出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
短いですがお楽しみ頂ければ、幸いです。
雷鳥side
ヘドロヴィランとの戦いに巻き込んでしまったお詫び。と、オールマイトはサインに加えて、なんでも1つだけ質問に答えよう! と言ってくれた。
「出久、良い機会だ。オールマイトに質問しな」
「…うん」
俺に背中を押され、出久はオールマイトとまっすぐに向き合い…
「“個性”がなくても、ヒーローは出来ますか!?」
「“個性”のない人間でも…あなたみたいになれますか?」
絞り出すように、そう問いかけた。
「“個性”が…」
出久の問いへの何と答えるべきか、顎に手を当て、考え始めるオールマイト。その時―
「いかん…holy shit」
オールマイトの全身から煙のような物が噴出し始めた。まずい! たしか、これは!?
「“個性”がないせいで…そのせいだけじゃないかもしれないけど…」
「出久! 一旦ストップだ!!」
咄嗟に出久とオールマイトの手を取り、近くの路地裏に入り込む。
「ちょ、雷鳥兄ちゃん。なに、を…」
俺に抗議しようとした出久の声が途切れたが、それも無理はない。オールマイトはいつの間にか煙のようなものに包まれており、しかもそれが晴れると…。
「し、萎んでる!?」
オールマイトとは似ても似つかない痩身の男が現れたのだ。
「…出久、よく見てみろ。サイズはともかく、着ている服が同じだし、髪の色や声も同じだろう?」
「あ、そういえば…」
「事情は分かりかねますが、人目に付くのは拙いと判断し、こちらにお連れしました。俺達以外には…見られていない筈です」
「ありがとう、少年。いい判断だ…」
俺の言葉にオールマイトはサムズアップを返し、これから話すことは他言無用と念押しした上で、事情を説明してくれた。
5年前、ある大物
そして、人々を笑顔で救い出す“平和の象徴”は決して悪に屈してはならない。との思いから、その事実を世間に公表していない事。
「さっき君は私に問うたね? “無個性”でもヒーローになれるか…と」
「…はい」
「君が相当鍛えている事は、服の上から見てもわかる。おそらく…最低でも10年は、厳しい鍛錬を積んでいるのだろう?」
「出久は、俺と二人三脚で10年間、休みなく鍛錬を積んできました。ヒーローになりたいという夢を叶える為に」
「そうか…昔、ある人が言っていた。『努力した者全てが成功するとは限らない。だが、成功した者は皆努力している』とね」
「そ、それじゃあ!」
「だが…プロはいつだって命懸けだ。“個性”がなくても成り立つとは…軽々しく口には出来ないよ」
「………そう、ですか…」
「少年。君の期待するような答えを与えられなくて、申し訳ない。だが…積み重ねた努力は決して嘘をつかない。君の努力が何らかの形で実を結ぶ事を心から祈っているよ」
少なからず落胆した表情を見せる出久の肩を優しく叩き、路地裏から出ようと歩き出すオールマイト。
「すまないが、ここで失礼するよ。こいつを早いところ警察に………あれ?」
慌ててポケットの中を確認するオールマイト。ん? ポケット…たしか、そこに入っていたのは…まさか!
