出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1   作:SS_TAKERU

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お待たせしました。
に第60話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。


第60話:期末試験ー第8戦ー

雷鳥side

 

「吸阪、緑谷。悪いが試験会場への出発は、暫く待ってもらう」

 

 障子達のクリアを見届け、出久と共に試験会場へと向かおうとした俺を引き止めたのは、相澤先生の一言だった。

 

「暫く待てって…どういう事でしょうか?」

 

 相澤先生の発言。その意味がわからず、相澤先生に問いかける俺だったが-

 

「それは君達とオールマイトの戦いを、全員で見届けたいからさ!」

 

 返答してきたのは校長先生だった。

 

「そういう訳だ。最終戦は第8戦の参加者がモニタールーム(ここ)へ戻ってきてから行うものとする」

「はい!」

「わかりました」

 

 やれやれ、全員で見届けたいか…。何やら裏がありそうな気がするのは、俺だけか?

 

 

お茶子side

 

『青山君、芦戸さん、麗日さん。ではこれより、あなた達3人が行う演習試験の追加説明を行います』

 

 演習試験会場に到着して約3分。スピーカーから聞こえてきた校長先生からのアナウンスに、私達は耳を傾ける。

 

『制限時間は通常の試験より10分短い20分。合格条件は基本的には同じになります』

 

 基本的には同じ。ハンドカフスを掛けるか、ステージを脱出するって事だよね?

 

『ただし…カフスを掛ける、ステージを脱出する。どちらを選択するにせよ、2人以上(・・・・)が条件を達成しなければクリアとはならない。この事をよく覚えておくように』

 

 2人以上…3人の内1人だけが脱出に成功したり、カフスを1つ掛けただけじゃ駄目って事か。

 

『質問が無いようだったら、説明はこれで終わります。3人とも健闘を祈っているよ』

『それじゃあ、1-A期末テスト、第8戦。青山・芦戸・麗日チーム対13号の試合を始めるよ! スタート30秒前!』

 

 校長先生と入れ替わるように響く、リカバリーガールのアナウンス。

 よし! 気合を入れて、合格目指して頑張―

 

Mesdames(お嬢さん達). Sortons de ce test avec trois personnes(3人でこの試練を乗り越えようじゃないか)♪」

「えっ…」

「青山ー、何言ってるかわかんないよー!」

 

 み、三奈ちゃん! 正直に言い過ぎ!

 

 

13号side

 

『スタート5秒前! レディィィィィゴォ!!』

 

 ゴール前に陣取った僕は、試験開始と同時に手にしたタブレット端末を操作。監視カメラをフル稼動して、3人の現在位置を把握する。

 

「立て籠もり事件等の対処法を訓練する為に造られたこの施設は、USJ程ではないにせよ、僕も設計に関わっている。だから、君達の動きは把握出来ます…」

 

 そう呟きながらタブレット端末を操作し、3人が進む通路上にある隔壁を次々と作動させていく。

 突然下りてきた隔壁で道を塞がれ、3人は已む無く別の通路を選ぶが、そこもまた隔壁で塞がれてしまう。

 

「悪いけど、君達の行動はこちらで制限をかけさせてもらうよ」

 

 他の先生方に比べ、僕は戦闘では一歩劣る。だからこそ、少しでも有利な状況で君達を迎え撃たせてもらう。

 

「卑怯かも知れないが…これも戦術です」

 

 隔壁を全て下ろし、ゴールへと至るルートを1つに絞る。あとは、唯一残された通路から彼らが飛び出してくるのを待ち構えれば良い。

 

「ん?」

 

 その時、タブレット端末の画面に映されていた監視カメラの映像が途切れた。すぐさま他のカメラに切り替えると―

 

「なるほど。こちらの監視に気づきましたね」

 

 青山君の“個性”『ネビルレーザー』と芦戸さんの“個性”『酸』で、監視カメラを次々と破壊しているようですが…今となっては、大した問題ではありません。

 隔壁を破壊して別ルートを進むという選択肢もありますが…残り時間や青山君、芦戸さんの体力等を考えれば、その選択肢を選ぶ可能性は極めて低い。となれば…。

 

「こちらを焦れさせるのが目的…そう考えるのが妥当でしょうね」

 

