出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
お楽しみ頂ければ、幸いです。
雷鳥side
「えー、今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見る事になった」
学級委員長の選出とマスゴミの乱入騒動から2日。今日の午後の授業はそれまでとは少し違う雰囲気で始まった。
相澤先生とオールマイトに加えてもう1人の先生が参加するか…ん? そういえば、前世の記憶にこんな展開があったような…。
「はーい! 何するんですか!?」
「災害水難なんでもござれ
「っ!?」
ヤバイ、思い出したよ。たしか…USJだかTDLだか言う施設に向かったら、そこで…えーと、そうそう、シガ、シガ…そう、信楽焼みたいな名前の奴が雑兵連れて乱入してくるんだったな。
それから…駄目だ。詳細まではさすがに覚えてない。とりあえず確実なのは、訓練場で敵と遭遇する事か。
「レスキュー…今回も大変そうだな」
「ねー!」
「バカおめー、これこそヒーローの本分だぜ!? 鳴るぜ!! 腕が!!」
「水難なら私の独壇場。ケロケロ」
「今回、
「訓練場は少し離れた場所にあるから、バスに乗って移動する。出発は20分後だ。以上、準備開始」
今、訓練の中止を訴えたところで、どうにかなる訳でもない。だったら、俺に出来るのは、現場で最善を尽くす事だけ。やるしかないか。
「こういうタイプだった! くそう!!」
訓練場行きのバス。その車中で頭を抱える飯田。
バスに乗り込む際、委員長モードフルスロットルで誘導したのは良いが、バスの座席が所謂2人がけの前向きシートばかりではなく、横向きのロングシートも混在した仕様だったのだ。これでは出席番号順に並んでいても意味がない。
俺達はそれぞれ適当に座席に座り、バスの出発を待つのだった。
出久side
訓練場までの移動時間。特に禁止されなかった事もあり、僕らは席が近くの者同士で会話を楽しんでいた。そんな中―
「私思った事を何でも言っちゃうの。緑谷ちゃん」
「え!? あ、はい!? 蛙吹さん!」
「梅雨ちゃんと呼んで。あなたの“個性”、オールマイトに似てる気がするのよね」
「ッ!? 」
蛙吹さんからいきなりの爆弾発言!? 『ワン・フォー・オール』の事がバレ…てはいない筈。それなら、単なる勘? とにかく、この前みたいに嘘の“個性”の説明をしてごまかさないと…。
「そ、そうかな? オールマイトに似てるのは嬉しいけど、僕なんかまだまだ…オールマイトの足元にも及ばないよ」
「まぁ、緑谷もすげぇけど、オールマイトとは比べ物にならねぇよな。でもさ、かなり強力な増強型だろう?」
切島君のおかげで、詳細を知りたいって空気になった! 一気に説明に持ち込もう!
「うん、僕の“個性”は『フルカウル』。全身にエネルギーを纏って身体能力を増幅する“個性”だよ」
「個性把握テストの時、相澤先生が『1年前に“個性”が発現』って言ってたけど…本当なの?」
「えっと、僕の“個性”は他の増強型よりも増幅率が高いみたいで、体がある程度出来上がるまで発現しないように、脳がリミッターをかけていたみたいなんだ。もしも体が出来上がっていない子どもの時に発現していたら、増幅されたパワーに体が耐えられなくて、とんでもない事になってた…って、診断してくれたお医者さんが言ってた」
「とんでもない事って?」
「猛スピードで走れる代わりに、1度走ったら両足の骨が粉々になったり、パンチ1発で自動車をスクラップに出来る代わりに拳が砕けたり」
「………そりゃ、脳がリミッターかけるわ。でも、発現して1年であれだけ使いこなすなんて、やっぱり才能ってやつか?」
「才能もだが、大部分は努力によるものだな。出久は4歳の時から、俺と一緒に鍛錬を積んでいた。“無個性”だからと諦めず、ヒーローになるという夢を叶える為にな。10年以上にも及ぶ鍛錬が出久の体を作り上げ、それが“個性”の発現に繋がり…そして“個性”の習熟にも役立った訳だ」
雷鳥兄ちゃんの補足説明で、皆納得してくれたみたいだ。よかった。
「10年…緑谷さんの“個性”は、正に努力の結晶。それでも、“個性”が発現するまで、さぞお辛かった事でしょうね…」
あれ? 八百万さん? なんでハンカチで目頭を拭っているんですか? っていうか、女子の皆さん全員涙ぐんでない!?
「そうだよな…“個性”が発現してなかったって事は、それまでずっと“無個性”として扱われていたって事だ…10年、長いなぁ…」
「10年もの間、夢を捨てずに努力し続ける…一念不動。緑谷の姿勢、尊敬に値するぞ」
尾白君に常闇君まで…なんだか、大事になってるような……ん?