「もしかして…俺が2人を路地裏に引っ張り込んだ時に…」
直後、俺達3人はほぼ同時に路地裏から飛び出し、見つけてしまった。アスファルトの地面に転がる蓋の空いたペットボトル。間違いない、ヘドロヴィランを詰め込んでいたペットボトルだ。
「くそっ、2人を連れて行くのに気を取られて、ペットボトルまで注意が回らなかった! オールマイト、申し訳ありません! 俺の責任です!!」
「いや、あの時の君の判断と行動は的確だった。責められるのは、奴をあのような形で、拘束した私の不手際だろう…」
互いにそんな事を口にしながら、頭を下げる俺とオールマイト。町の中心部から爆発音が聞こえてきたのはそんな時だった。
「まさか………」
「最悪だ…」
町の中心部で何が起きているのか、今の俺達には容易に想像できた。
「い、行かなくては!」
すぐさま現場へ向かおうとするオールマイト。しかし、今の痩せ衰えた姿では、現場に向かうだけでどれほどの時間がかかるかわかったものではない。
「仕方ねぇ!」
俺は咄嗟に近くの電柱に立てかけられていた看板を取り外し、地面に倒すとそれに飛び乗った。
「乗ってください!」
同時に“個性”を発動し、看板ごと宙に浮きあがる。イオノクラフトの原理を応用したホバーボード擬きだ。
「少年!?」
「これで行った方が走るよりはるかに速いです。急ぎましょう!」
「………すまない。力を貸してくれ!」
一瞬で判断を下し、看板に飛び乗るオールマイト。
「出久! お前も乗れ!」
「うん!」
出久が飛び乗った直後、俺は看板を全速力で発進させた。
「出来るだけ人目につかないルートを最高速でぶっ飛ばします!!」
時間にして約5分。現場に到着した俺達が見たものは―
「あいつは…」
「爆豪君!?」
ヘドロヴィランに取り込まれながらも、必死に自らの“個性”で抵抗する爆豪の姿だった。
何人かのプロヒーローも現着していたが―
“巨大化”の個性を持つMt.レディはその巨体が災いし、現場に近づく事も出来ず。
“樹木”の個性を持つシンリンカムイは、炎との相性が最悪な為、周辺のケガ人を救助するのが精一杯。
他にも周辺の消火で手一杯のバックドラフト、ヴィランとの相性が悪い事に加え、爆豪の抵抗のせいで近づく事も出来ずにいるデステゴロなど、誰一人爆豪の救助へ向かえずにいた。
「プロヒーローが雁首揃えて、何やってんだよ…」
その光景に、俺の口から思わず出てしまう悪態。その時だ。俺の横を何かが走り抜けた。
「出久!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「馬鹿ヤロー!! 止まれ!! 止まれぇ!!」
制止するデステゴロの声を無視して、ヘドロヴィランにどんどん接近する出久。
「仕方ねぇ…アイツだけに危ない橋渡らせられるか!」
俺も再び“個性”を発動。ホバーボードで後を追いかける。
出久side
僕は何をやっているんだ? 遠回しだけど、オールマイトに言われたじゃないか! ヒーローになるのは無理だって!
それに捕まっているのは、爆豪君だぞ。酷い事を沢山されて、酷い事も沢山言われたじゃないか。それなのに、なんで!?
頭の中がグチャグチャになりながらも、僕はヘドロヴィランの攻撃を避け続け―
「でぇぇいっ!」
背負っていたリュックサックを投げつけた。それが障害物になり、一瞬だけヘドロヴィランの視界から僕が消える。その隙に僕は爆豪君の手を掴んでいた。
「デク! てめぇが何で!!」
「わかんないよ! だけど、君が助けを求める顔してた!」
「もう少しなんだから、邪魔するなぁ!!」
無我夢中で爆豪君を引っ張り出そうとする僕に迫るヘドロヴィランの攻撃。でも、それが届く事はなかった。
「雷鳥兄ちゃん!」
「出久! それとクソガキ! 少しだけ我慢しろよ!」
その直後、雷鳥兄ちゃんは両手から放つ電撃がヘドロヴィランを包み込んだ。
「シビビビビビッ!!」
電撃を全身に浴び、苦しむヘドロヴィラン。僕達にも電撃の余波が来るけど、大丈夫。耐えられない程じゃない!
