出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第37話を投稿します。
今回より、職業体験編がスタート。お楽しみ頂ければ、幸いです。
第37話:堕天への第一歩
雷鳥side
昨日までの快晴が嘘のような土砂降りの朝。雄英へと急ぐ俺と出久の心は、この天気同様に荒れ模様だった。
昨晩相澤先生から知らされた爆豪の除籍。それだけでも気が重いというのに、朝一番で飛び込んで来たのは、飯田の兄であるターボヒーロー・インゲニウムが
おまけに、電車の中では乗客が遠慮無しに話しかけてくるわ、スマホを向けてくるわ…営業スマイルのやりすぎで表情筋が痛いよ…。
そんな事を考えながら歩いていると-
「何呑気に歩いているんだ!! 遅刻だぞ! おはよう吸阪君! 緑谷君!」
雨合羽と長靴で完全武装した飯田が、俺達の横を駆け抜けて行った。
「おはよう、飯田君。遅刻って、まだ予鈴5分前だよ?」
「雄英生たるもの、10分前行動が基本だろう!!」
そう言いながら疾走する飯田を追いかけて、俺達も校舎へ走る。そして―
「…飯田君……」
意を決した出久が、昇降口で飯田へ声を掛けたが…。
「兄の件なら、心配ご無用だ。要らぬ心労をかけて、すまなかったな」
飯田は一息にそう言うと、俺達を振り切るように速足で教室へ行ってしまった。
「
飯田への不安を胸に抱きながら、俺達も1-Aの教室へ入った訳だが…。
「皆! 兄の件では心配をおかけした! 要らぬ心労をかけてしまい、申し訳ない!!」
自分を囲み、口々に
皆もそれを察したのか、二言三言声を掛けて、自らの机へと戻っていく。そうしている間にチャイムが鳴り―
「おはよう」
声と共に入室してきた相澤先生を静寂の中で出迎える。この辺りはもう慣れたものだ。
「えー…昨晩知らせた通り、馬鹿が1名除籍処分となった。その関係でマスコミが色々嗅ぎ回っているようだが、一切相手をしないように」
冷酷とも受け取れる相澤先生の言葉だが、異を唱える者は誰もいない。まぁ、これも爆豪の人徳が成せる業だ。ある意味大したもんだよ…。
問題は、今回の騒動で一部のヒーローから指名の変更やキャンセルが発生し、集計がまだ出ていないという事だろう。
明日には結果が出るらしいが…爆豪め、どこまでも傍迷惑な奴だ。
「次に…吸阪、緑谷、轟、前に出ろ。
…ん? 渡す物?
それが何なのか見当もつかないまま、俺達は相澤先生の前に並び―
「受け取れ」
それぞれ差し出されたカードを受け取る。これは…。
「それは、雄英高校が発行する『
簡易版仮免か。そんな物があったとは全く知らなかったな。
「主にまだ資格試験を受験した事がない1年生に対して発行される訳だが…雄英の長い歴史の中でも発行されたのは、10枚にも満たない。ましてや3人同時に発行されるなど初めての事だ」
なるほど、レア物中のレア物って事か。そりゃ知らなくて当然だ。
「お前達3人は、USJにおける
「「「はい!」」」
「それから………今更ではあるが、USJではお前達3人のおかげで助かった。ありがとう」
相澤先生からの思いがけない感謝の言葉。俺達は一瞬虚を突かれたが…すぐに笑顔で一礼し、それぞれの席へと戻っていった。
「……はぁ…」
昼休みの大食堂。注文したロースカツのみぞれ煮定食*1を前に出久が溜息をつく。
「どうした出久。溜息なんかついて…悩み事か?」
「え、うん……爆豪君の事でちょっとね…」
予想通りの出久の答え。昨日の夜からどうも様子がおかしかったからな。
「彼が除籍になったのは、彼自身の行動の結果。それは解ってるんだ…でも、そうなる前に…何か、何か出来たんじゃないかなって…」
「なるほど…お前らしいと言えばお前らしいが……出久、そんな事は考えるだけ時間の無駄だ」
「無駄って、そんな!」
