出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1   作:SS_TAKERU

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お待たせしました。
第49話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。


第49話:職場体験ーその10(終)ー

切島side

 

「………」

「………一本、ですよね?」

「あぁ…」

 

 職場体験最終日。その締めに行われた組み手で、俺は遂にフォースカインドさんから一本取る事が出来た!

 

「ありがとうございました!」

 

 組み手の最後にフォースカインドさんへ一礼した途端、喜びから胸の奥から湧き出てくる。

 勿論組み手という事で、フォースカインドさんが手加減してくれた事は間違いない。それでも、嬉しいものは嬉しいぜ!

 

烈怒頼雄斗(レッドライオット)!」

「はい!」

「よくやった。これからも鍛錬を続けていけ!」

「はい! ありがとうございます!」

「リアルスティール!」

「はい!」

「お前はまだまだだ! 今のままじゃ、烈怒頼雄斗(レッドライオット)との差は開くばかりだぞ!」

「は、はい!」

「だが、努力の跡は感じられる。肝心なのは、努力の量じゃない。質だ! 正しい努力を続けていけ!」

「はい! フォースカインドさん!」

「よし、2人ともこの1週間よくついて来た! ここで学んだ事を今後に活かしてくれたなら、職場体験に呼んだ甲斐があるってもんだ」

「「1週間、ありがとうございました!」」

「さぁ、コスチュームを着替えてこい。烈怒頼雄斗(レッドライオット)が俺から一本取った褒美に、飯を奢ってやる。肉を食いに行くぞ!」

「「は、はい! ご馳走になります!」」

 

 この後、フォースカインドさんや鉄哲、サイドキックの皆さんと一緒に焼き肉を食いに行った。

 流石はフォースカインドさんが贔屓にしている店。俺が今までに行った事ある家族向けの焼き肉店とは、レベルが違いすぎて…ただひたすら美味いとしか言えなかったのが、何気に悔しいぜ!

 

 

お茶子side

 

「ウラビティちゃん。1週間お疲れさまでした」

「お疲れさまでした!」

 

 ガンヘッドさんの事務所にお世話になって早1週間。私は職場体験の全日程を終え、ガンヘッドさんに最後の挨拶をしていた。

 

「ウラビティちゃんには、この1週間で教えられる事は全部教えた。(ガンヘッド)(マーシャル)(アーツ)も、基礎は一通り教えられたと思う」

「はい…凄く、有意義な1週間でした」

 

 ガンヘッドさんの言葉に答えるように、私は(ガンヘッド)(マーシャル)(アーツ)の構えを取り、規則正しく息吹きを繰り返す。

 

「うん、綺麗な構えが出来ているね。もしもわからない事があったら、遠慮なく連絡して。ウラビテイちゃんも僕のサイドキックと同じ、(ガンヘッド)(マーシャル)(アーツ)の同門なんだからね」

「はい! ありがとうございます!」

「それから…最後に聞いておきたいんだけど……」

「はい?」

 

 ガンヘッドさんから最後の質問。一体何を聞かれるんだろう…。

 

「休憩時間とかに時々連絡していた緑谷君って、雄英体育祭準優勝の緑谷出久君?」

「え? あ、いや、それは…」

「やっぱり、恋バナ?」

「え? ち、違います! 緑谷君とはまだそんな関係じゃ…」

()()?」

 

 慌てた私の迂闊な返答に、ガンヘッドさんが物凄く食いついてきた。あぁ、どうしよう!

 だけどその仕草は…やっぱり可愛い!

 

 

梅雨side

 

FROPPY(フロッピー)! テンタコル! この1週間、よく頑張った!」

「「はい!」」

「仮免を取ったら、またセルキー事務所(ウチ)へ、インターンに来い! 事務所一同で歓迎するからな!」

 

 そう言って笑顔でポーズを決める船長。やっぱり、可愛いわ。

 

「だから船長! そのポーズは全然可愛くないって言ってるじゃないですか!」

「そうですよ、船長。FROPPY(フロッピー)やテンタコルだって、ドン引きしますから!」

 

 でも、シリウスさんや他のサイドキックの皆さんには不評なのよね。不思議だわ…。

 

「まぁ、船長のポーズは置いておいて…FROPPY(フロッピー)、貴女に書いてもらったレシピ帳。大切にするわね」

 

 職場体験の合間を縫って手書きしたレシピ帳を手に微笑んでくれるシリウスさん。

 私の…というよりも8割がた吸阪ちゃんのレシピだけど、吸阪ちゃんも―

 

 -俺なんかのレシピが皆さんのお役に立てるなら、遠慮なく広めちゃってくれ-

 

 そう言っていたから、うん、問題ないわね。

 

「それから、レシピのネタ元の()()さんにも、お礼を言っておいてね」

「え?」

 

