出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第40話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
2020/2/22
内容の一部を改訂しました。
雷鳥side
TDLでの一件からあっという間に時は流れ、俺達は職場体験当日を迎えていた。
「コスチューム持ったな? 本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」
駅構内で整列する俺達に、相澤先生が淡々と諸注意を告げる中―
「はーい!」
いつもの様に明るく返事をする芦戸。うん、その明るさは美徳だと思うけど…。
「伸ばすな。『はい』だ芦戸」
「…はい」
やっぱり怒られたな。まぁ、こんな光景を見られたのは、ある意味ラッキーだ。今日から1週間は皆バラバラだからな。
「では、くれぐれも先方に失礼のないように! じゃあ、行け!」
「「「「「はい!」」」」」
相澤先生の言葉に俺達は返事を返し、それぞれの目的地へ向けて移動を…っと、忘れてた。
「常闇! 障子! 梅雨ちゃん!」
それぞれが選んだ職場体験先。その中でも特に遠方の事務所を選んだ3人に、
「3人とも昼は新幹線の車内で済ませるんだろう? だからさ、
「これは!」
「まさか…」
「ケロッ、吸阪ちゃん、作ってくれたのね」
俺が差し出した3つの包みに、それぞれ違った反応を見せてくれる3人。
「中身は体育祭の時に作った『おにぎらず』さ。具は3種類、チキン*1と鯖*2、それから卵ベーコン*3容器は使い捨てのやつだから、食べ終わったら、ゴミ箱にでも放り込んでくれ」
「わざわざありがとう。吸阪ちゃん」
「吸阪、感謝する。この昼食、疎かには食わん」
「この礼は、職場体験から戻ったら必ず」
それぞれに感謝の言葉を口にしながら、包みを受け取る3人。
「気にしなさんな。俺が好きでやってんだから…まぁ、強いて言うなら……障子」
俺はそう言いながら、素早く障子の肩に手を回し―
「もしもの時は梅雨ちゃんの事、頼むぞ」
そっと耳打ちした。梅雨ちゃんと障子は、偶然にも行き先が同じ…水難に関する事件を専門に扱うヒーロー、セルキーの元へ職場体験に行くからな。この位の事はお願いしても罰は当たるまい。
障子も『わかっている』と頷いてくれて…これで一安心だ。
「あー、梅雨ちゃん達だけいいなぁ! 私も吸阪のお弁当食べたい~!」
「そうだそうだー!」
まぁ、葉隠や芦戸からの抗議に関しては、半分聞き流しつつ―
「じゃあ、全員の職場体験が無事に終わったら、食事会でもするか?」
と、さりげなく提案してみたら…全員が「やる!」と即答してきたのは、予想外だった。
「発車まであと5分。急ぐぞ、蛙吹」
「そうね。それじゃあ皆。実りの多い職場体験にしましょうね。ケロケロ」
そして、障子と梅雨ちゃんがホームへ向かったのを皮切りに、それぞれが目的地へ向けて出発していく。
「吸阪君、君には色々と迷惑をかけた…本当に―」
「ストップ。その件はTDLで解決済みだろ? だからさ、お互いに良い職場体験にしようぜ」
「…あぁ!」
飯田は結局、最初に希望した保須市に事務所を構えるノーマルヒーロー、マニュアルの元へ行く事になった。
復讐ではなく、
「それじゃあ、雷鳥兄ちゃん。行ってきます」
「オールマイトの師匠か…色々学んで来い」
「うん!」
そして出久も、
「じゃ、俺達も行きますか」
「あぁ」
最後に残った俺と轟も、
電車に揺られ、俺と轟がやって来たのは10階建てのオフィスビル。そう、フレイムヒーロー・エンデヴァーの事務所だ。
…巷では永遠の2番手などと陰口を叩く奴もいるが、オールマイトという
……後々、保須市に向かうという点も理由の1つだけどな。閑話休題。
自動ドアを通り抜けて受付で名乗ると、予定の時間より15分ほど早かったにも拘らず、受付のお姉さんは笑顔でエンデヴァーが待つ代表室へ案内してくれた。
「社長。轟焦凍様、吸阪雷鳥様をお連れしました」
「うむ、入りたまえ」
「失礼します!」
「失礼します」
ここまで案内してくれたお姉さんに一礼し、入室すると-
「よく来たな焦凍、吸阪君。事務所一同、君達を歓迎しよう」
