出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第43話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
お茶子side
「セイッ! セイッ! セイッ!」
ガンヘッドさんに同行してのパトロールを終えた私は、水分補給を済ませるとすぐに、サイドキックの皆さんが行っている武術鍛錬に参加させてもらった。もちろん指導役はガンヘッドさんだ。
「突きこそ基本! 漫然とやるのではなく、1つ1つの動作に集中するんだよ」
「はい!」
「こういった基本動作や基礎体力、そういった物の積み重ねが、現場で最後に物を言うからね」
バトルヒーローの二つ名を持つだけあって、ガンヘッドさんの指導は的確。武術の知識も相当なものだ。
だけど…その仕草、やっぱり可愛い!
そして、鍛錬の最後。様々な現場を想定しての訓練は…。
「ナイフを持った相手にどう立ち向かうか。ウラビティちゃん、突いてみてくれる?」
私が
「良いんですか?」
「遠慮はいらないよ」
「じゃあ…いきます!」
プロヒーローの動きを直に感じられる絶好のチャンス!
私は声を上げながらナイフを振り回し、ガンヘッドさんに迫る!
「振り回してきたら、距離を取って対応!」
ガンヘッドさんは解説を入れながら、慣れた様子で動き-
「でやぁ!」
「直接攻撃が来たら、片足軸回転でかわして-」
「あぁっ…」
「手首と首を同時に掴み、手首を引きながら…首を押す!」
あっという間に私を床に倒し、抑えつけてしまった。
「手首を捻ってナイフを落とさせ、落ちたナイフは蹴って遠ざければ、より完璧になるよ」
なんて澱みのない動き。これが噂の
「今度は僕がナイフを持つね。出来るようになるまで、何度も反復! 良いね?」
「はい!」
この1週間でどこまで出来るか解らないけど…少しでも自分の物にするんだ! 頑張らなくっちゃ!!
雷鳥side
「よし、今回はここまでにしておこう」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
トレーニングルームでの組手を終えた後、俺と轟は午前中一杯エンデヴァーから指導を受ける事が出来、有意義な時間を過ごす事が出来た。
流石はナンバー
「13時より定時のパトロールに出る。5分前にはロビーに集合するように」
「「はい!」」
「昼食だが、3階の食堂は無料で使える。近所の飲食店を使うなら、俺の名義で領収書を切ってもらって構わん」
「わかりました」
轟との相談の結果、今日は事務所内の食堂で昼食を取る事にした。
ちなみに、注文したメニューは、俺がミックスフライ定食*1、轟がざるそばだ。
「うん、美味い」
流石はエンデヴァー事務所の食堂と言うべきか。相当腕の良い料理人が腕を振るっているらしく、味、ボリューム共にランチラッシュ先生の作る料理と甲乙つけがたい。それにしても-
「轟、
「あぁ…蕎麦があればそれで良い」
「…余計なお世話かもしれんが、もう少し肉付けた方が良いと思うぞ。ほら、ヒレカツ1つやるよ」
「……ありがとう」
出久side
「グラントリノ、ご馳走様でした!」
「若いってのは良いな! いい食いっぷりだったぞ! さぁ、腹ごなしにパトロールといくか! 今日は住宅地を中心に回るぞ!」
「はい!」
グラントリノ行きつけの中華そば屋さんで、お昼をご馳走*2になった後、僕はグラントリノに付いてパトロールに出発した。
ちなみに、グラントリノがオールマイトにどんな電話をしたのかは…知らない。恐ろしくて聞く気にもなれない! 閑話休題。
近年は過疎化が進んでいるとはいえ、甲府は県庁所在地。それなりに事件は起きているらしく―
「きゃぁぁぁぁっ!」
突然の悲鳴! 声の方向を見てみれば、スクーターに乗った4本腕の男が、女性の手提げ鞄を奪い去っていた。白昼堂々ひったくりか!
