出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1   作:SS_TAKERU

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お待たせしました。
第55話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。


第55話:期末試験ー第3戦ー

瀬呂side

 

 俺達の試験会場になったのは、あちこちに無数の岩が転がる荒れ野。

 岩の大きさはかなりのもので、峰田なら立ったまま、俺でも軽く屈めば隠れる事が出来るだろう。

 もっとも…隠れる場所が多いって事は、それだけ視界が悪いって事だし、ミッドナイト先生にも有利に働くって事だ。

 

『…轟・八百万ペア、条件達成だよ』

 

 そんな事を考えていると轟と八百万が試験をクリアした事を伝えるアナウンスが聞こえてきた。

 今のところ、生徒側(おれたち)へ良い流れになってるけど…。

 

「失敗して流れを変える訳には…いかねぇよなぁ……」

 

 俺達がミスれば、その流れが一気に引っくり返るかもしれない。結構なプレッシャーだよ。それなのに…。

 

「お前…少しはプレッシャーとか感じないのかよ?」

 

 隣の峰田は、放送禁止一歩手前なだらしない顔で妄想に耽ってやがる…思わずジト目で睨んじまったけど、この位は許されるよな?

 

「おいおい瀬呂。何言ってんだよ。今更ジタバタしたって意味ないから、オイラはリラックスしてるんだぜ」

 

 だけど、峰田は涼しい顔で―

 

「人事を尽くして天命を待つ。期末試験に向けて、やれる事は全部やってきたんだぜ。あとはQue Sera, Sera(なるようになれ)だよ」

 

 色々と難しい事を言ってきた。なるほど、こいつはこいつなりに考えてたって事か。

 

『それじゃあ、1-A期末テスト、第3戦。瀬呂・峰田ペア対ミッドナイトの試合を始めるよ! スタート30秒前!』

 

 そこへ響くリカバリーガールのアナウンス。俺と峰田は瞬時に思考を切り替え―

 

「峰田、打ち合わせた内容忘れんなよ!」

「ヘッ、オイラに任せとけ!」

 

 互いに突き出した拳を軽くぶつけ合った。

 

 

ミッドナイトside

 

『それじゃあ、1-A期末テスト、第3戦。瀬呂・峰田ペア対ミッドナイトの試合を始めるよ! スタート30秒前!』

 

 リカバリーガールのアナウンスを聞きながら、あたしは自身を戦闘モードに切り替える為に愛用の鞭を振るう。

 音速に達した先端が空気を叩き、破裂音を響かせると、あたしの中の()()()が目を覚ました。

 

『スタート5秒前! レディィィィィゴォ!!』

 

「さぁ、坊や達。()()の始まりよ」

 

 舌なめずりをしながら、改めて試験会場を見回す。無数の岩のおかげで視界はそれほど良くないけど、条件は向こうも同じ。

 いいえ、向こうはクリア条件を満たす為に、こちらへ近づかなくてはならない分、不利と言って良いわね。

 

「あぁ、このまま待っているのも悪くないけど……やっぱり、それじゃいけないわよね」

「待ち構えている目標に向かって、果敢にやって来る子羊を()()()()()()()。そうでないと!」

 

 思わず鼻歌を口遊みそうになるのを必死に堪え、あたしはゲートを背に歩き出す。やがて―

 

「見ぃつけた」

 

 約200m先に見えたのは、岩に隠れながら慎重にこちらへ近づいてくる2つの人影。極力姿を見せないように動いているけど、まだまだ甘いわね。

 

「そんな隠れ方じゃ、見つかっちゃうわよ」 

 

 そう呟きながら、2人との距離を詰めていく。無数にある障害物、時折舞い上がる砂埃、そして周囲を警戒しているという事実から生じる心理的盲点。そして、相手がまだまだ未熟な学生。

 これだけの好条件をプロヒーローに与えたらどうなるか…その答えは―

 

「隙だらけね」

 

 200mの距離を1分足らずで詰める事が出来る。背中を見せていたGRAPEJUICEに、鞭を振るったけど―

 

「峰田! 危ねぇ!」

 

 間一髪、セロファンのテープに助けられたわ。それにしても…()()()()()()()()()()だなんて、私の“個性”対策は万全みたいね。

 

