出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1   作:SS_TAKERU

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1ヶ月以上お待たせしてしまい、申し訳ありません。
第34話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。



第34話:雄英体育祭! 最終種目!!ー準決勝その2ー

雷鳥side

 

 轟との戦いを終えた俺は観客席ではなく、控室に足を進めていた。

 決勝の相手が出久なのか飯田なのかはわからないが、休息に使える時間は精々1時間程度。控室で待機していた方が効率的だからな。

 そんな事を考えながら、控室に足を踏み入れた訳だが…。

 

「っ!?」

 

 控室に入って僅かに気が緩んだ途端、強烈な眩暈(めまい)が襲ってきた。

 

「やばっ…バッテリー切れ…」

 

 咄嗟にテーブルにつこうとした手が空を切り、そのまま床へ倒れていく。だが―

 

「………あれ?」

 

 顔面を床に強打する寸前、2つの手が俺を支えてくれた。これは…。

 

「…大丈夫か?」

「吸阪、俺達がわかるか?」

 

 障子と切島か。その背後には梅雨ちゃんが心配そうな目で俺を見ている。

 

「あぁ…大丈夫だ。ちょっと眩暈がしただけさ」

 

 2人(障子と切島)の手を借りながら椅子に座り、軽い口調でそう答えるが、3人からは『キチンと説明しろ』という雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。

 

「……俺の“個性”の副作用というか…欠点みたいなもんさ。轟との戦いで少し無茶したからバッテリー切れを起こしたんだよ」

 

 普通に戦うだけならまだ余裕はあったんだが、あの予知とトールハンマーブレイカーで予想以上に消耗してしまった訳だ。まぁ、これは言わなくてもいいか。

 

「…大丈夫なのか?」

「あぁ、命に関わるようなもんじゃない。暫くの間、眩暈と怠さに襲われる程度さ。()()()()2時間も休めば、ある程度回復する」

「ケロ? 2時間って…決勝まで精々1時間ちょっとしかないわよ。…まさか吸阪ちゃん、棄権するつもりじゃあ…」

「いやいや、そんな訳ないでしょう。普通じゃ間に合わないなら、()()()()()()方法で回復するだけだよ」

 

 そう言うと俺は、障子と切島の顔をまっすぐ見つめ- 

 

「悪いんだが……外の出店で食い物調達して来てくれ。代金は後で払うから」

 

 真剣な表情で、お願いをした。

 

「…食い物、か?」

「あぁ、休息による自然回復が間に合わないなら、カロリー摂取による回復で間に合わせる。出来れば甘い物とか炭水化物系…まぁ、何でもいいや」  

「わかった! ひとっ走り行ってくるぜ!」

「出来るだけ早く戻る」

 

 そう言い残して控室を飛び出して行く切島と障子。あれ? そう言えばなんで3人はここに…

 

「飯田ちゃんと緑谷ちゃんを応援するメンバーと、吸阪ちゃんと轟ちゃんの様子を見に行くメンバーに分かれたのよ」

 

 梅雨ちゃんの話によると、轟が医務室へ運び込まれ、俺も観客席へ戻って来ない事が予想された為、梅雨ちゃん達が控室に、八百万、砂糖、瀬呂が医務室にそれぞれ様子を見に行く事になったそうだ。

 

「そして控室に来てみたら、吸阪ちゃんが倒れそうで…本当にビックリしたわ」

「あぁ、その件に関しては…申し訳ない」

 

 やれやれ、梅雨ちゃん達に余計な心配をさせちまったな。決勝ではこんな事にならないようにしないと…。

 

 

轟side

 

「これでよし。ほら、チョコお食べ」

「…ありがとうございます」

 

 医務室に運ばれ、リカバリーガールの治癒を受けた俺は、治癒の反動による怠さを感じながら、貰ったチョコを口に含み、その甘さを感じていた。そこへ―

 

「リカバリーガール。迅速な治療、ありがとうございました」

 

 治癒の間、一旦外に出ていた親父が戻ってきた。リカバリーガールに深々と頭を下げる姿は、普段の親父しか知らない人から見れば、驚き以外の何物でもないだろう。

 

「これがあたしの仕事さね。それにしてもエンデヴァー…アンタも変わったね。少し前までとは大違いだ」

「……色々とありまして…今は過去の自分を振り返り、反省の日々です」

 

 リカバリーガールの言葉に恐縮しきりの親父。俺はその姿を見ながら、静かに呼吸を整え―

 

