出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1   作:SS_TAKERU

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お待たせしました。
第45話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。


第45話:職場体験ーその6ー

出久side

 

 職場体験のフェーズ2。甲府から渋谷へ遠征してのヒーロー活動を行う日の早朝。

 僕はグラントリノの事務所兼自宅の台所で、朝食の準備に取り掛かっていた。昨日作った夕食*1が思いの外好評だったので、朝食も担当する事になったのだ。

 

「うん、あと少し煮込めば完成かな」

 

 鍋の中身をもう少し煮込んでいる間に、食器の準備をしていると―

 

「良い匂いがするのう…鶏の出汁か?」

 

 そんな事を言いながら、グラントリノが起きてきた。もう既にコスチュームを纏って、準備はバッチリだ。

 

「おはようございます! グラントリノ!」

「うむ、おはよう。それで、朝飯のメニューはなんだ?」

「はい! 中華粥を作ってみました!」

「ほう! また洒落た物を作ったな!」

 

 楽しげな様子でテーブルに着くグラントリノ。僕は中華粥を煮込んでいた鍋をコンロから降ろし、鍋敷きと共にテーブルの中央にセット。

 2種類の副菜*2をそれぞれ盛った皿と茶碗や小皿。更に何種類かのトッピングも用意する。

 

「お待たせしました。どうぞ!」

「うむ、いただきます」 

 

 茶碗に盛られた中華粥を、まずはそのまま口に運ぶグラントリノ。果たして味の感想は…。

 

「美味い! 粥ってのは味が無くて得意じゃなかったんだが、こいつは良いな!」 

 

 良かった! 気に入ってくれたみたいだ! 安心した僕も中華粥に口をつける。うん、美味しい。あ、そうだ。

 

「あ、グラントリノ。もし宜しかったら、トッピングも試してみてください」

 

 そう言って、さりげなくトッピング*3も勧めてみると-

 

「ほう! 味や食感に変化が出たな。うん、これも良いぞ!」

 

 これも気に入ってくれたようだ。よかった。

 

 

「ふぅ、ごちそうさん。美味かったぞ!」

「お粗末様です」

「よし、腹も膨れた所で、渋谷へ出発するか!」

「はい! あ、移動手段は甲府駅から新宿行きの新幹線ですか?」

「そうなるな」 

 

 朝食を終え、手早く後片付けを済ませた僕はコスチュームに着替え、グラントリノとそんな会話を交わしながら、タクシーに乗り込む。

 新幹線か…保須市を横切るから、飯田君に連絡を入れておこう。

 

 

雷鳥side

 

 エンデヴァー、そしてサイドキックの上位10人と一緒に、保須市へやって来た俺と轟だが-

 

「ヒーロー、多いな」

「あぁ…」

 

 ヒーロー殺しが潜伏していると思われる保須市は、現地のヒーローだけでなく、エンデヴァーの様に他所から出張してきたヒーローも警戒を行っており、文字通りの厳戒態勢。

 街を屯するチンピラや有象無象の(ヴィラン)達も、流石に大人しくしているようだ。

 エンデヴァーも警戒こそ怠っていないが、恐る恐る近づいてきた子どもに不器用な笑顔を見せながら、サインを書いてやるくらいにはリラックスしているようだ。

 

 なお、そんなエンデヴァーを遠巻きに見ながら…

 

 -エンデヴァー…アンタ、変わっちまった。変わっちまったよ!-

 

 などと涙を流しているガチ勢がいたが…うん、見なかった事にしておこう。閑話休題。

 

「まぁ、こんな状況で悪事を働くのは、相当な大物か馬鹿って事だよ」

「滅多にそんな奴はいないけどね」

 

 そんな中、俺達に話しかけてきたのは、サイドキックのナンバー(スリー)であるルージュこと夏木さんと、ナンバー(シックス)であるビートこと黒川さん。

 俺や轟の実力を最初から正しく把握していた数少ないサイドキックの人達で、雄英高校OGという事もあり、色々と面倒を見てもらっている。

 

「そうですね。でも、逆を言えば…この状況で騒ぎを起こす奴は、相当な大物か馬鹿って事ですよ」

「そうだね。出来る事ならそんな事態には-」

「ッ!?」

「爆発!?」

 

 突然響いた轟音。音のした方向に視線を送れば、黒煙と炎が立ち上っているのが見える。()()()()か!

 

「お前達! 現場へ急行するぞ!」

 

 エンデヴァーの一声と共に、全員が全速力で走りだす。さぁ、これからが本番だ!

