出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第39話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
オールマイトside
「間違いない……
募集期限を過ぎて送られてきた指名。それにタイミングを合わせたかのように鳴り響くスマートフォンに、私の心臓は早鐘を打ち鳴らす。
慌てて職員室を飛び出し、人気の無い渡り廊下まで来たところで覚悟を決め、通話を開始する。
「も、もしもし…八木、ですが…」
『おぉ、俊典。久しぶりだな。まったく、偶には電話くらいせんか』
電話越しに聞こえてきた懐かしくも恐ろしい声に、全身から汗が吹き出し、両足が産まれたての小鹿の様にガクガクと震え始める。
「グ、ググ、グラントリノにおかれましては、ひ、日々、ご、ご壮健の事と…は、はい」
『そう思っとる割には、連絡を怠っとったようだが?』
「い、いえ! 怠ると申しますか…記憶から封印していたと申しますか…」
『オイ…まぁ、良い。今日電話したのは、雄英体育祭の件だ。活躍したお前の弟子2人……ありゃ大したもんだ! 15、6であの動き、下手なプロ顔負けだぞ!』
「は、はい! 2人とも私の自慢です!」
緑谷少年と吸阪少年が褒められた瞬間、体の震えが治まっていき-
『そういう訳でな。弟子の片方…緑谷出久をこっちによこしてくれ。『ワン・フォー・オール』の継承者、直に見てみたい。
「き、聞きたい事…でしょうか?」
『あぁ、指導者としてのお前について、指導法について…まぁ、その辺りの事を
すぐに再発した。グ、グラントリノは私を疑っていらっしゃる!?
『ワシの知っとるお前だったら、やたら擬音語を使ったり、感覚だけに頼った指導をやってそうなもんだが…いや、雄英の教師になった事で一皮剥けたようだな!』
「ハ、ハイ。モ、モチロンデスヨ…」
『まぁ、とんでもない数のオファーが来ているだろうが、何とかこっちへ来てもらう様に、お前から話をつけてくれ』
「わ、わかりました!」
『期待しとるぞ。あ、そうそう。近い内に会いに来い。
「ハ、ハ、ハイィィィィッ!!」
通話が終わった瞬間、思わずその場にへたり込みながらも、私は脳をフル回転させて考えを纏めていく。
まずは緑谷少年に話をして、職場体験先をグラントリノの事務所にしてもらい、その上でグラントリノの疑念を解消してもらえるように便宜を図ってもらわねば!
どうしてこんな事に…
雷鳥side
「……2361件。わかっていたが、多いな…」
放課後。相澤先生から渡された指名リストを読みながら思わず呟く。2300以上も指名が来ていたら、目を通すだけで一苦労だ。
「大変そうね。吸阪ちゃん」
「すっげぇ大変。梅雨ちゃんは体験先、決まったのかい?」
「まだよ。でも、水難に係る事務所に行くつもりだから、絞り込みは早く出来そうだわ」
「なるほどね。俺も早く目を通して絞り込みに入らないと…」
梅雨ちゃんとそんな事を話しながら、リストを更に読み込んでいると―
「わわ私が、独特の姿勢で来た!!」
オールマイトが物凄く慌てた様子でやって来た。あの慌てぶり、何かあったのか?
「み、緑谷少年。ちょっとおいで」
「は、はい」
出久を連れて、教室を後にするオールマイトの後姿を見送ったところで、前世の記憶が不意打ちのように脳裏に浮かび上がる。
そうだ。思い出した…たしか出久に、グラントリノからの指名が来たんだったな。それから―
「………」
記入済みの用紙を手に、思いつめた表情で教室を出ていく飯田の姿を見て、職場体験で起こる
「…ちょっと拝借」
机に放置された飯田への指名リストを掴み、素早く目を通す。やっぱりな…。
「吸阪ちゃん、盗み読みなんてお行儀が悪いわよ」
「ごめんごめん、ちょっとした好奇心でね」
梅雨ちゃんからの突っ込みに謝りつつ、リストを元の位置に戻す。さて、俺はどう動くべきか…。
出久side
「緑谷少年。君に特別な指名が来ている!」
「特別な指名…ですか?」
オールマイトに連れられて渡り廊下まで来たところで、僕はそんな事を告げられた。特別な指名…一体誰からなんだろう?