 彼氏? 吸阪ちゃんが? 私の………。

 

「あれ? FROPPY(フロッピー)?」

「はっ…私はいったい何を…」

 

 いけないいけない。一瞬だけど、意識が飛んでいたみたいね。シリウスさんの心配そうな顔に胸が痛むわ。

 

「ごめんね。FROPPY(フロッピー)。驚かすつもりはなかったのよ」

「いいえ、私の方こそ、変な所を見せてしまったわ。ごめんなさい」

 

 お互いに謝罪を交わして、それで終わり。そのつもりだったけど…。

 

FROPPY(フロッピー)の彼氏だと! 一体、どこの馬の骨だ!」 

FROPPY(フロッピー)と交際しようって言うなら、俺達全員に勝った上で、交換日記から始めやがれ!」

「そうだそうだ!」

 

 サイドキックの皆さんに火が点いてしまったわ…これって、収まるのかしら?

 

「お前ら! 少しは冷静になりやがれっ! FROPPY(フロッピー)だって年頃の女の子なんだ。彼氏くらいいてもおかしくねぇだろ!」

 

 船長の一喝で、黙り込むサイドキックの皆さん。流石だわ、船長。

 

「なぁ、テンタコル。お前はFROPPY(フロッピー)の彼氏を知ってるのか? 知ってるなら話せ、すぐ話せ、さぁ話せ」

 

 ………前言撤回ね。シリウスさんも頭を押さえているわ。

 

「………彼氏かどうかは解らないが、そのレシピ帳のネタ元が誰かは…」

 

 船長の圧力に負けて、吸阪ちゃんについて説明を始める障子ちゃん。吸阪ちゃんに一応気を付けるように言っておくべきかしら?

 

 

出久side

 

「グラントリノ、色々とお世話になりました」

 

 職場体験最終日。全ての日程を終わらせた僕は荷物を纏め、グラントリノに最後の挨拶をしていた。

 

「うむ。俊典の奴に口利きさせたとはいえ、こんな老いぼれの元でよく頑張ってくれた。今更ながら礼を言うぞ」

「いえ! 凄く有意義な1週間でした!」

「有意義な時間を過ごせたのはこっちの方だ。オールマイト(あいつ)を鍛え上げてからは、惰眠とたい焼きを食う事だけが楽しみだった隠居(おいぼれ)の生活に、刺激を齎してくれたんだからな」

 

 そう言って、静かに微笑むグラントリノ。僕も笑顔を返しつつ、ずっと気になっていた事を質問する事にした。

 

「あの、グラントリノ…失礼と思って、ずっと聞きそびれていたんですけど……」

「なんだ?」

「グラントリノ。そんなに強くて、オールマイトを鍛えたっていう実績もあるのに、世間じゃ殆ど無名です。何か、理由があっての事なんでしょうか?」

「あー……そりゃ、俺は元来ヒーロー活動に興味なかったからな」

「そうなんですか!?」 

「かつて、とある《目的》の為に、“個性”の自由使用が必要だった。資格を取った理由はそんだけさ…まぁ、これ以上の事は俊の…オールマイトから聞いた方が良いだろう」

「はい…」

 

 グラントリノの言う()()とは一体…授業が再開したら、オールマイトに尋ねないと…。そんな事を考えていると―

 

「あぁ、そうそう。こいつを渡すのを忘れとった」

 

 グラントリノが懐から封筒を1つ取り出して、僕に差し出してきた。これは…。

 

「お前がこの1週間、グリュンフリートとしてヒーロー活動を行った事に対する正当な対価だ」

 

 封筒の厚みは1cm強。その重さは200gも無い筈だけど、今まで持った事が無いほど重く感じる。

 僕が初めてヒーロー活動で稼いだお金で、その出所は沢山の人達の税金…付属の明細を恐る恐る見ると、そこには想像以上の額が記載されていた。

 

「こ、こんなに…」

甲府市(この辺り)で活動した分だけじゃなく、保須市で働いた分も合わせた額だからな。ヒーロー殺しを倒した分も入っとるぞ」

「え!? ヒーロー殺しはグラントリノとエンデヴァーが倒した事になったんじゃ…」

「それはあくまでも表向き。(ヴィラン)を倒してもおらんのに、金なんぞ受け取れるか。この辺りの事もエンデヴァー達と話し合い済みだ」

 

 聞けば、ヒーロー殺しを逮捕した事で支給されたお金は、13%をエンデヴァー、7%をグラントリノが受け取り、残り80%のうち9割を僕と雷鳥兄ちゃん、轟君で3等分。残る1割を飯田君への見舞金に充てたそうだ。

 もっとも…エンデヴァーとグラントリノは、僕達に課せられる税金やその他雑費を肩代わりしてくれたので、収支は殆どプラスマイナス0らしい。

 

