出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1   作:SS_TAKERU

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お待たせしました。
第38話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。

また、キャラクター設定集を最新版に更新しております。


第38話:指名とヒーローネーム

オールマイトside

 

 除籍となった爆豪少年が自宅に火を放ち、そのまま失踪したという速報が雄英に伝わって僅か10分後。

 校長やリカバリーガールを始めとする雄英の主だった教師陣が会議室に集まり、緊急の職員会議が開かれていた。

 

「喫緊の問題としては、生徒達…特に1-Aの子達に対してのフォローだね。元が付くとはいえ、クラスメートがこのような事件を起こしたという事に、大なり小なりショックを受けている筈だ。必要ならカウンセラーの招聘も考えなければいけないね」

「カウンセラーに関しては、あたしの伝手を使って何とかしようかね」

「では、その件については、リカバリーガールにお任せするよ」

「マスコミへの対応についてですが-」

 

 会議が進む中、私は無言のまま爆豪少年への対応に思いを巡らせ…悔み続けていた。

 弟子である緑谷少年や吸阪少年、授業の度に質問を投げかけてくる生真面目な飯田少年や八百万少女達には、真摯に対応出来ていた。その自信はある*1

 だが、爆豪少年に対してはどうだっただろうか? 良く言えば孤高、悪く言えば協調性に難のある爆豪少年と話をしたのは、初めての戦闘訓練の時ぐらいだ。

 今更過去に戻れる訳ではないが、私がもう少し爆豪少年への対応を丁寧に行えていたら、今回のような事には…

 

「-マイト」

 

 そもそも、このタイミングでの爆豪少年の凶行に、()()()()()()()()()()()()()のは私だけだろうか?

 

「-ルマイト」

 

 考え過ぎと笑われるかも知れないが…爆豪少年を惑わし、闇へと引き摺り込んだ者が―

 

「オールマイト!」

「は、はいっ!?」

 

 大声に我に返ってみれば、目の前には呆れ顔の校長と相沢先生の姿が…。

 

「職員会議、終わりましたよ」

「随分と深く考え込んでいたようだね」

「これは…いや、お恥ずかしい」

 

 2人に謝罪しながら、意を決した私は…2人の自分の思いをぶつけてみたが―

 

「オールマイト…君は本当に…教師としては素人だね!!」

「過去の事をウダウダ悩むのは、不合理の極みですよ」

「ぐはっ!」

 

 返ってきた容赦ない言葉に思わず喀血してしまう。

 

「まぁ、これはあくまでも()()()()ですが…完全受け身な生徒を教師が手取り足取り教える…そんな()()()()が許されるのは、義務教育の間だけでしょう。生徒にとっても教師にとっても」

「奴らは自らの意思で雄英高校(ここ)に入り、ヒーローになる為に幾つもの壁を乗り越えていく道を選んだ。その為に踠き、足掻くのは当たり前。解らなければ教えを乞い、与えられたヒントから正解を導き出すのは基本中の基本。爆豪(やつ)はその基本が出来ていなかった…だから除籍になった。それだけの事です」

 

 淡々と…だが、熱を感じさせる口調で持論を語る相澤先生。正直言って、普段の合理主義からは想像出来ない姿だ。

 

「………喋り過ぎました。お疲れ様です」

 

 私と校長の視線に感じる物があったのか、微かに赤面しながら会議室を後にする相澤先生。

 だが、彼の言葉は大いに参考になった。ありがとう、相澤先生!

 

 

雷鳥side

 

 あの事件から一晩経ち、1-Aの教室にはいつもと同じ光景が…いや、正確には同じじゃない。

 飯田のお兄さんの事(インゲニウムの敗北)や爆豪の凶行、それらを少しでも忘れようと、皆意識していつものように振舞っているのだ。そうしている間にチャイムが鳴り-―

 

「おはよう」

 

 声と共に入室してきた相澤先生を静寂の中で出迎える。

 

「えー、今日の“ヒーロー情報学”、ちょっと特別だぞ」

 

 『ちょっと特別』。相澤先生の言葉にクラスの緊張感は一段階増し-

 

「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

「「「「「胸ふくらむヤツきたぁぁぁぁぁっ!!」」」」」

 

 ボルテージが一気に高まるが、相澤先生の一睨みですぐに鎮静化する。

 

「というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは、経験を積み即戦力として判断される2年生以降…」

「つまり今回来た“指名”は、将来性に対する“興味”に近い」

「卒業までにその興味が削がれる様な事になれば、一方的にキャンセル…なんて事はよくある話だ」

「大人は勝手だ!」

 

 相澤先生の説明に、峰田が思わず愚痴るが…まぁ、それが社会ってもんだから仕方ない。

 

「そして、“指名”の集計結果はこうなった」

 

 直後、黒板に表示された集計結果に全員の視線が集中する。

 

 1-A・指名件数。総数14197

 