「うぉぉぉぉぉっ!」
全力で爆豪君を引っ張り出し、ヘドロヴィランから距離を取る。それを確認した雷鳥兄ちゃんは―
「人の可愛い甥っ子を危険に晒しやがって…臨死体験でもしてこい」
ゾッとするほど冷たい目で、最大出力の電撃をヘドロヴィランにぶつけようとして、止められていた。止めたのは―
「すまないな。少年、我々ヒーローの不手際で迷惑をかけた」
ヒーローの姿となったオールマイト。
「
振り下ろされた一撃はヘドロヴィランを倒すだけに留まらず、天候を変える程で…僕は改めてNo.1ヒーローの底力を感じる事が出来た。
雷鳥side
あの後、バラバラにあったヘドロヴィランはヒーロー達によって残らず回収され、俺と出久は、駆け付けた警察にこっぴどく叱られた。
ヒーロー活動の妨害に“個性”の無断使用。未成年であっても決して軽い罪ではないのだが…。
「済まないが、その位にしてやってもらえないか?」
オールマイトが俺達を庇ってくれた。あのヘドロヴィランは自分が追っていたのだが、逃げられてしまいあのような結果を招いた。責任を負うとすれば、それは自分だと。警察に頭を下げてくれたのだ。
そして、オールマイトのそんな姿を見て、現場にいながら手を出せなかったヒーロー達も頭を下げ、俺達に謝罪してきた。
警察側も判断に困ったのか、無線で上役に連絡を取り…結果として、俺達は今回に限り特例的にお咎めなしという事になった。
そして、俺と出久は帰宅の途に就いた訳であるが…
「デク!!!!」
「てめぇにも、そっちのおまえにも救けを求めてなんかねえぞ…! 助けられてもねえ! 俺は1人でもやれたんだ。“無個性”と“没個性”の出来損ないコンビが、見下すんじゃねえぞ! 恩売ろうってか!? 見下すなよ俺を!!」
早口で自分の言いたい事だけを俺達にぶちまけ―
「クソナードどもが!!」
さっさと帰っていった。
「出久……本当に、アイツ潰さなくていいのか?」
「…うん」
「私が来た!!」
オールマイトが現れた。
「オールマイト! なんでここに!?」
「マスコミに囲まれてましたよね?」
「HAHAHA! 抜けるくらいわけないさ、なぜなら私はオールマイ―」
全てを言い終わる前にあの痩身の姿になってしまうオールマイト。オールマイトは恥ずかしそうに咳をすると俺達を見つめ、静かに口を開いた。
「少年達、済まないが名前を聞かせてくれないか。話をする相手の名前も知らないというのは無礼だからね」
「緑谷出久です」
「吸阪雷鳥です」
「緑谷少年、吸阪少年。君達に礼と謝罪、そして提案をしに来たんだ」
「礼と謝罪はわかりますが…提案ですか?」
「そうだ。まず、緑谷少年。君がいなければ…君の身の上を聞いていなければ、私は…口先だけの偽筋になるところだった! ありがとう!!」
「いや、そんな…」
「そして、吸阪少年。よくぞ緑谷少年をここまで鍛えてくれた! 自らの個性を磨きながらの指導は、大変な苦労を伴ったと思う。中学生ながら見事だ! 感服したよ!」
「…ありがとうございます」
「で、でも、今回の事はそもそも僕が悪いんです。“無個性”の僕が、ヒーローの皆さんの邪魔をして…結果的に皆さんにご迷惑を…」
「そうさ! あの場の誰でもない“無個性”の君だったから!! 私は動かされた!! トップヒーローの多くが学生時代から逸話を残している。そして、彼らの多くがこう言っていた!」
考えるよりも先に体が動いていた!!
「君も、そうだったんだろう!?」
「…は、はい!」
「だったら決まりだ。私、オールマイトがここに宣言しよう! 君はヒーローになれる!!」
その言葉を聞いた途端、その場に蹲り、声にならない声を出しながら、歓喜の涙を流す出久。
これが俺の甥、緑谷出久が最高のヒーローとなる。その物語の始まりだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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皆様からの期待に応えられるよう、頑張ってまいります!!