出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1   作:SS_TAKERU

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お待たせしました。
第48話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。



第48話:職場体験ーその9ー

雷鳥side

 

 (ヴィラン)連合。そして奴らと同盟を組んでいたヒーロー殺しによって、保須市にもたらされた大騒動から一晩。

 保須市のホテルで一泊した俺と轟は、午前中一杯自由時間を貰えた。

 エンデヴァーやサイドキックの皆さんが事後処理に繰り出す関係で、俺達への指導が出来なくなるのがその理由だ。

 俺と轟は同様の理由で午前中フリーになった出久を誘い―

 

「よぅ、生きてるか?」

 

 飯田が入院している病院へ、見舞いに訪れていた。

 

「吸坂君! 轟君! 緑谷君! 見ての通りだ。これが死人に見えるのかい?」

 

 努めて明るく振舞う飯田だが、その体は包帯だらけ。死人じゃなかったらミイラ男だな。

 

「元気そうだな。良かった」

「飯田君、怪我の具合はどうなの?」

「お医者様によると、切創9ヶ所に刺創6ヶ所だそうだ。幸い、どの傷も重要な血管や神経に届く程深くはなかったそうで、多少の傷痕は残るかもしれないが…後遺症の類は心配いらないそうだ」

「そうか。そいつは何よりだ」

 

 飯田の言葉に、それぞれが抱いていた()()()()()が消えていくのがわかる。

 ここからは明るくいくか。個室だから多少喋っても問題はないだろう。まずは…。

 

「ほら、土産だ。3人でそれぞれ別の物を用意してみた。俺は果物の詰め合わせ」

「俺は和菓子だ…水羊羹。味はこしあんと抹茶と栗かのこ。冷やして食べてくれ」

「僕は洋菓子。焼き菓子の詰め合わせを買ってきたよ」

「皆…見舞いに来てくれただけでなく、手土産まで……僕は今、猛烈に感動しているよ!」

 

 大粒の涙を流しながら、感動に震える飯田。喜んでくれるのは嬉しいが、下手に動くと…

 

(いた)っ!」

 

 傷に障る…って、遅かったな。

 

 

物間side

 

「昨日発生した西東京・保須市での事件。気になるところだろう。あぁ、私も大いに気になっている」

「人は大きな事件に目を奪われる。しかし、こういう時こそヒーローは冷静でいなければならない」

混沌(ケイオス)は時に人を惑わし、根底に眠る暴虐性を引きずり出そうとしてくる」

「というわけで、今日もピッチリ平常運行。タイトなジーンズで心身共に引き締めよう」

「「「「「シュア!! ベストジーニスト!!」」」」」

 

 僕の髪の毛をキッチリ()()()()にしながら、サイドキックの面々に訓示を述べるベストジーニスト。

 あぁ、戻れるなら過去に戻って、ここから指名を得た事を喜んでいた自分を殴りつけたい!

 来る場所…間違えた…。

 

 

八百万side

 

『シュシュっと一吹き、簡単ウェーブ!』

『ヘアスプレー“UNERI”』

 

 TVに映るのは、一昨日ウワバミさんの()()()()()()()として撮影に参加したヘアスプレーのCM。そのデモ映像。 

 

「仕事早いわねー。これデモだから、1ヶ月後くらいにはCMで流れるわよ。CG盛り沢山で! さぁ、パトロール出ましょうか」

 

 鼻歌交じりに部屋を出ていくウワバミさん。その後ろ姿に慌てて付いて行きながら、私は先日ウワバミさんの働き方を思い返していました。

 一般的な公務員とプロヒーローの最大の違い。それは()()()()()()()()()という事。

 現在ウワバミさんは、20社を超える企業の広告塔として活動されており、本業であるヒーロー活動と副業の比率は凡そ2:8。

 もはや副業が本業になっていると言っても過言ではない状況ですが、ウワバミさんはその2割の本業でも、着実に結果を残しています。

 これは無駄を極限まで切り詰めた超合理的な働き方が可能にしている…私はそう考えています。

 今日を入れて職業体験はあと3日。何としてでも、その働き方の一部だけでも身につけなくては!

