出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season1 作:SS_TAKERU
第82話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。
雷鳥side
「さて、材料は何があるかな…っと」
そう呟きながら、俺はカレーの材料をチェックしていく。肉は豚バラ肉のブロック、ジャガイモ、人参、玉ねぎ…基本的な材料は揃っているし、茄子やトウモロコシといった野菜の類も大量にある。そして―
「カレー粉か…」
カレールウではなく、カレー粉*1が用意されていた。
「か、カレー粉!? 私、カレールウしか使った事ないよ!?」
「一佳も!? 唯は?」
「ん……」
「炒め物の風味付けくらいなら使った事あるけど…」
「茸のカレー炒め、美味しいノコ! でも、カレー粉でカレーは作った事は…」
「あぁ、なんという事でしょう…。偉大な発明と言って差し支えないカレールウ、私達は、それを使う事に慣れ過ぎてしまったのですね…」
「Oh! まさニ
その事で、B組女子はプチパニックを起こしているし―
「ねこねこねこ。現場での炊き出しで、カレールウなんて便利な物があるとは限らないよー!」
「何事も経験! 駄目元でやってみろー! カレー!」
ピクシーボブとラグドールは、どこか楽しそうに声を上げている。そして―
「なるほど、夕食作りも訓練の一環という事か…だが、これはある意味チャンス! 流石の吸阪雷鳥も、カレールウ抜きでカレーを作った事は無い筈だからね!」
物間は下種一歩手前な顔で、何か言っている。やれやれ…少しばかり反撃しておくか。
「物間…いつから、俺が
「なん、だって…」
「伊達に長年料理をしている訳じゃない。カレールウを使わずにカレーを作るなんて、小学生の時に経験済みだ」
「………あぁ、このオチは読めていたさ。ちくしょう!」
俺の言葉に、膝から崩れ落ちる物間。さぁ、調理開始といこう。
梅雨side
「俺としては、シンプルなカレーソースを作り、そこに素揚げした夏野菜やジャガイモ、ポークソテーをトッピングする形を考えているが…皆の意見を聞かせてほしい」
「異議なーし!」
「すっごく豪華で美味しいカレーになりそうだね!」
吸阪ちゃんの提案は全員一致で可決され、それぞれ担当を割り振っての調理が始まったわ。
私は轟ちゃん、心操ちゃんと、葉隠ちゃんと一緒に、茄子とパプリカの下拵え担当よ。
「それじゃあ、始めましょう。吸阪ちゃんは素揚げにするって言ってたから、
きれいに水洗いした野菜は、キッチンペーパーで水気をふき取り、カットしていくんだけど…。
「轟ちゃん。包丁で食材を切る時、左手は猫の手にするのよ。こんな感じね」
心操ちゃんや葉隠ちゃんはともかく、轟ちゃんは全くと言っていいほど経験がないようね。指を切りそうで危なっかしいわ。
「猫の手か…わかった」
伝えた事は素直に実行してくれるから、大丈夫だと思うけど…目は離さないようにしておきましょう。
「梅雨ちゃん、茄子の蔕やパプリカのワタは捨てないで、このボウルに入れてくれ」
「ケロ? それは構わないけど…流石に蔕やワタは食べられないわよ?」
「もちろん食べないさ。だが、良い出汁が取れる」
そう言って、茄子の蔕やパプリカのワタを持っていく吸阪ちゃん。あれで出汁が取れるなんて…凄い事が出来るのね。
