出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1   作:SS_TAKERU

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第11話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです


第11話:戦闘訓練!ーその4(終)ー

出久side

 

「ウチの“個性”は『イヤホンジャック』。耳たぶがコードみたいになってて、最長で6mまで伸ばせる。コードの先端はプラグになってて、挿した対象にウチ自身の心音を増幅した衝撃波を送り込める」

「それって、対象を内部から衝撃波で攻撃できるって事ですよね? 凄い、防御不可能の攻撃じゃないですか!」

「まぁ、プラグが挿さる事が前提だけどね。挿さらない時はこのスピーカーブーツを使って衝撃波を放ったり、コードその物を鞭みたいに使う。あとは、壁や床にプラグを挿せば、どんな小さな音でも拾える。索敵とかには便利だと思う」

 

 ビルの4階、正面玄関から一番遠い北側の広間に、核兵器のハリボテを設置した僕と耳郎さんは、作戦を練る為に互いの“個性”や戦闘服(コスチューム)について話し合っていた。

 ちなみに、僕の戦闘服(コスチューム)は雷鳥兄ちゃんと同じ黒の上下に、白いコートだ。

 それにしても耳郎さんの“個性”は凄い。プラグを挿す事が出来れば、防御不可の攻撃が使えるし、例え挿せなかったとしても、衝撃波そのものは不可視だから、回避は難しいだろう。

 

「僕の“個性”は見ての通り。全身にエネルギーを纏って身体能力を増幅します。一応、『フルカウル』って名付けてます」

 

 本当は『ワン・フォー・オール』が“個性”で、『フルカウル』は応用技なんだけど…本当の事を話す訳にはいかない以上、オールマイトや雷鳥兄ちゃんと話し合って創作した嘘の“個性”を説明する。

 

「『フルカウル』…カウルって、たしかバイクの外装の事だよね…あぁ、だから『フルカウル』、洒落たネーミングだね」

「ハハハ…どうも」

 

 洒落たネーミングと言ってくれる耳郎さんに罪悪感を覚えながら、作戦を練っていく。そうしている間に5分が経過し、ヒーローチーム(轟君と障子君)が動き出した。

 

「………1階の正面玄関付近に2人分の足音…停止した………ッ! まずいよ緑谷! 障子の奴、ウチらの居場所を把握してる!」

「障子君の“個性”はたしか『複製腕』…そうか、耳や目を複製して、こっちの索敵を!」

「向こうにも索敵要員がいたって事ね……障子が動いた! 轟が何かするみたい!?」

 

 耳郎さんが叫んだ次の瞬間、室温が一気に下がった。それから5秒も経たない内にビル全体がものすごい勢いで凍り付いていく。このペースならこの部屋もあと数秒で…。

 

「耳郎さん、ごめん!」

 

 僕は咄嗟に耳郎さんを抱え上げる(お姫様抱っこする)と―

 

「はぁっ!」

 

 右足で床を強く踏みしめた! ドン! という音と共に踏みしめた右足から波紋のように衝撃波が放たれ、向かってくる冷気を相殺する。

 

「嘘…」

 

 耳郎さんの呆然とした声。間一髪、僕を中心にした半径3m程の空間だけが凍結を免れた。あとコンマ5秒遅かったら、僕も耳郎さんも凍り付いていただろう。

 

「それにしても、ビルを丸ごと凍らせるなんて…」

「あのさ、緑谷…助けてくれたのは嬉しいんだけど…降ろしてくれない?」

「…あぁ! ご、ごご、ごめんなさい!」

 

 僕とした事が耳郎さんを抱え上げた(お姫様抱っこした)ままだったなんて!

 慌てて降ろすけど、耳郎さんは耳まで真っ赤だ…やってしまった…。

 

「えー、あー…うん、緑谷、障子はビルの外、轟は1階を移動中。どうする?」

「じゃ、じゃあ、障子君の方を先に対応しましょう」

「お、OK」

 

 どこかギクシャクした空気の中、僕と耳郎さんは移動を開始した。

 

 

雷鳥side 

 

「すげぇ…ビルを丸ごと凍らせた轟も、足の一踏みで冷気を相殺した緑谷もどっちもすげぇぜ!」

 

 モニターに映る光景に興奮の叫びをあげる切島。周りの皆も声こそ出さないものの、同感という顔をしている。そんな中―

 

「ちくしょう! 緑谷の奴、さり気なくお姫様抱っこなんかやりやがって! イケメンムーブも大概にしときやがっ!」

 

