出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第53話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
雷鳥side
円陣を組み、気合を入れ直した俺達は―
「よし! それじゃあ行ってくるぜ!」
「絶対合格してくるからな!」
そう行って試験会場に向かう切島と砂藤を見送り、それぞれ行動を開始した。
具体的には、出番が近い轟・八百万ペアや瀬呂・峰田ペアは作戦会議に入り、まだ時間に余裕のある俺達は試験を観戦するといった感じだ。
「演習試験の組み合わせだが…予測通りだったな。出久」
「うん、間違いが無くてよかったよ」
モニタールームへ移動する最中、ふと発した俺の言葉にそう答え、安堵の溜息を漏らす出久。
合同勉強会の際、出久お手製の資料で演習試験の対策を練った訳だが…クラスメートの誰もが、その完成度の高さに舌を巻いていた。
正直な話。あれがなかったら、対策の内容も大分変わっていただろう。我が甥ながら、大したものだ。
「第1戦。多分、セメントス先生は切島君や砂藤君の“個性”、その
「あぁ、だがそれはこっちも想定済み。セメントス先生の驚く顔…見ものだな」
前世の記憶によると…セメントス先生は切島達に『戦闘とはいかに自分の得意を押しつけるかだ』と語っていたが…その言葉の意味、じっくりと味わってもらいますよ。
セメントスside
試験会場となる市街地ステージ。俺はそのゴールとなるゲートから50mほど進んだ地点に陣取り、試験開始の合図を待ちながら、採点対象となる2人の情報をもう一度確認する。
「切島鋭児郎。“個性”は『硬化』、砂藤力道。“個性”は『シュガードープ』…」
普段の授業や雄英体育祭の活躍等から総合的に判断して、この2人の弱点は『機動力の低さ』と『持久戦・長期戦への弱さ』。
俺の“個性”から見てみれば、正に良いカモと言っていい。
『それじゃあ、1-A期末テスト、第1戦。切島・砂藤ペア対セメントスの試合を始めるよ! スタート30秒前!』
リカバリーガールのアナウンスに、資料を鞄へ突っ込み、準備を整える。
「馬鹿正直に真正面から突っ込んで来るだけなら、即
『スタート5秒前! レディィィィィゴォ!!』
切島side
『スタート5秒前! レディィィィィゴォ!!』
「行くぜ! 砂藤!」
「おう! 切島、打合せ通りにな!」
開始のアナウンスと同時に、俺と砂藤は二手に分かれて動き出す。
俺も砂藤も機動力の低さを補う為に、八百万にインラインスケートを創造してもらった。おかげで普通に走るよりはるかに速く移動出来るぜ!
「ッ!」
ある程度進んだところで、道を塞ぐように地面から急に壁が生えてきた! セメントス先生の“個性”『セメント』の効果範囲に入ったって事だ!
「っしゃぁ!」
一気に加速して、道が塞がりきる前に突破!
「よし、この調子なら狙い通りにいけそうだぜ!」
今のところ、事前に緑谷や吸阪、八百万が作ってくれたプラン通りに進んでいる。このまま油断せずに突っ切るぜ!
セメントスside
「これは……想定よりも速いな」
試験開始から7分。俺の“個性”で、試験会場のあちこちに壁を作り、2人が選びそうなルートを塞いでみた訳だが…未だそれに引っかかる気配がない。それはつまり…
「機動力の低さに関しては、何かしらの対策を練ってきたという事だね。閉鎖される前に通過したのか、機動力を上げた分遠回りの道を選んだか」
心の中で2人に+評価をつけながら、“個性”でゲートへと続く道、その殆どを閉鎖する。
「これで、ゲートに通じる道はこの1本のみ…チョコマカと立ち回っていても、結局は正面突破せざるを得ない」
そんな事を呟いていると、100mほど先に2人が姿を現した。さぁ、ここからが本番だよ。
「行くぜ! 砂藤!」
「おぅよ!」
気合と共にこちらへ突っ込んで来る2人。試しに壁を生やしてみると器用にそれを飛び越えてみせた。なるほど、インラインスケートとは予想外だ。
「だけど…それだけで突破出来るほど、この試験は甘くない」
今度は複数の壁を時間差で生やしていく。流石に今度は対応しきれず、2人は徐々に進路を狭められていく。そして―
「くそっ! 完全に塞がれちまった!」
「切島! 後ろからも壁が! 逃げ道も塞がれちまった!」
前後左右、全ての進路を塞がれた2人は、文字通りの立ち往生に陥った。
「2人とも、聞こえているかな? 戦闘ってのは、いかに自分の得意を押しつけるかだよ。四方を無尽蔵に再生可能な壁に囲まれたこの状況。長期戦が苦手な君達の“個性”に突破出来る術はない。
「「………」」
淡々と事実を告げる俺の声に、2人から返ってくるのは無言。どうしようもない事実を受け入れたようだ。あとはこのまま制限時間が―
「本当に、打つ手なしだと…思いますか?」
「っ!?」
今の声は切島君か!? この2人はこの状況を覆す方法を持っていない筈。なんだ、何をやる気なんだ!?
