出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
お楽しみ頂ければ、幸いです。
雷鳥side
合格発表から月日はあっという間に流れ、今日は雄英高校の入学式。
1週間前から引子姉さんの家に居候している俺は、出久と共に雄英の制服に袖を通し、家を出発しようとしたのだが…。
「出久! ティッシュ持った!?」
「うん」
「雷鳥! ハンカチは!?」
「大丈夫だよ」
「お、お弁当は!?」
「「この手に持ってるのは!?」」
さっきから引子姉さんがこの調子で大変だ。この緊張っぷりを見ていると、かえって落ち着いてくる。
「出久、そろそろ出ないと流石に不味いぞ」
「そうだね…それじゃあ母さん、行くね」
「2人とも!」
「「今度は何!?」」
「超カッコイイよ」
「「……行ってきます!」」
引子姉さんに見送られた俺達は、何のトラブルもなく雄英高校に到着。その広大な敷地をマップで確認しながら進み、1-Aの教室に辿り着いていた。
「ドア、デカいね…」
「まぁ、“個性”の中には異形型で巨大化している奴もいるからな。それに対応する為だろ」
そんな軽口を言いあいながら、教室のドアを開くと―
「机に足をかけるな! 歴代の諸先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」
「思わねーよ! 手前、何処中だよ! 端役が!!」
「…雷鳥兄ちゃん」
「言うな。この馬鹿も合格していた事を迂闊にも忘れていた…」
目の前の光景に思わず顔を顰めていると、それに気づいたのか男子…たしか、伊田君だったか、飯田君だったか…が、ばつの悪そうな顔で近づいてきた。
ちなみに
「不快な思いをさせて申し訳ない。ボ…俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」
「大丈夫だ。気にしないでくれ。俺は風見中学出身、吸阪雷鳥だ」
「僕は折寺中学出身の緑谷出久。よろしくね。飯田君」
それぞれ自己紹介を交わすと、出久は飯田と実技試験会場が同じだったらしく、その時の話題で盛り上がっていた。
どうやら、飯田は出久が0Pの大型仮想
「あの実技試験の構造に、俺は気づけなかった…悔しいが、君の方が何枚も上手だったようだ!」
等と、熱く語っている。うん、出久の良い友人になりそうだ。そんな事を考えていると―
「貴方もA組だったのね。ヒーローさん」
背後からそんな声をかけられた。振り返ってみれば、そこにいたのは―
「あぁ、君は実技試験の時の!」
実技試験の時に手を貸した蛙女子。その後ろには、大型仮想
「貴方に2度も助けられたから、合格できたわ」
「いやいや、君なら俺が手を貸さなくても切り抜けられたさ。と、自己紹介がまだだったな。吸阪雷鳥だ」
「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んでね」
「オイラ、峰田実! あの時は助けてくれてありがとな!」
梅雨ちゃんに峰田か。2人ともなかなか面白そうなキャラをしているな。
2人を紹介しようと出久の方を見れば、向こうも女子に声をかけられていた。会話の内容からして、出久が助けたという女子だな。無事に合格できたようで何よりだ。
「…ん?」
その時、俺の“個性”が反応を示した。これは…何かが近づいてきて…そうか、思い出した。
「皆、そろそろ席に着いた方が良さそうだ」
さりげなく周囲に着席を促し、俺自身も席に着く。それから5秒と経たないうちに。
「おや、既に着席していたか…」
長いマフラーを首に巻き、パック入りのゼリー飲料と丸めた寝袋を手にした男が入ってきた。
