出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第76話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
雷鳥side
Iアイランドでの事件から3日。俺達はようやく日本へと帰ってくる事が出来た。
皆と別れ、無事に帰宅した俺と出久が、姉さんへ元気な姿を見せ、土産を渡してからまずやった事…それは―
「ほら、出来たぞ。鮭茶漬け」
焼いたほぐした塩鮭、炙ったもみ海苔、炒り胡麻、ネギの小口切りを軽く冷ましたご飯の上に乗せ、熱々のお茶をかけた鮭茶漬け。それを手早く2人前作り―
「「いただきます!」」
無言で手早く掻っ込んでいく。
「……はぁ、美味しかった」
「茶漬けがこんなに美味い物だとは…思わぬ発見だ」
鮭茶漬けを食べ、一息ついた事で、張り詰めていた物が解れ、帰ってきたんだという安堵感に包まれる。
あぁ、日本に帰ってきたんだなぁ…。
オールマイトside
空港で吸阪少年達と別れた私は、その足で雄英高校へと向かい、今回の事件の顛末を根津校長へ説明し、同時に―
「と、いう訳でして…メリッサの雄英高校サポート科への編入を御一考頂きたく…」
デイヴから託されたメリッサの今後について、相談した。
「うん、その件に関してだけど先日、デヴィッド・シールド博士からも連絡を頂いているよ。Iアイランドアカデミーで優秀な成績を残している金の卵の編入、こちらとしても否やはないね」
「ありがとうございます!」
根津校長の言葉に頭を下げながら、私は安堵した。
「それで、オールマイト。メリッサ・シールドさんは、いつ日本へ?」
「Iアイランドでの後始末や手続きが終わり次第…早ければ1週間、遅くとも10日後には、来日予定です」
「その際にはシールド博士も?」
「はい、親子で来日して暫く日本で過ごした後…9月半ばにデイヴが単身渡米する予定になっています」
「ふむ…では、シールド博士来日中に宿泊するホテルや、メリッサさんが編入した後の住居等はこちらで手配するよ。幸い、幾つかの
「よろしくお願いいたします!」
これでメリッサを受け入れる準備は万全。夜にでもデイヴに連絡するとしよう。
出久side
帰国して2日。僕達1-Aは―
「ってな感じでやってきました!」
「県内最多店舗数を誇るナウでヤングな最先端!」
「木椰区ショッピングモール!」
葉隠さんの提案で、林間合宿に必要な物を買いに木椰区ショッピングモールに来ていた。
「あーあ、轟も来れば良かったのに…」
「お母様のお見舞いだそうですので、仕方ありませんわ」
買い物に参加しているのは轟君を除く19人。轟君は、芦戸さんと八百万さんの会話に出ていたように、お母さんのお見舞いの為に不参加だ。
轟君から聞いた話だけど、お母さんの容体はかなり快方に向かっているそうだ。
懸念だったエンデヴァーとの面会も先日無事に終了し、お盆明け頃に一度、3日間の一時帰宅が計画されているらしい。
この事を話した時の轟君の表情はとても柔らかくて…お母さんの一時帰宅が心底嬉しいのだと、僕達は心の底から感じたのだった。閑話休題。
「それにしても、人が多いねぇ…」
あまりの人の多さに、どこかうんざりした様子の雷鳥兄ちゃん。紺色のシャツに黒のズボンと黒のベスト、紫のネクタイ、そして黒のソフト帽に伊達眼鏡という出で立ちは、凄く似合っているけど…。
「吸阪ちゃん。私思った事を何でも言っちゃうの。だから気を悪くしないでね…その格好、似合っているけど…正直、高校生らしくないと思うわ」
あ、梅雨ちゃんが先に指摘した。
「…悪いね。服の趣味ってやつは、なかなか変えられなくて」
梅雨ちゃんからの指摘に、どこか自虐的な笑みを浮かべる雷鳥兄ちゃん。
子どもの時から大人っぽい服装を好んでいたし、やっぱり好みって、なかなか変わらないんだろうな。
「ねぇ! あの子達、雄英の1年A組じゃん! 体育祭ウェーイ!」
「Iアイランド、ウェーイ!」
そうしていると、僕達に気付いた他のお客さん達が、声を上げ始めた。やっぱり体育祭やIアイランドの一件で、僕達の顔や名前は随分と知られているようだ。
「とりあえずウチ、大きめのキャリーバッグ買わなきゃ」
「あら、では一緒に回りましょうか」
「俺、アウトドア系の靴買い替えねぇと」
「あ、私も私もー!」
「靴は履き慣れた物と栞に書いて……あ、いや、しかし。用途に合った物を選ぶべきなのか…」
「目的バラバラだし、時間決めて自由行動にすっか!」
いつまでもここに留まる訳にもいかない。僕達は切島君の提案に乗る形で、それぞれに買い物を開始した。
ちなみに、ピッキング用品などと不穏な発言をしていた峰田君は、雷鳥兄ちゃんの一撃を受け、そのまま引き摺られていった…相変わらずブレないなぁ…。
「えっと…麗日さんはどうする? 僕は訓練用のウェイトなんかを買い足そうと思ってるんだけど」
「私は…虫よけスプレーかな」
麗日さんと一緒に目当ての商品を探しながら、ショッピングモールを歩く。
………ん? これって、俗に言う…デートなの、かな?