「親父…すまなかった」

 

 今、一番伝えたい事を口にした。

 

「焦凍…」

「エンデヴァーの息子として、母さんの息子として、トップを取ると誓ったのに…俺は……」

 

 準決勝での吸阪との戦い、俺は全力を出したと自信を持って言い切る事は出来る。だが、それでも勝てなかったという事は…。

 ネガティブな考えに囚われかけたその時、親父が静かに口を開いた。

 

「……大昔の政治家がこんな事を言っていた。『人間は負けたら終わりなのではない。辞めたら終わりなのだ』と…」

「辞めたら終わり…」

「今回の勝負。俺が見る限り、彼とお前の実力にそこまで差はなかった。何かが1つでも違っていれば、勝敗は逆になっていただろう」

「焦凍。これからもチャンスはある。この敗北を糧として、更に高みを目指して行けば良い。お前なら、ナンバー(ワン)になれる。俺も母さんもそう信じている」

「…わかったよ、親父。俺はもっと強くなる。この敗北を糧にして」

 

 親父の言葉にそう答え、俺は静かに気合を入れ直す。そんな俺を見て安心したのだろう。親父は小さく頷くと-

 

「俺はそろそろ仕事に戻る。無理はしないようにな」

「あぁ…」

「では、リカバリーガール。今度改めてお礼に参ります」

 

 リカバリーガールに一礼し、退室しようとドアを開いた。そこには―

 

「む…」

「あ…」

 

 親父と鉢合わせする格好となり、立ち尽くす八百万達の姿が…。

 

「え、あ、は、初めまして! 私達は轟さんのクラスメートで、お見舞いに伺わせて戴きました!」

 

 親父が半ば無意識に発している威圧感に気圧されながらも、頭を下げる八百万。砂糖と瀬呂も一瞬遅れてそれに続く。それを見た親父も―

 

「……息子が、焦凍がいつも世話になっている。これからも焦凍の良き友、良きライバルとして、共に歩んで行って欲しい」

 

 八百万達に頭を下げ、そのまま仕事へと戻っていった。 

 

「………エンデヴァー、すっげぇ怖いって噂だったけど…思ったより普通のお父さんだったな」

「あぁ…なんと言うか、意外だ」

「お2人とも! 轟さんに失礼ですよ!」

「いや、瀬呂と砂糖の反応が当然だ。変わったのはつい最近だからな…俺と同じだよ」

 

 2人(瀬呂と砂糖)を窘める八百万を宥めながら、俺は時計を確認する。次の試合まであと5分か。

 

「リカバリーガール。俺も観客席に戻ります。ありがとうございました」

「お騒がせして申し訳ありません」

「はいよ。お大事に」

「……あれ? そういえば、爆豪は? てっきり医務室(ここ)で寝てると思ったのに…」

「あぁ…あの子なら、この子が運び込まれる少し前に出て行ったよ」

 

 爆豪か…。麗日に完敗した事で、あいつも何か変わる事が出来たんだろうか…。

 

 

出久side

 

「緑谷君、俺の全身全霊を以て君に挑み、勝たせてもらう!」

「望むところだよ! 飯田君!」

 

 実況(プレゼント・マイク先生)の声を聞きながら闘技場へ上った僕達は、互いにそんな言葉を交わし、本来の位置とはかなり離れた所で構えを取る。

 

『おぉーっと! 両者とも本来の開始位置とは違う位置で構えているが、どういうことだぁ!?』

『先程主審のミッドナイトさんから連絡があった。飯田から申し出があり、それを緑谷が了承した為、あの位置での開始となったそうだ』

『なるほどぉ! 納得がいったところで試合開始だ! レディィィィィイッ! スタート!!』

「「いくぞ! 飯田君(緑谷君)!!」」

 

 試合開始と同時に、僕達は互いへ向けて一直線に走り出す。飯田君が開始位置を変更するよう希望してきたのは、最高速度を出す為の助走距離が欲しかったから。

 加速を妨害する事は簡単だ。だけど、僕はそれはやらない。やりたくない。甘いと笑われるかもしれないけど、僕は僕の抱く理想(ヒーロー)像を貫く為に、真正面から勝負をかける!

 

「とぅっ!」

 

 次の瞬間、最高速に達した飯田君はその勢いのままジャンプし―

 

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 空中で体を独楽のように回転させ、その勢いを加えた回し蹴りを放ってきた。あれは骨抜君との戦いで披露した技! だったら!