「1週間も顔を合わせてないから、親御さんも心配しとるだろう。そのお金で土産でも買って、安心させるといい」

「このお金。大切に使わせていただきます!」

「うむ。じゃあ、もう行け。新幹線の時間が迫っとるぞ」

「はい! グラントリノ、1週間ありがとうございました!」

 

 深々と一礼し、僕は駅への道を歩き出す。

 

「グリュンフリート!」

 

 少しして背中から聞こえてくる声。慌てて振り返ると-

 

「困った事があったら、いつでも連絡しろ! こんな老いぼれだが、いつでも力になるからな!」 

 

 グラントリノがそう言いながら、右手を上げて見送ってくれていた。僕はもう一度深々と頭を下げ、駅への道を急ぐのだった。

 

 

雷鳥side

 

「帰ってきたな」

「あぁ」

 

 エンデヴァー事務所での職場体験を終え、エンデヴァーとサイドキックの皆さんに挨拶を済ませた俺と轟は、特にトラブルに巻き込まれる事もなく、地元の駅へと辿り着いていた。

 

「雷鳥兄ちゃん! 轟君!」

 

 そこへ声をかけてきたのは出久。どうやら、あいつも同じ時間帯の電車に乗っていたようだな。

 

「2人ともお疲れ様」

「おう、お疲れ」

「お疲れ様」

 

 3人で他愛もない事を話しながら、駅の構内を歩いていく。まぁ、知らない人達から話しかけられたり、スマホのカメラを向けられるが、スマイルで乗り切っていく。

 

「じゃあ、また…学校で」

「あぁ、しっかり休めよ」

「轟君、また明日ね」

 

 駅の入り口で轟と別れ、俺と出久は姉さんの待つ家へと急ぐ。姉さんと会うのも1週間ぶりだ。

 

 

「ただいま、姉さん」

「母さん、ただいま」

「お、お、お帰り! 出久! 雷鳥!」

 

 玄関から響く俺達の声を聴くや否や、姉さんが泣きながらリビングから飛び出してきた。  

 

「2人とも大丈夫!? 怪我してない? 保須市のニュースを見てから、私心配で心配で…」

「俺も出久も大丈夫だよ。姉さん」

「ほら、この通り傷ひとつ負ってないから」

 

 俺と出久がそれぞれ声をかけ、ようやく落ち着きを取り戻す姉さん。まったく、姉さんも心配性だよ。

 この後、俺と出久が差し出した封筒の中身を見た姉さんが、再びひっくり返りそうになるが…まぁ、それは別の話だ。

 

 

死柄木side

 

 俺達(ヴィラン)連合がアジトにしているバーで、俺は安物の飴玉をツマミにコニャックを楽しんでいた。そこへ―

 

「…来たか」

 

 黒霧のワープゲートが開き、黒霧の肩を借りながらステインが姿を現した。

 

「怪我の具合はどうだい? 先輩」

「死柄木弔…救援、感謝する」

「同盟を結んでいるんだ。当然の事をしたまでだ」

「死柄木弔、言いつけ通り病室の壁には、我々(ヴィラン)連合の名前で、犯行声明を掲示しておきました」

「よくやった黒霧。これで、警察の面子は丸潰れ。俺達(ヴィラン)連合の名にも箔が付くってもんだ」

 

 厳重な警備体制を敷いた隔離病棟から、逮捕した(ヴィラン)を逃がしてしまった。蜂の巣を突いた様な騒ぎになっているであろう警察関係者の青ざめた顔を想像して、思わず笑いが出てしまう。

 

「先輩、あんたは(ヴィラン)連合に必要な人材だ。再び大暴れしてもらう為にも、まずは安全な場所で傷を癒してくれ。黒霧」

「はい。ワープゲートで、ドクターの元へお送りします」

 

 言うが早いか、再びワープゲートを開く黒霧。

 

「死柄木弔。お前には大きな借りが出来た。傷が癒え次第、俺は(ヴィラン)連合の(つるぎ)として、命を懸ける事を、ここに誓おう」

「あぁ、その時は頼りにさせてもらうぜ。先輩」

 

 互いに頷いたところで、黒霧がワープゲートでステインを送っていく。

 

「ヒーローども…俺達のターンはここからだ。精々、束の間の平穏に酔いしれるが良いさ」

 

 そう呟き、口に放り込んだ飴玉を一気に噛み砕く。そう、全てはここからだ。




最後までお読みいただき、ありがとうございました。

なお、雷鳥、出久、轟の3人が受け取った給金ですが-

出久 大卒の初任給。それの大体5倍強。
雷鳥 大卒の初任給。それの大体7倍弱。
轟  雷鳥とほぼ同額

くらいをイメージしてください。

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