「えっ…」
「あっ…」
思わず麗日さんの方を見た瞬間、麗日さんも僕の方を見ていた。目と目が合い、何方からともなく赤面してしまう。
麗日さんも僕と同じ事を考えていたんだろうか…そうだとしたら、なんだか嬉しい。
「あー! 雄英の人だ! スッゲー! サインくださーい!」
次の瞬間、背後から声をかけられ、正気に戻る。いけないいけない。こんな公衆の面前でニヤけるところだった。
「えっと、最初はお姉さんの方から貰って良いですか? サイン」
「え? あ、はい!」
声をかけてきた男性はまず、麗日さんにサインを求めてきた。フードを目深に被ってその顔は見えないけど…なんだろう、凄く馴れ馴れしい。それに…なんだ? この感じ…この声、何処かで……。
「いや、本当。信じられないぜ。こんな所で、
「ッ!? 麗日さん―」
声の正体に気付き、麗日さんに警戒を促そうとした時には、もう遅かった。奴は麗日さんの肩を抱き、更にその首に手を…。
「雄英襲撃以来になるな…お茶でもしようぜ。緑谷出久」
「死柄木…弔…」
なんで、なんで
「おいおい、そんな緊張した顔をするなよ…自然に振舞え。そう、旧知の友人のように…」
「緑谷君…」
「お嬢さんの方も、妙な動きはしてくれるなよ。俺を
「右腕全体が崩れて無くなるか、頭と胴体が永遠にお別れするか、それともその両方か…可能性は3つに1つだ」
「ッ!?」
「だが、俺も紳士だ。あんたが抵抗しないなら、こっちから危害を加えない事を約束するよ。まぁ、信じる信じないは勝手だがな」
麗日さんの青褪めた顔を見ながら、楽しそうに呟く死柄木弔。なんとか奴の隙を見つけるまで、要求に従うしかない…。
「目的は…なんだよ」
「あぁ、少しばかり話がしてみたくてな。オールマイトの弟子であるお前と…もう1人とは、会話以前の問題だからな…アイツに砕かれた両肩と両膝が、未だに痛むよ」
USJで雷鳥兄ちゃんにやられた事を
だけど、そのおかげで…この状況を打開出来るかもしれない一手を思いついた。
「…わかった。そっちの言うとおりにするよ」
「話が早くて助かるよ。じゃあ、そこの喫茶店にでも入ろうか」
「その前に、1つだけいいかな?」
「…なんだ?」
「知っているかもしれないけど、僕達はクラスメイトと一緒に来ていて、もうすぐ集合時間なんだ。あまり遅れると怪しまれるかもしれない」
「それで?」
「適当な理由をでっちあげて、集合時間に遅れる事を連絡させてほしい。そっちだって、邪魔が入ってほしくはないだろ?」
「………いいだろう。だが、わかっているとは思うが…」
「わかってるさ。麗日さんの命が握られているのに、馬鹿をやるほどの度胸はないよ」
おかしな真似をしないよう念を押す死柄木弔にそう答え、僕はスマホで連絡を取る。相手はもちろん―
『おう、出久か。どうした?』
雷鳥兄ちゃん。あとは、雷鳥兄ちゃんが気付いてくれる事を祈るだけだ。
「ごめんね。実は偶然、
『中学時代の? …誰だよ?』
「雷鳥兄ちゃんも一度会ってるよね。有田君と瀬戸君」
『有田と瀬戸……あぁ! あいつらか! 偶然って怖いなぁ!』
「ホント、偶然って怖いよね。それで、麗日さんと一緒にいたから、詳しい事情を話せって、放してくれないんだ。そういう訳だから、集合時間には遅れると思う」
『わかったわかった。皆には俺の方から話しておくよ』
「ごめんね。ありがとう」
多分雷鳥兄ちゃんは気づいてくれた。
「会話に不審な点はなし…それじゃあ珈琲でも飲みながら、ゆっくり話そうか」
あとは時間を稼ぐだけだ。
雷鳥side
「なんてこった…」
出久からの電話を終えた瞬間、思わず苛立ちが声に出る。まさか、このタイミングとは…。
「吸阪ちゃん、凄く怖い顔をしているけど、何かあったの?」
「あぁ、
「わかったわ」
心配そうに声をかけてきた梅雨ちゃんに協力を依頼し、出久と麗日以外の全員をこの場所へ呼び出す。こいつは…時間との勝負になるな。
出久side
「さて、話すとしようか」
適当に入ったショッピングモール内の喫茶店。その一番奥のテーブル席で向かい合う僕と死柄木弔、そして麗日さん。
首に手を添えられた状態で、死柄木弔の隣に座っている彼女は、震える体を必死に抑え、恐怖に耐え続けている。
僕は麗日さんを元気づける為、笑顔で頷き―
「それで、話って何?」
