出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1   作:SS_TAKERU

72 / 120
お待たせしました。
1日遅れとなりましたが、クリスマスプレゼント代わりに第59話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。


第59話:期末試験ー第7戦ー

出久side

 

「これで生徒側(ぼくたち)の6連勝。少々出来過ぎな位、良い流れだけど…油断は出来ないな」

 

 口田君と耳郎さんの演習試験突破(クリア)を告げるアナウンスを聞きながら、僕は秘かに呟く。

 次の第7試合。障子君と葉隠さんの相手はスナイプ先生。雄英教師陣の中でも、殺傷力(・・・)という点では、トップクラスだ。

 もちろん、相応の対策を施してはいるけど…1発当たれば終わりな事に変わりはない。

 

「もう少し対策を詰めておくべきだった? いや、日程や2人の練度を考えれば…」

 

 駄目だ、一度気になりだすと、どうも嫌な予感が拭えない。見ている事しか出来ないのが、こんなに辛いなんて…。 

 

「出久」

 

 その時、不意に雷鳥兄ちゃんの声が聞こえ—

 

「せいっ!」

「痛っ!」

 

 脳天にチョップが叩き込まれた。

 

「出久。思慮深いのはお前の美徳だが、考え過ぎるのは良くないぞ」

「雷鳥兄ちゃん…」

「障子も葉隠も、今出来る最高の準備を整えて試験に臨んでいるんだ。結果がどうなるかは、まさに神のみぞ知る。ここまで来たら、俺達に出来るのは2人を信じてやる事だけだ」

「………そうだね。僕が心得違いをしていたよ」

 

 あぁ、僕もまだまだ未熟だなぁ。仲間を信じる事もヒーローにとって大切な資質だっていうのに…。

 

 

スナイプside

 

『それじゃあ、1-A期末テスト、第7戦。障子・葉隠ペア対スナイプの試合を始めるよ! スタート30秒前!』

 

 リカバリーガールのアナウンスを聞きながら、俺は愛用しているリボルバーをホルスターから抜き、戦闘態勢に入る。

 ここまでの対戦成績は教師陣(おれたち)の6連敗。残った俺と13号、オールマイトが全勝したとしても3勝6敗。大きく負け越したという事実は消えないだろう。だが-

 

「それでも見せておかねぇとな…教師(プロ)の底力って奴を」

 

 静かにそう呟き、俺は試験会場へ来る前に急遽用意したある物(・・・)へ視線を送る。

 

「俺達の事を色々と調べていたようだが、俺が現場でこいつらを使った事は3回も無い。はたして、ここまで調べがついているか?」

 

 

障子side

 

『それじゃあ、1-A期末テスト、第7戦。障子・葉隠ペア対スナイプの試合を始めるよ! スタート30秒前!』

 

「障子君! 頑張ろうね!」

「あぁ」

 

 恐らく両手を上げているであろう葉隠にそう答えながら、俺は今回の試験対策として持ち込んだ新たな装備を確認する。

 個人的信条としては、こういうゴテゴテした装備はあまり好きじゃない。だが-

 

「備えあれば憂いなし。か」

 

 個人的な好き嫌いを言っている場合じゃない。この試練を乗り越える事が最優先だ。

 

『スタート5秒前! レディィィィィゴォ!!』

 

「いくぞ、葉隠!」

「うん!」

 

 試験開始と同時に走り出す俺と葉隠。そこへ連続した銃声と共に飛来する弾丸。その数6!

