かったら、僕も耳郎さんも凍り付いていただろう。
「それにしても、ビルを丸ごと凍らせるなんて…」
「あのさ、緑谷…助けてくれたのは嬉しいんだけど…降ろしてくれない?」
「…あぁ! ご、ごご、ごめんなさい!」
僕とした事が耳郎さんを
慌てて降ろすけど、耳郎さんは耳まで真っ赤だ…やってしまった…。
「えー、あー…うん、緑谷、障子はビルの外、轟は1階を移動中。どうする?」
「じゃ、じゃあ、障子君の方を先に対応しましょう」
「お、OK」
どこかギクシャクした空気の中、僕と耳郎さんは移動を開始した。
雷鳥side
「すげぇ…ビルを丸ごと凍らせた轟も、足の一踏みで冷気を相殺した緑谷もどっちもすげぇぜ!」
モニターに映る光景に興奮の叫びをあげる切島。周りの皆も声こそ出さないものの、同感という顔をしている。そんな中―
「ちくしょう! 緑谷の奴、さり気なくお姫様抱っこなんかやりやがって! イケメンムーブも大概にしときやがっ!」
峰田1人が出久への理不尽な怒りを燃やしていたので、八百万へのセクハラ目線の件も併せて、踵落としをお見舞いして黙らせておく。
そうしている間にも出久と耳郎はフロア内を移動し―
「あっ! 障子がやられた!」
「なんだよアレ…まるでマシンガンだ!」
ビルの外で待機していた障子を戦闘不能へ追い込んでいた。…うん、あんな弾幕浴びせられたら、いくら屈強な障子でも一溜りもないな。
そして出久は耳郎と別れ、1人下へ降り…轟と会敵。戦闘に突入した。
出久side
「いくぞぉ!」
「来い…!」
緑色のオーラを全身に迸らせながら向かって来る僕に、轟君は足元から巨大な氷柱を生やして対応する。
「はぁっ!」
でも、所詮氷は氷。僕のパンチ1発であっさりと砕け散り―
「ッ!」
逆に拳大の氷が散弾のように轟君へ襲いかかった。氷の盾を作ってそれを防ぐ轟君。咄嗟の判断としては悪くない。でも、身を隠せる程巨大な物を作ったのは失敗だよ。
「それじゃあ、視界が確保できない! はぁぁぁぁぁっ!」
フィンガースナップを高速で繰り返し、衝撃波を弾幕のように放てば、氷の盾はあっという間に削り取られ、原形を失っていく。
さっきとは違って、至近距離からぶつけているから威力の減衰もない。さぁ、どうする?
「ちぃっ!」
その直後、轟君は半壊した盾を捨て、床を転がりながら氷柱を3つ連続でぶつけてきた。
「こんな物!」
当然、
「本命はこっちだ…!」
3つ目の氷柱を打ち砕いたタイミングで、轟君が突っ込んできた。その右手は氷を纏い、幅広の剣になっている。
「もらった!」
狙いは僕の脇腹。迎撃は…間に合わない! だったら!
「なん、だと…!」
轟君の顔が驚愕で彩られるが、それも無理はない。轟君の振るった氷の剣は、あと数cmの所で止められていたのだから。
「……間に合った」
受け止めた僕の方も思わず息を吐く。咄嗟に膝と肘で白刃取りをやったけど、僕自身止められるなんて思っていなかった。完全に幸運の領域だ。
「ハッ!」
まぁ、幸運でもなんでも攻撃を受け止められた事実に変わりはない。膝と肘に力を込め、氷の剣をへし折れば、轟君は舌打ちと共に距離を取る。
「どういう反射神経してやがる…」
「ハハハ、今のは完全に幸運だよ。正直、止められるとは思ってなかった」
「幸運だろうとなんだろうと、止められたって事実がデカいんだよ」
憮然とした表情の轟君。その体は微かに震えている。やっぱりそうだ。
「震えているよ。轟君。何となく予想はしていたけど“個性”の使い過ぎは、負担が大きいんだね」
「…それがどうした」
「僕の…まぁ悪癖なんだけど、凄いと思った相手をついつい観察しちゃうんだよね。だから、気になった事がある」
「………」
「君の“個性”は『半冷半燃』。右で凍らせ、左で燃やす。それなのに君は右ばかり…いや、右しか使っていない。どうして左を使わないんだ? 左を使えば、右を使った際の負担も軽減出来る筈なのに」
「左は使わねぇ…戦いで左を使う事は、俺にとって負けだからだ」