 峰田1人が出久への理不尽な怒りを燃やしていたので、八百万へのセクハラ目線の件も併せて、踵落としをお見舞いして黙らせておく。

 そうしている間にも出久と耳郎はフロア内を移動し―

 

「あっ! 障子がやられた!」

「なんだよアレ…まるでマシンガンだ!」

 

 ビルの外で待機していた障子を戦闘不能へ追い込んでいた。…うん、あんな弾幕浴びせられたら、いくら屈強な障子でも一溜りもないな。

 そして出久は耳郎と別れ、1人下へ降り…轟と会敵。戦闘に突入した。

 

 

出久side

 

「いくぞぉ!」

「来い…!」

 

 緑色のオーラを全身に迸らせながら向かって来る僕に、轟君は足元から巨大な氷柱を生やして対応する。

 

「はぁっ!」

 

 でも、所詮氷は氷。僕のパンチ1発であっさりと砕け散り―

 

「ッ!」

 

 逆に拳大の氷が散弾のように轟君へ襲いかかった。氷の盾を作ってそれを防ぐ轟君。咄嗟の判断としては悪くない。でも、身を隠せる程巨大な物を作ったのは失敗だよ。

 

「それじゃあ、視界が確保できない! はぁぁぁぁぁっ!」

 

 フィンガースナップを高速で繰り返し、衝撃波を弾幕のように放てば、氷の盾はあっという間に削り取られ、原形を失っていく。

 さっきとは違って、至近距離からぶつけているから威力の減衰もない。さぁ、どうする?

 

「ちぃっ!」

 

 その直後、轟君は半壊した盾を捨て、床を転がりながら氷柱を3つ連続でぶつけてきた。

 

「こんな物!」

 

 当然、氷柱(こんなもの)で僕は止められない。氷柱1つにパンチ1発。合計3発で木っ端微塵に打ち砕く。でも―

 

「本命はこっちだ…!」

 

 3つ目の氷柱を打ち砕いたタイミングで、轟君が突っ込んできた。その右手は氷を纏い、幅広の剣になっている。

 

「もらった!」

 

 狙いは僕の脇腹。迎撃は…間に合わない! だったら!

 

「なん、だと…!」

 

 轟君の顔が驚愕で彩られるが、それも無理はない。轟君の振るった氷の剣は、あと数cmの所で止められていたのだから。

 

「……間に合った」

 

 受け止めた僕の方も思わず息を吐く。咄嗟に膝と肘で白刃取りをやったけど、僕自身止められるなんて思っていなかった。完全に幸運の領域だ。

 

「ハッ!」

 

 まぁ、幸運でもなんでも攻撃を受け止められた事実に変わりはない。膝と肘に力を込め、氷の剣をへし折れば、轟君は舌打ちと共に距離を取る。

 

「どういう反射神経してやがる…」

「ハハハ、今のは完全に幸運だよ。正直、止められるとは思ってなかった」

「幸運だろうとなんだろうと、止められたって事実がデカいんだよ」

 

 憮然とした表情の轟君。その体は微かに震えている。やっぱりそうだ。

 

「震えているよ。轟君。何となく予想はしていたけど“個性”の使い過ぎは、負担が大きいんだね」

「…それがどうした」

「僕の…まぁ悪癖なんだけど、凄いと思った相手をついつい観察しちゃうんだよね。だから、気になった事がある」

「………」

「君の“個性”は『半冷半燃』。右で凍らせ、左で燃やす。それなのに君は右ばかり…いや、右しか使っていない。どうして左を使わないんだ? 左を使えば、右を使った際の負担も軽減出来る筈なのに」

「左は使わねぇ…戦いで左を使う事は、俺にとって負けだからだ」

「…それは僕を、いや、僕を含む1年A組の全員を甘く見ているという事かい? そうだとするなら…それは君の驕りだ!」

「なんとでも言え。どう罵られようと、俺は糞親父の“個性(ちから)”は使わねえ!」

 

 ()()()。たしか轟君の父親は、No.2ヒーローのエンデヴァー。

 少し前、タブロイド系のヒーロー雑誌にエンデヴァーは家族と上手くいっていない。なんて眉唾な記事が載っていたけど…あれは事実だったのか。

 そんな事を考えている間に、轟君が動いた。

 

「俺はこの右だけで雄英のトップになる。そして、あの糞親父を()()()()する…!」

 

 そう吐き捨てるように言いながら、僕に氷柱を次々と繰り出してくる轟君。だけど―

 

「この程度で!」

 

 強がっていても体への負担は相当なものなのだろう。繰り出された氷柱は、大きさも速度も先程より酷く劣る物ばかりだった。当然、僕には容易く打ち砕かれ、一欠片だって届かない。

