出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1   作:SS_TAKERU

71 / 120
お待たせしました。
第58話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。


第58話:期末試験ー第6戦ー

プレゼント・マイクside

 

『…飯田・尾白ペア、条件達成だよ』

 

「おいおいおい…マジかよ」

 

 試験会場(森林ステージ)で準備を整えているところに聞こえてきた、リカバリーガールからのアナウンス。

 教師陣(おれたち)の5連敗を伝えるその内容に、思わず天を仰ぐ。

 

「こりゃぁ、試験の後は大反省会(・・・・)かねぇ…2時間や3時間で済めばいいけど…」

 

 そう呟きながら、根津校長とリカバリーガールの2人からお説教を受ける光景を想像して…思わず背中に冷たい物が走った。

 

「イレイザー達には悪いが…俺は参加しないぜ」

 

 そう、そうだよ。俺が連敗を止めれば良い。シンプルな話だ。何より―

 

「俺の“個性”は、ちょぉぉぉぉぉぉぉぉう! 格上!」

 

 俺の“個性”なら、口田甲司の“個性”『生き物ボイス』は完封出来るし、耳郎響香の“個性”『イヤホンジャック』に対しては、圧倒的な出力差がある。

 真正面から叩き潰すには、打って付けの相手だ。

 

「ぃやぁぁぁぁぁってやるぜっ!」

 

 咆哮(こえ)を上げて、自らに気合を入れ直す。

 リスナー達! この試合、勝つのは俺だぜ!

 

 

耳郎side

 

「もうすぐ試験開始。口田…準備は?」

「大丈夫。準備万端」

 

 ウチの問いかけにそう答える口田。“個性”の関係で発達したウチの聴力で、辛うじて聞き取れるくらい小さな声だけど、これでも少し前より格段に大きくなってる。 

 

「流れは今、ウチ達の方にある。相手は格上だけど…勝ちにいこう」

「うん、全力を尽くすよ」

 

『それじゃあ、1-A期末テスト、第6戦。口田・耳郎ペア対プレゼント・マイクの試合を始めるよ! スタート30秒前!』

 

 そこへ響くリカバリーガールのアナウンス。ウチと口田は互いに頷き、戦闘態勢に入る。そして― 

 

『スタート5秒前! レディィィィィゴォ!!』

 

「Yeaaaaaaah!!」

 

 スタートと同時に聞こえてくる大音量の叫び声!

 

「くっ! ゴールから500m以上離れてるのに、この音量!?」

 

 ウチの声とほぼ同時に、森で暮らす動物達が少しでもこの大音量から逃れようと走り去り、周りの木々に留まっていた鳥達は一斉に空へと逃げ出していく。

 耳を手で塞いでも意味が無い程の大音量に、ウチは心の中でプレゼント・マイク先生への過小評価を取り消した。

 悔しいけど、今のウチが出せる衝撃波(おと)じゃ、とても太刀打ち出来ない!  

 

「だけど…」

 

 “個性”で力負けしているからって、それが即敗北に繋がる訳じゃない。

 

「こんな所で…止まっている訳にはいかない!」

 

 ウチには、何が何でも叶えたい目的がある。  

 

 -おぉ、その反応…なるほどなるほど。うん、おめでとう! 麗日!-

 -おめでとう!-

 -そっか、緑谷とか…うん、おめでとう、麗日-

 

 あの食事会の日。緑谷と麗日が恋人同士になったと知って、ウチは…麗日を祝福しながら、心の奥で密かに嫉妬した。

 でも、それ以上に…自分の意気地無さが、心底情けなくなった!

 

 -あのさ、緑谷…助けてくれたのは嬉しいんだけど…降ろしてくれない?-

 -…あぁ! ご、ごご、ごめんなさい!-

 

 初めての戦闘訓練で、轟の凍結から助けてくれたあの時から…本当は緑谷の事が好きだった。

 だけど、ウチは…その想いを口や態度にハッキリ出す事をしなかった。

 怖かったんだ。緑谷から拒絶される事が…緑谷はそんな奴じゃないと頭では解っていても、想いを口にする事が出来なかった。

 想いが報われない位なら、クラスメートとして仲良くやっていた方が良い。

 そんな屁理屈で自分を誤魔化して、その結果が………ウチは戦う前から負けていたんだ!

 

「もう…あんな無様は晒さない為にも!」

 

 食事会から帰った後、ウチは泣けるだけ泣いて…決心した。

 緑谷の恋人になれないなら、同じヒーローとして、緑谷が信頼してくれる位強くなろうって!