 

「頑張りますわ!」

「気張ってんなぁ……」

 

 

飯田side

 

「いただきます」

 

 手を合わせ、吸阪君がくし型に切ってくれたリンゴ*1を口へと運ぶ。

 

「これは…実に美味いリンゴだ」

 

 瑞々しく、甘さと酸味のバランスが丁度良い。皆も同じ感想を抱いたようで、笑顔を浮かべている。

 そして、皿の上のリンゴが全て無くなった頃―

 

「邪魔をする」

 

 そんな声と共に部屋へ入ってきたのは、ナンバー(ツー)ヒーローのエンデヴァーとマニュアルさん。そして見覚えのないご老人。

 コスチュームを纏っている事から見て、ヒーローである事は間違いない筈だが…。

 

「飯田君。こちらは僕が職場体験でお世話になっているグラントリノ。オールマイトの師匠に当たる方だよ」

「なんだって!」

 

 緑谷君からご老人の正体を聞かされた僕は、挨拶をしようと慌ててベッドから降りようとするが―

 

「あぁ、挨拶なんぞいらんいらん。怪我人は大人しく横になっとれ」

 

 そう言われてしまい、大人しくベッドへ戻る。

 

「それにしても3人がお揃いとは…事後処理に向かわれた筈では?」

 

 僕達を代表して、吸阪君が質問すると―

 

「事後処理に君達も()()()()()()からだワン」

 

 また新たな人物が部屋に入って来た。三つボタンのスーツをクラシカルに着こなした犬顔の男性だ。

 

「保須警察署署長の面構犬嗣(つらがまえけんじ)さんだ」

 

 保須警察署の署長!? 慌てて頭を下げる僕達を手で制した面構署長は、吸阪君、緑谷君、轟君を順番に見つめ―

 

「君達が、ヒーロー殺しを仕留めた雄英生だワンね?」

 

 そう切り出した。

 

「はい……あの、ご存じだと思いますが…俺達、警察のお世話になるような事は…」

「あぁ、勘違いしないでくれだワン。君達3人が、雄英高校が発行する簡易版仮免を所持している事は、既に確認済みだワン」

「はぁ…」

 

 駄目だ。署長さんの来訪の目的が全く分からない。吸阪君も困惑している様子だ。次の瞬間―

 

「では、本題に入るワン」

 

 署長さんの眼差しが、どこか憂いを帯びたものへ変わり…。

 

「申し訳ないが…君達3人の功績は、()()()()()()()()()事になったワン」

 

 文字通りの爆弾発言を投げ込んでくれた。

 

 

雷鳥side

 

「どういう事…でしょうか?」

 

 面構署長の発言に対し、俺は慎重に言葉を選びながら質問を返す。

 表沙汰にはならない…なんとなく理由の想像はつくが…果たして正解かどうか…。

 

「……身も蓋も無い言い方をすれば、あの場にいたのが()()()()()()ならば、問題は無かったんだワン」

「オールマイトの愛弟子であり、雄英体育祭の1位と2位を独占した吸阪雷鳥君と緑谷出久君」

「そして、エンデヴァーの実子であり、雄英体育祭3位タイの轟焦凍君」

「下手なプロよりも実力が高いであろう君達3人がかりなら、ヒーロー殺しを捕える事も困難ではあるが、決して不可能ではない。世間もそう納得する筈だったワン」

「しかし、現場には君達3人だけではなく、飯田天哉君。君がいた。それが問題なんだワン」

 

 あぁ、やっぱりね。()()()()()()

 

「ど、どういう意味ですか…な、納得のいく説明をお願いします!」

 

 飯田の悲痛な声が病室に響き…面構署長が静かに息を吐く。ゆっくり10数えられるだけの時間が流れ…。

 

「ヒーロー殺しが捕らえられた際に襲っていたヒーローはネイティブ。そして、その前に襲撃したのは…そう、インゲニウム。君のお兄さんだワン」

 

 面構署長が理由を話し始めた。

 

「君が職場体験先に保須市を選んだ理由は、マニュアルから聞かせてもらったワン。その思いはとても尊いものであり…また、その思いを実現する為、全てに全力で打ち込んでいた事は、賞賛に値するワン」