 監視カメラからの映像が絶たれれば、こちらは3人の動きが察知出来なくなる。それを利用して、こちらの隙を窺おうという作戦。悪くはありませんが…。

 

「それは時間に余裕があってこそ、真価を発揮する作戦」

 

 時間切れ(タイムアップ)まであと15分足らず。このくらいの時間で焦れるほど、プロは短気ではありませんよ。  

 

 

お茶子side

 

「麗日! この辺りのカメラは、全部壊したよ」

「これで13号先生に僕らの動きが知られる可能性は無くなったね♪」

「2人とも、ありがとう! ガラス、大分集まったよ」

  

 青山君と三奈ちゃんに監視カメラを壊してもらっている間、私は周りの窓ガラスを片っ端から叩き割って、ガラス片をかき集めていた。このガラス片が、私達の勝利の鍵だ。

 

「おぉー、大量だね! あとは私に任せて!」

 

 私から大量のガラス片を受け取った三奈ちゃんは、手から粘度の高い酸を分泌し始める。

 今から行う事を監視カメラ越しに見られていたら、私達が何をやろうとしているか、13号先生にはすぐに見破られてしまう。だから、カメラを壊してもらったけど…。

 

「どうか、13号先生が様子を見に来ませんように…」

「同感だね♪」

 

 祈るような気持ちで私と青山君は、三奈ちゃんの作業を見つめ―

 

「出来たー!」 

 

 約5分後、作業は完了した。

 

「ありがとう! 三奈ちゃん! 残り時間は…8分! ゴールに急ごう!」

 

 

13号side

 

「残り時間5分、そろそろでしょうね」

 

 いつでも“個性”を発動出来る状態で、僕はゲートの前で待ち構える。残り時間から考えて、彼らはそろそろ…。

 

「ッ!」

 

 その時、僕の第6感とでも言うべき感覚が、こちらへ接近してくる3つの気配を察知しました。どうやら、勝負を仕掛けてくるようです。

 

「13号先生! 勝負!」

 

 次の瞬間、通路から真っ先に飛び出してきたのは芦戸さん! 彼女は両手の指先をこちらへ向け―

 

「アシッドブラストォ!」

 

 雄英体育祭でも披露した水滴状の酸を指先から発射する技(アシッドブラスト)でこちらを攻撃してきます。

 

「見事な連射です。1発の威力は小さくとも、連続で食らうのは遠慮したいですね。しかし―」

 

 真正面から放たれた攻撃を受ける程、僕は酔狂じゃありません。“個性”を発動し、ブラックホールで酸の弾丸全てを吸い込んでいきます。

 

「援護するよ♪」

 

 すると、今度は青山君が臍からだけでなく、両肩と両膝からもレーザーを発射し、芦戸さんの援護を始めました。

 

「ブラックホールは、光をも吸い込みますよ」

 

 当然、青山君のレーザーもブラックホールで吸い込んで無力化。さて、このままではただ時間が流れていくだけ。

 麗日さんが姿を見せない事から考えても、何か策を考えているようですが…さて、どんな策を?

 

「2人とも、お待たせ!」

 

 そこへ、麗日さんが何かを引き連れて(・・・・・)飛び込んできました。そして―

 

「いっけぇ!」

 

 麗日さんの声に従うように、一斉に宙へと浮きあがる何か。あれは……鏡?

 

「…まさか!」

「青山君!」

 

 僕が何かに気づくのと同時に、麗日さんが叫び―

 

「僕にお任せ♪」

 

 青山君が宙に浮く鏡に向けて、レーザーを乱射! それぞれのレーザーは鏡によって反射され、また別の鏡で更に反射される。それを繰り返した結果―

 

Dangereux(危ない)!」

 

 撃った本人(青山君)ですら把握出来ない程、不規則な射線を描きながら私達(・・)に降り注ぐ!

 

「自分も巻き込まれるなんて、滅茶苦茶過ぎる!」

 

 四方八方から雨の様に降り注ぐ、文字通りの無差別攻撃となったレーザーを青山君と共に避けながら、思わず叫ぶ。ブラックホールで吸い込もうにも、攻撃が無作為(ランダム)過ぎて対応しきれない!

