出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1   作:SS_TAKERU

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第7話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。


第7話:波乱の個性把握テスト!

雷鳥side

 

 合格発表から月日はあっという間に流れ、今日は雄英高校の入学式。

 1週間前から引子姉さんの家に居候している俺は、出久と共に雄英の制服に袖を通し、家を出発しようとしたのだが…。

 

「出久! ティッシュ持った!?」

「うん」

「雷鳥! ハンカチは!?」

「大丈夫だよ」

「お、お弁当は!?」

「「この手に持ってるのは!?」」

 

 さっきから引子姉さんがこの調子で大変だ。この緊張っぷりを見ていると、かえって落ち着いてくる。

 

「出久、そろそろ出ないと流石に不味いぞ」

「そうだね…それじゃあ母さん、行くね」

「2人とも!」

「「今度は何!?」」

「超カッコイイよ」

「「……行ってきます!」」

 

 

 引子姉さんに見送られた俺達は、何のトラブルもなく雄英高校に到着。その広大な敷地をマップで確認しながら進み、1-Aの教室に辿り着いていた。

 

「ドア、デカいね…」

「まぁ、“個性”の中には異形型で巨大化している奴もいるからな。それに対応する為だろ」

 

 そんな軽口を言いあいながら、教室のドアを開くと―

 

「机に足をかけるな! 歴代の諸先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」

「思わねーよ! 手前、何処中だよ! 端役が!!」

 

 爆豪(クソガキ)が、眼鏡をかけた如何にも真面目そうな男子と口論の真っ最中だった…。

 

「…雷鳥兄ちゃん」

「言うな。この馬鹿も合格していた事を迂闊にも忘れていた…」

 

 目の前の光景に思わず顔を顰めていると、それに気づいたのか男子…たしか、伊田君だったか、飯田君だったか…が、ばつの悪そうな顔で近づいてきた。

 ちなみに爆豪(クソガキ)は出久を一目見るなり、不貞腐れたように明後日の方向を向いている。

 

「不快な思いをさせて申し訳ない。ボ…俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」

「大丈夫だ。気にしないでくれ。俺は風見中学出身、吸阪雷鳥だ」

「僕は折寺中学出身の緑谷出久。よろしくね。飯田君」

 

 それぞれ自己紹介を交わすと、出久は飯田と実技試験会場が同じだったらしく、その時の話題で盛り上がっていた。

 どうやら、飯田は出久が0Pの大型仮想(ヴィラン)を撃破した事に感銘を受けているようで―

 

「あの実技試験の構造に、俺は気づけなかった…悔しいが、君の方が何枚も上手だったようだ!」

 

 等と、熱く語っている。うん、出久の良い友人になりそうだ。そんな事を考えていると―

 

「貴方もA組だったのね。ヒーローさん」

 

 背後からそんな声をかけられた。振り返ってみれば、そこにいたのは―

 

「あぁ、君は実技試験の時の!」

 

 実技試験の時に手を貸した蛙女子。その後ろには、大型仮想(ヴィラン)を倒した時に助けたちっこい奴もいる。

 

「貴方に2度も助けられたから、合格できたわ」

「いやいや、君なら俺が手を貸さなくても切り抜けられたさ。と、自己紹介がまだだったな。吸阪雷鳥だ」

「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んでね」

「オイラ、峰田実! あの時は助けてくれてありがとな!」

 

 梅雨ちゃんに峰田か。2人ともなかなか面白そうなキャラをしているな。

 2人を紹介しようと出久の方を見れば、向こうも女子に声をかけられていた。会話の内容からして、出久が助けたという女子だな。無事に合格できたようで何よりだ。

 

「…ん?」

 

 その時、俺の“個性”が反応を示した。これは…何かが近づいてきて…そうか、思い出した。

 

「皆、そろそろ席に着いた方が良さそうだ」

 

 さりげなく周囲に着席を促し、俺自身も席に着く。それから5秒と経たないうちに。

 

「おや、既に着席していたか…」

 

 長いマフラーを首に巻き、パック入りのゼリー飲料と丸めた寝袋を手にした男が入ってきた。

 

「私が入ってくる前に着席し、私語をやめている。時間は有限。君達は合理性というものをわかっているね」

 

 そう言うと男はゼリー飲料を一息で飲み干し―

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 自らの素性を俺達に明かした。はっきり言って、とても先生には見えない。俺自身、前世の記憶で思い出していなかったら、とても信じられなかっただろう。

 そんな俺達の心境をわかっているのか、いないのか、相澤先生は一言。

 

「早速だが、体操服(コレ)着て、グラウンドに出ろ」

 

 それだけ言って、教室を出ていった。

 

 