「おいおいおい、こういう時って普通、ゴール前で待ち構えてるもんだぞ! なんで、ミッドナイトが前に出てきてんだよ!」

「落ち着けよ、峰田! 積極的に俺達を仕留めに来た。そういう事だろ!」

 

 泣き言全開なGRAPEJUICEと、比較的冷静なセロファン。見事に反応が分かれたわね。

 

「セロファンの言う通り、時間まで待つのも柄じゃないから仕留めに来たのよ…それに、そうやって、ピーピー喚かれちゃうと、あたし…嗜虐心が疼いちゃって仕方ないの」

 

 敢えて大げさに舌なめずりをしてみれば、面白い程身震いするGRAPEJUICE。セロファンはそんな彼を背後に庇うと―

 

「ゲートを潜るかカフスを掛ける。どっちを選ぶにしても、まずはこの状況を何とかしないとな!」

 

 戦闘服(コスチューム)に仕込んでいたスローイングナイフを3本引き抜き、連続で投げつけてきたわ。

 

「ナイフ投げとは、古風(クラシック)な技能ね!」

 

 2本を避け、残り1本を鞭を振るって叩き落す間に、セロファンはGRAPEJUICEを抱き抱え―

 

「三十六計なんとやらだ!」

 

 テープを少し離れた岩目掛けて射出。岩に貼りついたテープを巻き取る事で、素早く私から距離を取ってみせた。ここまでの立ち回りは合格点ね。それにしても…。

 

「や、やっぱり無理だ! 俺達だけでクリア出来る訳ねぇ…」

 

 GRAPEJUICEの方は、情けないの一言ね……。

 

「簡単に諦めるなよ、峰田。99%無理だとしても、1%の可能性を俺は信じるぜ!」

 

 セロファンはGRAPEJUICEにそう告げると、背中から二振りのグルカナイフを取り出し―

 

「足搔いてやるからな!」

 

 その柄にテープを巻き付けて、勢い良く振り回し始めたわ。なるほど、鎖鎌の要領ね。

 

「おぉりゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

 気合と共に、私へ果敢に向かってくるセロファン。高速で振り回されるグルカナイフは、刃引きが施してあっても侮れない威力。だけど―

 

「まだまだ甘いわね!」

 

 それなりに扱えるとはいえ、まだまだアマチュアの領域。プロの目から見れば、対応出来ないスピードではないわ。

 

「まずは1つ!」

 

 タイミングを合わせて振るった鞭で左側のナイフを叩き落し、残る1本は―

 

「そして2つ」

 

 飛んできた所を、柄を掴んで無力化する。

 

「なかなかだったけど、軌道が正直すぎるわ。プロ相手の実戦で使うには、まだまだ練習不足だったようね」

「予想はしてたけど、こうも早く対応されるのかよ…」

 

 私の言葉に悔しそうな表情を浮かべながら、グルカナイフを捨て、テープを巻き取るセロファン。それを見て―

 

「ひぃぃぃぃっ! も、もう駄目だぁ!」

 

 泣きながら逃げていくGRAPEJUICE。ホント、セロファンは相棒に恵まれなかったわね。

 

「ま、待てよ! 峰田! 1人で動くな!」

 

 呆れた表情の私を警戒しながら、GRAPEJUICEを追いかけるセロファン。残り時間は7分。長引かせるのも可哀そうね。早く終わらせてあげましょう。

 

 

峰田side

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 瀬呂を置いて全速力で逃げた。逃げて、周りで一番大きな岩の陰に滑り込んで、必死で呼吸を整える。

 

「畜生…難易度ハードなんてもんじゃねぇだろ…」

 

 思わず愚痴っていると―

 

「っとぉ!」

 

 瀬呂も同じ岩陰に飛び込んできた。お互い何も言わず、呼吸を整える。やがて―

 

「残り時間4分。かくれんぼはそろそろお終いにしましょうか」

 

 ゾクゾクするような猫撫で声を出しながら、ミッドナイトが近づいてきた。やったぜ、()()()()だ。

 

「あぁ、お終いにしようぜ」

「あら、素直ね。でも、そんな子は大好きよ。さぁ、出ていらっしゃい」

 

 あぁ、出ていくさ。だけど、それは…オイラ達の勝利の為だ!