 

「壁は乗り越えていく! 口田! 作戦通りに頼むよ!」

 

 

口田side

 

「壁は乗り越えていく! 口田! 作戦通りに頼むよ!」

 

 耳郎さんの声に頷き、僕は近くの樹へ向けて歩き出す。

 プレゼント・マイク先生の大声で、数分前まで木に留まっていた鳥達は皆飛び去ってしまっている。

 少し前までの僕なら、どうする事も出来ず、お手上げ状態だっただろう。だけど、今の僕は違う。

 

「…見つけた」

 

 目指した樹には大きな洞が出来ていて、その中には巨大な蜂の巣が出来ていた。この巣の主、それは― 

 

「我に従いなさい。黄色と黒に彩られし、空飛ぶ者達。騒音の元凶たるその男、討ち取る為に力を尽くすのです」

 

 蜂類世界最強(・・・・・・)。日本原産。『大雀蜂(オオスズメバチ)』。

 

 

プレゼント・マイクside

 

「何処にいるのかなぁぁぁぁぁっ!!」

 

 リスナー達が潜んでいる森に向かって、何度目かになるシャウトを放ってみたが…どうも反応が鈍い。

 

「何かを企んでいる? いやいや、片や“個性”が完封。片や完全力負け。そんな状態で何を企めるって…」

 

 そこまで口にしたところで、俺は声を失った。

 何故って? 森の中から大雀蜂が! 群れを成して! 飛び出して来たからだよ!

 

「畜生! これだから森林ステージ(こんなところ)は、嫌なんだ!」

 

 明らかに俺を狙って飛んでくる大雀蜂の群れ。俺のシャウトが大雀蜂を刺激した? それとも、口田甲司の“個性”が、昆虫にも通用するものだった?

 クソッ! 判断するには、情報も時間も少な過ぎるぜ!

 

「仕方ねぇ! 迎え撃つま…で…」

 

 覚悟を決め、大雀蜂の群れに向けてシャウトを放とうとしたその時、俺は再度声を失った。

 森からこちらへ向かってくる新たな群れ(・・・・・)

 大雀蜂の様に空は飛んでいない。だが…蟻、団子虫、蜘蛛、百足、馬陸(ヤスデ)蚰蜒(ゲジ)…無数の虫が、まるで黒い絨毯のように密集して蠢いている。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 悲鳴をあげながら、俺はその場を離れた。

 逃げたんじゃない。これはあくまでも、態勢を整える為の戦術的撤退だ!

 

 

雷鳥side

 

「口田君…凄い!」 

 

 試験会場のあちこちに設置されたカメラによって、モニターへ映し出される光景に声をあげる出久。

 たしかに、自身の周りに従えた100匹以上の大雀蜂を、プレゼント・マイク先生に差し向ける口田の姿は、なかなか壮観だ。

 

「大の虫嫌いから、あそこまで持っていくのに、苦労したんだぜ」

「え…口田君、虫嫌いだったの!?」

 

 信じられないという顔の出久。試験会場から戻ってきた切島や轟達*1も程度の差はあれ、同じような顔をしているな。ただ1人、砂藤を除いて(・・・・・・)

 

「ほら、勉強会が終わった後の演習試験対策の時、俺と口田が少しだけ席を外しただろ? あの時にこっそり聞き出したんだよ」

「あ、あの時!」

「口田と耳郎がペアを組み、その相手がプレゼント・マイク先生になる事は、ほぼ確実と言って良いほど可能性が高かったからな。その点を考慮して、手を打った訳だ」

「そうか! 昆虫の聴覚は人間や動物のそれとは異なる。だから、プレゼント・マイク先生の“個性”『ヴォイス』を使っての攻撃が効きにくい。試験での切り札になる事を狙ったんだね? 雷鳥兄ちゃん」

Exactly(そのとおり)。まぁ、口田の虫嫌いのレベルは、かなりの物だったから…克服訓練は少々スパルタ(・・・・・・)だったけどな」

「吸坂………どんな方法使ったんだ?」

 

 と、ここで轟が恐る恐る克服方法を訪ねてきた。まぁ、秘密にするような事じゃないから話すとするか。

 

「簡単だよ。喰ってもらった(・・・・・・・)」 

「…む、虫を…か?」

「おいおい、知らないのか? 食用の虫って、結構多いんだぜ。八百万は知ってるよな?」

「えぇ、以前家族でオーストラリアへ旅行に行った際、アボリジニ文化を知る一環としてミツツボアリや、ウィッチティ・グラブ*2の蒸し焼きを食べた事がありますし、昆虫とは少し違いますがエスカルゴもよく食卓に上がりますわ」

 

 ………流石は資産家令嬢。予想以上に食べてたな。

 

「まぁ…そういう訳で、世界的に見れば虫を食べる文化は結構あるって事だ。日本でも、群馬県や長野県なんかで伝統的に食べられている。話を戻すぞ」

「虫への恐怖心を克服する為に、昆虫を料理して食べさせたんだよ。砂藤にも協力してもらってな」

「昆虫を使ってスイーツ作ってくれ。なんて頼まれた時は、流石に驚いたけどな」

 

 そう言って苦笑する砂藤。たしかに、いきなり無茶振りした事は悪いと思っている。

 

「でも、吸阪から渡されたイナゴパウダー*3が、抹茶みたいな風味だったからな。抹茶や小豆と混ぜて、パウンドケーキにしたら、結構美味くなったぜ」

 

 だが、その無茶振りに見事答えてくれたのは、流石だよ。 

 

「俺の方はもっとストレートだな。蝗の佃煮とか蜂の子のバター醤油炒め、あとは…雀蜂の素揚げにエスカルゴ」

「……口田君の反応は?」

「もちろん、最初は悲鳴上げてたさ。だけどな。時間をかけて説得したよ。せっかく憧れの雄英に入ったんだから、前進しよう! 恐怖を乗り越えていこうぜ! ってな。口田の奴、勇気を出して食べてくれたよ」

 

 味が気に入ったのか、用意した分を全部平らげたのは予想外だったけどな!

