出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第58話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
プレゼント・マイクside
『…飯田・尾白ペア、条件達成だよ』
「おいおいおい…マジかよ」
「こりゃぁ、試験の後は
そう呟きながら、根津校長とリカバリーガールの2人からお説教を受ける光景を想像して…思わず背中に冷たい物が走った。
「イレイザー達には悪いが…俺は参加しないぜ」
そう、そうだよ。俺が連敗を止めれば良い。シンプルな話だ。何より―
「俺の“個性”は、ちょぉぉぉぉぉぉぉぉう! 格上!」
俺の“個性”なら、口田甲司の“個性”『生き物ボイス』は完封出来るし、耳郎響香の“個性”『イヤホンジャック』に対しては、圧倒的な出力差がある。
真正面から叩き潰すには、打って付けの相手だ。
「ぃやぁぁぁぁぁってやるぜっ!」
リスナー達! この試合、勝つのは俺だぜ!
耳郎side
「もうすぐ試験開始。口田…準備は?」
「大丈夫。準備万端」
ウチの問いかけにそう答える口田。“個性”の関係で発達したウチの聴力で、辛うじて聞き取れるくらい小さな声だけど、これでも少し前より格段に大きくなってる。
「流れは今、ウチ達の方にある。相手は格上だけど…勝ちにいこう」
「うん、全力を尽くすよ」
『それじゃあ、1-A期末テスト、第6戦。口田・耳郎ペア対プレゼント・マイクの試合を始めるよ! スタート30秒前!』
そこへ響くリカバリーガールのアナウンス。ウチと口田は互いに頷き、戦闘態勢に入る。そして―
『スタート5秒前! レディィィィィゴォ!!』
「Yeaaaaaaah!!」
スタートと同時に聞こえてくる大音量の叫び声!
「くっ! ゴールから500m以上離れてるのに、この音量!?」
ウチの声とほぼ同時に、森で暮らす動物達が少しでもこの大音量から逃れようと走り去り、周りの木々に留まっていた鳥達は一斉に空へと逃げ出していく。
耳を手で塞いでも意味が無い程の大音量に、ウチは心の中でプレゼント・マイク先生への過小評価を取り消した。
悔しいけど、今のウチが出せる
「だけど…」
“個性”で力負けしているからって、それが即敗北に繋がる訳じゃない。
「こんな所で…止まっている訳にはいかない!」
ウチには、何が何でも叶えたい目的がある。
-おぉ、その反応…なるほどなるほど。うん、おめでとう! 麗日!-
-おめでとう!-
-そっか、緑谷とか…うん、おめでとう、麗日-
あの食事会の日。緑谷と麗日が恋人同士になったと知って、ウチは…麗日を祝福しながら、心の奥で密かに嫉妬した。
でも、それ以上に…自分の意気地無さが、心底情けなくなった!
-あのさ、緑谷…助けてくれたのは嬉しいんだけど…降ろしてくれない?-
-…あぁ! ご、ごご、ごめんなさい!-
初めての戦闘訓練で、轟の凍結から助けてくれたあの時から…本当は緑谷の事が好きだった。
だけど、ウチは…その想いを口や態度にハッキリ出す事をしなかった。
怖かったんだ。緑谷から拒絶される事が…緑谷はそんな奴じゃないと頭では解っていても、想いを口にする事が出来なかった。
想いが報われない位なら、クラスメートとして仲良くやっていた方が良い。
そんな屁理屈で自分を誤魔化して、その結果が………ウチは戦う前から負けていたんだ!
「もう…あんな無様は晒さない為にも!」
食事会から帰った後、ウチは泣けるだけ泣いて…決心した。
緑谷の恋人になれないなら、同じヒーローとして、緑谷が信頼してくれる位強くなろうって!
