出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第26話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
出久side
組み合わせ抽選とレクリエーションを終えた僕達は、控え室に近い観客席の一角に陣取り、最終種目の準備を固唾を飲んで見守っていた。
「オッケー、もうほぼ完成」
『サンキュー! セメントス!!』
『ヘイガイズ! アァユゥレディ!? 色々やってきましたが! 結局これだぜガチンコ勝負!!』
『頼れるのは己のみ! ヒーローでなくてもそんな場面ばっかりだ! わかるよな!!』
『心・技・体に知恵知識!! 総動員して駆け上がれ!!』
セメントス先生の“個性”で闘技場が整備され、
「緑谷…吸阪、大丈夫だよな?」
そんな中、尾白君が硬い表情で僕に話しかけてきた。
組み合わせ抽選を終えた直後、レクリエーションの準備が行われる10分程度の間に、尾白君は僕達に
-折角吸阪や緑谷、轟に鍛えて貰ったのに…自分からチャンスを手放すような真似をしてしまって……本当に済まない!!-
と、土下座までして僕達に謝ってきた。
勿論、僕も轟君も、当然雷鳥兄ちゃんも気にしていないと、笑って尾白君を許した訳だけど…尾白君の中ではまだ蟠りが残っているんだろう。
「大丈夫。尾白君に教えてもらったおかげで、心操君の“個性”への対抗策は思いついた。きっと雷鳥兄ちゃんも実行している筈だよ」
「そうか…」
『1回戦第1試合!』
『第1種目第2種目共に優秀な成績で勝ち上がってきたその実力は本物だ! ヒーロー科、吸阪雷鳥!!』
『
そうしている間に、第1試合が始まった。雷鳥兄ちゃん、勝利を信じているよ。
心操side
『ルールは簡単! 相手を場外に落とすか、行動不能にする。あとは「まいった」とか言わせても勝ちのガチンコだ!』
『怪我上等! こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから! 道徳倫理は一旦捨ておけ!』
『だがまぁもちろん、命に関わるよーなのはクソだぜ! アウト! ヒーローは
「『まいった』か。わかるかい、吸阪雷鳥。これは心の強さを問われる戦い。強く想う『
『そんじゃ早速始めよか!』
「
『レディィィィィイッ! スタート!!』
「チャンスをドブに捨てるなんて、バカだと思わないか?」
「てめぇ…今の発言、取り消せよ!」
俺の煽りを受けて、爆発した吸阪が駆け出した次の瞬間、その動きを止める。
「俺の…勝ちだ」
『おーっと! 開始早々吸阪完全停止!? これが心操の“個性”なのか!?』
『全っっっっっ然目立ってなかったけど…彼、ひょっとしてやべぇ奴なのか!!』
突然の事に
「お前は…恵まれてて良いよなァ、吸阪雷鳥」
「振り向いてそのまま、場外まで歩いていけ」
俺の命令を受け、何の躊躇いもなく場外へ歩いていく吸阪。そうだ、あと10歩で俺の勝ちが決まる。
『ああー! 吸阪! ジュージュン!!』
あと5歩。
「わかんないだろうけど…」
あと4歩。
「こんな“個性”でも夢見ちゃうんだよ」
あと3歩。
「さァ、負けてくれ」
「そう言われて、俺が素直に『わかりました』なんて言うと思ったか?」
「なにっ!?」
勝利を確信し、視線を逸らした瞬間、耳に飛び込んできた声。思わず視線を送るとそこには―
「残念。お前の“個性”は把握済みだ」
これ以上無い程に邪悪な笑みを浮かべながら、こちらへ歩いてくる吸阪の姿があった。
雷鳥side
「そう言われて、俺が素直に『わかりました』なんて言うと思ったか?」
答えると共にニヤリと笑みを浮かべてみれば、信じられないという顔をした心操の顔。
「残念。お前の“個性”は把握済みだ」
闘技場の真ん中まで歩みを進め、戦いを振り出しに戻す。
『おーっと! 吸阪、土壇場で踏みとどまったぁ! 闘技場の真ん中に戻り、戦いを振り出しに戻したぞ!』
『いや、アイツ…
流石は相澤先生。見破ったか。
「なんで…なんで、俺の“個性”が通じない!? なんとか…なんとか言えよ!」
一方、心操は混乱の真っ最中か。仕方ない、種明かしだ。
「こういう事だよ」
そう言って、口を開いて中を見せてやる。これでわかっただろう?