 

「葉隠!」

 

 俺は葉隠を庇う様にその前に立ち、新たな装備を構えて6発の弾丸全てを防御した(・・・・)

 新たな装備。それは厚さ5mmの鋼板をアラミド繊維で挟んだ特製の防弾盾(バリスティックシールド)2枚*1

 俺の体格(サイズ)に合わせた*2上、防御力向上の為に鋼板を挟んだ関係で、1枚当たりの重量が20kgを超えているが、それは俺の複製腕を用いる事でカバー出来る。

 複製腕4本の内2本でこの盾を持ち、残る2本には目を複製して、索敵を担当。これなら、スナイプ先生が自身の“個性”『ホーミング』で弾丸を操作し、背後から攻撃してきたとしても、余裕をもって受け止める事が出来る。

 

「このまま一気にゴールを目指すぞ!」

「オーッ!」

 

 葉隠を背後に庇いながら、ゴールを目指す。途中、何度もスナイプ先生からの銃撃を受けるが、その全てを盾で受け止めていく。そうやって突き進む事10分。

 

「ゴールが見えたよ! 障子君!」

 

 ようやくゴールへ残り100mの所まで来る事が出来た。だが、問題はここからだ。

 

「なるほど。防弾盾(バリスティックシールド)か。しかも、それだけの大型サイズなら、俺のリボルバーじゃ力不足(・・・)だな」

 

 ゲート前に陣取り、感心したような声を上げるスナイプ先生。一見すると隙だらけだが、俺や葉隠が半歩でも動いたら、即銃弾が飛んでくるだろう。

 

「だから、こういう物を用意しておいた(・・・・・・・)

「ッ!?」

 

 先生が発した用意しておいた(・・・・・・・)という言葉。その意味を理解するよりも早く、嫌な予感が背筋を走った。

 

「葉隠!」

「えっ? きゃぁっ!」

 

 咄嗟に背後にいた葉隠を複製腕で掴み、近くの柱の陰へ投げ飛ばす。同時に、それぞれ違う方向から放たれた二条の赤い光が俺を捉えた。これは…レーザーサイト!

 

「くっ!」

 

 2枚の盾で防御を固めた直後、轟音と共に放たれた大量の銃弾が俺を襲った。高度な迷彩が施された自律式の固定銃座とは…流石に想定外だ。

 

「障子君!」

 

 大量の弾丸に晒される俺を見て、葉隠が何とか助けようとするが―

 

「きゃぁっ!」

「悪いが、そこで静かに大人しくしてな」

 

 足元に弾丸を撃ち込まれ、身動きを封じられてしまう。

 

「大丈夫だ、葉隠。この銃撃、そう長くは―」

 

 続かない。そう告げようとした俺の言葉はそこで途切れた。視線の先にいるスナイプ先生が構えているのは、リボルバーより大口径のライフル!

 

「悪いが、狙い撃たせてもらう!」

 

 固定銃座からの銃撃が止まるタイミングに合わせ、8回連続で鳴り響く銃声。放たれた8発のライフル弾は、銃撃を防ぎ続け、ダメージが蓄積した盾に容赦なく襲いかかり―

 

「ぬぁぁぁぁぁっ!」

 

 遂に2枚の盾を破壊。俺はその衝撃に耐えきれず、吹き飛ばされてしまった。

 

 

雷鳥side

 

「障子ちゃん!」

「障子さん!」

 

 盾を破壊され、吹き飛ばされた障子をモニター越しに見ながら、悲痛な声を上げる梅雨ちゃんと八百万。轟や常闇達も声こそ出さないが、驚きを隠せずにいるようだ。

 

「7年前と4年半前、(ヴィラン)による立て籠もり事件解決の為に、スナイプ先生が狙撃銃を使用した事があったけど、ここで使ってくるなんて………完全に僕の想定ミスだ!」

  

 そして出久は…自身の想定。その甘さを悔やんでいるが…。

 

「そいつは違うぜ、出久。先生達の想定を俺達が上回り続けてきたから、スナイプ先生もそんなレア物引っ張り出してきたって事だ」

「雷鳥兄ちゃん…」

「大体、学生相手に自律式銃座(セントリーガン)だの、大口径小銃ベースの半自動式狙撃銃(マークスマン・ライフル)だの…形振り構わないにも程があるっつーの!」

 

