出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第57話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
雷鳥side
『…蛙吹・常闇ペア、条件達成だよ』
リカバリーガールのアナウンスがモニタールームに響いた直後、生徒達からは歓声が、教師陣からはどよめきが聞こえてくる。
これで
「次の試合は飯田と尾白。相手はパワーローダー先生か」
問題は次の試合だ。何しろ原作では結果だけが描かれて、過程が飛ばされていたからな。前世の記憶、その恩恵が受けられない。
故に、今回ばかりは出久お手製の資料に頼りっきりだ。この資料がなかったら、パワーローダー先生の“個性”が『鉄爪』だって事すら解らなかったかもしれない。
正直な話、考案した作戦も多分に2人の実力任せ。綱渡りみたいな物だ。
「頑張ってくれよ…飯田、尾白」
だが、ここまで来た以上、俺に出来るのは2人の合格を祈る事だけ。2人とも…信じているぜ。
尾白side
俺と委員長の試験会場は、所々に重機が置かれた広大な採石場を模したもの。足元は……9割がた土か。
「パワーローダー先生の“個性”にうってつけだな…」
「あぁ、環境と“個性”の相性は、先生側に分があると言って良いだろう。となると…」
「あぁ…十中八九、吸阪と緑谷の予想が的中したって事だよ」
ステージの環境を確認し、委員長と意見を共有する。一見何の変哲も無いように見えるステージだけど…事前にパワーローダー先生が
『それじゃあ、1-A期末テスト、第5戦。飯田・尾白ペア対パワーローダーの試合を始めるよ! スタート30秒前!』
そこへ響くリカバリーガールのアナウンス。俺と委員長は互いに頷き、戦闘態勢に入る。
『スタート5秒前! レディィィィィゴォ!!』
スタート開始と同時に、ゴール付近から巨大な土煙が立ち上った。パワーローダー先生が早速地中に潜ったか!
「尾白君!」
「わかっている! まずは近くの
委員長の声に答えながら俺は、尻尾を使って足元に転がっていたサッカボール大の石を前方へと投げ飛ばした。
飛ばされた石が地面に落ちると、その衝撃で近くに仕掛けられていた
「落とし穴…古典的だけど、空を飛べない俺達には十分に有効…それにあの深さ、一度落ちたら這い出るまでに相当な時間をロスする!」
「しかもあの数…避けながら進むとしても、相当な時間を要する。パワーローダー先生がどこから襲ってくるかもわからない今、無駄な時間をかけるのは得策ではない」
「そうだね……でも、委員長。
「…あぁ!」
「だったら決まりだ。作戦通りにいこう!」
吸阪達が考えてくれた作戦を実行する。その覚悟を決めた俺は、頷きながら委員長へ右拳を突き出した。
「…尾白君。武運を!」
委員長も右拳を突き出し、俺達は軽く拳を突き合わせる。そして、互いの役割を果たす為に動き出した!
パワーローダーside
「クケケ…この落とし穴だらけのフィールドをどう突破する?」
専用の獣型パワードスーツに搭乗し、自らの鉄爪とパワードスーツのアームで地下を高速で掘り進みながら、俺は不敵に呟く。
“個性”『エンジン』の飯田天哉と“個性”『尻尾』の尾白猿夫。どちらも癖のない正統派の戦い方が持ち味だが、それ故に搦め手に弱い。
だからこそ、担当に選ばれた俺はフィールド上に落とし穴を掘りまくった! 試験前日に半日がかりだぜ!
「落とし穴を避けようとモタモタしていれば、俺が地中からバクリ! クケケ…考える時間は与えねぇ!」
そうしている内に、地上から振動が伝わってきた。地中に潜っている間は、地上の様子を視覚では確認出来ねぇ。
だから、こうやって地上から伝わる振動で目標を探知する訳だが…振動の大きさから考えて、仕掛けておいた
しかも、その振動は1度じゃなく複数回…徐々にこちらへ近づいて来ている。
「クケケ! そうでないとな!」
全力で地中を掘り進みながら、複数回感知した振動の
丁度、生徒達の真下から飛び出せる位置に陣取り…タイミングを計って一気に地上へ飛び出す!
「それ以上は行かせねぇよ! って、いない!?」
だが、飛び出した地上には、
「ッ!」
そんな疑問を感じたのも束の間。頭上から
突然の事に回避が間に合わず、パワードスーツに被さる網。パワードスーツの出力なら、ものの数秒で引き千切る事が出来るが、それでも一瞬の隙は出来る。
「委員長! 今だ!」
「飯田天哉、吶喊する! うぉぉぉぉぉっ!!」
その隙を突くように
だとすると、網を投げつけてきたのは―
「俺が相手だぁ!」
思考の答えが導き出されるよりも早く向かって来たのは…尾白猿夫!
「なるほど! 囮役って訳か!」
パワードスーツの出力を上げ、絡みつく網を一気に引き千切り、尾白の攻撃を受け止める。その手に持っているのはトンファーか!
