出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第54話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
八百万side
私達の試験会場となったのは、住宅地ステージ。
相澤先生がご自身の開始地点へと移動する間、私達には僅かですが待ち時間が与えられました。
私はその時間を利用して、試験合格の為の
緑谷さん特製の研究ノートによると、相澤先生の“個性”『抹消』は―
・視た相手の“個性”を一時的に消し去る。厳密には発動を抑制する事が出来る。
・瞬きによって解除され、もう一度視る事で効果が再発動する。
・全ての“個性”を消す事が出来る訳ではなく、効果が発揮するのは『発動型』や『変形型』の“個性”に限られる。
・発動を抑制するという性質上、既に
と、ありました。特に重要なのは4番目。これは即ち、
「可能な限り、装備を整えておかなければ…」
「な、何とか間に合いましたわ…」
試験開始を告げるアナウンスの前に、全装備の創造を終える事が出来ました。
「よくやってくれた。八百万…その、大丈夫か?」
体内の脂質。その8割がたを創造に費やした事で、若干足元がふらつく私を心配してくださる轟さん。
「だ、大丈夫ですわ…こんな時の為に、用意しておいた物もありますので…」
私は轟さんにそう答え、持ち込んでおいたリュックサックから魔法瓶とアルミホイルの包みを取り出しました。
「カロリー補給の軽食を、砂藤さんと吸阪さんが作っておいてくださったんです」
そう言いながら包みを開いてみれば、そこには高級菓子店のそれにも劣らないほど見事なアメリカンサイズのシナモンロール*1が3つ並び。魔法瓶にはよく冷えたチョコレートシェイク*2が入っています。
「お2人とも…感謝いたします。いただきます」
本当は落ち着いた場所でゆっくりと味わいたいのですが、生憎そうもいきません。
私は、お2人への感謝の意味も込めてしっかりと手を合わせ、シナモンロールとチョコレートシェイクを手早く胃の中へと収めていきます。
「ふぅ…3300kcal*3位は補充出来ましたわ」
「そうか…そろそろ時間だ」
『それじゃあ、1-A期末テスト、第2戦。轟・八百万ペア対イレイザーヘッドの試合を始めるよ! スタート30秒前!』
轟さんの声に続くように響き渡るリカバリーガールのアナウンス。
この
「開始まであと2分ってところか…」
時間を確認した俺は、対戦相手である2人について思いを巡らせる。
まずは轟。家庭環境の問題もあり、入学当初は他者を寄せ付けない節が見られたが、1回目の戦闘訓練がきっかけになり、良い意味で変わる事が出来た。
家庭環境にも改善が見られ、精神的な面ではA組で一番の成長株だ。勿論、肉体的、技術的にも申し分ないが、搦め手よりも正面突破を好む傾向がある。
そして、八百万。入学時の評価としては、あらゆる面で万能な反面、戦い方が受け身という印象だったが、こちらも雄英体育祭前辺りから一気に伸びた。
積極的なものに変わった戦い方と“個性”が相まって、何を繰り出してくるか解らない
しかし、まだまだ接近戦での脆さなど付け入る隙はある。
だからこそ、“個性”を消せる俺が近接戦闘で弱みを突く手筈だったが…。
「……切島と砂藤があんな手を使ってくるとは、正直予想外だった」
セメントスが2人を壁で包囲した時点で
だが、結果は条件クリアによる突破。当初の予想は役に立たないと考えた方が良いだろう。
『それじゃあ、1-A期末テスト、第2戦。轟・八百万ペア対イレイザーヘッドの試合を始めるよ! スタート30秒前!』
等と考えていると聞こえてきた
『スタート5秒前! レディィィィィゴォ!!』
開始と同時に俺は近くの電柱、その頂上に跳び乗って周囲の索敵を行う。ゲートを潜るにせよ、俺にカフスを掛けるにせよ、こちらに近づいてくる必要がある。
だからこそ、先に相手を見つけた方が有利になる訳だが…。
「………動きがない…だと?」
5分経っても2人がこちらへ近づいてくる気配がない。どういう事だ?