真顔に戻ると死柄木弔との会話を開始する。
「単刀直入に聞こう。この社会はおかしいと思わないか?」
「…どういう意味?」
「外を見てみろよ。いつ誰が“
「それは…“個性”の使用が法律で厳しく制限されているから…」
「それもある。だが、一番の理由は、『困った時にはヒーローが来てくれる』なんて、ふざけた考えが浸透しているからさ」
「ッ!?」
ゾッとするほど冷たい目をした死柄木弔の言葉に、思わず息を飲む。だけど、死柄木弔はそんな僕にお構いなしで、喋り続ける。
「あぁ、外でヘラヘラ笑っている奴らに問い質したいね」
「お前達にヒーローが何をしてくれた?」
「本当に困った時、助けてくれる保障なんてあるのか?」
「いつもヘラヘラ笑っている
その言葉の節々から感じられるのは、ヒーローへの、オールマイトへの限りない憎しみ。
「オールマイトを…憎んでるの?」
「あぁ、憎んでるさ。アイツは助けられなかった者など1人もいないと言わんばかりに、いつもヘラヘラ笑っているクソ野郎だ」
「そして、そんなクソ野郎が祀り上げられて…祀り上げないと回っていかないようなこの狂った社会も憎くてたまらないよ」
気の弱い人なら間違いなく気絶するほど、狂気に満ちた表情の死柄木弔。下手な事を言えば、麗日さんを危険に晒しかねない…でも―
「オールマイトは…」
「あぁ?」
これだけは言わないと!
「オールマイトは意味もなく笑っているんじゃない。前に言っていた。自分が常に笑うのは、苦しい時、限界を迎えた時、更に一歩先へ進む為。限界を超えた力で、1人でも多くの人を救う為だって」
「………そうか。そんな事を言ってやがるのか。あのクソ野郎は…価値観の違いは決定的だな」
僕からオールマイトの信念を聞かされた死柄木弔は、不器用な笑みを浮かべると、すっかり冷えた珈琲を一気に飲み干し―
「話が出来て良かったよ。おかげで、ますますヤル気が湧いた。この社会をぶっ壊す為のな…」
麗日さんを突き飛ばして開放すると、その隙をついて席から離れた。
「お嬢さんは無傷で解放してやる。だから追いかけようなんて思うな。無駄な死人を出したくないなら、尚更だ」
レジに一万円札を置いて、喫茶店から出ていく死柄木弔。そんな彼を―
『動くな! 両手を上げて、大人しくしろ!』
オールマイトと
雷鳥side
「オールマイト…なんで此処にいる…」
喫茶店から出た途端、オールマイトと
「HAHAHA! 何故かって? 連絡があったからさ!」
「連絡、だと…」
「麗日を人質にして安心したんだろうが…甘かったな。出久が上手く状況を伝えてくれたのさ」
「……さっきの電話か。だが、不審な点は何も…」
「まぁ、高度な暗号ってやつだ」
そう言って不敵に勝ち誇ってみるが…実際の所は、俺だから気づけたようなものだ。
その人柄と実力で一目置かれていたとはいえ、中学生当時“無個性”だった出久を友人として扱ってくれる奴は、1人もいなかった。
その出久が
しかも、その名前が
以上の事を推理した俺は、梅雨ちゃんに協力してもらい全員を招集。葉隠と耳郎に偵察してもらいつつ、警察や雄英高校に連絡。
こうして、
「さぁ、大人しく投降してもらおうか」
「お前の“個性”は抹消済みだ。逃げられるなんて思うな」
そう言いながら、信楽焼確保に動くオールマイトと
「オールマイト! イレイザーヘッド! 離れて!」
2人も異変を察知したのだろう。俺の声と同時にその場を飛び退くと、コンマ数秒の間を置いて、レーザーや火炎が降り注いだ。そして―
「良いタイミングだ。絶無」
「お迎えに上がりました。死柄木弔」
音も無く信楽焼の前に降り立つ仮面の男、絶無。その声は機械的な処置が施されているが…レーザーと火炎を放った上に、4本の腕…複数の“個性”持ちか。
「悪いが、これで失礼させてもらう! 絶無!」
次の瞬間、絶無は口から火炎を放射。更に4本の腕の内、副腕と思われる2本の掌からはレーザーを発射して、オールマイト達を足止め。
その間に、信楽焼は背後に発生した黒い靄に飛び込むと―
「オールマイト…次に会った時は、殺してやる!」
そう言い残し、遅れて靄に飛び込んだ絶無諸共姿を消した。
こうして、林間合宿前の楽しい買い物は、最悪の結末を迎えるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。