出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第65話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
雷鳥side
グラントリノを特別コーチに迎えての特訓から1週間。とうとうこの日がやってきた。そう、心操が受ける特別試験の当日だ。
本来なら今日は祝日で休みなのだが、俺と出久を含む1-A全員で心操の応援に行く予定だ。
「よし、完成っと」
さて、特訓の為に1週間前から家へ泊まり込んでいる心操が、試験当日に食べる朝食として相応しい物は何か?
流石に栄養学の専門家ではないから、小難しい事は解らないが…。
それでも、これまでの経験から考えた場合、糖質を中心とした消化の良いメニューが望ましい。そんな訳で、朝食として用意したのは―
・月見力うどん
・葱味噌おにぎり
・鮭の照り焼き
・カボチャの煮つけ
・フルーツヨーグルト
以上5品だ。
「試験本番に向けて、しっかり食っとけよ」
「あぁ、ありがとう」
「それじゃあ、いただきます」
「「「いただきます」」」
試験開始まで、あと3時間半か。出来る限りのフォローはしないとな。
心操side
「それでは只今より、心操人使君の特別試験を開始するわ」
午前10時半。予定通りに特別試験が始まった。
試験会場は、体育館γに作られた特設リング*1だ。
「心操君、リングの上に」
「はい!」
リングには既に、相澤先生と特別試験の審判を務めるミッドナイト先生が待ち構えており、名前を呼ばれた俺もリングへと上がる。
「それではルール説明。と言っても簡単よ。
「それから、相澤君はハンデとして、演習試験同様超圧縮重りを四肢に装着するわ。今回は体重の7割ね」
体重の7割…相澤先生の体重がどの位かは知らないが、先生の身長から考えて…70kg程度と言ったところだろう。仮に70kgとすれば、その7割は49kg。
四肢にそれぞれ12kg強の重り…
ダウンを奪う事も、決して不可能じゃない…筈だ。
「説明は以上ね。何か質問はある?」
「いえ、ありません」
「では、10分後に開始するわ。準備を整えておきなさい!」
「はい!」
説明を終えたミッドナイト先生と、俺をまっすぐに見つめている相澤先生に一礼し、セコンドとしてリングの外で待機している吸阪と緑谷の元へと向かう。
ちなみに、他の皆は体育館γの入り口付近に集合し、俺の試験を見守ってくれている。
「10分×3、合計30分以内に1度でもダウンを奪う。そして重りは体重の7割か…まぁ、最悪の想定よりは随分マシな条件だな」
「……あの条件でかなりマシって、最悪の想定はどれだけハードなんだよ?」
「聞きたいか?」
「………やめておく」
「賢明だ」
俺の答えを聞き、ニヤリと笑みを浮かべる吸阪。まったくどんな想定をしていたんだ…。
「それじゃあ、そろそろ重りを外すぞ」
「あぁ、頼むよ」
吸阪と緑谷の手を借りて、両手両足に付けられていた重りが外されていく。そして最後にトレーニング用マスクを外すと―
「体が…軽い。呼吸も…凄く楽だ」
呼吸も動きも、格段に楽になった。まるで自分の体じゃないみたいだ。
「長時間背負っていた重い荷物を下ろして、体が軽くなったように感じるのと同じ状態だからな。実際のところは、体が本来の状態に戻っただけ…-100が±0……いや、トレーニングの効果込みで+5になったって所だな」
「+5か…0よりはるかにマシだ」
「心操君。
「大丈夫だ。緑谷の作ってくれた資料は、頭に叩き込んである」
吸阪や緑谷と話をしながら、1週間の特訓を思い出していく。特訓に付き合ってくれた皆の為にも、絶対に合格してみせる!
「相応の準備を整えてきたな」
俺やミッドナイトさんに一礼し、一旦リングを後にする心操の背を見ながら、静かに呟く。
この1週間、早朝や放課後に行われていた心操の特訓を、
「まったく、
吸阪と緑谷が先頭となり、心操に課していた特訓は、
1週間程度の特訓では、大した効果など期待出来ない。その意見も尤もだ。だが…。
「その至極尤もな意見を覆してこそヒーロー…」
「楽しそうね、相澤君。だけど、これは試験だって事を…」
「わかってますよ。オールマイトさんと同じ轍は踏みません」
何故か満面の笑みを浮かべているミッドナイトさんの声にそう答え、俺自身を戦闘モードに切り替える。
オールマイトさんのような
準備時間として与えられた10分は瞬く間に過ぎ―
「ラウンド1! レディィィ! ゴォッ!」
ミッドナイトさんの声で試験が開始された。
「ほぉ…」
心操の取った構えを見て、思わずそんな声が漏れた。体育祭の時は、如何にも素人が取りそうな頼りない構えだったが、随分と様になっている。
まだまだ全身に
「シッ!」
次々と繰り出してくるパンチやキックも、平均点以上だ。
ブラドや13号なら、ここまで鍛え上げてきた事を評価して、合格の判定を下すんだろうが…。
「生憎、俺はそこまで
静かにそう呟き、回避一辺倒だった動きを切り替える。
「シッ!」
次々と放たれる左ジャブを最低限の動きで払い、間合いを詰めていく。当然、心操はそれを嫌がり、間合いを取ろうとするが…。
「そう簡単に、逃がすと思うか?」