砂藤side
「やるぜ、切島。覚悟は良いか?」
「当然! 覚悟はいつでも完了してるぜ!」
切島の威勢の良い声に頷いた俺は、左腰のポシェットに収めていた薬包紙を1つ取り出し、封を切って中身を口の中へ注ぎ込む。
ステビアから作られた天然甘味料の粉末。こいつを使えば、“個性”の持続時間を最高で7分まで伸ばす事が出来る。
「じゃあ、いくぜ!」
すぐさま俺は“個性”を発動。全身の力が5倍にまで高められるが、これじゃ
「こいつが『シュガードープ』Lv1、そして次が!」
間髪入れずに“個性”をコントロール。全身の強化ではなく、両腕のみ強化するイメージで力を集中すると、両腕は更に強化され、他の部位は元に戻るというアンバランスな体型になる。
「『シュガードープ』Lv2、
更に“個性”をコントロール。超強化された両腕の感覚を全身に広げていくイメージで、力を広げていく。すると、超強化された両腕に釣り合うバランスで他の部位も強化されていく。
「出来たぜ…『シュガードープ』Lv3、
持続時間の大幅な短縮と引き換えに、全身を超強化する文字通りの短期決戦形態。このパワーなら…いける! そして-
「もっと硬く…固めて、決して倒れぬ壁となる! 名付けて…
俺の
「こっからは時間との勝負だ…速攻でいくぜ!」
「おう!」
俺は顔の前でガードを固めた切島の足を掴むと、高々と持ち上げ―
「うぉぉぉりゃぁぁぁっ!!」
切島自身を棍棒に見立て、目の前の壁を思いっきりぶん殴った! まるで爆発のような音が響き、壁に巨大な凹みとひび割れが出来る。
「もう一丁!」
続けてもう1発。轟音と共に壁が粉々に砕け散り、唖然とした表情のセメントス先生が見えた。
「な、なんて無茶苦茶な…」
呆れた様にそう呟いた直後、我に返ったセメントス先生は慌てて壁の修復を行うが-
「無駄だぁ!」
俺は力任せに切島を振るい、壁を粉々に打ち砕きながら前進していく。
「12倍に強化された俺の力と!」
「限界まで高めた俺の硬さが合わされば!」
「「砕けない物はない!!」」
次々と生えるセメントの壁を打ち砕きながら、ゲートへの前進を続ける俺と切島。そして、ゲートまで30m程になったその時。
「それ以上は…行かせない!」
セメントス先生が俺達を拘束する為に、その“個性”を全開にした。四方八方からセメントが大波のように襲いかかってくる。
「どれほどのパワーがあろうとも、これだけの物量を一度に砕く事はまず不可能! 今度こそ、
セメントス先生の声が響く。たしかに、これ全部を一気に粉砕するのは無理がある。だが、こっちにも打つ手は残ってる!
「砂藤!」
「おぅ! 切島! 飛べぇ!」
次の瞬間、俺は槍投げの要領で切島をゲート目掛けて投げ飛ばした!
「うぉぉぉぉぉっ!!」
気合の雄叫びをあげながら、一直線に飛んでいく切島。途中、セメントの壁が行く手を阻むが、それをあっさりと貫通し、切島はゲートを通過。その先の地面に深々と突き刺さった!
『…切島・砂糖ペア、条件達成だよ』
「やったぜ!」
「よっしゃぁぁぁっ!」
条件達成を知らせるアナウンスを聞いた瞬間、雄叫びをあげる俺と切島。クラスの1番手として、最高のスタートを切る事が出来たぜ!
八百万side
「切島さんと砂藤さんが、クリアなさったみたいですね」
「あぁ、俺達も後に続かないとな」
轟さんとの作戦会議を終えるのとほぼ同時に聞こえたアナウンスで、切島さんと砂藤さんのクリアを知った私は、嬉しさと同時に強い緊張を感じました。
相手はあの相澤先生。出来る限りの策は練ってきましたが、それもどこまで通用するか…轟さんの足を引っ張らないようにしなければ…
少しでも気を抜くと弱い考えに支配されそうです。
「八百万…」
「は、はい!」
「その…上手くは言えないんだが……大丈夫だ。俺なんかより、ずっと頭が良いお前が考えた作戦だから、きっと…大丈夫だ」
自分なりの言葉で、私の緊張を解そうとしてくれる轟さん。ありがとうございます。おかげで、元気が出てきました。
「お、お任せください! 対相澤先生用のオペレーション、必ず成功させてみせますわ!」
「あぁ、頼んだぞ」
この期末試験。必ず合格してみせますわ。この八百万百の名に懸けて!!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
演習試験。第2戦以降の組み合わせは以下のようになります。
第1戦(終了)○切島鋭児郎&砂藤力道vsセメントス×
第2戦 轟焦凍&八百万百vsイレイザーヘッド
第3戦 瀬呂範太&峰田実vsミッドナイト
第4戦 蛙吹梅雨&常闇踏陰vsエクトプラズム
第5戦 飯田天哉&尾白猿夫vsパワーローダー
第6戦 口田甲司&耳郎響香vsプレゼント・マイク
第7戦 障子目蔵&葉隠透vsスナイプ
第8戦 青山優雅&芦戸三奈&麗日お茶子vs13号
第9戦 吸阪雷鳥&緑谷出久vsオールマイト