 

C'était dangereux(危なかった)…」

「な、なんとか避けきった……2人は!?」

 

 何とか全てのレーザーを回避し、安堵したのも束の間。芦戸さんと麗日さんの姿が無い事に気づきました。まさか、この隙を突かれて!?

 

「いない…?」

 

 慌ててゲートへと視線を送りますが、通過された形跡はなし。だとすると…2人はどこに?

 

「ッ!」

 

 次の瞬間、第6感に従って天井を見上げると、そこには天井まで浮き上がった(・・・・・・)芦戸さんと麗日さんの姿。

 そうか、僕と青山君がレーザーから逃げ惑う間に、2人は天井へと浮き上がって―

 

「いっけぇ!」

 

 芦戸さんの酸を天井に散布して、崩落を誘発させたのか!

 

「滅茶苦茶だ!」

 

 再び響く叫び声。タイミングを計っていたのか、青山君は既に避難済み。さっきのレーザーはこの為の布石! 

 

「だがしかし!」

 

 先程のレーザーとは違い、まっすぐ落ちてくるだけの建材など、どうという事は!

 

「ぬぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 “個性”を全開にして、降り注ぐ全ての建材を微細な塵に変換し、吸い込んでいきます。

 

「うっそぉ…」

 

 全てを吸い込んだところで、聞こえてくる芦戸さんの呆然とした呟き。流石に驚かされましたが…これで君達の策も―

 

「流石は13号先生。信じてましたよ。天井を落としても全部吸い込んでくれる(・・・・・・・・・・)って」

 

 その時、背後から聞こえる声。

 

「しまっ―」

 

 振り返ろうとした瞬間、声の主が僕の背中に手を触れた。その途端、問答無用で浮き上がっていく体。これは麗日さんの“個性”『無重力(ゼログラビティ)』!

 

「2人とも! 今だよ!」

 

 それを合図にゴールへ走る青山君と芦戸さん。三段構えの策とは…見抜けなかった僕の負けですね。

 

『…青山・芦戸・麗日チーム、条件達成だよ』

 

 

お茶子side

 

「カメラを壊してから暫くの間、動きがなかったのは反射鏡(リフレクター)を作っていたのですね」

 

 試験会場からモニタールームへと戻るバスの中、私達にそう尋ねてきた13号先生。

 

「はい、窓ガラス割って作ったガラス片に、三奈ちゃんが溶かしたアルミを塗って、即席ですけど」

「なるほど…いやはや、見事な発想です。成績に+評価を付けておきましょう」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「やったぁ!」

 

 13号先生からの思わぬ言葉に、声を上げて喜ぶ私と三奈ちゃん。青山君も声にこそ出さないけど喜んでいるみたいだ。

 

「しかし、会場の施設を壊しすぎたのは少々頂けませんね。その点はキッチリ減点しておきますよ」

 

 ………やっぱり、そう上手くはいかないね。でも、これで私達の8連勝。最後に控える緑谷君と吸阪君に最高の形でバトンを渡す事が出来た。

 

「2人とも…合格を信じてるよ」

 

 窓の外の景色を見ながら、私は静かに呟いた。どうか…全員合格して、合宿に臨めますように…。




最後までお読みいただき、ありがとうございました。
演習試験の結果は以下のようになっております。

第1戦(終了)○切島鋭児郎&砂藤力道vsセメントス×
第2戦(終了)○轟焦凍&八百万百vsイレイザーヘッド×
第3戦(終了)○瀬呂範太&峰田実vsミッドナイト×
第4戦(終了)○蛙吹梅雨&常闇踏陰vsエクトプラズム×
第5戦(終了)○飯田天哉&尾白猿夫vsパワーローダー×
第6戦(終了)○口田甲司&耳郎響香vsプレゼント・マイク×
第7戦(終了)〇障子目蔵&葉隠透vsスナイプ×
第8戦(終了)〇青山優雅&芦戸三奈&麗日お茶子vs13号×
第9戦    吸阪雷鳥&緑谷出久vsオールマイト

おそらく、今回が今年最後の更新になると思います。
今年1年、拙作をお読みいただき、ありがとうございました。
来年も更新を頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。

読者の皆様。良いお年をお迎えください。

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