 体操服に着替え、グラウンドに集合した俺達に相澤先生は『個性把握テスト』の実施を宣告した。

 いきなりすぎるという声もあがるが、先生は雄英高校は自由な校風が売り。そしてそれは先生側もまた然り。と聞く耳を持たないまま説明を続けていく。

 

 ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈、以上8種目を測定する。ただし、“個性”ありで。

 

「まず、自らの『最大限』を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段。そして…トータル成績最下位の者は、見込み無しと判断し、除籍処分とする」

 

 投げ込まれた爆弾に驚き、抗議の声をあげるクラスメート達。だが、相澤先生は涼しい顔…むしろ笑みさえ浮かべ― 

 

「自然災害、大事故、身勝手な(ヴィラン)達…いつどこから来るかわからない厄災。日本は理不尽に溢れてる。そしてそういう理不尽(ピンチ)を覆していくのがヒーロー」

「これから3年間。雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。“Plus Ultra(更に向こうへ)”さ。全力で乗り越えて来い」

 

 俺達を煽ってきた。すると―

 

「よっしゃぁ! やってやるぜ!!」

 

 赤い髪を逆立てた男子が気合と共に立ち上がり、それをきっかけに全員の目の色が変わる。

 

「やる気になったようで結構。準備運動の済んだ者から進めていく…スロースターターな“個性”の持ち主もいるからな。最大値を測るなら、出席番号順より合理的だ」

 

 先生のその声と共に各々準備運動を開始し…第1種目ソフトボール投げが始まった。

 

「準備の出来た者から開始するぞ。1人目は誰だ?」

「トップは俺だ! お前らは俺の後塵を拝してやがれ!」

 

 自信満々に名乗りをあげた爆豪(クソガキ)は、先生から測定用のボールを受け取ると―

 

「死ねぇ!!!」

 

 ヒーローらしからぬ掛け声と共に、ボールを爆風に乗せて投げ飛ばした。

 

「記録、705.2m…なかなかのもんだ」

 

 相澤先生の言葉にドヤ顔を決める爆豪(クソガキ)。だが、自分がトップだと思い込んでいるその表情は―

 

「流石に入学試験を『3位』で合格しただけの事はあるな」

「…は?」

 

 一瞬で崩れ去った。

 

「お、俺が3位…そんな訳ねぇ! 獲得P77は過去10年の記録を見たって、トップクラ―」

「過去の記録は過去の記録。今年はお前の上を記録した者が2人いたって事だ。それも150P越えのな」

「ひゃ、150P越え…」

 

 うん、良い顔してるよ()()()。さぁて、そろそろやるとしますか。

 

「先生、次は俺が」

「そうか…爆豪、よく見ておけ。今年の入試で1位タイを記録した2人のうちの1人。吸阪雷鳥だ」

「あの、“没個性”野郎が…だと…」

 

 とても信じられない。って顔してるな。まぁ、これを見れば嫌でも信じるか。

 

「先生。一応確認なんですが…本当に()()でやって良いんですね?」

「………周囲に被害を及ぼさない。学校の設備を壊さない事が前提だがな」

「最大限努力します」

 

 測定用ボールを受け取り、“個性”を発動。要領としてはベアリングボールや釘と同じ、電磁加速で飛ばす。ただ、今回はとにかく長い距離を飛ばすのだから、出力もそれ相応に上げていく。

 

「エネルギー充填…100%! 皆、少し下がってな! あと、目を瞑るなりして、直にこっちを見ないでくれよ!」

 

 全員がある程度後退し、それぞれ目をガードしたところで充填していた力を一気に解き放つ!

 

「『マグネ・マグナム』強化版…名付けて、『マグネ・キャノン』! シュート!」

 

 その瞬間、測定用ボールは弾丸のような速さで空を飛び…爆豪の投げたボールの遥か先に落下した。

 

「…1896.3m」

「あー、2000mいかなかったか。まぁ、周辺に被害及ぼさないようにしたら、こんなもんかな」

 

 2km越えを目指していただけに、届かなかったのは何気に悔しい。だが、爆豪(クソガキ)の記録にダブルスコアつけれたから、まぁいいか。

 

「すげぇ! まるでミサイルだ!」

「ミサイルというより砲弾ですわね。電磁加速を用いた物ですから…レールガンと呼称すべきでしょうか?」

「あ、ありえねぇ…」

 

 反応は人それぞれだが…爆豪(クソガキ)の反応はわかりやすいな。このまま一気に畳みかけるのも面白い。

 

「先生! 次は僕が」

 

 等と考えていると、出久が名乗りをあげた。早速相澤先生から測定用ボールを受け取り、サークルへ向かう。

 

「ケッ、デクなんかに何が出来る。大体、あいつが合格したのだって、何かの間違いだ。すぐにメッキが剥がれ―」

「でぇやぁぁっ!!」

 