 まぁ…そうさせてしまった原因の一端は、俺や出久にある訳だが…その点は綺麗に無視しておこう。

 

「だが、まだ希望はある。頼むぜ…葉隠」

 

 

葉隠side

 

「さて、これで詰み(チェックメイト)だ」

「………」

 

 スナイプ先生の持つ拳銃を向けられ、ゆっくりと手を上げる障子君。柱の陰に隠れている私は、今のところ無事だけど…少しでも動けば、容赦なく銃弾が飛んでくるだろう。

 

「残り時間は5分…チャンスは多分、1回」

 

 心の奥から湧き上がる恐怖心を抑えるように、呼吸を繰り返す。スナイプ先生の銃撃に身を晒すなんて、とてつもなく怖い。恐ろしい。

 でも、障子君はそんな私を護る為に体を張ってくれたんだ。ここでやらなきゃ女がすたる! だよ!

 

「“Plus Ultra(更に向こうへ)”!!」

 

 敢えて大声で叫びながら、私は柱の陰を飛び出した。同時に、予め脱いでおいた手袋とブーツを投げつけて、スナイプ先生の気を逸らす。

 

「ちぃっ! 往生際が悪い!」

 

 目にも止まらぬ早撃ちで、手袋とブーツが次々と撃ち落される。それでも、コンマ何秒かの時間は稼げた!

 

「これでもくらえーっ!!」

 

 新しく戦闘服(コスチューム)に追加した万能(ユーティリティ)ベルトから、ピンポン玉サイズの赤いボールを3つ取り出し、スナイプ先生に投げつける!

 

「そんな物!」

 

 当然、スナイプ先生は撃ち落とす為に銃弾を浴びせる。だけど、今回はそれが命取り(・・・)だよ!

 

「ぬぉっ!」

 

 全身に纏わりつくトリモチに驚きの声を上げるスナイプ先生。そう! 投げつけたのはトリモチを充填したヤオモモ特製の粘着玉!

 銃弾を浴びせた事でボールが破裂。逆に広範囲へトリモチを撒き散らす結果になったんだよ!

 

「もう1つ!」

 

 今度は青いボールをスナイプ先生の顔面目掛けて投げつける! 青いボールは見事に命中し、充填されていたピンクの染料でスナイプ先生の視界を塞いでしまう。

 

「今のうちに!」

 

 トリモチで動きが鈍り、染料で視界が塞がれたスナイプ先生の横を通り抜け、一気にゴールへ走る。

 

「逃がす、かぁ!」

 

 当然、スナイプ先生も私を追いかけようとするけど―

 

「葉隠、行け!」

 

 障子君がスナイプ先生へタックルを仕掛け、それを妨害する。その結果―

 

『…障子・葉隠ペア、条件達成だよ』

 

 ゴール到達で条件達成! やったね!

 

「皆ーっ! やったよーっ!!」

 

 私はモニタールームで見守ってくれている皆に向かって、思いっきり手を振った。透明だから見えていないだろうけど、きっと気持ちは伝わっている筈だよね!

*1
演習試験1週間前に八百万が創造した

*2
幅50cm、長さ90cm




最後までお読みいただき、ありがとうございました。
演習試験の結果は以下のようになっております。

第1戦(終了)○切島鋭児郎&砂藤力道vsセメントス×
第2戦(終了)○轟焦凍&八百万百vsイレイザーヘッド×
第3戦(終了)○瀬呂範太&峰田実vsミッドナイト×
第4戦(終了)○蛙吹梅雨&常闇踏陰vsエクトプラズム×
第5戦(終了)○飯田天哉&尾白猿夫vsパワーローダー×
第6戦(終了)○口田甲司&耳郎響香vsプレゼント・マイク×
第7戦(終了)〇障子目蔵&葉隠透vsスナイプ×
第8戦    青山優雅&芦戸三奈&麗日お茶子vs13号
第9戦    吸阪雷鳥&緑谷出久vsオールマイト

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。