エンデヴァーと40人を超える数のサイドキックが俺達を迎えてくれた。というか、この人数…たかだか高校生の職場体験なのに、大袈裟すぎないか!? っと、いかんいかん。冷静に冷静に…。
「雄英高校1年、吸阪雷鳥です! 1週間、よろしくお願いします!!」
「雄英高校1年、轟焦凍です。よろしくお願いします」
「うむ、こちらこそ1週間よろしく頼む。まぁ、そう緊張せずにリラックスしたまえ。オンとオフをきっちり切り替える事も大切な事だ」
挨拶を終えた俺達はエンデヴァーにそう促され、ソファーへ腰を下ろす…その前に―
「あの、これはつまらない物ですが…皆さんで、休憩の時にでも…」
持ってきた紙袋をそっと差し出した。実家の近所にある評判の和菓子屋で購入してきた豆大福と草餅。かなり多めに買ってきたから、この人数でも十分足りる筈だ。
「これは、ご丁寧に…おい」
どこか驚いた様子のエンデヴァーから指示を受け、慌てて前に出てきたサイドキックの1人に紙袋を渡し、ソファーに腰を下ろす。この座り心地……相当高いな。
「さ、さて、早速だが、2人のヒーローネームを聞かせてもらおう。職場体験とはいえ、コスチュームを纏い行動する以上、ヒーローネームで呼び合う事が、ヒーロー間でのルールだからな」
「俺は…対極ヒーロー・アブソリュートだ」
「ほう! アブソリュートか! 良い名前だ。焦凍!」
「…アブソリュートだ」
「む! す、すまん…アブソリュート」
………なんだろう。雄英体育祭の時も思ったけど、
「す、吸阪君のヒーローネームも聞かせてもらおうか!」
「あ、はい! 俺のヒーローネームは、ライトニングヒーロー・ライコウです!」
「うむ、ライコウか。良い名前だ!」
俺と轟のヒーローネームを聞いたエンデヴァーは、そのまま自分のサイドキック達に自己紹介をさせていった。これだけの人数の名前と“個性”。覚えるだけでも一苦労だが…まあ、何とかなった。
「さて、今日の流れとしては…午後からパトロールに同行してもらう。2人は雄英から簡易版仮免を発行されているから、万が一の時には、働いてもらう。その覚悟はしておくように」
「「はい!」」
「そして昼までの話だが…ライコウ」
「はい!」
「
これは…思ってもないチャンスだ。トップヒーローの胸を借りられるなんて幸運、滅多に無いぞ!
「こちらからお願いしたいくらいです。エンデヴァー、一手御教授願います!」
出久side
新幹線で45分。山梨県甲府市にやって来た僕は、あらかじめ聞いていた住所を入力した地図アプリを頼りにグラントリノの事務所を目指していた。
グラントリノ…ネットで調べても殆ど情報が見つからなかったし、オールマイトに尋ねてもあまり有益な情報は入手出来なかった。
「でも、オールマイトが恐れる程のヒーローなんだ。きっと凄い人に違いない!」
「凄い人に違い…ない…」
地図アプリが示す場所に建っていたのは4階建ての古い建物。周囲は工事現場でよく見る黄色と黒で縞模様に彩られたバリケードで囲まれているし…こんな所で暮らしているんだろうか?
「と、とにかく入ってみよう…」
まずは中を確認して、誰もいなかったらオールマイトに連絡をしよう。うん、そうしよう。半ば自分に言い聞かせながら、ドアを開けてみる。
「雄英高校から来ました。緑谷…っ!?」
その瞬間視界に入ったのは、小柄なお爺さんが床に倒れ、大量に出血しているというショッキングな光景。
咄嗟に周囲を見渡して、状況を確認。少なくとも見える範囲に
「3、2、1、0っ!」
タイミングを計って室内に転がり込み、素早く室内を見回す。
「この匂い…」
周囲に漂う嗅ぎ慣れた匂い。これは…トマトケチャップ!? まさかとは思うけど…。
「え、えっと…お爺さん。大丈夫…ですか? 起きれますか?」
遠慮がちに声をかけてみると―
「起きる!!」
「起きた!!」
お爺さんが一気に跳ね起きた。
「いやぁあ、切ってないソーセージにケチャップぶっかけたやつを運んでたらコケたぁ~!」
「そ、そうなんですか…」
と、とりあえずは良かった…
「誰だ君は!?」
「雄英高校から来た緑谷出久です!」
「何だって!?」
「緑谷出久です! 貴方が指名されたんですよね!?」
「飯が食いたい」
…どうしよう。オールマイトの先生だから、相当なお歳だって事は解っていたけど…急激に認知症が進行した?