 

「今の口田は虫嫌いを克服し、生まれ変わった。その力を存分に見せつけてやれ!」

 

 大雀蜂の群れに続き、蜘蛛や百足など地を這う虫達の群れをプレゼント・マイク先生の元へ差し向けた口田を見ながら、俺は叫んだ。

 ………まぁ、プレゼント・マイク先生に対しては…御愁傷様です。

 

 

プレゼント・マイクside

 

「冗談じゃねぇぇぇぇぇっ!!」

 

 上を見れば大雀蜂の群れ、下を見れば地を這う虫達の大群。こんな状況で逃げ出さずにいれるか? No,it’s impossible!(いいや、無理だね!)

 そんな事を考えながら、これまでの人生で最速(・・)と言って良いほどの逃げ足を発揮していると―

 

「ん?」

 

 森の方向から口田甲司が姿を現した。なんだ、勝利を確信して、姿を見せたってか?

 

「流石に…舐め過ぎだ!」

 

 怒りのシャウトを放とうとしたその時―

 

「ッ!」 

 

 俺の至近を、何かが高速で通り過ぎた(・・・・・・・・)。虫で追い立てるだけじゃなく、投石(・・)で駄目押しかよ! 

 

「畜生!」

 

 再び走りながら、思わず叫ぶ。"個性”に気を取られて忘れていたが、口田甲司の肉体は相当なものだ。そのパワーを活かしての投石は、まさに脅威!

 

「俺だけ難易度Very Hard通り越して、Nightmareだろぉ!」

 

 虫の群れと投石に追い立てられ、散々走り回される。そして残り時間が10分を切ろうとしたその時―

 

「今度はお前か! 耳郎饗香!」

 

 進行方向上に耳郎響香が姿を現した。その耳たぶから伸びるコードは、既にブーツ(両足のスピーカー)に接続されていて―

 

「この距離なら!」

 

 間髪入れず放たれる指向性衝撃波。くそっ、いつもなら安い音(・・・)と流せるが、この状況だとなかなか…。

 

「まだまだ! 俺を倒すにはボリューム不足だぜ!」

 

 だが、倒れるわけにはいかねぇ。教師陣(おれたち)の連敗を止めるのは俺なんだからな!

 気合いを入れ直して、足を踏ん張り、反撃を試みるが…。

 

Holy shit(なんてこった)…」

 

 耳郎響香が振り回し、こっちへ投げつけた物の正体が、ボーラであると悟った時、俺の勝ち目は消えた。

 

 

耳郎side

 

 投げつけたボーラで、プレゼント・マイク先生の両足を封じ、転倒させたところで、一気に接近。

 両耳のプラグをいつでも突き刺せる状態にした上で、デステゴロさんに習った通りに腕を取り、ハンマーロックを仕掛ける。

 

「痛ぇぇぇっ! 」

「口田! ウチが抑えている間にカフスを!」

 

 すぐさま口田も駆け寄り、プレゼント・マイク先生にカフスを掛ける。

 

『…口田・耳郎ペア、条件達成だよ』

 

「やった…」

 

 リカバリーガールのアナウンスが聞こえ、ようやく張りつめていた物が緩んだ気がした。

 緑谷に信頼してもらえる位強いヒーロー。それには、まだまだ遠いけど…1歩くらいは近づけたと思う。

 

「緑谷…ウチ、頑張るから」

 

 誰にも聞こえないくらい小さな声で呟きながら、空を見上げる。

 雲ひとつない青空が…なんだか、いつもより眩しく感じた。

*1
第3戦までの参加者は帰還済み。第7~8戦の参加者は会場へ移動中

*2
大雑把に言うと巨大芋虫

*3
乾燥させた蝗を粉末状に加工した物




最後までお読みいただき、ありがとうございました。
演習試験の結果は以下のようになっております。

第1戦(終了)○切島鋭児郎&砂藤力道vsセメントス×
第2戦(終了)○轟焦凍&八百万百vsイレイザーヘッド×
第3戦(終了)○瀬呂範太&峰田実vsミッドナイト×
第4戦(終了)○蛙吹梅雨&常闇踏陰vsエクトプラズム×
第5戦(終了)○飯田天哉&尾白猿夫vsパワーローダー×
第6戦(終了)○口田甲司&耳郎響香vsプレゼント・マイク×
第7戦    障子目蔵&葉隠透vsスナイプ
第8戦    青山優雅&芦戸三奈&麗日お茶子vs13号
第9戦    吸阪雷鳥&緑谷出久vsオールマイト

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。