砂藤side
俺と障子、口田の担当は南瓜とトウモロコシの下拵え。物が物だから、力自慢が集められたな。
「南瓜は俺がやるから、トウモロコシは障子と口田で頼む」
「わかった」
「頑張るよ」
トウモロコシを障子と口田に任せ、俺は包丁を手にカボチャへ立ち向かう。
南瓜を丸ごと切る時は、蔕の硬い部分を避け、包丁の先を皮に立てるように刺して下までおろし、そのままぐるりと回せば、簡単に切れる。
作業しやすい大きさにカットした後、ワタと種をスプーンでこそぎ取り、素揚げに適した薄切りにしていく。
「吸阪、南瓜の厚さは3mm位でいいか?」
「文句無しだ。あ、トウモロコシは極力バラバラにしないでくれ」
「わかった。障子、口田。トウモロコシは、芯をギリギリ削る位のところで切るようにしてくれ。そうすれば、バラバラになりにくいから」
「わかった」
「やってみるよ」
南瓜の方は…3個も切れば十分だな。終わったらトウモロコシの方を手伝うか。
瀬呂side
「ちくしょう…なんでオイラは玉ねぎ担当なんだよ」
ボロボロと涙を流しながら、玉ねぎの微塵切りを続けていく峰田。まぁ、文句を言いながらも作業をやめないのは、こいつらしいけどな。
「峰田、辛いのはお前だけじゃないから、頑張って早いところ終わらせようぜ」
「瀬呂君の言うとおりだ! 峰田君、共に頑張ろう!」
「わーったよ! 切れば良いんだろ、切れば!」
俺や飯田に励まされ、半ばやけくそ気味に切るスピードを速める峰田。
俺も負けちゃいられない。割り振られた分はさっさと終わらせないとな!
雷鳥side
「…よし」
鍋の中身を確認し、俺は満足の笑みを浮かべる。鍋で煮込んでいたのは、玉ねぎやジャガイモの皮、人参や茄子の蔕、パプリカのワタなど、所謂野菜屑の類だ。
「吸阪、さっきから何を煮てたの? って、滅茶苦茶良い匂い!」
そこへ芦戸が鍋を覗き込み、予想通りの反応をしてくれる。
「こいつはベジブロス。野菜の皮や芯なんかを煮込んで作る…野菜の出汁だな」
「へぇー! そんなのがあるんだ! ちょっと味見しても良い?」
「おう、味の感想を聞かせてくれ」
近くにあったスプーンで鍋の中身を掬い、芦戸へと差し出す。果たして、反応は如何に?
「美味しーい! 野菜の甘味がすっごく出てて、まろやか?な感じだよ!」
芦戸、予想通りの反応をありがとう。さぁ、下準備は完了。ここからが本番。カレーを作っていくとしますか。
竃の火を強め、大鍋を熱したところにバターを投入。バターが溶けたら微塵切りにした玉ねぎを入れ、塩を加えて炒めていく訳だが…ここで一工夫。
「轟、玉ねぎを」
「あぁ、しっかり凍らせてある」
そう、玉ねぎを凍らせておくのだ。凍らせる事で玉ねぎの細胞壁が壊れ、水分や辛味成分が抜けやすくなる。
これにより、まともにやれば30分から1時間はかかる飴色玉ねぎ作りが、10分足らずで出来てしまう。
「飴色玉ねぎにセロリと人参の微塵切り、摩り下ろした大蒜と生姜を加え、更に炒める」
セロリや人参に程良く火が通ったら、
「次は、ルウ作り」
フライパンにバターと小麦粉を入れ、弱火でゆっくり炒めていく。小麦粉の色が変わったところで火から下ろし、カレー粉を加えてよく混ぜる。
最後に
こいつを鍋に溶き入れて、ケチャップ、ウスターソース、砂糖、塩で味を調え、10分ほど弱火で煮込めばカレーソースの完成!