「その方の名は…『グラントリノ』。かつて1年間だけ雄英で教師をしていた…私の担任だった方だ」
「オールマイトの担任! そんな方が僕を!」
思いもよらない人からの指名に、僕は興奮を抑えきれない! だけど…。
「当然、『ワン・フォー・オール』の件もご存じで、雄英体育祭での活躍を見て、直に会ってみたいと仰られている」
「うわぁ、光栄だなぁ! っていうか、“個性”の件をご存じの方がまだいらっしゃったんですね!」
「…グラントリノは
オールマイトはどこか浮かない様子で……ガタガタと震え始めた!?
「あぁ、Shit! 震えるなよ、この足め!」
というか、本気で怯えてる!? オールマイトのこんな姿見た事ない!
「そ、そういう訳で! 緑谷少年! 2300を超える指名を受けている事は承知の上で、敢えてお願いする! グラントリノの元へ職場体験に行ってくれないだろうか!?」
「はい! 喜んで伺わせていただきます!」
「そうか! 行ってくれるか! ありがとう! 本当にありがとう!!」
僕の返答を聞いて、心底ホッとした様子のオールマイト。だけど―
「あ、あと、もしもグラントリノに私の事を聞かれたら…それなりにで良いから、良い師匠だと伝えてくれないか?」
「いや、オールマイトの担任を務められたような方に嘘をつくのは…」
「そこを何とか! 少し、ホンの少し話を盛ってくれるだけで良いから!」
「…やっぱり嘘をつくのは……」
「そうか……そうだよね………」
最後は凄く落胆した様子だった…嘘をついた方が良かったのかなぁ…。
「職場体験か」
「あぁ、即決が何人か」
「大事な行事だ。ちゃんと考えさせろよ。
「そうだな…」
スナイプの声に答えながら、提出された用紙をチェックしていく。すると―
「これは…」
目に留まったのは飯田の提出した用紙。希望先は保須のヒーロー事務所…まさか…。
「失礼します。1-Aの吸阪ですが、相澤先生はいらっしゃいますか?」
「おう、ここだ」
用紙を机の上に置き、吸阪の方へ向き直る。
「お忙しい時にすみません。ちょっとご相談したい事が…」
雷鳥side
「飯田。悪いが少し付き合ってくれないか?」
相澤先生に
「吸阪君…すまないが、これから兄の見舞いに行くところで…」
飯田はお兄さんへのお見舞いを理由に俺を振り切ろうとするが…そういう訳にはいかない。咄嗟に飯田の肩を握り、半ば睨むように視線を送る。
「1時間…いや30分でいい。頼むよ」
「………わかった」
「悪いな」
30秒程沈黙が続いたところで、飯田が折れてくれた。
「ら、雷鳥兄ちゃん!」
「今は来るな! 出久…来るなら、30分後TDLに来い。良いな? 30分後だぞ」
付いて来ようとする出久を制し、向かうのは
「TDL…相澤先生に無理言って、1時間だけ貸し切りにしてもらった。今いるのは俺達だけだ」
「………吸阪君。ここまで僕を連れて来た理由を聞かせてもらいたい」
「理由ね……ホントはわかってるんだろ?」
「わからないから聞いているんだ!」
飯田の奴。大分苛立っているな。こりゃ、茶化さずにいきますか…。
「職場体験…希望は保須市のヒーロー。違うか?」
「っ!? どうしてそれを!」
「簡単な推理だよ。1つ、お前のお兄さん、ターボヒーロー・インゲニウムが
「2つ、昨日こっそりお前の指名リストを見せてもらったんだが…保須市のヒーローが記載されているページにだけ強く折り目がつけられていた」
「3つ、ここ数日のお前を観察する限り、お兄さんを再起不能にした
