出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1   作:SS_TAKERU

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お待たせしました。
第64話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。


第64話:特別試験ーその1ー

雷鳥side

 

「……うん。味噌汁の方はこれで良し。出久、塩鯖は?」

「良い感じに焼きあがったよ」

 

 演習試験の翌日。俺と出久はいつも通りに起き、朝食の準備に取り掛かった。

 試験明けで休みとはいえ、心操の特訓が控えているし、何より―

 

「おはよう、出久、雷鳥」

「2人とも早いな」

 

 姉さんとグラントリノに、朝食を用意しないといけないからな。

 ちなみに朝食のメニューは―

 

・ご飯(五穀米)

・えのきと豆腐の味噌汁

・塩鯖(大根おろし&酢橘添え)

・茄子の煮浸し

・キャベツの浅漬け

 

 以上5品だ。

 

 

「グラントリノさん、どうぞ」

「これは…恐縮です」

 

 ご飯の盛られた茶碗を姉さんから受け取り、恐縮するグラントリノ。まさか、グラントリノも碧谷鸚鵡(姉さん)のファンだったとはな…世の中狭いよ。

 

「お待たせしました。グラントリノ。大した物は準備出来ず、申し訳ありません」

「いやいや。これほどちゃんとした朝飯は、随分と久しぶりだ。堪能させてもらうぞ。いただきます」

 

 そう言うとグラントリノは、味噌汁の入ったお椀に手を伸ばし、一口。果たして味の感想は…。

 

「…この味噌汁、実に良い味だ。五臓六腑に沁みわたるとは、まさにこの事」

 

 良かった。気に入ってくれたみたいだ。一安心した俺と出久も朝食に手をつけていく。 

 

 

「ごちそうさま。2人とも、美味かったぞ」

「お粗末様です」

「喜んでいただけて何よりです」

 

 朝食を終えた俺達は、グラントリノとそんな会話を交わしながら、手早く後片付けを済ませ―

 

「お世話になりました、碧谷先生。突然の来訪にもかかわらず、温かく迎えていただき、感謝の言葉もありません」

「こちらこそ、大したお構いも出来ませんでしたが、またどうぞお越しください」

「恐縮です」

「それじゃあ、姉さん。行ってきます」

「母さん。行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

 

 姉さんに見送られ、家を後にした。

 さぁ、心操人使強化大作戦のスタートといきますか。

 

 

心操side

 

 吸阪からの連絡を受け、町外れの倉庫へ来た訳だが…。

 

「こいつは…凄いな」

 

 倉庫の中には各種トレーニングマシンやサンドバッグ、スパーリング用のリングなどが置かれ、下手なトレーニングジム真っ青だ。

 

「よう、来たな心操」

「おはよう。心操君」

 

 迎えてくれる吸阪と緑谷だが…隣にいる爺さんは何者だ?

 そんな事を考えている内に、クラスの皆も次々と到着し、特別試験に向けての特訓が始まった。

 

 

「皆、こちらはグラントリノ。かつて雄英高校で教鞭を執られていた事もあるベテランヒーローで…オールマイトの師匠にあたる方だ」

「僕と雷鳥兄ちゃんからすれば、師匠の師匠、大師匠だね。実際、職場体験では僕を指名してくれて、色々と稽古をつけてくれたんだ」

 

 吸阪と緑谷の説明に、飯田や蛙吹、麗日を除く全員がどよめく。あんな小柄な爺さんが、そんなに凄い人だったなんて…。 

 

「グラントリノは昨日、私的な用事(・・・・・)を済ませる為に雄英高校へいらしていたんだが…帰り道で偶然お会いしてな。事情を話したところ、今日1日特別コーチを務めて下さる事を快諾してくれた」

「メインは心操の特訓ではあるが、皆にも何かしら得る物があると思う。それでは、グラントリノ。お願いします」

「うむ。紹介を受けたグラントリノだ。まぁ、よろしく。ライコウやグリュンフリートが色々言っておったが、見た通りの隠居爺だ。緊張する事はない。肩の力を抜いてやっていこう」