 

「ダブル44MAGNUM(フォーティーフォーマグナム)! スマァァァァァッシュ!!」

 

 飯田君の跳び回し蹴りと、僕が左右同時に放った44MAGNUM(フォーティーフォーマグナム)スマッシュとの激突。その結果は―

 

「くぅぅぅっ!」

「ぬぉぉぉっ!」

 

 互角! 2つの技がぶつかり合った事で発生した強烈な衝撃に、僕は吹き飛ばされながらも体勢を立て直し、構えを取る。でも―

 

「っ!?」 

 

 飯田君は既に動き出していた。時間にしてコンマ数秒の差。でも、その差は数字以上に大きい! 僕は咄嗟にフィンガースナップを高速で繰り返して、衝撃波の弾幕を放ち、迎撃を試みる。

 

「遅い遅い! 遅すぎる!!」

 

 だけど、最高速に達した飯田君のスピードの前には、弾幕も無意味だ。瞬く間に間合いを詰められ―

 

「はぁっ!」

 

 鋭い蹴りを叩き込まれる。防御を固めてダメージは最小限に留めたけど、この威力…決して楽観は出来ない! しかも―

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

 飯田君は一瞬たりとも止まる事無く動き続け、全方位から攻撃を繰り出してくる! これじゃあ、反撃はおろか、ここから動く事も!

 

 

プレゼント・マイクside

 

「おぉぉぉっと! 飯田の猛攻の前に、緑谷一歩も動けなぁい! 亀の様に防御を固めるのが精一杯かぁ!?」

「飯田の最高速度は、並のプロヒーロー以上だ。緑谷がこのまま防御に徹するつもりなら、激流に晒される岩の様に削り尽くされる訳だが…」

 

 努めて冷静に解説しているイレイザーだが、長い付き合いの俺にはわかる。自分の教え子同士の対決。しかもこれだけハイレベルな戦いを前に、内心喜んでやがる。

 まったくBothersomeな(面倒くさい)奴だぜ!

 

「おぉぉぉっと! 飯田が更に加速したぁっ!」

 

 そんな事を考えているうちに、闘技場で動きがあった。飯田が第2種目(騎馬戦)や2回戦で使用した超加速の裏技(レシプロバースト)を発動して更に加速。怒涛のラッシュを仕掛けた! そして―

 

「緑谷! 遂によろけたぁ!」

 

 飯田の猛攻に耐え切れなくなったのか、緑谷のガードが緩み、わずかにだがよろけちまった!

 それを勝機と見た飯田が、緑谷を仕留めようと今までで最大の攻撃を正面(・・)から放つ!

 

「……焦ったか。いや、誘い込まれた(・・・・・・)な」

 

 それを見て、マイクで拾えない程に小さく呟くイレイザー。それの意味を俺はすぐに理解する事になった。

 

 

飯田side

 

「貰ったぞ! 緑谷君!!」

 

 レシプロバーストを発動し、通常の最高速度を遥かに超えるスピードでラッシュを仕掛け、遂に緑谷君のガードを抉じ開ける事が出来た!

 レシプロバーストの残り時間は約5秒。このチャンス、決して無駄にはしない!

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 残る力の全てを右足に込めて! 真正面から緑谷君を打ち砕く為に回し蹴りを放つ!

 

「っ!?」

 

 直後感じたのは、蹴った対象(緑谷君)が吹き飛んでいく感覚ではなく、まるで巨大な岩を蹴ったような…まさか!

 

「信じていたよ。飯田君……君なら正面から来てくれるって!」

 

 緑谷君の言葉と両手でしっかりと受け止められた右足に、俺は自らの不覚を悟る。そして、次の瞬間―

 

「うぉぉぉぉぉっ!!」

 

 緑谷君は、気合と共にジャイアントスウィングの要領で俺を振り回し、一気に投げ飛ばした。

 高速で回転しながら20m程度の高さまで一気に上昇した事で、平衡感覚を完全に奪われた俺に襲い掛かるのは、衝撃波の弾幕と―

 

44MAGNUM(フォーティーフォーマグナム)! スマァァァァァッシュ!!」

 

 緑谷君必殺の右拳。次の瞬間、俺は強烈な衝撃と共に場外へと吹っ飛ばされた。

 

 

出久side

 

