出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
短いですがお楽しみ頂ければ、幸いです。
雷鳥side
君はヒーローになれる!!
その言葉に、声にならない声をあげながら歓喜の涙を流す出久。オールマイトは、そんな出久にウンウンと大きく頷きながら―
「君なら、私の“力”受け継ぐに値する!!」
と、先程話した俺達への用件。その最後の1つ『提案』を口にした。
「私の“力”を、君が受け取ってみないか!!」
…突然過ぎる、そしてあまりに突飛なオールマイトからの提案に、出久が文字通り『鳩が豆鉄砲を食ったような』顔をしたのは言うまでもない。
「…あの、オールマイト。『この中古のスマホ、もう使わないからお前にやるよ!』みたいなノリで、そんな事言われても反応に困るんですが…そもそも“個性”の譲渡なんて、出来るんですか?」
衝撃で未だフリーズ状態の出久に変わり、俺がツッコミ混じりの質問をすると、オールマイトは己の持つ“個性”について話し始めた。
この“個性”は聖火の如く引き継がれたもの。個性を“譲渡”する個性。その名は『ワン・フォー・オール』!!
1人が力を培い、その力を1人へ譲渡。その1人が更に力を培い、また新たな1人へ譲渡。この繰り返しにより、極限まで磨き上げられた、まさに力の結晶!!
元々、後継者は探していた。そして、
「まぁ、しかし…全ては君次第だけどさ! どうする?」
最後に少しだけ空気を和ませて、オールマイトは出久の返答を求めた。出久の出した答えは…
「お願い…します!」
それから2日後の早朝。俺と出久はオールマイトに呼び出される形で、海浜公園まで来た訳だが…。
「早速だが、緑谷少年! これを食え!」
「オールマイト! いきなり髪の毛食え言われても、訳わかんないですよ! 説明! 説明Please!!」
「ん? あ、あぁ! すまない! 私とした事が説明を忘れていたよ! 『ワン・フォー・オール』を譲渡する為には、譲渡したい相手に自分のDNAを摂取させる必要があるのさ!」
「………だ、そうだ。出久、ファイト」
そう言って俺は出久にミネラルウォーターのペットボトルを差し出し―
「…うん」
それを受け取った出久は、覚悟を決めてオールマイトの髪の毛を口に含み、ミネラルウォーターで流し込んだ。
「2時間もすれば、髪の毛が消化されて変化が起きる筈さ。それまで、辺りを走るなりして体を温めておくといい」
オールマイトの指示に従い、ランニングや柔軟体操などで時間をつぶしていると…“それ”はきた。
「ら、雷鳥兄ちゃん!?」
突然、出久の全身を緑色の電気とでも表現できそうなオーラが走り始めたのだ。
「来たか! 緑谷少年! それが『ワン・フォー・オール』だ!」
「こ、これが…」
「ここからが肝心だ! いきなりグワァッ! とやったら体がもたない。グッ! と締めて、ジワァッと広げていく感じで流していく。わかるかな?」
………オールマイト、感覚で何とかしてきたタイプか。指導者には一番向いてないぞ! 出久も戸惑ってるし…
「出久! 水道だ! 水道の蛇口をイメージしろ!」
仕方ない。俺なりの解釈になるが、通訳してみるか。
「いきなり全開にするんじゃなくて、少しずつ蛇口のハンドルを捻るように出力を上げていくんだ。そして、今の自分の限界ギリギリで止める。出来るか?」
「うん、やれそうだよ。雷鳥兄ちゃん」
俺の説明で納得できたのか、出久は少しずつ『ワン・フォー・オール』の出力を上げていきー
「…今は、ここが限界みたい…」
ある程度出力が上がったところでストップし、大きく息を吐いた。
「おぉ、まさかこれほどとは! 正直、予想以上だよ!」
全身に緑色のオーラを迸らせる出久の姿に、オールマイトが感嘆の声を上げる。それにしても、
「オールマイト、予想以上と仰ってましたが、貴方の想定ではどの位だったんですか?」
「そうだね…私を100としたら、10…良くて15程度だと思っていたよ」
「じゃあ、現実は?」