「出久、カレーの方は大体出来たぞ。そっちはどうだ?」
「ポークソテーは完成。野菜の素揚げはもう少しかな」
「常闇、飯盒の方は?」
「今蒸らしている。あと数分といったところだな」
うむ、こっちは予定通りだ。B組の方は…。
「あれ? 結構煮込んでいるのに、シャバシャバのままだよ!」
「Oh! これじゃあCurry soupナノです!」
「ん…」
「トロミってどうやって付けるの? 片栗粉?」
「それじゃ、餡かけになっちゃうよ!」
………少しくらい手を貸しても、罰は当たらないか。
拳藤side
カレーがシャバシャバのままで困り果てていたその時―
「お困りだったら、力を貸そうか?」
そんな事を言いながら、吸阪が近づいてきた。
「おや、優秀なA組の中でも特に優秀な吸阪君が何をしに来たのかな? 僕達の不様な姿を笑いに―」
「せいっ!」
半ば反射的に吸阪を煽る物間を速攻で黙らせ―
「実は、カレーがこんな感じで…」
鍋の中身を見せた。自分達じゃどうにも出来ないのは、正直情けないけど…今はそんな事を言ってる場合じゃない。
「拝見…なるほど、たしかにシャバシャバだな。一口味見させてもらうぞ」
鍋の中身を見た吸阪は、小皿にカレースープを注ぎ、一口。
「原因…わかる?」
「まぁ、幾つか思いつく節はある。だが、今はこれをどうにかするのが先決だな」
「どうにか…出来るの?」
「まかせなさい」
そう言うと、吸阪はすぐに小麦粉を用意し、それを大体同じ量のスープで溶いて、鍋へと投入した。
「かき混ぜながら5分も煮込めば、トロミが出る」
その言葉通り、5分もしたらあれだけシャバシャバだったカレースープにトロミがつき、美味しそうなカレーへと変化した。
「
「魔法なんて大したものじゃない。トロミがつかなかった原因は、具として大量に入れた茸、それから隠し味で入れた蜂蜜だと思う」
「それらに含まれている酵素の影響で、トロミの素になるジャガイモの澱粉なんかが分解され、トロミがつかない状態になってた。だから、小麦粉をスープで溶いた即席のルウを足したのさ」
ポニーの声にそう答えた吸阪は―
「じゃあ、あんまり長居すると物間に文句言われるからな。そろそろ退散するよ」
そう言って、A組の調理スペースへと戻っていった。
「吸阪! ありがとう!」
昨日のガスパチョに続いて、また借りが出来ちゃったな。
「相澤先生、お待たせしました。特製『夏野菜の素揚げカレー・ポークソテー乗せ』です」
吸阪のそんな声と共に、テーブルへ置かれる大盛りカレー。
炊きたてのライスにシンプルなカレーソースがたっぷりと掛けられ、その上に素揚げした野菜*2と一口サイズにカットされたポークソテーが所狭しと乗せられている。
見た目もボリュームもなかなかのものだ。
「…いただきます」
手を合わせ、食膳の挨拶を済ませてから、スプーンを手に取り、カレーを一口。
「………美味いな」
カレーというのは辛いものだ。だが、これは辛いだけじゃない。甘味や酸味、うま味、微かな苦味も感じる。複雑な味だ。
野菜の素揚げ、油で揚げてわずかに塩を振っただけのシンプルな物だ。だが、それ故に野菜それぞれの味がよく解る。カレーに浸けて食べてもまた違った味わいで美味い。
ポークソテーも焼いた肉とは思えないほど柔らかく、これも美味い。
………さっきから俺は美味いしか言っていないな…。思わぬ形で語彙力の低さを思い知った。
「食事に拘ったり、時間をかけるのは不合理の極みと思っていたが…」
悪くない。こんな風に思うのはいつ以来だろうか…。
「お前達! 美味い! このカレーは実に美味いぞ!」
…ブラド。教え子の作ったカレーに感激するのは構わないが、もう少し静かにしてくれ。
「でも先生…そのカレー、私達だけじゃ、ちゃんとした物は作れませんでした。A組の吸阪の力を借りて、やっと…」
「それがどうした! 力が劣る者が優れた者に教えを乞う事は、決して恥ずかしい事ではない。わからない事をわからないままにしておく事の方が、はるかに恥ずかしい事だ」