オールマイト…いや、病院に連絡するのが先………待てよ。そう言えば雷鳥兄ちゃんが…。
「………」
「飯が食いたい」
僕は覚悟を決め、お爺さんへ右手を向けると―
「失礼します!」
フィンガースナップと共に衝撃波の弾丸を放つ!
「ッ!」
着弾の直前、お爺さんはロケットの様に跳ねて、衝撃波を回避! 壁や天井を蹴る事で方向転換し、テーブルの上に着地した。やっぱり、さっきまでのは演技だったのか…。
-出久、オールマイトが記憶から封印したくなる程恐れる存在って事は…きっと、相当なスパルタだ。不意打ちや何らかの
雷鳥兄ちゃんからのアドバイスに心底感謝しながら、
「危ないな! 俺が本当に無力なボケ老人だったら、どうするつもりだったんだ!?」
「その時は誠心誠意謝ります! それに、元々さっきの衝撃波は当てるつもりなかったですから!」
「……なるほど。計算尽くか」
衝撃波の着弾痕と自分が寝ていた位置を確認し、感心したように呟くグラントリノ。
「よし、ここからが本番だ。コスチュームを着な。受け継いだ『ワン・フォー・オール』、どの程度モノにしているか見せてもらう」
「はい!」
僕はすぐさまコスチュームを身に纏い、グラントリノに向き直ると同時に『フルカウル』を発動。
「どっからでも来いやぁ! 受精卵小僧!」
「行きます!」
グラントリノへ正面から跳びかかる!
「正面からって、舐め過ぎだっ!」
当然、グラントリノはさっきの跳躍で回避。そのまま、壁を蹴ろうとするけど―
「そこっ!」
その動きを
「ぬおっ!」
咄嗟に衝撃波を避けた事で体勢が崩れたグラントリノへ、更に衝撃波の弾幕を放ち、その逃げ道を塞いでいく! そして―
「どう…でしょうか?」
最後は逃げ場を失ったグラントリノを素早く、且つ優しく捕まえる事が出来た。
「まさか、ここまで早く捕まるとはな。文句無し、合格だ」
「ありがとうございます!」
グラントリノを床に降ろすと同時に告げられた合格に、一礼で答える。
「『ワン・フォー・オール』のコントロールも十分出来とるし、よく考えて動いとる! しかも判断が早い! 雄英から簡易版仮免を発行されたのは、伊達じゃないようだな! 気に入った! えーと…」
「緑谷出久、ヒーローネームはグリュンフリートです!」
「うむ、1週間よろしく頼むぞ! グリュンフリート!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「よし、まずは少し話をしよう。 お茶を淹れるから、そこに座ると良い」
「あ! お茶だったら僕が淹れます。お茶請けも買ってきてますから」
「ほう、 準備が良いな」
「オールマイトから、グラントリノはたい焼きがお好きだと聞いてきたので、駅前のお店で焼きたてを買ってきたんです!」
「おぉ、あの店か! 俺はたい焼きに目がなくてな! 特にあの店のは美味いんだ!」
満面の笑みを浮かべながら椅子に座るグラントリノ。最初はどうなるかと思ったけど、有意義な職場体験が出来そうだ。
それにしても…どうしてオールマイトは、グラントリノをあそこまで怖がっていたんだろう? たしかに、さっきのテストでは、鋭い眼光をしていたけど、今のグラントリノは気の良いお爺ちゃんって感じなのに…。
2人分のお茶を淹れながら、僕は内心首を傾げるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
皆さんのおかげでUAが20万を突破する事が出来ました。
今後も拙作をよろしくお願いいたします。