「だが…残念な事に、世の中には己の利益の為なら、真実を平気でねじ曲げる輩が一定数存在するワン」 

「それって…」

「一部のマスコミ…この場合は()()()()…って言った方が良いですか?」

「呼びかたはどうであれ、認識としては間違っていないワン」

「奴らが君の存在を察知すれば、どうなると思う? 真実などそっちのけで、嘘にまみれた物語をでっち上げるだろう」

「例えば…『ヒーロー殺しによって再起不能に追い込まれたインゲニウム、兄の復讐を誓った弟は、雄英体育祭で活躍した同級生3人と共謀し、ヒーロー殺しと私闘を繰り広げ…勝利した』と、言ったところだワン」

「ま、待ってください! 僕はそんな事…仮に、ヒーロー殺しへ復讐するにしても、吸阪君達を巻き込むような真似は!」

「そう、君がそんな事をする人間でない事は、君を少しでも知っている人間であれば、判りきった事。だが、世間の大部分の人間は、君がどのような人間かわからないワン」

「そして悲しい事に、好評よりも悪評の方が、はるかに早く広がっていく。そうなれば飯田君。君だけでなく吸阪君達の将来にも、()()()()()()()()()事になるワン」

「そんな事態を避ける為にはどうすれば良いか。我々は話しあいを重ね………3人の功績そのものを無かった事にする。それによって飯田君の存在も隠蔽する。という結論に至ったワン」

「飯田君の存在のみを隠蔽する方法も考えたが…3人の功績を表沙汰にしている限り、どんなに上手く隠しても必ず何処かから暴かれてしまう。3人には申し訳ないが、4人纏めて隠蔽するのがベストな形なんだワン」

「そ、そんな…僕の存在が…吸阪君達に迷惑を…」

 

 面構署長の説明に力無く項垂れる飯田。どう言葉をかけてやるべきか、考えると―

 

「勘違いするなよ。天哉君!」

 

 俺達よりも早く、マニュアルさんが口を開いた。

 

「あの時、君が体を張って、自らの命と引き換えにしようとしてまで、ネイティブを守った事は…間違いなんかじゃない! あの場に居合わせた君が選択出来る()()()()()だった!」

「マニュアルさん…」

「あの現場で、エンデヴァーが吸阪君達を先行させた事も、吸阪君達がヒーロー殺しと交戦した事も、それぞれがその時々で選択出来る最善の行動だった」

「だけど、最善の行動を選択しても、最良の結果に結びつくとは限らない。悔しいけど、現実とはそういうものだ」

「だから、自分を卑下する必要はどこにも無い。君は最善の行動をしたんだ。もしも、3人に負い目を感じるというなら、それはこれからの行動で返していけば良い。君なら、それが出来る筈だ!」

「………はい!」

 

 目から大粒の涙をボロボロと零しながら、マニュアルさんの言葉に頷く飯田。これは、俺達が口を挟む必要は無さそうだ。

 そして、マニュアルさんと飯田のやり取りを聞きながら、うんうんと頷いていた面構署長は、俺達の方へ向き直り-

 

「今回は、事後承諾のような形となり申し訳ないワン」

「警察として、君達に形のある報酬を与える事は出来ないが…せめて、稀代の犯罪者ヒーロー殺しの逮捕に多大な貢献をしてくれた事に、保須警察署全署員を代表して礼を言わせてほしい。ありがとう」

 

 そう言って、深々と頭を下げてくれた。俺達も面構署長に礼を返し、嵐のようなお見舞いは終わりを告げた。

 

 

 それから2時間後。(ヴィラン)連合及びヒーロー殺しによる大規模破壊活動についての記者会見が、保須警察署で行われ…ヒーロー殺しこと(ヴィラン)ネーム、ステイン。本名、赤黒血染は、ナンバー(ツー)ヒーロー、エンデヴァーと()()保須市を訪れていたベテランヒーロー、グラントリノの共闘によって倒され、逮捕された事。現在は警察病院の隔離病棟で厳重な監視下に置かれている事などが、警察から公式に発表された。

*1
うさぎや白鳥に飾り切り済




最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回で職場体験編は最終回となります。

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