出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第41話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
2020/2/22
内容の一部を改訂しました。
物間side
「正直言って、君の事は好きではない」
「は~?」
職場体験先の主であるベストジーニストから、開口一番ぶつけられた言葉に、思わず顔が引きつるのを感じる。こ、この人は何を言っているんだろうか…。
「
「あ、貴方の方から…指名を入れてきたんですよねぇ?」
これは…拙いな。気をつけないと、
「そう! 最近は『良い子』な志望者ばかりでねえ。久しぶりにグッと来たよ」
「君のように捻じ曲がった人間を“矯正”するのが、私のヒーロー活動。本来なら
「
何だ…物凄く嫌な予感がする…。
轟side
代表室でのやり取りから15分後。コスチュームに着替えた俺と吸阪は、事務所の地下にあるトレーニングルームに足を運んでいた。
「なぁ、どっちが勝つと思う?」
「エンデヴァーさんに決まってるだろう。雄英体育祭優勝って言っても、所詮は高1。勝負にすらならねえよ」
「だよなぁ、エンデヴァーさんもなんだってこんな事…時間の無駄だよ」
…8割がたこの反応だ。たしかに、この組手には不可解な点がある。親父ほどの実力者なら、わざわざ拳を交えなくても、吸阪の実力を測る事くらい簡単に出来る筈…何か考えがあるのか?
雷鳥side
「遠慮はいらん。全力で来るがいい」
その一言と共に構えを取ったエンデヴァーに一礼し、こちらも構えを取る。
間合いを取って互いに睨み合うが……ヤバイな。威圧感による物なのか、195cm、118kgのエンデヴァーが更にデカく感じる。
ただでさえ、20cm近い身長差*1と、40kg以上の体重差*2があるっていうのに…。
まぁ、このまま睨み合っても埒が明かない。ここは一つ、試してみるか。
ステップを踏みながら、エンデヴァーの周りを回る事でタイミングを計り-
「はぁっ!」
一気に前に出て、左の上段後ろ回し蹴りを放つ!
「あまい!」
エンデヴァーは当然ガードを固めるが、それこそが俺の狙いだ。蹴りの軌道を途中で中段に変え、エンデヴァーの左脇腹に蹴りを叩き込む!
「どうだ!?」
素早く距離を取り、様子を窺うが…。
「…良い蹴りだ。早く、そして鋭い。正に剃刀のような切れ味」
エンデヴァーは微動だにしていない。ダメージは与えられなかったか。だったらこれだ。
「はぁぁぁぁぁっ!」
俺は“個性”を発動し、四肢に電撃を纏う。そして、再び突進しようとした次の瞬間―
「ここまでだ」
エンデヴァーからストップがかかった。え? ここまで、ですか?
「これ以上やれば、組手では済まなくなる。
そう言って、一瞬ニヤリと笑みを浮かべたエンデヴァーは、すぐに真顔になり―
「お前達の中に、
ギャラリーのサイドキック達へ問いかけた。
「「「「「………」」」」」
手を上げたのは40人を超えるサイドキックの中で…10人ってところか。
所詮高1だなんだと言ってくれてた他のサイドキックは、何も言えず黙り込んでいる。
「見ての通り、ライコウの実力は高校生離れしている。正直なところ、お前達と比較しても上位に入る実力者と言っても過言ではない」
「相手の外見や年齢だけで実力を評価するなど、まさしく愚の骨頂! このエンデヴァーのサイドキックを務め、ひいてはプロヒーローを目指す者として、恥を知れ!!」
エンデヴァーに一喝に、俺達を過小評価していたサイドキック達はすっかり小さくなり、それぞれの仕事に戻っていった。ふむ…これって、もしかして…。
「親父…吸阪を利用したな?」
あ、俺より先に轟がツッコミを入れたか。
「う、うむ…最近サイドキック達の中で、気の緩みがあったのでな…良い機会だと……その、すまん」
「大方そんな所だと思いましたよ。エンデヴァー程の実力者なら、俺の実力なんて見ただけで解るはずですし」
気の緩みが見られる
「この詫び、という訳ではないが…これから1週間、時間の許す限りお前達の指導をさせてもらう。改めて、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「…よろしくお願いします」
飯田side
無事に保須市へ到着した僕は、僕を指名してくださったノーマルヒーロー・マニュアルさんの事務所へ向かい、職場体験を開始した。
開始直後の面談でマニュアルさんは、僕がヒーロー殺しを追いかけようとしているのではないか。その為に
「天哉君! パトロールに出発するよ!」
「はい! お供させていただきます!」
マニュアルさんの信頼に応える為にも、頑張らなくては!