「…20以上、25未満…まぁ、23といったところかな」
「なるほど…」
「これほどの逸材だったとは…いやはや、私も人を見る目がない」
「人を見る目はともかくとして、指導者としての才能には疑問符が付きますね。指示が感覚的過ぎるというか、擬音語に頼りすぎです」
「ぐはっ!?」
「名選手必ずしも名監督にあらず。なんて言葉がありますけど…オールマイトも名監督にはなれなかった…なんて、言われないでくださいね」
「あ、あぁ…努力するよ」
俺のツッコミを受け、喀血しながら項垂れるオールマイト。だが、すぐに気を取り直し、俺達に指示を飛ばす。
「じゃ、じゃあ、これから君達にやってもらう事を伝えよう! 内容は簡単! それぞれの個性を使って、このゴミの山を綺麗にするのさ!!」
「ゴミ掃除って事ですか。たしかにこの辺りは海流の関係で漂着物がやたら多いし、それに付け込んだ不法投棄も多いですけど」
「そうか! 不法投棄された粗大ゴミなんかを使って、全身を鍛えるって事ですね!」
「それもある! だけど、一番の目的はそれじゃない!」
そう言うとオールマイトは
「最近の
「ヒーローってのは、本来奉仕活動! 地味だ何だと言われても! そこはブレちゃあいかんのさ…この区画一帯の水平線を蘇らせる!! それが君達のヒーローへの第一歩だ!!」
近くにあった冷蔵庫を片手でペシャンコにしながら、そう宣言した。
「なるほど…『ワン・フォー・オール』を継承する出久だけじゃなく、俺まで呼び出したのは、そういう事ですか」
「うむ! 吸阪少年は『ワン・フォー・オール』の秘密を知ると共に、緑谷少年をここまで鍛えた実績もある。勝手な願いではあるが、私の精神を受け継ぐ者として、これからも成長していってほしいのだよ!」
「雷鳥兄ちゃん、やろう! 2人でここを綺麗にするんだ!」
「…OK、やるか!」
こうして俺達2人による海浜公園清掃作戦が始まった。
「よっと!」
『ワン・フォー・オール』で増大した身体能力をフルに活かし、大型トラック用のタイヤを軽々と持ち上げ、全速力で運んでいく出久。あれって、ホイール込みで80kg以上あった筈。それを軽々と運ぶという事は…。
「『ワン・フォー・オール』の効果、恐るべしだね」
ぼやくように呟きながら、俺は自らの“個性”を発動。右手から磁気を放ち、近くにあった冷蔵庫を引き寄せると―
「まだまだ負けないぜ、出久」
この前やったホバーボード擬きの要領で、地面から15cm程浮遊。そのまま冷蔵庫を牽引していく。
ふむ、これは身体だけでなく“個性”の鍛錬としても良い感じだな。
こうやって、放課後と休日に少しずつではあるがゴミを撤去し、海浜公園を綺麗にしていく俺達。そのスピードは決して速くはないと思っていたが…。
「10日でこれほどとは…いやはや、良い意味で予想を裏切ってくれる」
様子を見に来たオールマイトが思わず呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。そして半年後―
「「終わったー!!」」
俺達は全てのゴミを片付け終えた。オールマイトから指定された区域だけじゃない。海浜公園全体のゴミを片付け終えたのだ。
「2人とも見事だ! これほどの短期間かつ、私が指定した区域以外の場所まで…もはや、驚き以外の何物でもないよ!」
オールマイトからの称賛の言葉を背に受けながら、ハイタッチをかわす俺と出久。
「予定よりもかなり早いけど、ここからは更に踏み込んだ鍛錬を行っていく! 2人とも心の準備はいいかな?」
そして、この日から雄英入試前日まで、互いの“個性”をフルに使っての猛特訓が始まるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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更に、評価までしていただき、身が引き締まる思いです。
これからも皆様からの期待に応えられるよう、頑張ってまいります!!