出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1   作:SS_TAKERU

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短編の後編を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。



第50.7話:歓迎とお疲れ様の食事会ー後編(終)ー

雷鳥side

 

 食事会の会場となるいつもの倉庫に到着した俺は、椅子やテーブルの用意を出久、梅雨ちゃん、麗日に任せ、鋳物製のガスコンロや調理台などの準備を行っていた。そこへ―

 

「来たよー!」

「ウチらが一番乗り?」

「みたいだね!」

 

 元気一杯な声が響く。一番乗りは芦戸と耳郎と葉隠か。

 

「あぁ、よく来てくれた。もうすぐ準備が終わるから適当に寛いでいてくれ」

「いやいや、吸阪や緑君だけじゃなく梅雨ちゃんや麗日まで準備してるのに、私達だけ寛ぐなんて出来ないよ」

「そういう訳だから、手伝うね!」

「そこのパイプ椅子とか運んでいけばいいんでしょ?」

「悪いな。助かる」

 

 出久達に交じり、準備を行いだす芦戸達。俺もそんな3人に礼を言って、準備を再開。

 そうしている間にも次々とクラスメート達がやってくるが、誰一人寛ぐ事無く、準備に参加してくれた。

 

「よし、準備完了!」

 

 おかげで予定よりも随分早く準備が整った。さぁ、次の作業に…

 

「あ、忘れてた! 私と耳郎と葉隠でこれ買ってきたんだ!」

 

 そこに響く芦戸の声。何事かと視線を送ると、バッグから取り出したのは…総菜屋の紙袋?

 

「家の近所にお惣菜屋さんがあってね! そこのコロッケがすっごく美味しいの! だから皆の分、買ってきたよ!」

   

 そんな芦戸の声を皮切りに、他の皆も自分達が買ってきたり作ったりした料理やお菓子を次々と出してきた。これは…予想外の嬉しい事態だな。

 というか、八百万…クラスメート同士の食事会に、ローストビーフはどうかと思うぞ。いや、正直嬉しいけど。

 

出久side

 

「それじゃあ、僕達で皮の方を伸ばしていくから、包みの方は頼むね。雷鳥兄ちゃん」

「任せておけ」

 

 雷鳥兄ちゃんとそんな会話を交わし、僕は皮作り班に名乗り出てくれた飯田君、尾白君、切島君、瀬呂君、轟君、峰田君、麗日さん、耳郎さん、葉隠さんに向き直る。

 

「それじゃあ、僕がお手本を見せるから、皆はそれを真似してください」

 

 その言葉に、皆の視線が僕へ集中するのを感じながら、皮作りを開始する。

 人数に合わせ、予め10等分しておいた焼き餃子用の生地を更に6等分し、その1つを棒状に伸ばしていく。

   

「棒状に伸ばした生地を更に10等分して、それを1つずつ麺棒で丸く伸ばしていきます。大きさの目安は、大体直径8cmくらいかな」

 

 伸ばし終わった皮は、両面に打ち粉をして、トレーに並べていく。

 

「こんな感じでお願いします」

「うぅむ…市販の皮にも引けを取らない見事な円形。見事だ、緑谷君!」

 

 飯田君の賛辞に、麗日さん達も大きく頷いてくれたのが、なんだか嬉しくて(くすぐ)ったい。

 作る皮は焼き餃子用600枚*1、水餃子用200枚、合わせて800枚。ノルマは1人あたり80枚。さぁ、頑張っていこう!