「2人して、何を企んでいる…」
2人の意図が読めず、ここから移動する事を考え始めたその時、はるか向こうから微かな金属音が聞こえ、
放物線を描きながら、こちらへ飛んでくるそれは…砲弾!?
「ちぃっ!」
咄嗟に近くの電柱に跳び移った数秒後、先程まで俺が立っていた電柱に砲弾が着弾し、中に充填されていたトリモチが周囲へぶちまけられる。
放物線を描いて飛来した砲弾…なるほど、迫撃砲か。
「こちらの攻撃が届かない遠距離から攻撃してくるとは…やってくれる」
迫撃砲を使うというこちらの予想を上回る行動に内心驚いていると、再び微かな金属音と共に4発の砲弾が連続で撃ち出される。
「ッ!」
連続で着弾する砲弾を避ける為に電柱から電線へ跳び移り、電線伝いに前へと進んでいく。
砲弾の軌道から考えて、迫撃砲が設置されているのは、スタート地点のすぐ近くにある4階建てビルの屋上。
いつまでもそこに留まっているとは考え難い。十中八九、ビルの外に出てこちらへ向かっている筈だ。
そうであるなら、問題はルート選択。ゴールへと続くルートは大きく分けて3つある。
最短距離を進めるが、その分見つかりやすい中央ルート。遠回りになるが、隠れる場所も多い右回りルート。そして中央ルートと右回りルートの中間と言える左回りルート。
さて、2人はどのルートを選ぶか…。
「…左回りルートだな」
ある種の核心を持って、左回りルートを選択。現在地点から最短距離を移動していると―
「やはり、な」
2つの人影が角を曲がっていく様子が視界に入った。まだ距離があるせいか、人相までは確認出来なかったが、この会場には俺を含め3人しかいない。第三者の存在を考えるのは、非合理的だ。だが…。
「この短時間で、ビルからあそこまで移動しているとは、どういうトリックだ? いや、今はそれを考えるのは非合理的だ…」
頭の中に浮かんだ疑問を振り払い、俺は2人の移動速度や進行方向等を基にして進路を予測。その行く手を阻む形となるように先回りする。
そして、屋根の上に身を潜めながら、待っていると…。
「あれは…布か?」
2人は俺の“個性”対策なのか、黒い布で全身を覆い、移動していた。たしかに見えなきゃ俺の“個性”は効果を発揮しないが…。
「デメリットの方が大きいだろ。それ」
半ば無意識に漏れる溜息。軽い失望感と共に屋根から跳び下りた俺は、手にした捕縛武器を放ち、2人を一気に拘束した。だが、その直後に聞こえた
ガシャン! とでも表現出来そうな硬質な音。人と人がぶつかった時には絶対に起きる筈のない音。
「まさか!」
捕縛武器を緩め、2人を覆っている黒い布を取り去ると、そこにあったのは…。
「マネキンと台車…そういう事か!」
地面に転がる壊れたマネキンと台車を見て、俺はこのトリックの全貌を察した。
2人はゼンマイ式の駆動装置が付いた台車にマネキンを載せ、それに黒い布を被せて走らせる事で、あたかも2人がこの道を走っているように見せかけたのだ。
「やってくれる…そうなると2人は何処に?」
駆動装置の大きさから考えて、この台車が自走出来る距離は精々200m。だとすると、あの曲がり角の辺りで見た人影は、本物で間違いない。その後にマネキンと台車に入れ替わったと考えるのが自然だ。という事は…。
「2人は、俺が『2人がこのルートを選ぶと予測する事』を
その答えに至ると同時に聞こえる金属音。上を見れば、何かが放物線を描いて、こちらへ飛んでくる。
「迫撃砲の次は、グレネードランチャーか!」
