出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第22話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
また、掲載に伴い、キャラクター設定集の改訂、追加を行っております。
飯田side
緑谷君からのアドバイスを貰った僕は、早速課題である『加速時間の短縮』『動きかたの改良』に取り掛かった。
課題克服の為に緑谷君が考えた特訓内容、それは一言で言えば『体に重りを付けた状態で、悪路を走り続ける』というものだ。
セメントス先生に協力していただき、TDLと隣接する運動場に作られた1周400m、高低差10mという起伏に富んだコース。
これを両手足にそれぞれ5kgの重りを付け、更に背中に15kgの重りを背負った状態で走り続ける。
山道のような悪路を走るトレイルランニングという競技があるが、それを体に更なる負荷をかけた状態で行うのだ。
「頑張りましょうね。飯田ちゃん」
準備運動を終え、重りを装着した僕に蛙吹君が声をかけてきた。
特に克服すべき課題がない蛙吹君は、身体能力全般を強化する目的でこの特訓を行うという。
当然蛙吹君も両手足と背中に重りを付けているが、体格等を考慮して僕よりも幾らか軽くなっているそうだ。
「あぁ、体育祭までに何かしらの成果を見せる事が、緑谷君達への恩返しだと思っている。全力で頑張ろう」
「飯田ちゃんは相変わらず固いわね。ケロケロ」
そんな事を話しながらコースに入り、あらかじめ設定しておいたブザーが鳴ると共に走り出す。
…これは、想像していたよりも数段キツイな。重りによって体への負担が増えている上に、起伏の激しいコースを走る為、平坦なコースを走る時のようにストライドが一定に保てない。高いバランス感覚も要求される。
だが…このトレーニングは、ともすれば単調になりかねない走り込みに比べ、変化があるので飽きが来ない。反復練習にはもってこいと言えるだろう。
特訓の成果を目に見える形にするためにも、頑張らなければ!
梅雨side
緑谷ちゃんもなかなか
全身に重りを付けて動く。悪路を走る。どちらかだけでも体に負荷がかかる所を敢えての合わせ技。
『蛙』の“個性”を持つ私でも、その負担はかなりのもの。一瞬の気の緩みが大怪我に繋がりかねないわ。集中力を維持していきましょう。ケロケロ。
既定の5周を走り終え、乱れた呼吸をゆっくりと整えていく。このコースを5周、2km走って2分休憩。これを1セットにして…今日のノルマは15セットだったわね。
飯田ちゃん、序盤と終盤に僅かながら存在する平坦なコースでは流石のスピードだったけど、それ以外の起伏に富んだコースでは、走り慣れていない事もあって苦戦していたわね。結果的に私に10秒近い差をつけられていたわ。
でも、私の動きから何かを掴み始めたみたい。身振りを交えながら動きの確認をしていたわ。ウカウカしていたら、抜かされちゃうわね。
「まもなく2分だ! 蛙吹君! 2セット目といこうじゃないか!」
「ええ、今度も負けないわよ。ケロケロ」
雷鳥side
「峰田、瀬呂、麗日、そして葉隠。とりあえず今日の特訓は、4人合同で行う」
「合同で…どんな特訓やるんだよ? 吸阪」
自分の横に並ぶ瀬呂、麗日、葉隠を見てから特訓の内容を問う峰田。ふむ、ここはストレートに伝えてやるか。
「なぁに、内容はシンプルだ。俺が攻撃するから、お前達はそれを掻い潜って、俺を確保すればいい。峰田と瀬呂はそれぞれの“個性”を当てる、麗日と葉隠は直接タッチする。簡単だろ?」
笑顔を浮かべ、努めて明るく内容を告げてみたが…あれ?
「どうした? お前ら…4人揃って『絶望した!』って顔してるぞ」
「あ、当たり前だろうが!
4人を代表して、峰田が声を上げるが…なんだ、
「安心しろ、お前らがギリギリ避けられるレベルまで攻撃の速度は落とすし、仮に当たっても怪我しないように加減するから…まぁ、
不安に思っている部分を説明してやれば、4人の目から不安の色が徐々に薄れていく。そして―
「私はやるよ! 強くなれるチャンス、逃すつもりはないから!」
「私だって、今更やめる選択肢はないよ!」
「俺だって、一度やると決めたんだ。逃げる気はねぇ」
麗日、葉隠、瀬呂がやる気を見せ―
「あぁぁぁ! わかったよ! やってやらぁ!!」
峰田も半ばヤケクソ気味にやる気を見せてくれた。
「よし、それじゃあ早速始めようか!」
折角4人がやる気を見せてくれたんだ。俺もそれに応えないとな!