 

 

雷鳥side

 

 出久達が伸ばした皮を敷き詰めたトレーがある程度溜まった所で、俺達も包み作業を開始する。 

 

「僭越ながら、お手本を」

 

 俺は皮を1枚手に取り、包み作業班の青山、心操、口田、砂藤、障子、常闇、梅雨ちゃん、芦戸、八百万にそう宣言し、包み方の手本を見せていく。

 

「まず、皮の真ん中に具を乗せて、皮の縁に水をつける。具は乗せ過ぎると包めなくなるから…そうだな。小匙山盛り1杯くらいが目安だ」

「次に皮を2つ折りにして右端を摘まみ、こうやってヒダを…3つか4つ作りながら、左端までしっかりと閉じていく」

「最後に手前側を軽く押して、形を整え、底を平らにすれば、出来上がりだ」

 

 出来上がった餃子を見せると全員から、おぉ…と声が上がる。

 

「ポイントは、肉汁が漏れないよう隙間を作らない事。多少、形が悪くてもここだけはしっかり守ってくれ」

 

 俺の指示を皮切りに、包み作業が一斉に開始される。さぁ、慌てず急いで慎重にやっていこう。

 

 

 それから40分後。飯田が委員長として生真面目かつ少々長めな始めの挨拶を行い、それが終わった頃。

 

「よし、完成」

 

 第1弾として俺と梅雨ちゃん、麗日の手で奇麗に焼きあげられた羽根つき餃子100個、海老アボカド餃子60個、ネギトロ餃子60個が20枚の紙皿に均等に盛り付けられ、出久が担当するラム肉とセロリのスープ餃子も、器に盛りつけられた。

 

「皆、悪いが取りに来てくれ」

 

 各自が焼き餃子の盛られた紙皿とスープ餃子の盛られた器を受け取り、それぞれの席へと戻っていく。さぁ、食事会のスタートだ。

 

 

心操side

 

 吸阪の焼き上げた羽根つき餃子に、ラー油を垂らした酢醤油をつけ、1口。

 

「…美味い」

 

 カリカリとした焼き目にモチモチとした皮。そしてジューシーな具。正直、下手な店の焼き餃子より美味いんじゃないか?

 そんな事を考えながら、2つ目の羽根つき餃子を食べていると―

 

「はい、お待たせ」 

 

 背後から白飯が盛られた器が差し出された。振り向いてみれば、そこには緑谷の姿。

 

「餃子にはご飯が欠かせないよ。おかわりは沢山あるから遠慮なく食べてね」

「あぁ、ありがとう…」

 

 緑谷の屈託無い笑顔にそう答え、白飯を1口……たしかに、餃子には白飯が欠かせないな。

 

 

切島side

 

 3種類の焼き餃子。羽根つきに海老アボカド、ネギトロか…どれから食べるか迷っちまうぜ!

 

「…よし、まずはネギトロだ!」

 

 俺は大盛りの白飯を片手に、ネギトロ餃子を1口!

 

「うめぇ!」

 

 噛み締めた途端に溢れ出す魚の旨味。コクがあるけど、肉よりもさっぱりしていて食べやすいぜ!

 

「そして、ここで白飯を…」 

 

 続けて、白飯を掻っ込めば…なんてこった! 食えば食うほど腹が減っていくぜ! やっぱり餃子と白飯の組み合わせは鉄板だな!

 

 

八百万side

 

「海老アボカドのチーズ餃子…この組み合わせの餃子は、初めてですわ」

 

 よく家族で食事へ行く赤坂の中華料理店は、味とメニューの豊富さで有名ですが、そこでもこのような餃子は見た事がありません。

 しかしながら、あの吸阪さんが作った餃子。味には絶対の自信がある筈……いざ、参ります!

 

「こ、これは…美味しいですわ!」

 

 火を通した事でトロッとした食感のアボカドとプリプリ食感の海老。そこへチーズの塩気とコクが混ざり合い、得も言われぬ味わいとは、正にこの事!