「まぁ、聞け。昔読んだ本にこんな一節があった。『全ては結果の為の過程である。人は最良の結果を得るために思いを巡らせ、歯を食いしばり、切磋琢磨し、時には命をかける。だが、そうして齎される結果も、常にハッピーエンドとは限らない』ってな。除籍という結果になったのは、全てあいつの選択した過程の結果だ。そこに余人の意思が介入する余地なんてない」
「そうだよ! 爆豪君の事で、緑谷君が気にする必要なんて、これっぽっちもないよ! 少なくとも私はそう思う!」
「そうね。それに緑谷ちゃんが手を差し伸べていたとしても…爆豪ちゃんはキレて払い除けていたと思うわ…だから、結果は変わらなかったんじゃないかしら?」
「う、うん…」
同じテーブルについていた麗日と梅雨ちゃんからも声を掛けられる出久だが…まだ、何かが引っかかっているな……仕方ない。
「あぁ…わかったわかった。放課後爆豪の家に行くぞ」
「雷鳥兄ちゃん!」
「駄目元で声かけてみろ。なんか反応返すだろ」
「うん!」
「まぁ、俺は全力で馬鹿を煽るけどな…それから」
次の瞬間、俺は出久の皿からロースカツのみぞれ煮。その真ん中の部分を掻っ攫う!
「あぁっ!」
「油断大敵。相談料代わりに貰っとくぜ。代わりにホラ、鳥の照り焼きやるから」
「それ端っこでしょ!」
ロースカツの
だが、少し元気が出てきたようで何よりだ。
爆豪side
「クソッ、クソッ、クソッ!」
治まらない怒りをぶつけるように、部屋の壁を何度も殴り、本棚を力任せに倒す。当然部屋の中は滅茶苦茶になり、壁はボロボロになっていくが…そんな事はどうでもいい。
-爆豪。お前を本日付で除籍にする。明日からもう来なくていいぞ。荷物はこちらで纏めて送ってやる-
-他校生との暴力沙汰の末に相手を病院送り。警察は正当防衛を認めたそうだが、それは関係ない-
-お前にはヒーローになる為に一番大切な物が欠けている。入学から今日までの間に気づく事を期待していたが…無理だったようだな。才能は在った筈なんだが…-
昨日の晩、警察署に来たイレイザーヘッドから言われた言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
俺は自分の身を守っただけだ。それのどこが悪い!
ババアはずっと泣き続けてるし、親父は黙り込んだまま…何もかもが滅茶苦茶だ!
「クソが…」
壁を殴るのを止め、思わずベッドに座り込む。俺のスマホに誰かからの着信が入ったのは、その時だ。
「………誰だよ」
最初は無視しようとしたが、鳴り続ける着信音に根負けし、スマホを手に取る。非通知設定か…。
「…誰だ」
『爆豪勝己君…だね?』
「っ!?」
スマホから聞こえてきた声に、全身が総毛立つ。誰だ…誰なんだよ、こいつは…。
『はじめまして…でもないね。端末モドキ越しに会っているから、久しぶり。と言うべきかな?』
「あの、時の…」
『おや、覚えていてくれたのかい? これは嬉しい』
「な、なんで…こ、この番号」
『
「………」
『雄英を除籍になったそうだね』
「っ!?」
どうして? と聞きそうになるのを寸前で堪える。こいつ…この人の機嫌を損ねてはいけない。俺の中の警戒心が最高レベルでそう告げている。
『…勘が良いね。優秀な子は大好きだ。そして…そんな優秀な君をつまらない理由で放逐した雄英高校に、強い憤りを感じているよ』
「憤り…です、か?」
『そう、憤りだよ。君は昨晩、道を歩いていただけなのに、見ず知らずの男達から突然嘲笑を受けた。それだけでも憤るに十分だというのに、男達は自らの“個性”を使い、君を傷つけようとした。これは決して許される事じゃない』
『君はそんな男達から身を守る為に拳を振るった。正当防衛だ。それも相手を過剰に傷つけないように“個性”を使わないという気遣いも見せている。こんな事は誰もが出来る事じゃない…実に素晴らしい』