………まぁ、1分もしないうちに峰田あたりは悲鳴をあげそうだけど…気にしない気にしない!
轟side
TDLのあちこちでそれぞれの特訓が始まっている中、俺も青山、芦戸、耳郎への特訓を開始していた。
特訓の内容はシンプルだ。3人の前に俺が次々氷柱を生やすから、3人はそれぞれの方法で氷柱を破壊する。
もちろんそれだけじゃ単調になるから、
「それじゃあ、始めるぞ」
「いつでもどうぞ♪」
「準備OKだよー!」
「頼むね、轟」
準備が整ったところで氷柱を次々と生やしていくと、3人はそれぞれの方法、青山は腹からのレーザー、芦戸は手からの溶解液、耳郎は耳のプラグを挿してからの衝撃波で次々と破壊していく。
…大きさや3人からの距離、タイミングはこっちで設定しているが…これはこっちの“個性”の鍛錬にも使えそうだな。
そして、3人の隙を見て火球を作り出し、放ってみると-
「この位なら楽勝さ♪」
青山はレーザーで火球を容易く撃墜。
「撃墜は無理だけど、防御は出来るよ!」
芦戸は粘度の高い溶解液で壁を作り、火球を防御。
「危なっ!」
耳郎は見事に回避してみせた。
「よし、この調子でやっていくぞ」
努めて冷静に氷柱を生み出し、火球を放っていく。3人の動きや“個性”の使い方を見て、アドバイス出来そうな点を見つけ出す為、そして学べる点は学んでいく為だ。
「お前らと一緒に俺も強くなる」
そんな呟きは誰にも聞こえる事なく、氷柱の砕ける音に掻き消されていった。
出久side
「はぁ、はぁ、はぁ…ありがとうございました」
乱れた呼吸を必死に整えてから一礼し、組手を終わらせる。そして周りを見回せば、そこには―
「あぁ…も、もう駄目だ…」
「指1本動かせねぇ…」
「………」
「緑谷、どういう体力してるんだよ…」
「凄まじいものだ…」
「この強さ、まさに闘神…」
「これが、10年の積み重ねというものですのね…」
息も絶え絶えな尾白君、切島君、口田君、砂糖君、障子君、常闇君、そして八百万さんの姿。
そう、僕は7人と順に組手を行い、実戦形式の中でそれぞれにアドバイスを送っていたのだ。
だけど皆も1度負けたくらいじゃ終わらない。再戦希望に応えている内に、とうとう全員の体力が尽きるまで組手を繰り返してしまった。
結局合計で…何試合やったんだろう…30を過ぎた辺りから数えるのをやめたからなぁ…。
「でも、皆。1試合ごとに動きが良くなっていったよ」
「そ、そう言ってもらえるんなら、挑戦を続けてきた甲斐があったよ…」
苦笑交じりの尾白君の言葉はきっと、皆の本心だろう。なんにせよ、皆の成長に貢献出来たのなら、これ以上ない喜びだ。そこへ-
「ほい、お疲れ」
雷鳥兄ちゃんがスポーツドリンクを持って来てくれた。皆、ペットボトルを受け取るや否や、ほどよく冷えた中身をがぶ飲みしていく。
「ありがとう、雷鳥兄ちゃん。でも、これどうしたの?」
「いや、気がついたらTDLの入り口に置いてあった。これと一緒にな」
差し出されたメモ用紙に目をやると、そこにはたった一言『励めよ』の文字が…。
「雷鳥兄ちゃん、これって…」
「恐らく、相澤先生だろうな。まったく、正面から差し入れ持ってくれば良いのに…あの人も意外にシャイというかなんというか…」
「でも、先生らしいかも」
「たしかにな」
相澤先生の心遣いに感動しつつ、1日目の合同特訓は終わりを迎え…2日目、3日目、4日目と順調に進んでいった。
だが、5日目…事件が起こってしまった。
この日はTDLの都合がつかず、雄英に入学するまで俺と出久が秘密特訓で使っていた倉庫で特訓を行っていたのだが…。
「出久ー! 雷鳥ー!」
20時近くになり、特訓をそろそろ終わりにしようかと考えていたその時、倉庫に思わぬ来客が訪れた。引子姉さんだ。
「母さん!」
「姉さ……どうしたの?」
危ない危ない、皆の前で姉さんと呼ぶところだった。平静を保ちながら、来訪の理由を尋ねると-
「うん、原稿が予定より早く書きあがったからね。陣中見舞い」
そう言って、持っていたコンビニの袋を見せてきた姉さんは、おにぎりやサンドイッチといった軽食にちょっとしたスイーツ、スポーツドリンクなどをテキパキと準備していく。
そんな姉さんを見ながら-
「緑谷のお母さん、滅茶苦茶美人だな…」
「美魔女ってやつだな…畜生、緑谷…羨ましすぎるぜ」
一部男子が噂しているが…峰田、姉さんを美魔女と呼ぶのは構わんが、下品な視線は向けるなよ?