「なるほど。メインの腕でしっかり運転しつつ、副腕でひったくるか。ちったぁ考えてるな。グリュンフリート!」
「はい!」
「
「…はい!」
グラントリノの声に答えた僕は、スクーターに立ち塞がるような形で道路に立つ。
「あぁ? ガキがヒーロー気取りかよっ! 怪我したくなけりゃ、退きやがれぇ!」
当然、ひったくり犯はそんな僕を無視して正面から突っ込んでくる。条件は理想的だ!
僕は左腰のポーチからベアリングボールを1つ取り出し―
「はぁっ!」
カウボーイの
銃弾並の威力を持ったベアリングボールは、スクーターの前輪に見事命中。タイヤを破裂させた!
「うぉぉっ!」
突然タイヤが破裂した事で、バランスを崩したスクーターは派手な音をたてながら転倒。ひったくり犯も道路に投げ出された。
「くそっ!」
すぐに立ち上がろうとするけど、僕の方がはるかに速い。
「ひったくりの現行犯確保!」
「うん、見事な手際だ!」
グラントリノが連絡してくれていたおかげで、3分経たずに到着した警察にひったくり犯を引き渡す。
「犯人確保へのご協力、感謝します!」
「は、はい!」
緊張しながらもお巡りさんへ敬礼を返し、被害を受けた女性へ鞄を返却する。
「本当に…ありがとうございました!」
なんでも生活費を銀行から下ろしてきた帰りだったそうで、女性からは何度もお礼を言われてしまった。何だか、むず痒い。
「初めてのヒーロー活動。気分はどうだ?」
「そうですね。なんだか…なんだか胸が熱いです。人の役にたてた事が凄く嬉しいと言うか…」
「そうか。その気持ちを大事にしろ。人の役に立つ事が嬉しい。その気持ちはヒーローの根底となる物だからな!」
「はい!」
「さぁ、パトロール再開だ! また事件が起きた時は頼むぞ? グリュンフリート」
「はい!!」
雷鳥side
「では、今日の職場体験はここまでとする。お疲れさま」
「お疲れさまでした!」
「お疲れさまでした」
休憩明けから夕方まで、パトロールや書類作成の手伝い等様々な事を体験し、今日の予定を無事に終える事が出来た。それにしても…。
「解っちゃいたが、ニュースにならないような小さな犯罪ってやつが…多かったな」
「あぁ…」
更衣室でコスチュームを脱ぎながら、轟と話すのはパトロールの時の話。
幸いな事に死傷者が出るような大事件こそ起きなかったものの、ひったくりや血の気の多い輩同士の喧嘩、更には飛行系の“個性”を持った露出狂など、様々な事件が発生し、対応に奔走したのだ。
「それにしても、轟。お前の仲裁見事だったぜ。喧嘩してる当人だけじゃなく、それを煽ってる取り巻き連中までまとめて凍らせて-」
-周りの迷惑だ。冷静になれ-
「だからな。野次馬の女子高生達。目が
「それを言うならお前もだろう。空を飛んで逃げようとした露出狂を電撃で撃墜して、歓声を浴びてた」
「それを言ってくれるなよ」
そんな会話を交わしながら着替えを終え、更衣室から出ると-
「おぉ、着替えたか」
「親父」
コスチュームを脱いだエンデヴァーが俺達を待っていた。
「2人とも、夕食はどうするつもりだ?」
「まだ、決めていません。昼みたいにここの食堂で済ませるか…とか思ってはいましたけど」
「俺もまだ決めてねぇ」
「そうか、なら2人とも俺に付き合え。近くに美味い蕎麦屋がある」
「え……」
「心配するな。費用は俺が持つ」
突然のエンデヴァーからの誘い。多分メインは轟で、俺はおまけだろう。だが、奢ってくれると言うのを断るのも悪いな。
「わかりました。お付き合いさせていただきます」
「わかった」
エンデヴァー…もとい炎司さんに連れられて、その
「予約を入れていた轟だが」
「お待ちしておりました。2階奥の個室をご用意しております」
「うむ」
仲居さんに案内され、2階の個室へ。
うん、店の作りとか調度品とかから、高いオーラをバンバン感じる。多分、かけ蕎麦一杯1000円とかするんだろうなぁ…。
「さぁ、遠慮せずに好きな物を頼むと良い」
「恐縮です」
炎司さんからお品書きを受け取り、中を見ると…うわ、筆で手書きされてる。達筆だ…何頼もうかな…。
「俺は、ざるそば」
「轟、昼も言ったよな。たまには他の物頼もう。な!」
平常運転な轟にツッコミを入れ、他の物を注文するよう促す。だが…。
「悪い…親父、吸阪。どういう物を頼めば良いんだ?」
こ、この天然め!