 

「違えんだよな…瀬呂に1人で戦わせたのも、ピーピー情けなく喚いたのも、ここまで逃げたのも、あんたの嗜虐心煽って、ここまで引っ張り込んだのも!」

「全っっ部! この試験クリアする為なんだよなあ!!」

 

 出せる限りの大声と共に岩陰から一気に飛び出す。チャンスは1回。難易度はベリーハード。だけど、上手くいけば、ぜってぇクリア出来る!

 

「全てが()()()って事? いいよ、させたげない!」

「っくぅ!」

 

 ミッドナイトの振るう鞭を横っ跳びで避け―

 

「いっくぜぇ!」 

 

 この辺り一帯に予め山ほど仕掛けて、砂でカモフラージュしておいたもぎもぎに跳び乗る! もぎもぎは、オイラが触ればブニブニ撥ねる性質だから、それをバネ代わりにして、ジャンプ!

 

「うぁぁぁぁぁっ!」

 

 ジャンプした先にあるもぎもぎを使って更にジャンプ! こいつを繰り返していく内に、スピードは残像が見えるほどに増していき、ミッドナイトをその場に釘付けにしていく!

 

「まさか、こんな手を考えていたなんて!」

 

 驚きの声を上げるミッドナイト。そうだよ、吸阪や緑谷、八百万、飯田、轟、あいつらに作戦考えてもらって、自分なりに必死で努力したんだ。驚いてくれなきゃ困るんだよ!

 

「そして最後は!」

 

 自分の限界ギリギリまで加速したところで、最後の仕上げだ!

 

「必殺! もぎもぎ飽和攻撃(サーチュレイションアタック)!!」 

 

 中心のミッドナイトに向けて、もぎもぎを投げまくる! 全方位から飛んでくるもぎもぎ、避けられるもんなら避けてみやがれ!

 

「…すごいじゃん」

 

 攻撃を終えて着地すると、ミッドナイトは体のあちこちにもぎもぎがくっついて、動けなくなってた。

 そこへ瀬呂が素早くカフスを掛けて…

 

『…瀬呂・峰田ペア、条件達成だよ』

 

 条件クリア! やったぜ!

 

 

瀬呂side

 

「じゃあ、そういう訳だから瀬呂君。バスまで私をおぶって行きなさい!」

 

 試験終了後。全身にくっついたもぎもぎから自由になる為にブーツを脱ぎ、全身の極薄タイツを躊躇いなく破いたミッドナイト先生は、俺にビシィッ! と右手の人差し指を突きつけ、そう命令してきた。

 

「お、おぶって行くんですか?」

「そうよ。私はここにブーツを置いていくし、峰田君じゃ私をおぶって行く事は出来ないんだから…まさか、入り口まで裸足で歩いて行けなんて言わないわよね?」

「い、いや、それは…」

「ふーん、それでもいいわよ。でも、こんな所を裸足で歩いたら、私の足、傷だらけになっちゃうわね…あぁ、傷が酷くて仕事にならなかったら、どうしましょう?」

 

 悪魔のような笑みを浮かべながら、俺の反応を楽しんでいるミッドナイト先生。

 さっきまで露出度が増したミッドナイト先生を見て、鼻息も荒く興奮していた峰田は峰田で、俺を射殺さんばかりの視線を送っているし…。

 

「わかりました! わかりましたよ!」

 

 だけど、俺に拒否権はない。ミッドナイト先生を背負い、入口へ向けて歩き出した。やれやれ、試験クリアの喜びを感じる暇もありゃしないよ…。

 だけど………後頭部に当たるミッドナイト先生の胸。その感触は……最高だった。 




最後までお読みいただき、ありがとうございました。
演習試験の結果は以下のようになっております。

第1戦(終了)○切島鋭児郎&砂藤力道vsセメントス×
第2戦(終了)○轟焦凍&八百万百vsイレイザーヘッド×
第3戦(終了)○瀬呂範太&峰田実vsミッドナイト×
第4戦    蛙吹梅雨&常闇踏陰vsエクトプラズム
第5戦    飯田天哉&尾白猿夫vsパワーローダー
第6戦    口田甲司&耳郎響香vsプレゼント・マイク
第7戦    障子目蔵&葉隠透vsスナイプ
第8戦    青山優雅&芦戸三奈&麗日お茶子vs13号
第9戦    吸阪雷鳥&緑谷出久vsオールマイト

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