 

 グラントリノのそんな挨拶を聞き、俺を含む全員が、飯田の「よろしくお願いします!」の声と共に頭を下げる。

 ベテランヒーローの教えを受けられるなんて幸運。滅多にない。吸収出来る物は全部吸収しないと…。

 

 

グラントリノside

 

「お前さんが心操人使か」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 儂の問いに答え、深々と頭を下げる心操。普通科からヒーロー科への編入を成し遂げた男と聞いていたが…なるほど、良い目をしている。

 

「特訓を始める前に、確かめたい事がある。少しばかり体を触るぞ」

「はい!」

 

 了解を得た上で、心操の体を触り、筋肉の付き具合や体幹の強さを確かめていく。ふむ…。

 

「鍛え始めたのはいつからだ?」

「中3の春から…本格的には、体育祭の後からです」

「なるほど。まぁ、体に関しては、ギリギリ合格ってとこだ。あとは技術面だが…1週間後にプロと一戦交える以上、半端な訓練は役に立たん。死ぬほどキツイが…やり抜く覚悟はあるか?」

 

 敢えて鋭い視線を向けながら、心操に覚悟を問う。果たして返答や如何に…。

 

「勿論です! 折角のチャンス、逃すつもりなんて一欠片もありません! 俺を強くしてください! お願いします!!」

「良い答えだ! 気に入った!」

 

 心操からの100点満点な答えに、儂は大きく頷き―

 

「まずはこれを付けろ」

 

 予め用意しておいた黒いマスク(・・・・・)を取り出した。

 

「…これは?」

「俗に言うトレーニング用マスクという奴だ。装着する事で、呼吸という普段無意識に行っている行為に負荷がかかり、横隔膜や内肋間筋といった呼吸筋全般が鍛えられる」

「呼吸筋を鍛えると、より多くの酸素を取り入れる事が出来るようになり、持久力の増強に繋がる。まぁ、試してみろ」

「わかりました」

 

 儂に促され、トレーニング用マスクを装着する心操。

 

「感想は?」

「…かなり、息苦しいです。呼吸がこんなにキツイなんて、初めて知りました」

「だろうな。食事や風呂の時以外は常に付けておけ。それから」

 

 続いて儂が差し出したのは、4つの重り。

 

「両手に各3kg、両足に各7kg、合計20kgの重りだ。風呂の時以外は、常に付けておけ」

「はい。それで……1週間でどの位の効果が?」

「……残念だが、1週間やそこらじゃ効果は微々たるものだ。だが、背負っていた重い荷物を下ろした時の様に、一時的に体が軽くなる程度の効果はある」 

「今大事な事は試験当日。一時的にでもパワーアップ出来ると言う事だ」 

「そう、ですね。今大事な事は、試験を乗り越える事」

 

 覚悟を決めた表情で、手足に重りをつけていく心操。うむ、それでこそ。だ。

 

 

 心操side

 

「まずはイレイザーヘッドの使う捕縛武器。それに対処する為の訓練だ」

 

 グラントリノの声と共に前に出たのは、瀬呂と峰田の2人。

 

「まだまだ、相澤先生みたいに細かい動きは無理だけど、その分は数でカバーだ」

「オイラもいるから、油断すんなよ!」

 

 そう言いながら、瀬呂は両腕のテープをグルカナイフの柄に巻きつけた即席の鎖鎌を、峰田は自身のもぎもぎにビニールロープをくっつけ、更に砂を塗した即席の鎖分銅をそれぞれ構える。

 

「あぁ、よろしく頼む」

「わかっているとは思うが、当たれば痛いじゃすまん。決して集中力を切らさぬように!」

「はい!」

「では、用意……始め!」

 

 グラントリノの声と共に、瀬呂と峰田がそれぞれの得物を振り回し、俺に向けて放ってきた。

 

「くっ!」

 

 俺は只管にそれを避けていくが…マスクと重りのせいで、体が重い。いつもより(ワン)テンポ…いや、(ツー)テンポ動き出しを早くしないと、避けきれない!