『それなのに、雄英高校は自分達の面子を守る為、君を除籍にして放逐した。インターネットでは有象無象のゴミ達が、君への誹謗中傷を繰り返し、マスコミも君を辱める報道に終始している…このような不条理が許されてはいけない』
「あ、ありがとう…ございます」
顔も知らない相手からの声に、思わず涙が零れる。この人は俺の…真の理解者だ…。
『そこでだ…爆豪君。君に提案がある…』
「提案…ですか?」
『
「っ!?」
10文字にも満たない問いかけ。だけど、それは今までのどんな言葉よりも心の奥に突き刺さった。
『もう一度聞こう。爆豪勝己君。力が欲しいかい?』
「はい…力が…力が欲しいです! 俺を見下した奴ら全てを打ち負かして、後悔させられるだけの力がッ!」
『素晴らしい返答をありがとう。だが…
「見返り…ですか?」
『そう、見返りだ。簡単な事だよ。新しい自分に生まれ変わる為、過去の自分と決別する為の…
「覚悟…過去と決別…」
『それを見せてくれた時、君の元へ迎えを寄越そう』
その言葉を最後に切れてしまった通話。俺はスマホを机に置き、深呼吸を繰り返す。
新しい自分に生まれ変わる為、過去の自分と決別する為の覚悟…それは即ち…。
「俺には…俺には………もうこの道しかねぇんだッ!!」
雷鳥side
土砂降りだった雨も止み、雲の隙間から僅かに日の光が差し込み始めた放課後。俺と出久は爆豪の家に急いでいた。
出久が何を言ったとしてもあの馬鹿に届くとは思えないが…それで出久の気が済むなら-。
「ッ!?」
「爆発!?」
突然響いた轟音。音のした方向に視線を送れば、黒煙と炎が立ち上っているのが見える。
「火事だ!
「今の音は、ガス爆発か!?」
「わからん! とにかく消防車!!」
近所の人達の大声に、最悪の事態が脳裏に過ぎる。
「雷鳥兄ちゃん!」
「急ぐぞ、出久!」
急いで現場に駆け付けてみれば、爆豪の家は炎に包まれ―
「おい! 勝さんと光己さんは!」
「いない! 勝己君もいないぞ! まさか…まだ中にいるのか!?」
「そうだとしたら、助けに行かないと!」
「駄目だ! 火の勢いが強すぎる!」
「消防はまだかよ! このままじゃ3人とも!」
3人がまだ中にいるかもしれないという最悪の状態。これは…やるしかない!
「出久!」
「うん! 僕達が行きます!」
「おい! 何を言ってるんだ! 危ないぞ!」
慌てて止めに入ろうとするおじさんを振り切り、俺は電磁バリア、出久は『フルカウル』を発動。
「俺は2階に行く! 出久は1階を頼む!」
「わかった!」
炎の中へ飛び込んだ! そして―
「どりゃぁっ!」
俺は2階の廊下で倒れていた爆豪のお母さんを背負って窓から庭へ跳び下り、出久も爆豪のお父さんを背負って飛び出してきた。
「雷鳥兄ちゃん! 爆豪君は? 1階にはいなかったけど!」
「2階にもいない! 『サーチ』で調べたが、他に反応はなかった!」
どうやら、爆豪は外出していたようだな。そう安心したのも束の間。
「勝己…勝己が…家に、火を……」
意識を失う寸前、爆豪のお母さんが呟いた言葉は、俺と出久を驚愕させるに十分すぎる力を持っていた。
その後、到着した消防隊によって消火活動が開始され、爆豪の両親は救急車で病院へ搬送されていった。
俺達は警察から“個性”の無断使用について詰問されたが…簡易版仮免を見せるとあっさり解放どころか―
「人命救助への迅速な行動。感謝します!!」
敬礼と共に見送ってくれた。掌返しが凄まじいよ…。
そして、この日を最後に爆豪勝己の消息は完全に途絶える事となった…。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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