「以上3点から、飯田天哉が職場体験の舞台として、保須市を選択する確率は極めて高いと考えられる。そして、今のお前の反応から見てもこの予測が正しい事は疑いようがない。以上
ま、本当のところは前世の記憶で知っている訳だが…そんな事をいう訳にもいかないので、予め設定しておいた推理を披露する。
「………務めて平静にしていたつもりだったが…上手くはいかないな。あぁ、そうだよ…僕は、兄をあんな体にした
「なるほどね…」
ヒーロー殺し。独自の倫理観や思想に基づいた『贋物のヒーローに粛清を与える』という信念を掲げ、各地でプロヒーローを襲撃してきた凶悪犯…だったな。
これまでに17人を殺害し、23人を再起不能に追い込んでいる…。たしか、単独の犯罪者としては、オールマイトの登場以降で最多の殺害数を記録していた筈だ。
「もしも、それを止めると言うのなら…吸阪君、君であっても容赦はしない! 全力を持って排除する!」
「おいおい待て待て、誰も止めるなんて言ってないぞ。第一、
「………じゃあ、何故ここに僕を?」
「簡単な事さ…俺と
不敵な笑みを飯田に向けながら、俺はゆっくりと構えを取る。
「俺に勝てたなら、もう何も言わねぇよ。お前の好きにすればいい」
「………わかった。君を乗り越えて、ヒーロー殺しに挑ませてもらう!」
出久side
「あれから20分…雷鳥兄ちゃんと飯田君…大丈夫かな……」
雷鳥兄ちゃんと飯田君のやり取りの後、僕を含むA組の17人は誰一人帰宅する事無く、時計を見つめ続けていた。時間になったら即TDLに向かう為だ。
「吸阪ちゃん。どうしてこんな事を…」
「梅雨ちゃん…雷鳥兄ちゃんにはきっと…何か考えが…」
「ええ、きっとそうだと思うわ…でも……」
落ち込んだ様子の梅雨ちゃんにかけるべき言葉が上手く出てこない。僕はまだまだ駄目だなぁ…。
「なあ、そろそろ行こうぜ!」
「あぁ、今から走れば、丁度良い頃合いにTDLへ着ける!」
「そうだね…皆、行こう!」
一斉に教室を飛び出し、僕達はTDLへ急ぐ。どうか…どうか、悪い事が起きていませんように…。
雷鳥side
「これで4回目…今度は頸椎だ」
飯田の背後から、頸椎目がけて振り下ろした手刀を寸止めしながら、冷たく言い放つ。
「くっ!」
次の瞬間、飯田は苦し紛れに水面蹴りを放つが、そんなものに当たるわけがない。十分な余裕を持って距離を取り、構えを取る。
「飯田…俺がヒーロー殺しだったら、お前はもう4回死んでる。心臓、喉笛、肝臓、そして頸椎」
「くっ…僕の動きがここまで…吸阪君の『予知』、これほどとは…」
「おいおい、言っておくが俺は『予知』なんて使ってねぇぞ」
「そんな、馬鹿な…」
気づいてなかったか…思ったよりも重症だな。
「解っていないようだから教えてやる。飯田、今のお前は体育祭の時に出来ていた事が、
吐き捨てるような俺の言葉に、声を失う飯田。可哀想だが、更に追い打ちをかけさせてもらう。
「そんなお前がヒーロー殺しに挑んでも、即返り討ち。良くて再起不能。運が悪ければあの世行きだ。悪い事は言わない。復讐なんてやめとけ」
「僕が…」
「ん?」
「僕が、ヒーロー殺しはおろか…君にすら敵わない事は、自分が一番わかってる! 百も承知だ! だが…この気持ちは! 兄の無念は! どうすればいい! この命と引き換えにしてでも、
「この…馬鹿野郎が!!」
次の瞬間、俺は飯田の顔面に拳を叩き込んでいた。派手な音を立ててダウンした飯田の胸倉を掴み、無理やり立たせ、激情をぶつけていく。