 

 

出久side

 

 新幹線に乗り、新宿への移動を開始した僕とグラントリノ。車内では特にトラブルもなく、LINEをチェックして、皆からのメッセージを読んでいると-

 

『お客様、座席にお掴まり下さい。緊急停車しま―』

 

 車内アナウンスとほぼ同時の急ブレーキ。そして1人のヒーローが壁を突き破って車内に飛び込んできた。一瞬で凍りつく車内。そして―

 

「ッ!?」

 

 ヒーローに続いて車内に侵入してきた異形の姿に僕は息を呑んだ。あれは、USJを襲撃した脳無!?

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!」

 

 だけど、僕の思考は脳無を見た女性の悲鳴で中断された。そうだ、今は考えている場合じゃない! 

 

「フォローしろ! グリュンフリート!」

「はいっ!」

 

 ロケットの様に飛び出したグラントリノは、そのまま脳無に体当たりを仕掛け、一気に車外へ押し出していく。

 僕は、乗客と車内に飛び込んできたヒーローの安否確認を行い―

 

「あとはお願いします!」

 

 重傷者がいない事を確認したところで、あとの事を車掌さんにお願いし、車外へ飛び出した!

 

「ッ!?」

 

 目の前に広がる保須市の街並み。そのあちこちから黒煙が上がり、爆発も起きている。一体、何が起きているんだ…飯田君は、無事なのか?

 

 

飯田side

 

「くそっ! 一体何処の誰だ! こんな馬鹿をやらかしたのは!」

 

 金属バットを手にコンビニを襲撃したチンピラを無力化し、拘束しながらマニュアルさんが叫ぶ。

 情報が錯綜している為、詳しい状況は解らないが…どうやら、保須市の中心部で何者かが破壊活動を行ったようだ。

 ヒーロー殺しの一件で保須市が厳戒態勢となり、暫く鳴りを潜めていた(ヴィラン)やチンピラ達も、それがきっかけとなり、一斉に暴れだしたという事だ。本当に迷惑極まりない!

 

「ヒャッハー! どけどけぇ! 轢き殺すぞ!」

 

 下品な声に視線を送れば、ノーヘルで違法改造バイクを乗りまわす男が、横断歩道を渡ろうとしていたお婆さんに迫っていた!

 

「危ない!」

 

 咄嗟に飛び出し、お婆さんを横断歩道から歩道へと避難させる。危ないところだった…。

 

「お婆さん、お怪我はありませんか?」

「ありがとうございます。ヒーローさん。おかげで助かりました」

「いえ、そんな…」

 

 小さな体を更に小さく折りながら、お礼を言ってくるお婆さん。そんな、僕はまだヒーローでは…。

 

「よくやったよ、天哉君」

「マニュアルさん…」

「今、連絡が入った。1.3km先に警察が仮設の避難スペースを作っている。よって……ノーマルヒーロー・マニュアルの全責任において、天哉、君の“個性”使用を限定的に許可する!」

「限定的に…許可?」

「あぁ、怪我人の救助及び避難誘導目的に限り、君は“個性”を使う事が出来る。頼むぞ、天哉君。君の“個性”で人々を救ってくれ!」

「わ、わかりました! この天哉、全身全霊をもって!」 

 

 マニュアルさんに一礼し、緊急時用の通信機を受け取った僕は、まずお婆さんを抱き抱え-

 

「少しばかりスピードを出しますので、しっかり掴まっていてください!」

 

 全速力で走り始める! 急げ! 1人でも多くの人を救う為に!

 

 

グラントリノside

 

「さて、ガチ戦闘は何年ぶりかな?」

 

 そんな事を呟きながら、俺は目の前の怪人と睨みあう。とりあえず、新幹線からは遠ざけたが、こいつはハッキリ言って()()()()()()()

 薄緑色の肌に剥き出しの脳、4つの目。異形型の“個性”持ちでも、ここまで()()()な姿の奴はいないからな。

 

「まったく、とんだ巻き添えだ! はっちゃけやがって! 何だお前!?」

 

 念の為にコミュニケーションを取ってみるが―

 

「くっ!」

 

 こいつは問答無用で攻撃を仕掛けてきた。右腕の一撃。速く重いが…まだまだ対応圏内…。

 

「うわっ! ちょっ…わぁぁぁっ!」

「っ!?」

   

 余裕を持って避けたのが拙かったか、怪人は俺ではなく、背後で避難しようとしていた市民に狙いを変えやがった! 見境なしか!

 

「やめとけ、この…」

 

 咄嗟に方向転換し、攻撃を仕掛けようとしたその時!

 

「はぁっ!」

 

 怪人の目の前に氷の壁が出現して、その動きを止め-

 

「サンダー! ブレーク!!」

 

 落雷のような電撃が、怪人の全身を容赦なく、焼いていく。更に―

 

「むん!」

 

 強烈な火炎放射が駄目押しの一撃として、怪人を包み込んだ。この炎は!