  吸阪:2361

  緑谷:2309

   轟:2106

  飯田:1932

 八百万:1138

  常闇:1127

  蛙吸:1119

  麗日︰1108

  切島︰272

  瀬呂︰216

  耳郎:164 

  芦戸:112

  砂藤:103

  障子:61

  青山:24

  峰田:19   

  尾白:13

  葉隠:8  

  口田:5

 

 ふむ、ベスト8に残ったメンバーで全体の9割強か。これは妥当と言って良いのか悪いのか…

 

「今年は最終種目でベスト8に残った者に票が集中した。だが、数はともかくクラスの全員に指名があったのは、喜ばしい事と言って良いだろう」

「これを踏まえ、お前達には指名を受けたヒーロー事務所の中から1つを選び…職場体験に行ってもらう」

 

 なるほど。プロの活動を実際に体験し、今後の糧にしようという狙いだな。

 

「それでヒーロー名か!」

「俄然楽しみになってきたァ!」

 

 そんな学校側の狙いを察しているか否かは別にして、盛り上がるクラスメート達。ヒーロー名か…。

 

「まぁ、仮ではあるが適当なもんは…」

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

「この時の名が! 世に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!!

 

 相澤先生の言葉を遮る形で教室に入ってきたミッドナイト先生は、そのまま相澤先生からバトンタッチするように教壇に立つ。そして相澤先生は―

 

「その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうの出来ん」

 

 そう言い残して、サッサと寝袋に収まり寝てしまった。合理主義の極みだな…。

 

 

 出久side

 

 ミッドナイト先生から与えられた15分という時間は瞬く間に過ぎて―

 

「じゃ、そろそろ。出来た人から発表してね!」

 

 皆の前での発表が始まった。自分の考えたヒーローネームを発表するのは緊張するけど…皆がどんなヒーローネームを考えたのか、とても楽しみだ。

 

「それじゃ、僕から♪」

 

 トップバッターは青山君だ。果たしてどんな名前を…。

 

「いくよ…輝きヒーロー“I can not stop twinkling.(キラキラが止められないよ☆)”」

「「「「「短文!!」」」」」

 

 まさかの短文! 思わぬ変化球だ! いや、インパクトという点を考えたら、これはこれで()()なのか!?

 

「そこはIを取って、Can'tに省略した方が呼びやすいわね」

「それね、mademoiselle☆」

「というか青山。お前のキャラ的には英語よりもフランス語で言った方が良くないか? Iを取るなら…“peux pas arrêter la brillance”って感じだな」

「そっちも考えたんだけど、英語の方が認知度が高いと思ってね。けれど、アドバイスはMerci beaucoup☆」

 

 流石は雷鳥兄ちゃん。的確な指摘だ。そして、英語とフランス語の認知度の差を考慮して、ネーミングした青山君も凄い。

 

「じゃあ次アタシね!」

 

 2番手は芦戸さんか。直球で来るか変化球で来るか…。

 

「リドリーヒーロー! “エイリアンクイーン”!」

(ツー)!! ()()()()()()()()を目指してるの!? やめときなさい!!」

「芦戸。エイリアンだと本来は異邦人という意味だからな。アレをイメージしてのネーミングなら、Xenomorph(ゼノモーフ)クイーンにするべきだろ。それから2の監督はリドリー・スコットじゃなくて、ジェームズ・キャメロンだ」

「あっ、そっか!」

「どっちにしてもいろんな意味で危険だから駄目! 作り直し!」

 

 ………なんだろう。教室の空気がまるで大喜利だ…。雷鳥兄ちゃんの的確な指摘が、かえってそれを助長している気がする。

 

「じゃあ次、私いいかしら?」

「はいっ、梅雨ちゃん!!」

「小学生の頃から決めてたの。梅雨入りヒーロー“FROPPY(フロッピー)”」

「カワイイ! 親しみやすくて良いわ!! 皆から愛されるお手本のようなネーミングね!!」

 

 ありがとう梅雨ちゃん(フロッピー)! 空気が変わった!

 

「んじゃ俺!」

 

 皆がフロッピーコールを行う中、次に立ち上がったのは切島君だ。そのヒーローネームは?

 

烈怒頼雄斗(レッドライオット)!!」

(レッド)狂騒(ライオット)! これはアレね!? 漢気ヒーロー“紅頼雄斗(クリムゾンライオット)”リスペクトね!」

「そうなんス! だいぶ古いけど、俺の目指すヒーロー像は“(クリムゾン)”そのものなんス」

「フフッ、憧れの名を背負うってからには、相応の重圧がついてまわるわよ?」

「覚悟の上ッス!!」

 

 切島君の熱い一言に影響されたのか、次々とヒーローネームを発表していく。

 

 耳郎さんは『ヒアヒーロー“イヤホン=ジャック”』

 障子君は『触手ヒーロー“テンタコル”』

 瀬呂君は『テーピンヒーロー“セロファン”』

 尾白君は『武闘ヒーロー“テイルマン”』

 砂藤君は『甘味ヒーロー“シュガーマン”』

 芦戸さんは『リドリーヒーロー“エイリアンクイーン”』改め『Pinky(ピンキー)

 葉隠さんは『ステルスヒーロー“インビジブルガール”』

 

「良いじゃん良いよ! さぁ、どんどん行きましょー!!』

 

 次々と披露される力作にミッドナイト先生も興奮が抑えられない様子だ。

 

「この名に恥じぬ行いを」

 

 そう言って八百万さんが発表したヒーローネームは『万物ヒーロー“クリエティ”』。

 常闇君は『漆黒ヒーロー“ツクヨミ”』

 峰田君は『もぎたてヒーロー“GRAPEJUICE”』

 口田君は『ふれあいヒーロー“アニマ”』

 

「じゃあ、私も…」

 

 ここで、麗日さんが手を上げた。いったいどんなヒーローネームを考えたんだろう?