「手軽な物でごめんなさいね」
そんな事を言いながら、恐縮する姉さんに-
「いえ! 緑谷君のお母さんの心遣い、ありがたく頂戴致します! 1-Aクラス委員長、飯田天哉! クラスを代表してお礼申し上げます!」
飯田が委員長モードフルスロットルで対応し、皆それぞれに好きな物を食べ始めた。和やかな時間が過ぎる中-
「まぁ! 緑谷君のお母様が、あの碧谷鸚鵡先生だったのですか!」
「なんと! 剣豪商売や仕事人・柳枝桃安、愛読させて頂いております!」
「…緑谷の御母堂様、もし宜しければ、今度サインをお願いしたく…」
姉さんの職業を知った八百万、飯田、常闇が反応を示したのは少々意外…でもないか。
「吸阪ちゃん」
梅雨ちゃんが声をかけてきたのはその時だ。
「どうした? 梅雨ちゃん」
「私思った事を何でも言っちゃうの。だから気を悪くしないでね…吸阪ちゃん、さっき緑谷ちゃんのお母さんを
「………ナンノコトデショウカ?」
いかん、梅雨ちゃんが感づきかけてる。ここは何とか誤魔化さなければ…。
「あら? 雷鳥、もしかして皆さんに黙ってたの? 私との関係」
「え、あ、いや…」
姉さん! 頼む、余計なことは言わないでくれ!
「ケロ? 吸阪ちゃんは緑谷ちゃんの従兄だって聞いていたけど…違うのかしら?」
「もう、雷鳥駄目じゃないの。本当の事をキチンと話さないと…」
「雷鳥兄ちゃん、もういいじゃない。本当の事を話そうよ」
「そうだな…もう、仕方ないか」
…こうなっては仕方ない。俺は皆に本当の事を話した。
「俺と引子姉さんは、姉弟なんだ。
真実を知った皆の驚いた顔を、俺は忘れる事はないだろう。なお―
「美魔女と年の離れた姉弟…どんなギャルゲーだよ!」
血涙を流しながら、戯言を抜かした峰田を速攻で簀巻きにして、ゴミ捨て場に遺棄しようとしたが、全員から止められてしまった。峰田…運の良い奴め。
まぁ、予想外のトラブルはあったものの、それ以後は特にトラブルもなく、特訓の日程は順調に消化されていった。
そして、体育祭2日前―
「いよいよ、体育祭本番が明後日となった。今日で合同特訓は終了とし、明日は各自休息と調整に努めてくれ!」
「皆、2週間前と比べたら、はるかに強くなってる! あとは体育祭本番で大暴れしよう!」
「俺は半ば一緒に特訓していたようなもんだが…だからこそ、皆の成長を肌で感じられた。ウカウカしていたら、負けちまいそうだ」
俺や出久、轟の言葉に大きく頷く飯田達16人。さぁ、大暴れしてやろうぜ。皆!
「体育祭! 全力で大暴れするぞ! 1-A! ファイト!」
俺の掛け声に続き、1-A18人の声がTDLに響き渡った。いよいよ、体育祭だ!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回より、雄英体育祭当日となります。