「先生…」
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥というやつだ。今回知った事を糧にして、前へと進んでいけば良い!」
「はい!」
まぁ、それが奴の持ち味だがな。
出久side
皆がそれぞれ好きなようにカレーを盛り、トッピングを考えている中、僕はお皿に子どもサイズのカレーライスを盛って、山道を歩いていく。
微かに残る小さな足跡を頼りに歩くこと数分。鬱蒼とした森を抜けた先にあったのは小さな洞窟と崖。そこに洸汰君はいた。
空腹に耐えながら、ただじっと崖の下に広がる景色を見ている洸汰君を驚かせないよう、僕はそっと声をかける。
「お腹、すいたよね? これ、食べなよ」
「てめぇ! 何故ここが…」
まさか、ここが突き止められるとは思っていなかったのだろう。洸汰君は慌てた様子で後退り、僕を睨みつける。
「ごめんね。足跡を追ってきたんだ。ご飯食べてないみたいだし、気になったんだ」
「いらねぇよ! 言っただろ、ヒーローになりたい。なんて連中とつるむ気はねえよ! 俺のひみつきちから出てけ」
「ひみつきちか…」
洸汰君のその言葉に、僕は周囲を見回す。たしかに、この雰囲気は
「“個性”を伸ばすとかはり切っちゃってさ…気味悪い。そんなにひけらかしたいのかよ“力”を」
まるで吐き捨てるような洸汰君の言葉。ご両親を理不尽な形で喪った事で、そんな考えに至った事は容易に想像出来る。
「それは違うよ」
だけど、これだけは言っておきたい。わかってほしい。
「たしかに君の言う通り、自分の力を見せつけたい。大金を稼ぎたい。そんな考えでヒーローをやっている人もいるかもしれない。だけど、僕達は…そんな事の為にヒーローを目指してる訳じゃない」
「じゃあ、何のためだよ…」
「助けを求める人を助けたいから。自分の欲望を叶える為に“
「………」
「助けを求める人がいるから、理不尽に奪われる人がいるから、ヒーローは生まれた。本当はヒーローなんかいない世界の方が、正しいのかもしれない。でも、必要とされているから、ヒーローは存在しているんだ」
「………」
「『プッシーキャッツ』の皆さんも同じ理由で、ヒーローをやっていると思うよ。そして……亡くなった君のご両親も」
「!?」
「ウォーターホース…だよね。あの事件はよく覚えている。とても悲惨で、残念だった」
「うるせぇよ…他人のくせに……ズケズケ入ってくんなよ!」
泣きながら近くに落ちていた小石を投げつけてくる洸汰君。少し言い過ぎたかもしれない…。
「うん、ごめんね…カレー、ここに置いておくから」
僕はお皿をその場に置き、その場を後にした。僕のやった事は余計なお世話なのかもしれない。でも…
「少しでもわかってくれたら…」
そう考えながら調理スペースへ戻ると―
「緑谷ー! どこ行ってたんだよ!」
皆、カレーを盛り終えた状態で、僕を待っててくれた。
「ごめんね。ちょっと
「……洸汰君の所か?」
「…うん」
雷鳥兄ちゃんの問いに答えると、皆もどこか納得した様子を見せる。詳しい事情は知らなくても、洸汰君が何かを抱えている事は、皆薄々気が付いているみたいだ。
「まぁ、お節介は程々にな」
「うん、わかってる」
僕は大急ぎで大盛りのカレーライスを用意して―
「それでは! いただきます!!」
「「「「「いただきます!!」」」」」
皆と一緒に、カレーライスを頬張った。洸汰君も、食べてくれるといいな。
取蔭side
「よーし、夕食食べたし、お風呂も済んだ。この後は、女子会っしょ!」
A組女子と合同で入浴を済ませ、それぞれの寝間着に着替えたところで、高らかに宣言する。
まぁ、A組への根回しなんかは全然やってないけど…。
「女子会! いいねいいね!」
「是非ともやろう! お菓子持っていくよ!」
反応は上々。さぁ、楽しい時間の始まりだよ!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。