「はぁぁぁっ!」
「クケケ! 自身を囮にして、足の速い飯田をフリーにさせる。作戦としては悪くねぇ!」
尾白が仕掛けてきた両手のトンファーを用いた怒涛の
たしかに悪くない作戦だ。あの速度なら
「クケケ! 俺が落とし穴しか用意していないと思ったのが、お前達の敗因だよ!」
意地の悪い笑みを浮かべながら、俺は隠し持っていたリモコンを操作。ゴール付近に仕掛けておいた
飯田side
「委員長! 今だ!」
「飯田天哉、吶喊する! うぉぉぉぉぉっ!!」
尾白君の声に答えるように気合の声をあげながら、僕は一気にゴール目掛けて疾走する。
途中幾つもの落とし穴を通過するが、崩れるよりも早く駆け抜ければ、問題はない!
そして、ゴールまで残り約300mまで来たところで、ゴール周辺で変化が起きた。
岩に偽装されていた
「いかん!」
半ば反射で回避行動を取り、雨のように降り注ぐゴム弾やミサイルを避けていく。だが、これではゴールに近づく事が出来ない!
こうなったら…未完成の
尾白side
「委員長!」
パワーローダー先生の反撃を紙一重で避けながら、弾幕に曝される委員長に声をかけると―
「心配無用だ! 自力で対処してみせる! 尾白君は
力強い答えが返ってきた。わかったよ、委員長。正直、まだ未完成だけど…
覚悟を決めた俺は一旦パワーローダー先生から距離を取り、懐に隠していた物を自分の尻尾、その先端に取り付けた。
「槍の…穂先だと? そんな物で何をする気だ?」
「こうするんですよ!」
疑問の声に答える為、俺は再びパワーローダー先生に接近し―
「テールスピア!」
尻尾の先端をパワーローダー先生に向けると同時に、一気に伸ばした!
「なにっ!?」
こんな攻撃を仕掛けてくるとは予想していなかったのか、反応が遅れたパワーローダー先生。パワードスーツの腕で防御こそ出来たが、深々と槍が突き刺さる。
「くぅっ…」
伸ばした尻尾を縮めながら、痛みに顔を顰める。効果があったのは嬉しいけど…瞬間的に尻尾の全関節を外して伸ばすから、痛みが発生するのが欠点だな…我慢出来る範囲ではあるけど。
「まさかそんな攻撃を隠していたとはな…」
「試験合格の為に、切り札の1つや2つは、用意しておくものですよね!」
そう言いながら、俺はパワーローダー先生に飛びかかる!
「テールスピア…3連突き!」
両手のトンファーと尻尾の槍。3つの武器で総動員して、パワーローダー先生へ攻撃を仕掛ける。委員長、パワーローダー先生は意地でもここで抑え込む! あとの事は任せた!
飯田side
「頼むぞ! 尾白君!」
パワーローダー先生へ猛然と
「レシプロターボ!」
発動と同時に、レシプロバースト発動時を超える超スピードで走り出す。未だ訓練を始めて間もない為、細かいコントロールは殆ど出来ず、使える時間も精々30秒。だが、この状況なら―
「30秒あれば十分!」
そう、このスピードなら機関砲は狙いが定まらず、使い物にならない。そしてミサイルは―
「最高速度に達する前なら!」
推進方法の関係上、最高速度に達するまで一定の時間が必要な為、易々と回避出来る。迎撃が無くなった事で、僕は最短距離を駆け抜ける事が出来―
『…飯田・尾白ペア、条件達成だよ』
無事にゲートを潜る事が出来た。
パワーローダーside
「クケケ…まんまとやられちまったか」
リカバリーガールのアナウンスを聞きながら、心の中に浮かぶのは悔しさよりも2人への称賛。
一度は王手をかけたと思ったんだがな…まさか、こうもあっさり突破されるとは思わなかったぜ。
「しかし、これで5連敗……そろそろケツに火がついてきたか?」
生徒の成長は教師の喜びではあるが、こうも予想を上回られてばかりだと、教師の沽券って物が少々ヤバい。
「…次はプレゼント・マイク。大丈夫だろう」
次の試合の担当であるプレゼント・マイクの能力と実績なら心配ない筈だが…嫌な予感って奴がどうも拭えねぇ…。
「まぁ、なるようになるか」
先の事を考えても仕方ねぇ。俺は穴ぼこだらけになった試験会場の修復を優先する為、考えるのをやめた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
演習試験の結果は以下のようになっております。
第1戦(終了)○切島鋭児郎&砂藤力道vsセメントス×
第2戦(終了)○轟焦凍&八百万百vsイレイザーヘッド×
第3戦(終了)○瀬呂範太&峰田実vsミッドナイト×
第4戦(終了)○蛙吹梅雨&常闇踏陰vsエクトプラズム×
第5戦(終了)○飯田天哉&尾白猿夫vsパワーローダー×
第6戦 口田甲司&耳郎響香vsプレゼント・マイク
第7戦 障子目蔵&葉隠透vsスナイプ
第8戦 青山優雅&芦戸三奈&麗日お茶子vs13号
第9戦 吸阪雷鳥&緑谷出久vsオールマイト
また、皆様のお陰をもちまして、拙作『出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。』のUAが30万、お気に入りが1900件を突破しました。
皆様の期待に少しでも応えられるよう、これからも頑張ってまいります。