「飯田君、場外!! 緑谷君、決勝進出!!」

『激闘、決ちゃぁぁぁっく! 飯田が怒涛の攻めを見せていたが、最後の最後に緑谷が大逆転! 見事、決勝進出だぁっ!!』

『試合終盤、飯田の猛攻で緑谷が体勢を崩したように見えたが…あれは十中八九、緑谷の()()だろう。わざと隙を晒す事で、飯田の攻撃を促した』

『そして飯田の実直な性格上、最後の攻撃は正面から来ると考えてほぼ間違いない。如何に素早い攻撃でもどこから来るか分かっていれば、受け止める事は十分可能。増強系の“個性”を持つ緑谷なら猶更だ』

『なるほどぉ! 激闘を繰り広げた両者に、エブリバディ! クラップユアハンズ!! そして、決勝戦の対戦カードは! 吸阪雷鳥(バーサス)緑谷出久!!』

『現時点での1年生最強を決める試合は、30分後! ドンビーレイトォ!』

 

 実況(プレゼント・マイク先生)解説(相澤先生)の声を聞きながら、モニターに視線を送りトーナメント表を確認する。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 遂にここまで来た。最後の相手は雷鳥兄ちゃん。僕にとって最大最強のライバル。今まで一度も勝てていないけど…今日こそは勝ってみせる!!

 

 

雷鳥side

 

「決勝の相手は緑谷ちゃん。吸阪ちゃんの予想通りね」

「飯田も格段に力を上げていたけどな。出久だって強くなってる。妥当な結果だよ」

 

 切島と障子が買ってきてくれた食料を胃に収めながら、梅雨ちゃんの問いに答えていく。

 正直、飯田の動きには驚かされたが…それでも俺の予想を覆すには至らなかったという事だ。

 

「…ふぅ、落ち着いた。切島、障子、ありがとうな」

「あ、あぁ…それにしてもよく食べたな」

「鯛焼き2個にたこ焼き1パック、ケバブサンド3つにアメリカンドッグ、ついでにリンゴ飴…そんなに喰って動けるのか?」

「大丈夫大丈夫、俺、消化早いし…さて、ギリギリまで休養取れば…7割がたは回復するな。出久のダメージ考えれば…まぁ互角にやりあえる」

 

 膨れた腹を擦りながら、ギリギリまで体を休める為に目を瞑り、気持ちを落ち着かせる。全ては決勝戦の為に。

 

 

爆豪side

 

「ば…馬鹿な…こんな…」

 

 医務室を後にし、観客席に戻って来た俺だったが、数分前まで闘技場で繰り広げられていた戦いに目を疑った。

 元“無個性”のデクと“没個性”のメガネが、あんな戦いを繰り広げたなんて、信じられねぇ…。

 個性把握テストや戦闘訓練では、確かに不覚を取った。だけど、あれから俺だって必死に鍛えて…。

 それなのに、メガネはおろかデクにも勝てる気がしねぇ。丸顔にも負けて、俺は…俺は…。

 

 -おい、爆豪。1つ言っておく。出久は俺と互角に戦えるし、パワーもスピードも、ついでにテクニックもお前より上だ。俺に勝てない奴が、出久に勝とうなんざ、西から昇った太陽が東に沈むくらいありえない。それだけは肝に銘じとけ-

 

 “没個性”野郎の言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、周りを見てみれば-

 

「おい、あれ爆豪じゃん。口だけの“強個性”野郎」

「うわぁ、よく観客席(こっち)に来れたな…面の皮厚っ!」

「おいおい、あんまり刺激するなよ。あいつ狂犬だから噛みつかれるぞ」

 

 普通科やサポート科の奴らが俺を見ながら、小声で嘲っているのが聞こえてきた。怒りが爆発しそうになるが、その奥にB組の担任(ブラドキング)がいるのが見えたからそれも出来ねぇ…。

 

「くそっ…」

 

 怒りを噛み殺しながら、奴らから死角になる階段の方に移動する。

 何故だ! どうしてこんな事になった! 順風満帆だった筈の全てが何もかも滅茶苦茶だ!

 

「デクとあの“没個性”野郎だ…あいつらさえ、あいつらさえいなきゃ…今頃、俺は……」

 

 そうだ。あいつらが悪いんだ。あいつらが…あいつらが…。




最後までお読みいただき、ありがとうございました。
7月からは更新ペースが元通りとはいきませんが、かなり改善される予定です。
今後とも、拙作をよろしくお願いいたします。

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