お茶子side
私を指名してくれたバトルヒーロー・ガンヘッドさんの事務所に到着すると、ガンヘッドさんはさっそく私をパトロールに同行させてくれた。
「ヒーロー活動の基本は、犯罪の取り締まりだよ」
「事件発生時には、警察から応援要請が来る。地区毎に一括で来るんだよ」
「逮捕協力や人命救助などの貢献度を申告。そして、専門機関の調査を経て、お給料が振り込まれる。基本、歩合だね」
パトロールの最中にも、ガンヘッドさんは優しくヒーロー活動のイロハを教えてくれる。でも…喋り方、可愛い!
切島side
任侠ヒーロー・フォースカインドさんの元で職場体験をスタートさせた俺とB組の鉄哲だったが―
「お前達にはまず、俺やサイドキックと一緒に、これをやってもらう!」
渡されたのは…ゴミ袋と火ばさみ?
「えっと…フォースカインドさん。ゴミ拾いって事でしょうか?」
「そうだ! わかりきった事を聞くな!」
「はい! すみませんでした!」
「言っておくが、ゴミ拾いも立派な地域貢献。ヒーローには欠かせない事案だ!」
「「はい!!」」
「それに、治安維持の為には、ゴミ拾いは決して欠かす事が出来ない!
「すみません! わかりません!」
「リアルスティールは?」
「すみません! わかりません!」
「…仕方ない。説明してやるから、よーく聞いておけ!」
「「はい!」」
フォースカインドさんが説明してくれたのは、『割れ窓理論』という大昔にアメリカの犯罪学者が提唱した理論。
大雑把に言うと、落書きやゴミのポイ捨てのような小さな違反や犯罪を放置する事で、住民のモラルが低下。ひいては地域環境の悪化や犯罪の多発に繋がっていくという考えなんだそうだ。
「ポイ捨てや落書きなどを放置したままで、漠然とパトロールを行っても効果は低い! 例え、無駄に思えるような小さな事でも、進んでやっていくように! いいな!!」
「「はい! フォースカインドさん!!」」
無駄に思えるような小さな事でも進んでやっていく…か。やっぱり、プロヒーローは器がデカいぜ!
出久side
グラントリノからの突然の試験。それに合格した僕は、事務所の台所を借りて2人分のお茶を淹れ、買ってきたたい焼きをお茶請けにして、お茶会に臨んでいた。
「ほぅ、同い年の叔父と10年間鍛錬を積んだか…『ワン・フォー・オール』を継承して1年そこそこで、あれだけ動けるのも納得だな」
僕の話を聞きながら鯛焼きをパクつくグラントリノ。こうして見ると、コスチュームを着ている事を除けば、どこにでもいる気の良いお爺さんだ。
「ちなみに…今全力を出せば、どの辺りまでいける?」
「そうですね…安定して発動出来るのは35%。自壊するギリギリ手前まで出力を上げるなら、40%ってところです」
「………高1でこれとは…俊典の奴、将来有望な後継者を見つけたな」
「あの…俊典って、どなたですか?」
「知らんのか? 八木俊典。オールマイトの本名だよ」
「まさかの日本人!?」
知らなかった! オールマイトが日本人だったなんて!
「あの馬鹿…弟子に自分の名前すら教えとらんのか…」
低い声でそう呟いたグラントリノ。握っていた湯飲みが軋むほど力が入っているのがわかる。
「…怒りはせんから、正直に答えろ。俊典からどんな事を習った?」
「は、はい! 『ワン・フォー・オール』を受け継いですぐに、海浜公園のゴミの山を綺麗にするように言われました。『ヒーローってのは、本来奉仕活動! 地味だ何だと言われても! そこはブレちゃあいかんのさ…』と」
「それから?」
「海浜公園のゴミ掃除が終わってから、踏み込んだ訓練を…組手とか」
「その時、俊典の奴はどんな風にお前達を指導していた?」
「えっと、その…」
なんだろう。これを言ったら、とんでもない事になりそうな気が…。
「安心しろ。
こうなったら…覚悟を決めよう。
「その…すごく抽象的っていうか…擬音が多かったです」
「あの…馬鹿たれが!」
あぁっ! グラントリノが湯飲みを握り潰した!
「すまんが、ちょっと電話をしてくる…掃除よろしく」
「は、はいっ!」
えっと、オールマイト…多分、僕のせいでとんでもない事になると思います。どうか、ご無事で…。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。