「私が入ってくる前に着席し、私語をやめている。時間は有限。君達は合理性というものをわかっているね」
そう言うと男はゼリー飲料を一息で飲み干し―
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
自らの素性を俺達に明かした。はっきり言って、とても先生には見えない。俺自身、前世の記憶で思い出していなかったら、とても信じられなかっただろう。
そんな俺達の心境をわかっているのか、いないのか、相澤先生は一言。
「早速だが、
それだけ言って、教室を出ていった。
体操服に着替え、グラウンドに集合した俺達に相澤先生は『個性把握テスト』の実施を宣告した。
いきなりすぎるという声もあがるが、先生は雄英高校は自由な校風が売り。そしてそれは先生側もまた然り。と聞く耳を持たないまま説明を続けていく。
ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈、以上8種目を測定する。ただし、“個性”ありで。
「まず、自らの『最大限』を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段。そして…トータル成績最下位の者は、見込み無しと判断し、除籍処分とする」
投げ込まれた爆弾に驚き、抗議の声をあげるクラスメート達。だが、相澤先生は涼しい顔…むしろ笑みさえ浮かべ―
「自然災害、大事故、身勝手な
「これから3年間。雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。“
俺達を煽ってきた。すると―
「よっしゃぁ! やってやるぜ!!」
赤い髪を逆立てた男子が気合と共に立ち上がり、それをきっかけに全員の目の色が変わる。
「やる気になったようで結構。準備運動の済んだ者から進めていく…スロースターターな“個性”の持ち主もいるからな。最大値を測るなら、出席番号順より合理的だ」
先生のその声と共に各々準備運動を開始し…第1種目ソフトボール投げが始まった。
「準備の出来た者から開始するぞ。1人目は誰だ?」
「トップは俺だ! お前らは俺の後塵を拝してやがれ!」
自信満々に名乗りをあげた
「死ねぇ!!!」
ヒーローらしからぬ掛け声と共に、ボールを爆風に乗せて投げ飛ばした。
「記録、705.2m…なかなかのもんだ」
相澤先生の言葉にドヤ顔を決める
「流石に入学試験を『3位』で合格しただけの事はあるな」
「…は?」
一瞬で崩れ去った。
「お、俺が3位…そんな訳ねぇ! 獲得P77は過去10年の記録を見たって、トップクラ―」
「過去の記録は過去の記録。今年はお前の上を記録した者が2人いたって事だ。それも150P越えのな」
「ひゃ、150P越え…」
うん、良い顔してるよ
「先生、次は俺が」
「そうか…爆豪、よく見ておけ。今年の入試で1位タイを記録した2人のうちの1人。吸阪雷鳥だ」
「あの、“没個性”野郎が…だと…」
とても信じられない。って顔してるな。まぁ、これを見れば嫌でも信じるか。
「先生。一応確認なんですが…本当に
「………周囲に被害を及ぼさない。学校の設備を壊さない事が前提だがな」
「最大限努力します」
測定用ボールを受け取り、“個性”を発動。要領としてはベアリングボールや釘と同じ、電磁加速で飛ばす。ただ、今回はとにかく長い距離を飛ばすのだから、出力もそれ相応に上げていく。
「エネルギー充填…100%! 皆、少し下がってな! あと、目を瞑るなりして、直にこっちを見ないでくれよ!」
全員がある程度後退し、それぞれ目をガードしたところで充填していた力を一気に解き放つ!