 

「食通の八百万に気に入ってもらえたんなら、光栄だな」

 

 そう言っている吸阪さんですが、その表情は自信に満ち溢れています。流石と言うべきですわね……今度、家のシェフにお願いして、作ってもらいましょう。

 そんな事を考えながら、今度は羽根つき餃子を酢醤油につけ、1口。

 

「ッ!?」

 

 噛み締めた瞬間溢れ出す極上のスープ。これは、肉汁と野菜から滲み出た水分、そしておそらくは…。

 

「吸阪さん、この羽根つき餃子。中に()()()()を入れていますね?」

Exactly(そのとおり)。鶏ガラと鶏皮、長ネギ、生姜をじっくり煮込んで作った特製スープは、冷やすと鶏皮から溶け出したゼラチン質の働きで固まり、煮こごりになる」

「そいつを微塵切りにしてタネに混ぜ込んだのさ。焼く事で煮こごりが溶け出し、小籠包(ショウロンポウ)並にジューシーな焼き餃子になる」

 

 私の投げかけた仮説に対し、不敵な笑みを見せながら種明かしをしてくれる吸阪さん。私はその腕前に感服しながら、新たな羽根つき餃子を口に運ぶのでした。

 

 

常闇side

 

「ラム肉とセロリのスープ餃子か…」

 

 ラム…子羊肉という初めての食材に、少々不安を感じるが…いや、あの吸阪や緑谷が作っているのだ。間違いはないだろう。

 

「……これは!」 

 

 1口食べた瞬間、衝撃が走った。牛肉や豚肉、鶏肉とは全く違う野趣溢れる味わい。僅かに独特の臭みがあるといえばあるが、大量に混ぜ込まれたセロリの微塵切りがそれを上手く打ち消し、後味は爽やか。

 

「それに、この…ごま油が香る醤油味のスープが、実によく合っている」

 

 羊という俺達が不慣れな食材をに対し、醤油という慣れ親しんだ調味料が上手く橋渡し役を果たしている…細切りにされたセロリの葉が彩りとして散らされているが、それも良い働きだ。まさに佳良な一品。

 

「…もう一杯」

 

 あっという間に器を空にしてしまった俺は、おかわりを注ぎに行くが…。

 

「……緑谷、それは…なんだ?」

 

 鍋の前で陣取っていた緑谷を見て、動きを止めてしまった。奴が用意しているのは…中華麺だと!?

 

「これ? 希望者には中華麺をプラスして、雲呑麺(ワンタンメン)風に出来るように準備してたんだけど…常闇君、食べる?」

「是非とも頼む!」

 

 吸阪、そして緑谷…お前達は恐ろしい奴らだ。ラム肉とセロリのスープ餃子(これ)に麺をプラスするなんて、美味いに決まっているだろうが!

 

 

梅雨side

 

「ケロケロ。皆喜んでくれているみたいで何よりだわ」

 

 テーブルのあちこちで浮かんでいる皆の笑顔を見ながら、私はホッと胸を撫で下ろす。準備に関わった者として、1人でも食事会を楽しめない人がいるのは、とても悲しい事だもの。

 

「食べてるかい? 梅雨ちゃん」

「えぇ、美味しくいただいているわ」

 

 そんな私の心情を理解しているのか、吸阪ちゃんは焼きたてのネギトロ餃子を持ってきてくれたわ。

 

「焼きたてだから、熱いうちに食べな」

「ありがとう、吸阪ちゃん」

 

 お礼を言って熱々のネギトロ餃子を1口。うん、やっぱり私はネギトロ餃子が好みだわ。

 今度実家に帰ったら弟や妹に作ってあげるわ。きっと気に入ってくれる筈よ。ケロケロ。

 

 

麗日side

 

「麗日さん。コロッケとフライドチキン。それからローストビーフも取ってきたよ」

「あ、ありがとう。緑谷君」

 

 お礼を言って緑谷君が持ってきてくれた紙皿を受け取った私は、ローストビーフに早速手を伸ばす。うん、美味しい! っていうか、噛む前に溶けた!