「…それは僕を、いや、僕を含む1年A組の全員を甘く見ているという事かい? そうだとするなら…それは君の驕りだ!」
「なんとでも言え。どう罵られようと、俺は糞親父の“
少し前、タブロイド系のヒーロー雑誌にエンデヴァーは家族と上手くいっていない。なんて眉唾な記事が載っていたけど…あれは事実だったのか。
そんな事を考えている間に、轟君が動いた。
「俺はこの右だけで雄英のトップになる。そして、あの糞親父を
そう吐き捨てるように言いながら、僕に氷柱を次々と繰り出してくる轟君。だけど―
「この程度で!」
強がっていても体への負担は相当なものなのだろう。繰り出された氷柱は、大きさも速度も先程より酷く劣る物ばかりだった。当然、僕には容易く打ち砕かれ、一欠片だって届かない。
「まだ僕は、君に傷一つ付けられちゃいないぞ! 全力で来い!」
だけど僕は、あえて轟君を挑発する。昔組み手をやった時、雷鳥兄ちゃんがやったように掌を上に向け、指を内側へ曲げ伸ばしする。『かかってこい』のジェスチャーだ。
「緑谷ぁっ!」
そんな僕の態度に苛立ったのだろう。轟君は“個性”を使うのも忘れて僕に殴りかかる。でも、気持ちとは裏腹に体は思うように動かない。
喧嘩の素人みたいなパンチを軽く受け流し、がら空きのボディにカウンターを叩き込めば、軽く5mは吹き飛んでいく轟君。
「使いなよ。左を」
「だ、れが使うか…あんな、糞、親父の…」
ボロボロになりながら、それでも頑なに
「君の“
「ッ!?」
「元々が
「皆、自分の思い描く
僕の叫びがフロア中に響き、続けてやってくる静寂。そして―
「…フッ」
轟君がホンの僅か微笑んで…
「緑谷…お前、馬鹿だろ。敵に塩送るような真似して」
「そうだね。馬鹿かもしれない。それでも後悔はしてないよ。
「なるほどな…残り時間5分。ここじゃ狭すぎる。外に出るぞ」
「もちろん!」
雷鳥side
「あの馬鹿、余計な事して…轟の奴がパワーアップしたじゃないか」
「吸阪ちゃん、そんな風に頬の緩んだ顔で言っても説得力0よ」
「………頬、緩んでる?」
「えぇ、デレデレって感じね」
梅雨ちゃんの言葉に周囲を見回すと、周りの全員から『その通り』と言わんばかりに首を縦に振られてしまった。なんてこった。
出久side
急いでビルの外に出た僕と轟君は、10mほどの距離を置いて向き合い、互いに構えた。
「正直、余裕はあまりない。一撃で決めるぞ」
「望むところだよ!」
その瞬間、轟君の左手の炎が一気に燃え上がり、巨大な火の玉を作り出す。
「糞親父の技を真似るのは癪だが…これが、今の俺に出来る最強の攻撃だ!」
凄いよ。轟君。殆ど左側は使ってこなかった筈なのに、これだけの事をやってのけるなんて!
そんな君だからこそ、僕も今まで使えなかった『
「今から使うのは、入試前4ヶ月の猛特訓で確立したけど、今まで使う機会がなかった戦闘スタイル。名付けて! 『フルカウル・ガンシュートスタイル』!!」
無意識の内にオールマイトの模倣に陥っていた僕が、それから抜け出す為に考案した『フルカウル』発動状態前提のオリジナル格闘術。それが『フルカウル・ガンシュートスタイル』!
「この一撃に全てを賭ける! 全力全開! 一撃必倒!」
「いくぞ! 緑谷!」
次の瞬間、轟君の放った巨大な火球と―
「
僕の最強攻撃が激突した。凄まじい威力の力と力がぶつかりあい―
「ぬぅぅぅぅぅぅっ!!」
「うぉぉぉぉぉぉっ!!」
数秒が無限に感じるほどの激しい拮抗は遂に終わりを告げ、拮抗を破った側が破られた側を地に伏せさせた。勝者は…。
「僕だ!!」
勝利条件達成! GチームWIN!!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Q:出久と耳郎が何故凍らなかったのか?
A:出久が力技で何とかした
わざわざ答えを考えてくれた皆様、こんなオチで申し訳ありませんm(_ _)m。