「『マグネ・マグナム』強化版…名付けて、『マグネ・キャノン』! シュート!」
その瞬間、測定用ボールは弾丸のような速さで空を飛び…爆豪の投げたボールの遥か先に落下した。
「…1896.3m」
「あー、2000mいかなかったか。まぁ、周辺に被害及ぼさないようにしたら、こんなもんかな」
2km越えを目指していただけに、届かなかったのは何気に悔しい。だが、
「すげぇ! まるでミサイルだ!」
「ミサイルというより砲弾ですわね。電磁加速を用いた物ですから…レールガンと呼称すべきでしょうか?」
「あ、ありえねぇ…」
反応は人それぞれだが…
「先生! 次は僕が」
等と考えていると、出久が名乗りをあげた。早速相澤先生から測定用ボールを受け取り、サークルへ向かう。
「ケッ、デクなんかに何が出来る。大体、あいつが合格したのだって、何かの間違いだ。すぐにメッキが剥がれ―」
「でぇやぁぁっ!!」
「…1902.7m」
クッ、抜かれたか。まぁ、1種目目だ。次の種目で取り返せば…。
「…どーいうことだ、こら! ワケを言えデク! てめぇ!!」
等と考えていたら、
「爆豪、何やってる」
出久の間合いに入る前に、相澤先生のマフラーが
「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ『捕縛武器』だ。ったく、“個性”を使わせるな。俺はドライアイなんだ」
「“個性”を消した…そうか! 視ただけで人の“個性”を抹消する“個性”、抹消ヒーロー、イレイザーヘッドは、相澤先生だったのか!!」
「イレイザーヘッド…聞かない名前だな」
「たしか、『仕事に差し支える』という理由で、メディアへの露出を嫌っているアングラ系ヒーロー…だったかしら」
「サンキュー、梅雨ちゃん」
「どういたしまして。ケロケロ」
「こんな筈はねぇ! デクは“無個性”だ! どんな不正をやりやがった!」
相澤先生の拘束から解放されるや否や、声高に出久の不正を訴える
「緑谷は1年前に“個性”が発現し、役所に届け出ている。医師の診断書も確認済みだ」
「“個性”の発現は、遅くとも4歳までの筈だろう!」
「それはあくまでも一般的な例だ。4歳以降に“個性”が発現した例はそれほど多くないが存在する。主に第1世代や第2世代だが、第3世代以降でも0じゃない。自分の無知をひけらかすな」
「………」
相澤先生に全て論破され、何も言えなくなってしまう。
「時間がもったいない。次準備しろ」
先生の一言で、何事もなかったかのようにソフトボール投げは再開され、最終的に出久が1位…ではなく、“無重力”の個性を持つ麗日お茶子が、無限大の記録を叩き出し、1位となった。
…そういえば八百万…百だったか。彼女は創造の“個性”で大砲を作りだして、ボールを発射していたが…あれはいいのだろうか? まぁ、相澤先生がOKしたならOKなんだろうが。
続けて始まったのは第2種目50m走。俺はいつものようにイオノクラフトの要領で駆け抜ける。
「ターボユニット!」
「吸阪、3.00秒」
「クッ、0.04秒及ばなかったか!」
「でも、あれは疾走というより滑走よね」
出久は『ワン・フォー・オール』で増加した身体能力で爆走する。
「緑谷、2.91秒」
「すげぇ! 緑谷がトップだ!」
「50m走というより、三段跳びになってるけどね」
第3種目は握力。電気で筋肉を刺激し、一時的に筋力を増加して…。
「吸阪、130kgw」
「まぁ、こんなもんか」
「緑谷、720kgw」
「700kgw越えたーっ!!」
その後、立ち幅跳び、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈を順当にこなし、最終種目持久走は俺と出久が同着で1位となって全行程は終了した。
「んじゃ、パパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので、一括開示する」
相澤先生の言葉と共に映し出される順位表。トータル最下位は除籍となるが…それは一体誰なのか。全員の視線が最下位に集中し―
「ちなみに除籍は嘘な」
その言葉で一斉に、相澤先生の方を向き―
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
その場に崩れ落ちた。俺もこの結末は何となく覚えていたが、つられて一緒に崩れ落ちてしまった。
「あんなのウソに決まっているじゃない…ちょっと考えればわかりますわ…」
八百万の呆れたような声が耳に痛い。まぁ、とにかく…俺達の高校生生活1日目はこうやって終わりを告げるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
UAが24000を突破!
見たことのない数になり、驚きを隠せないでいます。
これからも皆様からの期待に応えられるよう、頑張ってまいります!!
ちなみに、個性把握テストの順位表はこんな感じです。
1位:緑谷出久
2位:吸阪雷鳥
3位:八百万百
4位:轟焦凍
5位:爆豪勝己
6位:飯田天哉
7位:常闇踏陰
8位:障子目蔵
9位:尾白猿夫
10位:切島鋭児郎
11位:芦戸三奈
12位:麗日お茶子
13位:口田甲司
14位:砂藤力道
15位:蛙吹梅雨
16位:青山優雅
17位:瀬呂範太
18位:耳郎響香
19位:葉隠透
20位:峰田実