次々と降り注ぐ榴弾からぶちまけられるトリモチを何とか全て回避したのも束の間、今度は大量のゴム弾がばら撒かれる様に撃ち込まれる。
攻撃の放たれた方向を視線を送れば、物陰からサブマシンガンの銃口と長い黒髪が見えた。まったく次から次に…八百万の奴、トリガーハッピーの兆候が見られるぞ。
「ちぃっ!」
咄嗟に屋根へ跳び上がり、ゴム弾の雨から逃れるが―
「降り注げ、
今度は轟の放つ火球が次々と降り注ぐ。建物への被害を抑える為に火力は控えめにしているようだが、こうも面での攻撃を繰り返されると厄介極まりない。
そうしている内に、轟は物陰から飛び出し、八百万が投げた煙幕の援護を受けながら、ゴールの方向へ走り出した。
一方八百万は、轟を先へ進ませる為、援護射撃を行っているが、弾が尽きてきたのだろう。攻撃の密度が薄くなってきた。
「この程度なら!」
今が好機。俺は煙幕の届かない屋根伝いに轟を追いかけ、その“個性”を消しながら、捕縛武器をその左腕に巻きつける。
「見事な作戦だったが、詰めが甘かったな」
そう言いながら地面に降り立った俺は、八百万が救援に入る前に拘束を完全なものにしようと轟に近づくが―
「いいえ、
その声に己の判断ミスを悟る。こいつは
「ちぃっ!」
咄嗟に距離を取ろうとした直後、
直後、乾いた音と共に放たれたゴム弾が右肩に当たり、俺はバランスを崩すと同時に捕縛武器を落としてしまう。そして―
「八百万! 離れろ!」
「やってくれたな…」
俺の右手にカフスを架ける轟、その間も油断無くサブマシンガンの銃口を向ける八百万に対して、悔しさよりも
『…轟・八百万ペア、条件達成だよ』
轟side
相澤先生の全身を覆う氷を溶かしていると―
「1つ聞かせてほしい事がある」
相澤先生が真顔でそう尋ねてきた。八百万に視線を送って回答を任せ、俺は解凍に専念する。
「何でしょうか?」
「最初の迫撃砲による時間差攻撃。あれはどうやった? 人力でやったのでは無い事はわかる」
「人力で行ったのだとすると、攻撃終了からの数分で、俺がお前達を発見したあの地点まで移動していた説明がつかん」
「八百万の“個性”で乗り物を作る可能性も考えたが、その気配もなかった。どういうトリックだ?」
流石は相澤先生だ。そこまで見破っているとはな。粗方解凍を終えた俺は、八百万に再度視線を送り回答を交代する。
「俺の氷を使いました。迫撃砲に砲弾を半分だけ装填して、氷で固定する。時間が経てば、氷が溶けて固定が緩み、砲弾が完全に装填されて発射されます」
「そして、氷の大きさを調節する事で溶ける時間をある程度操作出来ます。だから」
「疑似的な時限発射装置を再現出来るという事か…そして、そうやって稼いだ時間で移動した。見事だ。非の打ち所がない」
そう言って静かに微笑む相澤先生。その笑顔に俺と八百万は静かに頭を下げる。これで
次は瀬呂と峰田か。2人とも頑張ってくれよ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
演習試験の結果は以下のようになっております。
第1戦(終了)○切島鋭児郎&砂藤力道vsセメントス×
第2戦(終了)○轟焦凍&八百万百vsイレイザーヘッド×
第3戦 瀬呂範太&峰田実vsミッドナイト
第4戦 蛙吹梅雨&常闇踏陰vsエクトプラズム
第5戦 飯田天哉&尾白猿夫vsパワーローダー
第6戦 口田甲司&耳郎響香vsプレゼント・マイク
第7戦 障子目蔵&葉隠透vsスナイプ
第8戦 青山優雅&芦戸三奈&麗日お茶子vs13号
第9戦 吸阪雷鳥&緑谷出久vsオールマイト
次回、瀬呂・峰田ペアvsミッドナイト。