「飯田…お前、何にも解ってねぇよ…
「そ、それは……」
「お前がヒーロー殺しにやられて、再起不能になったら! 殺されたら! インゲニウムは一生恨み続けるぞ…ヒーロー殺しをじゃない。ヒーロー殺しにやられて、弟に道を踏み外させた自分の弱さを!」
「兄さん…そんな…僕は…そんな…」
「インゲニウムだけじゃないぞ。お前の両親はどうなる? 親にとって子どもに先立たれるって事が、どれだけ辛い事か、わかってんのかよ!」
「父さん、母さん…違う、僕は…そんなつもりじゃ…」
「いつものお前なら、こんな単純な事…とっくに理解しているだろうが…元のお前に戻れよ…飯田天哉…」
胸倉を掴んでいた手を離すと、グッタリと床に座り込む飯田。そこへ―
「雷鳥兄ちゃん! 飯田君!」
出久達が雪崩れ込むようにTDLへ入って来た。ふむ、時間通りだな。それも全員一緒か…。
「…皆、どうして……」
「だって、心配だったから……ごめん、飯田君。僕、飯田君の様子がおかしい事に気づいていたのに…何も出来なかった。本当はもっと強く声を掛けるべきだった! 無理やりにでも君を止めるべきだった! ごめん…本当にごめん…」
「謝るのは緑谷だけじゃねぇ…俺だってそうだ。恨みつらみで動く人間の顔は、一番よく知っている…昔の俺がそうだったから…。だから、もっと早く動くべきだった…すまねぇ」
「それを言うなら私達だってそうです。何かをしなくてはならないのに、何をするべきなのか解らず迷った結果、吸阪さん1人を嫌われ役にするような結果に…」
出久、轟、八百万の声に続き、あちこちから謝罪と後悔の声が聞こえてくる。
「飯田…皆お前の事を見てたんだぞ。もっと仲間を頼れよ。委員長」
「皆…すまない。復讐心に囚われ…僕は一番大事な事を見落としていた……本当にすまない…」
泣きながら謝罪の言葉を繰り返す飯田。よし、これで飯田はもう大丈夫だろう。
「吸阪ちゃん…」
梅雨ちゃんから声を掛けられたのはその時だ。
「吸阪ちゃん…私ね。今凄く怒っているの」
「え?」
怒っている? 俺に?
「怒っていると言っても、半分以上八つ当たりみたいなものだけど…飯田ちゃんに対して、私達はどう行動すれば正解なのかわからなくて、動けなかった。だから、吸阪ちゃんは1人で嫌われ役を演じたのよね?」
「でも、どうして…どうして、私達に相談してくれなかったの? 私達はそんなに頼りなかったの?」
「飯田ちゃんが元に戻っても、代わりに吸阪ちゃんが皆から嫌われたり、A組からいなくなる様な事になったら…それは、それはとても悲しいの…」
「だから、頼りないと思われていても…ちゃんと…お話して欲しかったの…」
ポロポロと涙を流しながら、思いの丈をぶつけてくる梅雨ちゃん。そっか、皆の為に良かれと思ってやった事が…皆を傷つけていたのか…。
「梅雨ちゃん。俺はただ、皆に迷惑かけたくなくてさ…なんていうか…」
どうやって償えば良いのか、見当もつかない。だから―
「ごめん皆! 俺が馬鹿だった!!」
誠心誠意謝るだけだ。すると―
「よっし! 皆それぞれ謝ったから、この話はこれでお終いにしよう! なんていうか…ムズイけど、とにかく! また皆で笑って…頑張ってこうってヤツさ!!」
麗日がいつもの麗らかな笑顔で、話を纏めてくれた。皆泣きながら笑いだして…最終的には大声で笑ってた。
こうして、俺達は更に結束を高め…職場体験初日を迎える事が出来たのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。