「まさか…自分で口の中噛み切って、その痛みで…」
「
「どうするって…」
「お前、言ったよな。『こんな“個性”でも夢見ちゃうんだよ』って…まさか、この程度で諦めるなんて言うなよ」
「………」
「“個性”が通じないから戦線離脱します、なんて真似。ヒーローが出来る訳ないよなぁ…来いよ、“個性”抜きで勝負しようぜ。もちろん俺も“個性”は使わねぇ」
「ミッドナイト先生! セメントス先生! もしも俺が一瞬でも“個性”を使ったら、遠慮なく反則負けにしてください!」
「なっ!?」
「さぁ、来いよ! 心操人使! お前の意地、見せてみろ!」
「………うぁぁぁぁぁっ!」
声を上げ、腕を振り上げて俺に向かって来る心操。そうだよ、お前の熱さを見せてみろ!
「お前の“個性”が羨ましいよ!」
「俺はこんな“個性”のおかげでスタートから遅れちまったよ。恵まれた人間にはわかんないだろ?」
「誂え向きの“個性”に生まれて、望む場所へ行ける奴らにはよ!」
「だから、お前達には…負けるかよ!」
生の感情を剥き出しにして、俺に殴りかかってくる心操。正直、腕の振りだけに頼っていて、フォームも滅茶苦茶。だが、気持ちの籠ったパンチだ。
だから、ちょっとだけ
「腕の振りだけに頼るな! 腰の回転を使ってみろ!」
心操のパンチを受け流し、半ば押すように掌底を打ち込んで距離を取る。こうやって、心操にアドバイスする事数回。
「ぬぁぁぁぁぁっ!」
今までで一番良い
「ぐぁぁっ…」
ガツンという音が響き、右拳を抑えながら、苦悶の声を上げる心操。
「ボクシングの技術で、相手のパンチを額で受けるっていう変則的な防御法があるんだよ。効果はこの通り」
相手のパンチ力次第では拳を砕く事も出来るが…心操のパンチ力じゃそこまではいかないな。精々、拳…中手骨に皹が入ったって所だろう。
「ま、まだだ…」
そして、このくらいのダメージなら、
「うぁぁぁぁぁっ!」
「しょぉらっ!」
俺に掴みかかろうとした心操へ、ローリングソバットを叩き込んで場外へ吹っ飛ばす!
「心操君、場外!! 吸阪君、2回戦進出!!」
『2回戦進出!! 吸阪雷鳥ー!!』
『相手にアドバイスを送る余裕を見せながらの完全勝利! 負けた心操もよく頑張った! さぁ、エブリバディ! 両者にクラップユアハンズ!!』
観客席から拍手を浴びながら、俺達は互いに礼をして、それぞれの入場口へ歩き出す。その途中俺は振り返り-
「心操!」
背中を向けたままの心操へ声をかけた。
「………なんだ」
「強くなりたいなら、いつでも声かけろ。修行に付き合ってやる」
「……結果によっちゃ、ヒーロー科編入も検討してもらえる。覚えとけよ?」
「今回は駄目だったとしても…絶対諦めない。ヒーロー科入って、資格取得して、利用出来るものは全部利用して…今よりずっと強くなって…絶対お前らより立派にヒーローやってやる」
「あぁ、頑張れよ。お前だったら、
「
俺の声にそう答えて再び歩き出す心操。すると-
「かっこよかったぜ! 心操!」
「感情剥き出しで向かっていく姿。正直ビビったよ!」
「俺ら普通科の星だよ!」
観客席から普通科の連中が次々に声をかけ、同時に観客席のヒーロー達からも心操の“個性”の有用性を評価する声が上がり始めた。
「頑張れよ。心操人使…」
こうして1回戦第1試合は、俺の勝利で幕を閉じた。
1回戦第2試合は青山と梅雨ちゃんの対決だ。
高火力の青山が勝つか。バランスに優れた梅雨ちゃんが勝つか。A組でも予想は分かれたが…。
「ケロッ!」
合同特訓で連続発射時間を倍以上に伸ばす事に成功した青山のレーザーを、梅雨ちゃんは避けて避けて避けまくり-
「いくわよ、青山ちゃん!」
レーザーの途切れる僅かな隙を突いて、ジャンプ。青山の頭上を取ると―
「ケロッ!」
空中回転の勢いを加えた舌の一撃から左右の踵落としに繋げるコンビネーションを青山に叩き込み、勝利を掴んだ。
「青山君、戦闘不能!! 蛙吹さん、2回戦進出!!」
第2試合も無事に終了し…続く第3試合は麗日と爆豪の対決か…。
「さて、どちらが勝つのか…見物だな」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。