「…じゃあ、俺と同じ物で良いか? 2人前頼むから」
「それで頼む」
「じゃあ…天麩羅の盛り合わせとだし巻き、それから…轟、茶碗蒸しは好きか?」
「あぁ」
「じゃあ、茶碗蒸しも…2人前」
「う、うむ、ここは鴨焼きも美味いから注文しよう。蕎麦は…〆で良いかな?」
「あ、はい」
何とか注文を終え、ホッと一息。
「ライコ…吸阪君は、
「年の離れた…姉の影響です」
「ほぅ、お姉さんの」
「吸阪のお姉さん…小説家の碧谷鸚鵡だ」
「なん、だと………吸阪君、お姉さんに鬼蔵犯科帳の新作を楽しみにしている。そう伝えてくれ」
「わ、わかりました。あ、今度サイン貰っておきましょうか?」
「是非とも頼む」
「かしこまりました」
まさか、炎司さんも姉さんのファンだったとはな…世間は狭いよ。
そうしている内に注文していた料理が運ばれてきた。炎司さんは…板わさとかき揚げ、鴨焼きをつまみに、冷酒を一杯か。
そう言えば、前世であんな飲み方に憧れてたなぁ…。
「吸阪、親父がやっているのが、
「そうそう、板わさ…蒲鉾とか、卵焼きとか、かき揚げとか、そういうのをつまみに、適量のお酒を楽しむ。そして最後に蕎麦を食べて締める。そう言うのが粋…現代語に訳すと…COOLかな? そういう風に言われているのさ」
「そうか…COOLなのか」
俺の説明で納得したのか、茶碗蒸しに視線を戻す轟。あと5年もすれば、お前も蕎麦屋飲みが出来るようになるさ。
そして、今日の職場体験の事を話題にしながら、食事は進み、〆で頼んだ海老天蕎麦*3を食べている時に…事件は起きた。
「吸阪君。君の格闘術だが、空手をベースにしつつ、中国拳法やムエタイの動きも見受けられる。やはり、オールマイトから指導を?」
「いえ、あれは…恥ずかしながら、我流です」
「我流なのか!?」
「子どもの頃から、図書館で借りた本やネットの動画を参考に見様見真似で…10年もやってたら、なんとか形になりました」
「なるほど…そうなると、オールマイトからはどのような指導を?」
「え? あ…そう、ですね…」
「あぁ、無理に話す必要はない。指導方法にもそれぞれ
俺が返答に躊躇ったのを、そう解釈する炎司さん。違うんです、違うんですよ…。
仕方ない。本当の事を言おう…。
「いや、そういう事じゃないんです。オールマイトの指導って、
「大雑把…だと!?」
「はい、やたら擬音が多いというか、感覚的というか…『いきなりグワァッ! とやったら体がもたない。グッ! と締めて、ジワァッと広げていく感じで流していく。』…こんな指導です」
あ、炎司さんが頭抱えた。轟も蕎麦を食べる手が止まってるよ。
「オールマイト…金の卵に、そんな適当な指導を?」
「は、はぁ…でも、その擬音混じりの指導を自分達で解釈していくのが、大変でもあり、楽しくもあり…と言いますか」
「………」
「…正直、指導者としては炎司さん…エンデヴァーの方が、
その言葉を聞いた時の炎司さんの表情。俺はきっと忘れない。
こうして、俺と轟の職場体験1日目は、無事終了するのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。