「………」
「えっと、口田君。何…かな?」
口田君が何か言いたそうにこっちを見つめていた。だけど口下手なのか、なかなか言葉にならないみたいで…。
「…俺が仲介しよう」
隣に座っていた障子君が間に入ってくれた。
「………うん、そうか。緑谷、口田はこう言ってる。『
「そうだな、その通りだぜ! 口田! おまえ、良い事言うじゃねぇか!!」
口田君ありがとう! 君のおかげで車内の空気が変わったよ!
「でもさ、緑谷の“個性”云々は別にして、増強型のシンプルな“個性”はいいな! 派手で出来る事が多い!」
「俺の『硬化』は対人じゃ強ぇけど、いかんせん地味なんだよなー」
「僕は凄くカッコいいと思うよ。プロにも十分通用する“個性”だよ!」
「プロなー! しかしやっぱヒーローも人気商売みてぇなとこあるぜ!?」
「そういう意味で考えたら、緑谷、吸阪、轟、爆豪あたりが派手で強いってことになるか?」
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから、人気出なさそうね」
「んだとコラ! 出すわ!!」
「ホラ」
蛙吹さん、なんて的確な指摘なんだ!
「この付き合いの浅さで既に、クソを下水で煮込んだような性格と認識されるって、すげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ!殺すぞ!」
爆豪君をそういう風に表現できるなんて、凄いよ! 瀬呂君!
「もう着くぞ。いい加減にしとけよ…」
その時、相澤先生の静かな声が響き、僕達の気持ちは一気に引き締まった。よし、ここからは訓練に集中だ!
雷鳥side
「すっげー!! USJかよ!?」
「水難事故、土砂災害、火事……etc.」
「あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も……
訓練場の規模に驚きの声を上げた砂藤の声に答えるように現れたのは、今回の講師の1人である…
「スペースヒーロー『13号』だ! 災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
「わー! 私好きなの13号!」
解説ありがとう、出久。それにしても、オールマイトはまだ来ていないのか? そう言えば、前世の記憶でもオールマイトは遅れてきていたような…
「13号、オールマイトは? ここで待ち合わせる筈だが」
「先輩それが…通勤時にギリギリまで活躍してしまったみたいで、仮眠室で休んでます」
「不合理の極みだな、オイ」
………今、とんでもない会話が聞こえたぞ。とりあえず聞こえているのは、一番近くにいた俺だけのようだが…何か嫌な予感がするな。
「仕方ない。始めるか…」
「えー、始める前にお小言を1つ、2つ…3つ…4つ…」
丁寧に指を折りながら、話す内容を確認した13号先生は、俺達全員の顔を見渡し、話し始めた。
「皆さんご存知だとは思いますが、僕の“個性”は『ブラックホール』。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その“個性”で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね」
「ええ…しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう“個性”がいるでしょう」
たしかに…俺と出久、轟や爆豪もそうだし、芦戸や青山あたりも殺傷力の高い“個性”と言えるな。
「超人社会は“個性”の使用を資格制にし、厳しく規制することで、一見成り立っているようには見えます」
「しかし、一歩間違えば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないでください」
「相澤先生の個性把握テストで、自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイト先生の対人戦闘で、それを人に向ける危うさを体験したかと思います」
「この授業では、心機一転! 人命の為に“個性”をどう活用するかを学んでいきましょう。君達の力は人を傷つける為にあるのではない。
「以上! ご清聴ありがとうございました」
話し終えて一礼する13号先生に拍手する俺達。それが止んだところで相澤先生が口を開く。
「そんじゃあ、まずは…ん?」
「っ!?」
俺達に指示を下そうとした相澤先生が
相澤先生の背後。ざっと100m程先に黒い
「相澤先生! 何かヤバイ奴が来る!」
「わかってる! 不用意に動くな!」
直後、全身に『手』をくっつけた怪人を筆頭に、どう見ても友好的には見えない連中が、姿を現した。
「何だよ! あいつら!」
「動くな! あいつらは
一言で連中を表現した相澤先生は、外していたゴーグルを装着し、戦闘体勢を取る。
「13号に、イレイザーヘッドですか…先日
「やはり先日のは、クソ共の仕業だったか」
なるほどね。この前のマスゴミ侵入はこいつらのお膳立てって事か。カリキュラムを盗み出す為に…ご苦労なことだ。
「どこだよ…せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ…オールマイト…平和の象徴…いないなんて…」
「子どもを殺せば来るのかな?」
全身に『手』をくっつけた怪人…多分あいつが信楽焼だな。随分とふざけた事を言ってくれる。
俺達がそう簡単に殺されると思うなよ!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回より数話に渡って、