 爆豪(クソガキ)の声を遮るように響く出久の声。それと同時に放たれたボールは、俺のはじき出した飛距離を僅かに上回る。

 

「…1902.7m」

 

 クッ、抜かれたか。まぁ、1種目目だ。次の種目で取り返せば…。

 

「…どーいうことだ、こら! ワケを言えデク! てめぇ!!」

 

 等と考えていたら、爆豪(クソガキ)が“個性”を発動しながら、出久に殴りかかっていた。当然、出久は迎え撃つため、構えるが―

 

「爆豪、何やってる」

 

 出久の間合いに入る前に、相澤先生のマフラーが爆豪(クソガキ)に巻きつき、動きを止めると同時に、その“個性”も消してしまう。

 

「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ『捕縛武器』だ。ったく、“個性”を使わせるな。俺はドライアイなんだ」

「“個性”を消した…そうか! 視ただけで人の“個性”を抹消する“個性”、抹消ヒーロー、イレイザーヘッドは、相澤先生だったのか!!」 

「イレイザーヘッド…聞かない名前だな」

「たしか、『仕事に差し支える』という理由で、メディアへの露出を嫌っているアングラ系ヒーロー…だったかしら」

「サンキュー、梅雨ちゃん」

「どういたしまして。ケロケロ」

 

「こんな筈はねぇ! デクは“無個性”だ! どんな不正をやりやがった!」

 

 相澤先生の拘束から解放されるや否や、声高に出久の不正を訴える爆豪(クソガキ)だが―

 

「緑谷は1年前に“個性”が発現し、役所に届け出ている。医師の診断書も確認済みだ」

「“個性”の発現は、遅くとも4歳までの筈だろう!」

「それはあくまでも一般的な例だ。4歳以降に“個性”が発現した例はそれほど多くないが存在する。主に第1世代や第2世代だが、第3世代以降でも0じゃない。自分の無知をひけらかすな」

「………」

 

 相澤先生に全て論破され、何も言えなくなってしまう。

 

「時間がもったいない。次準備しろ」

 

 先生の一言で、何事もなかったかのようにソフトボール投げは再開され、最終的に出久が1位…ではなく、“無重力”の個性を持つ麗日お茶子が、無限大の記録を叩き出し、1位となった。

 …そういえば八百万…百だったか。彼女は創造の“個性”で大砲を作りだして、ボールを発射していたが…あれはいいのだろうか? まぁ、相澤先生がOKしたならOKなんだろうが。

 

 

 続けて始まったのは第2種目50m走。俺はいつものようにイオノクラフトの要領で駆け抜ける。

 

「ターボユニット!」

「吸阪、3.00秒」

「クッ、0.04秒及ばなかったか!」

「でも、あれは疾走というより滑走よね」 

 

 出久は『ワン・フォー・オール』で増加した身体能力で爆走する。

 

「緑谷、2.91秒」

「すげぇ! 緑谷がトップだ!」

「50m走というより、三段跳びになってるけどね」

 

 

 第3種目は握力。電気で筋肉を刺激し、一時的に筋力を増加して…。

 

「吸阪、130kgw」

「まぁ、こんなもんか」

「緑谷、720kgw」

「700kgw越えたーっ!!」

 

 

 その後、立ち幅跳び、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈を順当にこなし、最終種目持久走は俺と出久が同着で1位となって全行程は終了した。

 

「んじゃ、パパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので、一括開示する」

 

 相澤先生の言葉と共に映し出される順位表。トータル最下位は除籍となるが…それは一体誰なのか。全員の視線が最下位に集中し―

 

「ちなみに除籍は嘘な」

 

 その言葉で一斉に、相澤先生の方を向き―

 

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

 その場に崩れ落ちた。俺もこの結末は何となく覚えていたが、つられて一緒に崩れ落ちてしまった。

 

「あんなのウソに決まっているじゃない…ちょっと考えればわかりますわ…」

 

 八百万の呆れたような声が耳に痛い。まぁ、とにかく…俺達の高校生生活1日目はこうやって終わりを告げるのだった。




最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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見たことのない数になり、驚きを隠せないでいます。
これからも皆様からの期待に応えられるよう、頑張ってまいります!!

ちなみに、個性把握テストの順位表はこんな感じです。

 1位:緑谷出久 
 2位:吸阪雷鳥 
 3位:八百万百 
 4位:轟焦凍
 5位:爆豪勝己
 6位:飯田天哉
 7位:常闇踏陰
 8位:障子目蔵
 9位:尾白猿夫
 10位:切島鋭児郎
 11位:芦戸三奈
 12位:麗日お茶子
 13位:口田甲司
 14位:砂藤力道
 15位:蛙吹梅雨
 16位:青山優雅
 17位:瀬呂範太
 18位:耳郎響香
 19位:葉隠透
 20位:峰田実

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