「壁は乗り越えていく! 口田! 作戦通りに頼むよ!」
口田side
「壁は乗り越えていく! 口田! 作戦通りに頼むよ!」
耳郎さんの声に頷き、僕は近くの樹へ向けて歩き出す。
プレゼント・マイク先生の大声で、数分前まで木に留まっていた鳥達は皆飛び去ってしまっている。
少し前までの僕なら、どうする事も出来ず、お手上げ状態だっただろう。だけど、今の僕は違う。
「…見つけた」
目指した樹には大きな洞が出来ていて、その中には巨大な蜂の巣が出来ていた。この巣の主、それは―
「我に従いなさい。黄色と黒に彩られし、空飛ぶ者達。騒音の元凶たるその男、討ち取る為に力を尽くすのです」
プレゼント・マイクside
「何処にいるのかなぁぁぁぁぁっ!!」
リスナー達が潜んでいる森に向かって、何度目かになるシャウトを放ってみたが…どうも反応が鈍い。
「何かを企んでいる? いやいや、片や“個性”が完封。片や完全力負け。そんな状態で何を企めるって…」
そこまで口にしたところで、俺は声を失った。
何故って? 森の中から大雀蜂が! 群れを成して! 飛び出して来たからだよ!
「畜生! これだから
明らかに俺を狙って飛んでくる大雀蜂の群れ。俺のシャウトが大雀蜂を刺激した? それとも、口田甲司の“個性”が、昆虫にも通用するものだった?
クソッ! 判断するには、情報も時間も少な過ぎるぜ!
「仕方ねぇ! 迎え撃つま…で…」
覚悟を決め、大雀蜂の群れに向けてシャウトを放とうとしたその時、俺は再度声を失った。
森からこちらへ向かってくる
大雀蜂の様に空は飛んでいない。だが…蟻、団子虫、蜘蛛、百足、
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
悲鳴をあげながら、俺はその場を離れた。
逃げたんじゃない。これはあくまでも、態勢を整える為の戦術的撤退だ!
雷鳥side
「口田君…凄い!」
試験会場のあちこちに設置されたカメラによって、モニターへ映し出される光景に声をあげる出久。
たしかに、自身の周りに従えた100匹以上の大雀蜂を、プレゼント・マイク先生に差し向ける口田の姿は、なかなか壮観だ。
「大の虫嫌いから、あそこまで持っていくのに、苦労したんだぜ」
「え…口田君、虫嫌いだったの!?」
信じられないという顔の出久。試験会場から戻ってきた切島や轟達*1も程度の差はあれ、同じような顔をしているな。ただ1人、
「ほら、勉強会が終わった後の演習試験対策の時、俺と口田が少しだけ席を外しただろ? あの時にこっそり聞き出したんだよ」
「あ、あの時!」
「口田と耳郎がペアを組み、その相手がプレゼント・マイク先生になる事は、ほぼ確実と言って良いほど可能性が高かったからな。その点を考慮して、手を打った訳だ」
「そうか! 昆虫の聴覚は人間や動物のそれとは異なる。だから、プレゼント・マイク先生の“個性”『ヴォイス』を使っての攻撃が効きにくい。試験での切り札になる事を狙ったんだね? 雷鳥兄ちゃん」
「
「吸坂………どんな方法使ったんだ?」
と、ここで轟が恐る恐る克服方法を訪ねてきた。まぁ、秘密にするような事じゃないから話すとするか。
「簡単だよ。
「…む、虫を…か?」
「おいおい、知らないのか? 食用の虫って、結構多いんだぜ。八百万は知ってるよな?」
「えぇ、以前家族でオーストラリアへ旅行に行った際、アボリジニ文化を知る一環としてミツツボアリや、ウィッチティ・グラブ*2の蒸し焼きを食べた事がありますし、昆虫とは少し違いますがエスカルゴもよく食卓に上がりますわ」
………流石は資産家令嬢。予想以上に食べてたな。
「まぁ…そういう訳で、世界的に見れば虫を食べる文化は結構あるって事だ。日本でも、群馬県や長野県なんかで伝統的に食べられている。話を戻すぞ」
「虫への恐怖心を克服する為に、昆虫を料理して食べさせたんだよ。砂藤にも協力してもらってな」
「昆虫を使ってスイーツ作ってくれ。なんて頼まれた時は、流石に驚いたけどな」
そう言って苦笑する砂藤。たしかに、いきなり無茶振りした事は悪いと思っている。
「でも、吸阪から渡されたイナゴパウダー*3が、抹茶みたいな風味だったからな。抹茶や小豆と混ぜて、パウンドケーキにしたら、結構美味くなったぜ」
だが、その無茶振りに見事答えてくれたのは、流石だよ。
「俺の方はもっとストレートだな。蝗の佃煮とか蜂の子のバター醤油炒め、あとは…雀蜂の素揚げにエスカルゴ」
「……口田君の反応は?」
「もちろん、最初は悲鳴上げてたさ。だけどな。時間をかけて説得したよ。せっかく憧れの雄英に入ったんだから、前進しよう! 恐怖を乗り越えていこうぜ! ってな。口田の奴、勇気を出して食べてくれたよ」
味が気に入ったのか、用意した分を全部平らげたのは予想外だったけどな!