 

「大きく避けるな! 極力動きはコンパクトにしろ! その方が無駄な消耗を防げる!」

「はい!」

 

 グラントリノのアドバイスに従い、少しずつ無駄な動きを削っていく。そのおかげか、最初よりも消耗が少なくなった気がする。

 

「よし! そのまま5分間、ミス無く避け続けろ! それがノルマだ!」

 

 ………ノーミスで5分か。随分とスパルタだ!

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 なんとか最初の訓練をクリアしたが―

 

「続いては組手だ。1ラウンド5分、インターバル2分で5ラウンド。5分休憩を挟みながら、3セット!」

「…はい!」

 

 息つく間もなく、次の訓練だ。組手の相手は、尾白、砂藤、障子の3人か。

 

「まずは俺から…心操、よろしくな」

「あぁ、頼む」

 

 先鋒を務める尾白と礼を交わし、構えを取る。

 

「始め!」

 

 グラントリノの声と共に、俺は尾白へ突っ込んでいく!

 

 

雷鳥side

 

訓練開始から3時間が経ち、1時間の休憩となったところで―

 

「心操、生きてるか?」

 

 俺はその場へ倒れこんだ心操に問いかけた。

 

「な、何とか…生きてるよ」

「そうか…実は、八百万が食事を手配してくれてな。ケバブサンドとチキンカレー…どちらか、食えそうか?」

「………じゃあ、ケバブサンド」

「ソースはチリ? それともヨーグルト?」

「…ヨーグルトで」

「OK、取ってくるから待ってな」

 

 心操からのリクエストに応えるべく、俺は外で待つケータリングカーへと急ぐ。

それにしても、ケータリングカーを2台も手配するとは、金持ちはやる事が違うよ…。

 

 

 1時間の休憩を終えた後、心操はまた厳しい特訓を再開した。

 相手を変えての組手に、青山、芦戸、轟からの攻撃を回避し続ける訓練。そして筋トレ。

 俺や出久が見てもハードだと感じるような特訓に、必死で食らいつくその姿は、尊敬に値するものだった。

 そして、時間は瞬く間に流れ―

 

「では、今日はここまでにしよう」

 

 今日予定していた訓練内容は全て消化された。

 

「グラントリノ…ありがとうございました!」

「うむ、今日教えた事を忘れずに、鍛錬を続けていけ。結果は必ずついてくる」

「はい!」

 

 心操の声に満足げに頷いたグラントリノは、俺達全員の顔を見回し―

 

「努力した者が必ず成功するとは限らん。だが、成功した者は皆努力しておる。精進を怠るなよ!」

 

 そう言い残して、甲府へと帰っていった。グラントリノ、ありがとうございました!

 

 

プレゼント・マイクside

 

 さて、心操人使の特別試験まで、残り3日となった訳だが…。実は少々気になる事がある。

 

「おい、イレイザー」

「……なんだ?」

「いや、心操の事なんだが…特別試験に向けて何やら特訓をしているのは、知ってるよな?」

「………あぁ、それで?」

「いや、幾らなんでもオーバーワーク(・・・・・・・)じゃないかと思ってな。担任として一言言っておいた方が良いんじゃねえ?」

 

 全身傷だらけだし、今日なんか歩く事すらきつそうだった。そんな姿を見たが為に、イレイザーに進言してみた訳だが…。

 

「必要ない」

 

 この反応だよ。教え子が心配じゃないのかね?

 

「何故心配する必要がある? 吸阪や緑谷も特訓に一枚噛んでいるんだろう? あいつらがいるなら、間違いが起きる事など万に一つもあるまい。それに…」

「それに?」

「普通科からヒーロー科に編入してきたという事は、それだけスタートが遅れているという事。この位やらなければ追いつけないという事を、心操自身が一番わかっている筈だ」

 

 なるほどねぇ。イレイザーはイレイザーなりに教え子の事を考えているって事か。

 俺はこの不器用な親友に、心の中で賛辞を送るのだった。




最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回、心操君の特別試験本番になります。

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