 

「あ、スープ餃子のおかわり、注いでこようか?」 

「うん! あ、でも悪いよ。緑谷君、全然食べてないよね?」

「大丈夫。自分の分はちゃんと確保してるから」 

 

 私の声にそう答え、お椀を持っていってしまう緑谷君。前から優しかったけど…何というか、その度合いが増した気がする。

 これって、やっぱり…彼氏と彼女の関係になったから? あかん! そうなると、緑谷君は思いっきり甘やかすタイプって事なん!?

 

「あかん、油断してたら…堕落してしまうやん…」

 

 堕落した自分を想像して、思わず背中に寒気が走る。このままじゃあかん! 誘惑に負けないように頑張らないと!

 

「あ、麗日! ちょーっと聞きたいんだけど」

「そうそう、ちょーっと聞きたいんだよ」

 

 心の中でそう決心していると、芦戸ちゃんと葉隠ちゃんが声をかけてきた。その後ろには耳郎ちゃんの姿も。

 

「え? 3人ともどうしたん?」

「ストレートに聞くね…緑谷と何かあった?」

「ふぁっ!?」

 

 芦戸ちゃん、ストレート過ぎ! 変な声が出てもうたやん!

 

「おぉ、その反応…なるほどなるほど。うん、おめでとう! 麗日!」

「おめでとう!」

「そっか、緑谷とか…うん、おめでとう、麗日」

 

 一瞬で察知されてもうた…。何気なしに周りを見れば、青山君と障子君が訳知り顔で頷いているし、峰田君は…血涙流しとる!?

 

「梅雨ちゃんも吸阪と良い感じだし、ダブルでおめでとうだよ!」

「喜びも2倍だね!」 

 

 芦戸ちゃんと葉隠ちゃんの声に赤面しながら、緑谷君に視線を送ったら…。

 

「緑谷君! 麗日君との交際おめでとう! だが、我々は高校生なのだから、その交際内容は清く正しく美しくの精神で、決して不純なものとならないように…」

「飯田、話が長いぞ。とにかく、おめでとう緑谷。なんかわかんねぇが…俺も嬉しいよ」

「愛する者がいれば、人は強くなれるって奴だな。くぅー! 熱いぜ!」

 

 飯田君や轟君、切島君から祝福の言葉をかけられて、真っ赤になってた。うん、恥ずかしいけど…こういうのもいいね!

 

 こうして、食事会は大いに盛り上がり、私達1-Aの結束はより強いものとなったのでした。

*1
プレーン用300枚、海老アボカド用150枚、ネギトロ用150枚の割合




最後までお読みいただき、ありがとうございました。

オマケ

各自が持ち寄った料理やお菓子の一覧表

 青山優雅  ドリンク関係(尾白、口田、障子、心操、峰田と共同購入)
 芦戸三奈  コロッケ(耳郎、葉隠と共同で購入)
 蛙吹梅雨  調理担当
 飯田天哉  オレンジジュース(購入)
 麗日お茶子 調理担当
 尾白猿夫  ドリンク関係(青山、口田、心操、峰田と共同購入)
 切島鋭児郎 フライドチキン(瀬呂、常闇と共同購入) 
 口田甲司  ドリンク関係(青山、尾白、障子、心操、峰田と共同購入)
 砂藤力道  パウンドケーキ(作成) 
 障子目蔵  ドリンク関係(青山、尾白、口田、心操、峰田と共同購入)
 耳郎響香  コロッケ(芦戸、葉隠と共同で購入)
 心操人使  ドリンク関係(青山、尾白、口田、障子、峰田と共同購入)
 吸阪雷鳥  調理担当
 瀬呂範太  フライドチキン(切島、常闇と共同購入) 
 常闇踏陰  フライドチキン(切島、瀬呂と共同購入) 
 轟焦凍   豆大福と羊羹(購入)
 葉隠透   コロッケ(芦戸、耳郎と共同で購入)
 緑谷出久  調理担当 
 峰田実   ドリンク関係(青山、尾白、口田、障子と共同購入)
 八百万百  ローストビーフ(家の料理人に作ってもらった)

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