 

「考えてありました…」

 

 恥ずかしそうに見せてくれたその名は『ウラビティ』。うん、麗日さんにピッタリなヒーローネームだ。

 

「うん、思ったよりもずっとスムーズ! 残っているのは…飯田君、轟君、緑谷君、吸阪君。体育祭ベスト4ね!」

 

 ミッドナイト先生の声で、まだ発表していない事に気が付いた。早く発表しないと!

 

「じゃあ、俺から…」

 

 僕よりも早く手を上げたのは轟君だ。そのヒーローネームは…。

 

「対極ヒーロー“アブソリュート”」

 

 Absolute(絶対)か…正反対の力である氷と炎、その両方を自在に操る轟君らしいネーミングだ。さぁ、次は僕の―

 

「…はい」

 

 今度は飯田君に先を越された! でも、飯田君はどこか迷っているようで…。

 

「俺の…ヒーローネームは…」

 

 皆の前に立った次の瞬間、飯田君はフリップボードに書かれていたヒーローネームに横線を入れ、新たな名前を書き込み披露する。そこに書かれていたのは―

 

「天哉…未だ未熟者なので、このままでいこうと思います」

 

 横線を入れられた『インゲニウム』の下に走り書きされた『天哉』という名前。飯田君の迷いが滲み出ているようなヒーローネームに、ミッドナイト先生は何も言わずOKを出した。

 残るは僕と雷鳥兄ちゃん…ふと視線を送ってみると、雷鳥兄ちゃんがハンドサインを送ってきた。

 

 トリハ モラウ

 

 雷鳥兄ちゃん。甘えさせてもらうね。

 

「はい!」

「はい、緑谷君」

 

 皆の注目を集めながら、前に立ち…考えたヒーローネームを披露する。

 

「僕のヒーローネームは…“グリュンフリート”です!」

(グリュン)平和(フリート)…なるほど、体育祭決勝戦のアナウンスをヒントにしたのね?」

「はい、プレゼント・マイク先生が僕を竜殺しの英雄(ジークフリート)と評してくれました。ジークフリートのスペルはSiegfried。これは勝利(Sieg)平和(fried)に分けられます。そこから着想を得て…」

「平和をもたらす緑色の英雄…良いわ! 実に良い!」

 

 ミッドナイト先生の評価も、皆の反応も上々。雷鳥兄ちゃん、トリは任せたよ!

 

 

雷鳥side

 

「さて、最後は俺だな」

 

 出久のヒーローネームに周囲が上々の反応を示す中、前に立つ。全員の視線を感じながら、軽く息を吐き…フリップボードを見せる。

 

「俺のヒーローネームは、ライトニングヒーロー“ライコウ”だ!」

「ライコウ…!」

「ライコウ…!」

「…ライコウ、漢字で表記するなら『雷光』といったところかしら?」

「それもあります。あとは、『雷吼』とか『雷皇』とかって意味も持たせてます」

「なるほど! トリプルミーニングというやつね!」

Exactly(そのとおり)!。『雷光』のように素早く現場へ到着し、『雷のように吼える』事で(ヴィラン)には恐怖を、市民には安心を与える『雷の皇』。そんなヒーローになりたいと思い、この名を付けました!」

 

 俺の宣言で教室が一気に盛り上がる。こうして、“ヒーロー情報学”の授業は終わりを迎えるのだった。

 

 

オールマイトside

 

「あれ? 1年の指名、今頃になって追加が来てますよ…もう集計出しちゃったのに…オールマイト、お弟子さんの緑谷君に追加の指名が来てますよ」

「追加の指名?」

 

 セメントス先生の声に呼ばれ、パソコンの画面を覗き込む。期限を過ぎての指名…一体誰なのだろう?

 

「どれどれ………こ、この方は…」

 

 画面に表示される名前を見た瞬間、心臓の鼓動が一気に早まるのを感じた。その直後―

 

「ッ!?」

 

 前触れなく鳴り響くスマートフォン。驚きで飛び上がりそうになるのを必死で抑えながら、相手を確認する。表示は非通知設定になっているが…。

 

「間違いない……()()()()だ…」

 

 緑谷少年、吸阪少年、とんでもない事になる予感がするが…どうか、乗り越えてくれ…。

*1
的確な助言が出来たかどうかは別の話




最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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