 

「まだ僕は、君に傷一つ付けられちゃいないぞ! 全力で来い!」

 

 だけど僕は、あえて轟君を挑発する。昔組み手をやった時、雷鳥兄ちゃんがやったように掌を上に向け、指を内側へ曲げ伸ばしする。『かかってこい』のジェスチャーだ。

 

「緑谷ぁっ!」

 

 そんな僕の態度に苛立ったのだろう。轟君は“個性”を使うのも忘れて僕に殴りかかる。でも、気持ちとは裏腹に体は思うように動かない。

 喧嘩の素人みたいなパンチを軽く受け流し、がら空きのボディにカウンターを叩き込めば、軽く5mは吹き飛んでいく轟君。

 

「使いなよ。左を」

「だ、れが使うか…あんな、糞、親父の…」

 

 ボロボロになりながら、それでも頑なに左側()を使おうとしない轟君。その意志の強さは賞賛に値する。だけど…それでも言わせてもらう!

 

「君の“個性(ちから)”じゃないか!」

「ッ!?」

「元々が糞親父(エンデヴァー)の物でも! 君に受け継がれた時点で、それは君の物だ! 自分の力を半分しか使わないで、雄英のトップになる? 糞親父(エンデヴァー)を超える? 馬鹿も休み休み言えよ!」

「皆、自分の思い描く理想(ヒーロー)目指してやってるんだ! 君にだってあるんだろう! 自分の思い描く理想(ヒーロー)が! 理想(ヒーロー)像があるなら、全力で目指せよ! 轟焦凍!!」

 

 僕の叫びがフロア中に響き、続けてやってくる静寂。そして― 

 

「…フッ」

 

 轟君がホンの僅か微笑んで…()()から炎を吹き出した。

 

「緑谷…お前、馬鹿だろ。敵に塩送るような真似して」

「そうだね。馬鹿かもしれない。それでも後悔はしてないよ。()()()()()()()()()()()()()()!」

「なるほどな…残り時間5分。ここじゃ狭すぎる。外に出るぞ」

「もちろん!」

 

 

雷鳥side 

 

「あの馬鹿、余計な事して…轟の奴がパワーアップしたじゃないか」

「吸阪ちゃん、そんな風に頬の緩んだ顔で言っても説得力0よ」

「………頬、緩んでる?」

「えぇ、デレデレって感じね」

 

 梅雨ちゃんの言葉に周囲を見回すと、周りの全員から『その通り』と言わんばかりに首を縦に振られてしまった。なんてこった。

 

 

出久side

 

 急いでビルの外に出た僕と轟君は、10mほどの距離を置いて向き合い、互いに構えた。

 

「正直、余裕はあまりない。一撃で決めるぞ」

「望むところだよ!」

 

 その瞬間、轟君の左手の炎が一気に燃え上がり、巨大な火の玉を作り出す。

 

「糞親父の技を真似るのは癪だが…これが、今の俺に出来る最強の攻撃だ!」

 

 凄いよ。轟君。殆ど左側は使ってこなかった筈なのに、これだけの事をやってのけるなんて!

 そんな君だからこそ、僕も今まで使えなかった『()()()』が使える!

 

「今から使うのは、入試前4ヶ月の猛特訓で確立したけど、今まで使う機会がなかった戦闘スタイル。名付けて! 『フルカウル・ガンシュートスタイル』!!」

 

 無意識の内にオールマイトの模倣に陥っていた僕が、それから抜け出す為に考案した『フルカウル』発動状態前提のオリジナル格闘術。それが『フルカウル・ガンシュートスタイル』!

 

「この一撃に全てを賭ける! 全力全開! 一撃必倒!」

「いくぞ! 緑谷!」

 

 次の瞬間、轟君の放った巨大な火球と―

 

50CALIBER(フィフティーキャリバー)! スマァァァァァッシュ!!」

 

 僕の最強攻撃が激突した。凄まじい威力の力と力がぶつかりあい―

 

「ぬぅぅぅぅぅぅっ!!」

「うぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 数秒が無限に感じるほどの激しい拮抗は遂に終わりを告げ、拮抗を破った側が破られた側を地に伏せさせた。勝者は…。

 

「僕だ!!」

 

 勝利条件達成! GチームWIN!! 




最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Q:出久と耳郎が何故凍らなかったのか?
A:出久が力技で何とかした

わざわざ答えを考えてくれた皆様、こんなオチで申し訳ありませんm(_ _)m。

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