 

「ヒーロー殺しを狙っていたんだが…タイミングの悪い奴だ。存じ上げませんが、そこのご老人。あとは()()に任せておいてもらおう」

「あ! あなたは! マジ!?」

「何でここに…」

「ヒーローだからさ」

 

 そう言って、市民に不器用な笑顔を見せるエンデヴァー。なんだ、テレビで見る顔と大分違うようだな。

 

「グラントリノォォォッ!」

 

 グリュンフリートの奴も追いついて来たか。まったく、予定が狂いっぱなしだ!

 

 

雷鳥side

 

「ライコウと申します! グラントリノ! 出久…グリュンフリートがお世話になっています!」

「お前さんが、グリュンフリートの言っていたライコウか。なるほど、なかなか鍛えとるようだな」

「はい! 恐縮です!」

 

 丸焦げ状態の脳無をルージュさん達サイドキックが拘束していく様子を視界に収めながら、俺はグラントリノに挨拶をしていた。

 出久がお世話になっているからな。こう言うことは大事だ。うん。

 

「なるほど。雄英を襲った奴の同類か…それにしては少々手応えが無かったが…」 

「USJを襲った個体は、『超再生』と『ショック吸収』という2つの“個性”を持っていました。こいつはその簡易版…量産型のような立場ではないでしょうか? 」

「ふむ…その可能性は高いか」

 

 一方、出久は脳無の事をエンデヴァーに説明していたが…異変が起きたのはその時だ。

 

「また爆発!?」

「向こうか…ヒーローが5人はいたから任せていたが、(ヴィラン)側の戦力が多いのか?」

「ッ!?」

 

 エンデヴァーの言葉に大事な事を思い出した。たしか、保須市に出現した脳無の数は…。

 

「出久、さっきあの脳無は量産型とか言ってたよな。だとすると…脳無はこいつだけじゃないのかもしれないぞ!」

 

 さりげなく、脳無が複数存在する事を示唆してみると、その場にいた全員が同じ想像をしたようだ。

 

「チィッ! 何処の誰か知らんが、厄介な怪人を作ってくれる!」

 

 怒りの声を上げるエンデヴァー。だが、すぐに冷静さを取り戻し-

 

「拘束は済ませたな! 次の現場へ急ぐぞ!」 

 

 的確に指示を下していく。その時!

 

「なんだ、こいつ! こ、拘束が!」

 

 ピクリとも動かず拘束されていた脳無が突然激しく動き出し、拘束を力ずくで引きちぎって…違う、焼き切ってる!

 

「なるほど、『吸収・放出』の“個性”。半分虚仮威しの低温とはいえ、俺の炎でやってくれるとは大したものだが…ダメージ有りでは、あまり有用とは…いや、その辺りは『再生』の“個性”で対策済か」

 

 ジワジワと火傷を癒しながら立ち上がり、更に筋肉を肥大化させていく脳無の姿に、どこか感心した様子のエンデヴァー。ゆっくりと構えを取り-

 

「ならば、再生が追い付かないほどの大ダメージを与えればいいだけの事!」

 

 最大出力の炎を放つ為、力を高めていく。そして―

 

「赫灼熱拳! ジェットバーン!!」

 

 右拳の一振りと共に炎の塊を発射! 脳無はそれをまともに食らって、近くのビルへ激突。黒焦げになって崩れ落ちた。

 

「細胞を炭化させてしまえば、再生も出来まい。ルージュ、ビート、残って奴を拘束しろ。念の為に、拘束は3重にな」

「はい!」

「わかりました!」

「他の者は俺に続け!」

 

 ルージュさんとビートさんをその場に残し、俺達は次の現場へ急行する。お2人ともご無事で!

 

 

飯田side

 

「…ん?」

 

 マニュアルさんの許可を得て、避難誘導と怪我人の救助に全力を傾けている中、微かに悲鳴のような声が聞こえた気がした。

 気のせいかもしれない。だが、もしも重傷者が助けを呼ぶ為に声を振り絞ったとしたら! 

 

「こっちか?」

 

 声のした方向へ全速力で走る。やがて、呻き声のような声が聞こえてきた。間違いない。怪我人はこの先だ!

 声に導かれるまま、路地裏を覗き込んだ瞬間。俺は見てしまった。

 コスチュームを纏った男性の頭を片手で鷲摑みにしながら、ナイフを突きつける男の姿。あれは-

 

「ヒーロー…殺し…」 

*1
豚バラと蕪の塩ダレ蒸し、長芋のステーキ、きぬさやの胡麻和え、菜飯、えのきとわかめの味噌汁

*2
小松菜の中華炒め、ピーマンの煮浸し

*3
韮の醤油漬け、白髪葱のラー油和え、ほぐした鶏肉、カリカリに焼いたワンタンの皮、微塵切りの生姜の5種類




最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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