円を描くように動こうとする心操に対し、俺は直線かつ最短距離を動く事で、少しずつ心操の動ける範囲を削っていき―
「っ!?」
本人も気づかぬ内に、コーナーポストへと追い詰める。
「さぁ、鬼ごっこはおしまいだ」
敢えて冷酷に宣告した俺は、心操を捕らえる為に捕縛武器を放つが―
「まだ終わりじゃない!」
心操はそれを紙一重で回避し、その勢いのまま低空タックルを仕掛けてきた。俺は咄嗟のジャンプで回避するが、それは―
「やるじゃないか」
心操がコーナーポストから脱出する事を意味していた。
「俺の捕縛武器を避けるとは、似たような事が出来る…瀬呂あたりに特訓を手伝ってもらったか?」
「瀬呂と…峰田です」
「峰田…だと?」
俺の捕縛武器をあいつが再現出来たとは…驚きだ。だが、今は試験中。俺は動揺を最小限に抑え、心操へ再度捕縛武器を放つ。
「くっ!」
自らを捕らえようと襲いかかる捕縛武器を必死に回避していく心操。なるほど、
「なら、これはどうだ?」
俺は右手で捕縛武器を操りながら、左手でベルトに収めていたナイフを抜き…
俺の一挙手一投足を見逃さないよう集中していた心操は、俺の行動にホンの一瞬戸惑い―
「目の良さが命取りだ!」
その隙を突かれて、捕縛武器に捕らわれてしまった。同時にアラームが鳴り響き―
「そこまで! 10分経過よ! 5分間のインターバルに入るわ!」
最初の10分が経過した。
心操side
「そこまで! 20分経過よ! 5分間のインターバルに入るわ!」
ミッドナイト先生の声と同時に緩められた捕縛武器。そこから抜け出した俺は、相澤先生に一礼して、リングを出る。
「大丈夫か?」
「あぁ…」
「無理に喋らないで、疲労の回復と水分の補給を」
吸阪の声に答えながら、緑谷から差し出されたスポーツドリンクを口に含んだ俺は、これまでの戦いを思い返す。
最初の10分も、次の10分も、途中までは善戦出来ていた。だけど、決定的な部分でどうしても届かない。
このままじゃ、最後の10分も同じ結果で終わるだけ…それじゃあ、1週間特訓に付き合ってくれた皆に合わせる顔がない!
何か…何か、手はないのか?
「心操」
その時、不意に吸阪の声が聞こえ―
「せいっ!」
「痛っ!」
脳天にチョップが叩き込まれた。痛みに顔を顰める俺に―
「焦るな。焦ればそれだけ視野が狭くなる。見えるものも見えなくなるぞ」
そうアドバイスしてくる吸阪。まったく、今のチョップは痛かったぞ…だが、おかげで
「それで? ここまで戦っての感想は?」
「“個性”はネタが割れている以上、使えない。格闘は決定打にならない。捕縛武器はどうしても避けきれない。八方塞がりだ」
「八方塞がりね…実際はそうでもなかったりするぞ」
「そうだね。付け入る隙はあると思う」
「え?」
吸阪と緑谷の言葉に、そんな声が漏れる。あの
「心操、
見ずに見ろ…まるで謎かけだ。俺は吸阪に更なるヒントを求めようとしたが―
「インターバル残り30秒! そろそろリングへ上がりなさい!」
ミッドナイト先生の声でそれは出来なかった。代わりに―
「心操君! 今日ここまでの
代わりに緑谷からのアドバイスを受け取り、リングへと上がる。
「………そういう事か」
最後の10分が始まる。まさにその直前、2人の伝えたかった事に気が付く事が出来た。
「ラウンド3! レディィィ! ゴォッ!」
これが最後。この10分に全てを賭ける!
「ラウンド3! レディィィ! ゴォッ!」
ミッドナイトさんの声で開始された最終ラウンド。心操の構えを見た俺は―
「ほぉ…」
思わず声を漏らした。これまでの2ラウンドで見られた
「試させてもらおう…」
次々と繰り出される心操の攻撃を捌きながらそう呟き、距離を取って捕縛武器を振るう。これまでは途中で回避しきれなくなり、捕らえられていたが―
「やはり、な」
心操はその全てを回避してみせた。気が付いたのだ。
これまでも、1つ1つの攻撃は
逆を言えば、今の心操本来の動きが出来れば、
「これも見逃さないか。上出来だ」
捕縛武器を回避された事で生じた隙を突き、心操は俺へ低空タックルを仕掛け、右足を掴むと―
「うぉぉぉぉぉっ!」
叫び声と共に、俺を倒してみせた。
「そこまで! 第3ラウンド4分21秒。心操君、条件達成!」
ミッドナイトさんの声が響いた直後、リングサイドで見守っていた吸阪と緑谷、入り口付近で待機していた轟達が一斉に声を上げる。
まったく…この程度の事で大騒ぎするのは非合理の極みだというのに…だが、たまには悪くない。
死柄木side
「死柄木弔、義爛さんがお越しになりました」
「あぁ、時間通りだな」
備え付けの固定電話越しに聞こえる黒霧の声にそう答え、自室から2フロア下にあるバー。俺達
「御足労をおかけして、申し訳ない」
「いえいえ、ビジネスとあれば、どこへでも参上するのが私のポリシーなので」
黒霧曰く大物ブローカーの義爛と、ビジネスライクな会話を交わしながら、奴が連れて来た男女に視線を走らせる。
「生で見ると…気色悪ィなァ」
「うわぁ、手の人。ステ様の仲間だよねえ!? ねえ!?」
「私も入れてよ!
こいつは…なかなかユニークな連中が来たな。俺達
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回以降、なんとか更新ペースを戻していきますので、よろしくお願いいたします。