「今の口田は虫嫌いを克服し、生まれ変わった。その力を存分に見せつけてやれ!」
大雀蜂の群れに続き、蜘蛛や百足など地を這う虫達の群れをプレゼント・マイク先生の元へ差し向けた口田を見ながら、俺は叫んだ。
………まぁ、プレゼント・マイク先生に対しては…御愁傷様です。
プレゼント・マイクside
「冗談じゃねぇぇぇぇぇっ!!」
上を見れば大雀蜂の群れ、下を見れば地を這う虫達の大群。こんな状況で逃げ出さずにいれるか?
そんな事を考えながら、これまでの人生で
「ん?」
森の方向から口田甲司が姿を現した。なんだ、勝利を確信して、姿を見せたってか?
「流石に…舐め過ぎだ!」
怒りのシャウトを放とうとしたその時―
「ッ!」
俺の至近を、何かが
「畜生!」
再び走りながら、思わず叫ぶ。"個性”に気を取られて忘れていたが、口田甲司の肉体は相当なものだ。そのパワーを活かしての投石は、まさに脅威!
「俺だけ難易度Very Hard通り越して、Nightmareだろぉ!」
虫の群れと投石に追い立てられ、散々走り回される。そして残り時間が10分を切ろうとしたその時―
「今度はお前か! 耳郎饗香!」
進行方向上に耳郎響香が姿を現した。その耳たぶから伸びるコードは、既に
「この距離なら!」
間髪入れず放たれる指向性衝撃波。くそっ、いつもなら
「まだまだ! 俺を倒すにはボリューム不足だぜ!」
だが、倒れるわけにはいかねぇ。
気合いを入れ直して、足を踏ん張り、反撃を試みるが…。
「
耳郎響香が振り回し、こっちへ投げつけた物の正体が、ボーラであると悟った時、俺の勝ち目は消えた。
耳郎side
投げつけたボーラで、プレゼント・マイク先生の両足を封じ、転倒させたところで、一気に接近。
両耳のプラグをいつでも突き刺せる状態にした上で、デステゴロさんに習った通りに腕を取り、ハンマーロックを仕掛ける。
「痛ぇぇぇっ! 」
「口田! ウチが抑えている間にカフスを!」
すぐさま口田も駆け寄り、プレゼント・マイク先生にカフスを掛ける。
『…口田・耳郎ペア、条件達成だよ』
「やった…」
リカバリーガールのアナウンスが聞こえ、ようやく張りつめていた物が緩んだ気がした。
緑谷に信頼してもらえる位強いヒーロー。それには、まだまだ遠いけど…1歩くらいは近づけたと思う。
「緑谷…ウチ、頑張るから」
誰にも聞こえないくらい小さな声で呟きながら、空を見上げる。
雲ひとつない青空が…なんだか、いつもより眩しく感じた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
演習試験の結果は以下のようになっております。
第1戦(終了)○切島鋭児郎&砂藤力道vsセメントス×
第2戦(終了)○轟焦凍&八百万百vsイレイザーヘッド×
第3戦(終了)○瀬呂範太&峰田実vsミッドナイト×
第4戦(終了)○蛙吹梅雨&常闇踏陰vsエクトプラズム×
第5戦(終了)○飯田天哉&尾白猿夫vsパワーローダー×
第6戦(終了)○口田甲司&耳郎響香vsプレゼント・マイク×
第7戦 障子目蔵&葉隠透vsスナイプ
第8戦 青山優雅&芦戸三奈&麗日お茶子vs13号
第9戦 吸阪雷鳥&緑谷出久vsオールマイト